生臭いお茶会 その2 1/28 投稿
栄一くんはその会社のことを淡々と語った。
表情に迷いというか、ためらいというのが見え隠れしている。
「うちの本体の合弁会社の一つなんだが、過剰投資で閑古鳥が鳴いていて、支援を続けるかどうか迷っている。
他社との合弁だからよその顔色も見ないといけないんで、本体だけではどうにもならずに俺の所にまで話がやってきた。
テイア本体に迷惑は掛けたくないというのが大前提だ。
それでも俺はこれを助けられるなら助けたいと思っている」
その会社の資料を見る。
日本初の広域LANサービスを始めた会社であり、初期投資で苦しんでいた。
負債はおよそ七百億円。
「ちなみに、助けられるなら助けたいという根拠は?」
裕次郎くんが尋ねて、栄一くんがそれにあっさりと答えた。
吹っ切れた顔であっさりと判断丸投げをバラす。
「うちには瑠奈が居るだろう?
瑠奈がITで財を成したのは知っているから、俺たちには分からなくても瑠奈だったら何かに使えるんじゃないかと思ってな」
「私頼み?」
私の呆れ声に男性陣三人はあっさりと頷く。
ここまで綺麗に頷かれると私も苦笑するしか無い。
「この会社も元々瑠奈の足元を狙って作ったようなものだ。
このまま瑠奈に売っ払っても良いんだが、それをすると爺さまが怒るんだよなあ」
苦笑いしながら栄一くんはコーヒーを飲んで喉を潤す。
私は気になったので、栄一くんに尋ねてみた。
「そういえば、栄一くんは帝亜グループ総帥になったらどうする訳?」
「どうもこうも、俺はまだ小学生だ。巨大企業の総帥なんて考えられるわけ無いだろうが。
だが、一つだけ決めていることがあってな。
中核のテイア自動車については、自動車に触ってから、つまり免許を取って車に乗れるようになってから考える事にしている」
いつの間にか三人共栄一くんの話に聞き入っていた。
彼のスタンスというものを見るいい機会だからだ。
「事業が成功するか失敗するかの判断は、それをどれだけ知っているかだと俺は思っている。
瑠奈を見て思ったが、こいつの先見の明は神がかっているが、俺にはそれが無いからな。
それで丁半博打を繰り返していたら、最後は破滅する」
目を閉じて、自分自身に言い聞かせるように栄一くんは呟く。
多分、それは彼のお祖父様に言われたことなのだろう。
見える人には見えているんだなぁ。
私が多分決め打ちしているって事が。
「人生における大博打は勝たないといけない。
そして、そんな博打を打たないことが本当は理想だ。
賭けるのは帝亜グループの従業員と、その家族の人生なんだから」
栄一くんは目を開いて私の方を見る。
その目に映る私は、私ではない気がした。
「俺たちは、二度会社を立ち上げて成功した。
だからこそ、『今度は成功を維持してみせろ』だと」
なるほど。
栄一くんのお祖父様は、地に足が付いた考え方をしっかりと栄一くんに教えたいらしい。
ロケットブースターを付けて宇宙まですっ飛んでいる私とはえらい違いである。
「帝亜。
それと、救済する会社の話がどう繋がるんだ?」
光也くんのツッコミに栄一くんが、私が出した会社買収の提案書を手に取る。
「このプランだと、半分売って三百億円。
年百億円の収益を五年は出せるのならば、それを前提に資金を借りてこの会社を救済という訳だ。
要するに、これからも起こるだろう事業拡大の決断ってやつだ。
もちろん、俺はみんなの意見を尊重するつもりだが……」
今の栄一くんならば、テイアの名前を使わなくても出す所は外資を中心にそれなりに居るだろう。
たとえコネなり何なりがあったとはいえ、それを含めても二度の会社立ち上げの成功というのは、銀行の融資担当が子供だからと侮らないだけの説得力があった。
ここで栄一くんは私を見据えたまま、裕次郎くんと光也くんに言い放つ。
自分たちの持つ会社の価値を担保にした上で、なお負けてもダメージがないという事を確認し、その博打にコールする。
「どうだ?
既に瑠奈が堪能している高み、瑠奈よりは低いだろうが俺たちも見てみたいと思わないか?」
裕次郎くんと光也くんは互いに視線を交差させる。
栄一くんは私から視線を動かさない。
口を開いたのは光也くんの方だった。
「その判断は、桂華院がこの会社を買うかどうか判断してからだな」
「同感。
栄一くんも言っている通り、桂華院さんの目から見て、この会社は価値があるかどうかを判断してから決めるべきだと思うよ」
続く裕次郎くんの言葉に、栄一くんはうんうんと首を縦に振る。
私はため息をついて栄一くんに尋ねてみた。
「ちなみに、この会社を私なら使えると思った根拠は?」
栄一くんはその会社の資料にあるデータセンターを指さして言った。
コンコンと紙越しにテーブルを叩いて良い音が鳴った。
「お前の所、近くカードの統一をするのだろう?
銀行のキャッシュカードやクレジットカードだけでなく、切符代わりになるやつとか身分証明の代わりになるなんて凄いやつ。
その情報整理にこのデータセンターが使えるんじゃないかなと思ってな。
瑠奈は金で時間を買うから、この閑古鳥が鳴いてる施設もお前ならなんとかするというのが、俺の見立てだ」
そこまで言って栄一くんは悔しそうに続きを漏らす。
「で、俺の見立てだと、ここまでの甘い判断しかできないんだよなぁ。
最後の最後は、俺より深く見られて数字を握ってる瑠奈の判断が、どうしても必要になる。
いつか、お前の見ている高みを、俺も見てみたいもんだ」
そう悔しがる栄一くんに、ちょっとだけ可愛さを感じたのは内緒だ。
私はそんなのをおくびに出さずに、その判断を別の人間に丸投げすることにした。
「私だって全部見られるわけが無いじゃない。
こういうのは見られる人間に丸投げしています。
ちょっと待って。
せっかくだから聞いてみるわ」
そう言ってPHSから電話を掛ける。
光也くんが電話相手を尋ねた。
「その判断ができる人間って、信用できるのか?」
「できると思うわよ。
米国最大手の電話会社の中枢に居た人間だから。
……ハイ。カリン。
今、ちょっと良いかしら?」
英語で事情を説明すること数分。
相手が興奮しているのが電話越しに分かる。
あ。
この感触知っている。
鴨が葱を背負ってやって来たって奴だ。
「What`s!?
ウェイト!……ちょっと待って!
そんなに興奮しな……
もしもし?
ちょっと!?もしもし!?」
唖然とする三人の視線の中、私はPHSを置いて苦笑しながら頭を下げた。
「ごめん。
三人共もう少し時間あるかな?
カリンCEOがこっちに来て話したいんだって」
データセンター
作った当初閑古鳥が鳴いて、見捨てる原因になったとか。
なお、この会社打倒帝国電話を目指して挫折しその帝国電話の支援を受けて復活した。
帝国電話はかなり前からこの会社に目をつけていたらしい。
カリンCEOの華麗な経歴
例の合併騒動のCEOになる前は、通信会社の副社長。
つまり米国巨大通信会社分割後の通信技術の中枢でキャリアを作っていた人に救済の話をしていた訳で。
そりゃ、鴨ネギになるわな。
なお、この時点でITバブルが弾けて絶賛低迷中である。
買っても良いかもしれない……(最安値株価55セント)