生臭いお茶会 その1
いつもの四人で『アヴァンティー』でまったりとお茶会。
もっとも、生臭い話もちょっとするようになったのだが。
この四人、『TIGバックアップシステム』の経営陣でもあるからだ。
システム障害を引き起こして絶賛大修羅場中の穂波銀行の仕事を請け負って、はやくも大儲けしていた。
「うちはバックアップ中心でメインから一歩引いているけど、メインを担当する部署は毎日のように仕様が変わって途方に暮れているらしい」
技術担当の光也くんの呆れ声に私はさもありなんという顔でいちごのショートケーキをパクリ。
これは合併した三銀行の主導権争いが絡んでいるから。その三銀行の派閥によってシステムへの要求が違うという素敵なことに。
それに振り回されるシステム屋がかわいそうと言えばかわいそうではあるが。
「何他人事のような顔しているんだよ。
旧古川通信はそのメインのシステム屋だろうが」
光也くんのつっこみにそうだったと我に返る。
そのシステム屋である古川通信が悲鳴を上げていて、彼らの後方支援要員としてこの『TIGバックアップシステム』を雇用しているのだ。
立ち位置と意味を理解しているカリン・ビオラCEO自ら『子会社にしたいので売って』と言ってきたのには笑った。
今日の集まりはその提案を決める為でもある。
「とりあえず、他人事というか立ち位置が立ち位置だから私は中立を宣言しま~す。
この提案の決定は三人で決めてくださ~い」
「こいつは……」
私の投げやり声に栄一くんが呆れるが、利害関係者ゆえに下手な事を言えないというのも分かっているのでため息一つついてコーヒーを口にした。
彼はコーラが好きではあるが、真面目な事を考えている時はコーヒーを頼む。
「確認だけど、桂華院さんの出資ってどんな形なの?」
経理担当である裕次郎くんが私に話を振ったので、私は指をこめかみに当てて思い出す。
そしてそのままグレープジュースを注文して呟いた。
「たしか、迷惑は掛けたくないから私の個人口座から出しているのよ。
これ」
この会社の資本構成は、私が60億で、あとは三人が儲けた60億となっている。
私の個人口座で60億ポンである。
我ながら幾ら儲けたと苦笑するしか無い。
「じゃあ、桂華グループというより、桂華院さんの意思で決めちゃっていい案件なんだね?」
「ええ。
カリンCEOは私が引っ張ってきたけど、彼女の提案は私個人の株式を買い取って、秋に発足する桂華電機連合の一子会社として位置付けたいみたい。
発足後の最初の決算はカリンCEOの指導力が問われるから、この高収益企業を抑えることで収益の嵩上げをしたいという訳ね」
今のままだと桂華グループ企業ではあるが、桂華電機連合に入っていないという形になる。
私の株式を買ってこの会社を桂華電機連合の子会社にするというカリンCEOの目の付け所は悪くない。
「ただ、カリンCEOはこの事業をCEO直轄にしたい感じなのよね。
お雇いCEOで足場がないから、その足場としてこの会社を使いたいという所かしら」
巨大企業ゆえの派閥争いは、既に発足前の桂華電機連合内部で激しく発生していた。
帝国電話という隠れ親がいる旧古川通信、私が直轄で事業再建をした結果急回復してカリンCEOより私の意向を気にしている旧四洋電機、経営危機で救済されたとはいえ、合併失敗を目の当たりにしている旧ポータコンの三社相手にカリンCEOは己の権威をまずは確立しなければならなかったのである。
「大企業は大企業で大変だな。
で、売却についての具体的な提案は?」
光也くんがじと目で睨んできたので、私はカバンの中から買収提案に対する書類を三人に手渡す。
このあたりの下準備はさすが米国と言わんばかりで、ベンチャー企業の買収案件を専門とする専属の弁護士に作らせた正規の提案書である。
「毎年100億程度の利益を5年は上げられるとして、プレミアムを付けて300億円か」
「ちゃんと僕たちの売却用にも資料を作っているよこれ」
「そのあたりは金でぶん殴るから誠実にという事なんだろうな」
上場していない企業だから、この手の買収については暗中模索が基本になる。
とはいえ、私が対象で役員という事もあって、三人に了解を得た上で会社のすべてを見せていた。
私の持ち分50%の売却だから、この会社は600億円の価値があるという訳だ。
出資の5倍のリターンだから、破格と言えば破格である。
「米国では成功した会社を売却して新しい会社を作るのは結構あるから、そういう流れでこの提案をしているのよね。
日本だとそのパターンはあまりないみたいだけど」
これは、日本だと銀行からお金を借りる際に代表取締役が連帯保証人になるなどの実質的に無制限責任を負う事が多いからで、起業して会社を売るというビジネスモデルだとリターンが低い事が挙げられる。
あと、会社を一国一城と捉える社長さんが多いというのもあるが。
「で、どうする?帝亜?」
「僕たちは栄一くんの決定に従うよ」
光也くんと裕次郎くんがそれぞれ提案書を見た後に意思表明をする。
私は中立という事で両手を上げて降伏のポーズをとって口を開かない。
そして栄一くんは、提案書を置いて意思決定とは別の言葉を口にした。
「うちに支援を頼んでいる会社がある。
テイア自動車が絡んだ物件なんだが、赤字続きで見放されかけて俺に泣きついてきた」
と。
穂波銀行の素敵な話
聞いた与太話で裏が取れていないのだが、三銀行のシステム担当社員間で言っている事が違っており、あの営業が発狂したとか。
IT屋ジョークでまさかぁと思いつつ、ありそうなのが怖いあの時の穂波銀行システム障害……
毎年100億程度の利益を五年
なお、IT業界のサグラダファミリアは今も建造中である。
という事は、17年近く年100億近く稼げるなんてわからないよなぁ。
支援を求めてきた会社
感想でIIJの話が出て、この物語世界だとITに絡んでいる栄一くんに話を持ってゆくよなという事で今回の話となった。