彼女と林檎と男と女

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子供の頃は林檎が大好きだった。

家の周りに何本か木があって、よくよじ登っては実をもいでかぶりついたものだ……

記憶に刻み込んだ甘酸っぱくて歯応えのある、真っ赤で硬い林檎にまた出会いたいものだ。
なんていうんだろう……
品種改良をされていない原種の力強さが伝わってくるような林檎にはもうしばらくお目に掛かっていないのだ。

自分が子供の頃の林檎の木は縦形に伸びている印象しかない、真緑の葉っぱの中に真っ赤な林檎があちこちにぶら下がっている光景は目に焼き付くぐらいに美しかった。

丸々とした林檎をそのままかじること自体が本当に久し振りだなと思いながら、京成八広駅の高架下でかぶりつく……


柔らかくて甘いこの林檎は確かに食べやすいが⋯

服従を強いられた感しかない。
噛み砕いて飲み込んでも自然の鋭気など到底伝わって来るものではない。

じっと見つめ
「いつからお前はそんなもんになっちまったんだよ」 
と、言いたくなるが……


それは天に唾するようなものだろう。


昔の林檎は食べるとお腹も満足したし、食べた感もあった。

それが記憶にない子供は、今のこの林檎が

〃林檎〃

なのだろう。
それが時代というものだろうし、良いだとか悪いだとかいうことではないのかも知れない。

京成八広の駅の近くにあるベンチに座った。
月が木の葉の間から覗く……


変化を殊更に寂しく感じてしまう自分に老いを感じながら、今日この日を愉快に過ごしてやろうという気持ちだけは無くならない。

「ちょっと飲み物を買って来ますよ」
そう言って自販機を探しに立ち上がりながら
「若い頃の俺には、こんな気遣いがあっただろうか」
そう思うと苦笑いが込み上げた。

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