事業再編 その4
桂華鉄道が守りになるのならば、赤松商事は攻めの部類に入る。
そんな赤松商事が抱える事業は以下の通り。
赤松商事
携帯通信事業
ドッグエキスプレス
資源事業
北樺警備保障
桂華部品製造
他社
「お嬢様のビジネスの中核である資源事業はここが管理していますからね。
できれば、政府にあーだこーだ言われたくない所なのですが」
私の周囲のごく一部の人間から猛烈に嫌われている資源管理部門執行役員として統括する岡崎が飄々とした声で報告する。
「あーだこーだ言われるって、またなんかやったの?」
私のジト目に岡崎は両手を上げて首を横に振って無害アピール。
その仕草が芝居がかっているから実に胡散臭く見える。
「政府は総合商社の再編を狙っています。
要するに下位の総合商社をうちに食べさせようとしているみたいなんです」
意外に知られていないことだが、総合商社は不良債権処理の影の爆弾と言われている産業である。
あちこちに手を出した結果、事業規模が大きく、不良債権もかなり抱えているからだ。
それでも総合商社が生き残ったのは、これから来る資源高の神風のおかげである。
「いいわよ。
お上に奉公して、健気さをアピールしようじゃないの。
具体的に何処を食べさせようとしているの?」
「帝商石井と帝綿商事ですね」
総合商社の下位の上に、今年合併した五和尾三銀行絡みの案件で、流通系が大手の太永を残して大体片付いたから、ついに処理をという所なのだろう。
この二社も東南アジアに結構な投資をした結果、アジア通貨危機で打撃を受けて悲鳴を上げていた。
売掛金や貸付金の合計は二社で二兆七千五百億円と巨額なものになり、その債権のどれぐらいの部分が不良債権なのかは開けてみないと分からないパンドラの箱だった。
「いいわ。
食べちゃいましょう。
これで堂々と株式公開に踏み切れない理由ができるわ」
「買収ですか?」
「経営統合が先ね」
まずは持株会社を作って、その下にこの二社を入れる。
その際にTOBを仕掛けて少数株主に出ていってもらい、次に減資を行って不良債権処理を行う。
当然資本が足りないので、ムーンライトファンドが第三者割当増資に応じて、経営を完全に握る。
その後、赤松商事を母体にくっ付けて、莫大な量の子会社を整理統合して利益が出せる体にする。
当然、これらの作業にはかなりの時間が掛かるので、この二社の経営再建の為に、株式公開は今しばらくお待ち下さいという訳だ。
兆単位の巨額の金も、今や食べちゃいましょうと軽く言える額なのが我ながら凄い。
そんな事を考えていたら、ふと漢字の『綿』の字に魅かれる。
「『綿』?
綿花だっけ?」
「そうですよ。お嬢様。
総合商社の前身は繊維産業の所が多いですからね。
綿花を買ってきて、日本で加工して、世界に売る。
当時の綿花の生産地はインドで、この綿花を国内で木綿にして、欧米に売っていた。
繊維産業は、今の加工貿易の先駆けであり、世界を相手にせざるを得ないからトレーディングを専門とした総合商社という産業が出てきた訳です」
「なるほどねぇ……ん!?」
思い出した。
もうすぐしたら、鐘ヶ鳴紡績の粉飾決算と破綻が出てくるじゃないか。
抱えていた化粧品部門が他の赤字の穴埋めをし続けていたが、結局は時価会計に対応しようとして粉飾に踏み切ったという本末転倒なオチなんだよなぁ。
負債総額は約三千五百億円なり。
「せっかくですから、鐘ヶ鳴紡績も買っちゃいましょうか?」
「お嬢様のことですから色々と何か見えたんでしょうけど、事業再編を話そうかという時に、さらに会社を三社ほど買うその度胸は普通の社長にはありませんよ」
呆れ声で言う岡崎だが、私はあっさりと言ってのける。
抱え込む負債は最大で約三兆円なり。
まぁなんとかなる金額である。
「だって、桂華金融ホールディングスや、桂華鉄道傘下企業がこれからどんどん株式公開されていって、お金だけは無駄にあまっちゃうんだから。
それに……」
「それに?」
聞いている岡崎に私はぶりっ子ポーズで女の子アピール。
そういうお年頃なのだ。
「女の子なんですから、お化粧に興味を持つ年頃じゃない♪」
「……それで化粧品会社を買おうという発想が、既に世の女の子から逸脱……痛っ!
お嬢様悪かったですから!!
叩くの禁止!!!」
ペシッ!ペシッ!!と岡崎の背中を叩いて怒っていますとアピールの私と、意外に力があったらしく結構本気で痛がる岡崎のじゃれ合いを、控えていたアニーシャが『何やってんだろうこの二人』という冷たい目で見ていた。
なお、事業再編会議の席にて、この『三社買うわ』とほざいた私以外の出席者はじろりと控えていた岡崎に『また何かいらん事言いやがったか?』という視線が集まり、岡崎が必死に首を横にふる事態になった事を記しておく。
帝商石井と帝綿商事
弱小商社連合だが、ここまで食べてもトップ3に入れない。
鐘ヶ鳴紡績
化粧品事業で残りの赤字を埋め続けたすごい会社。
結果、化粧品と本業の繊維他が対立し、崩壊を迎えることになる。