線路は続くよどこまでも
「恋住総理はついている」
永田町でよく聞かれる言葉である。
幹事長を内閣改造で更迭し、機密費疑惑の渦中に居た議員が離党。
それを追求していた野党議員が自らの疑惑で議員辞職に追い込まれる等、政権は支持率を急降下させながらもなんとか持ち直していた。
政界の混乱に無党派の嵐が吹き荒れて横浜市長選は無党派候補がまさかの勝利。
恋住総理の盟友兼ライバルだった加東元幹事長にスキャンダルが出て議員辞職に追い込まれた時点で、党内の反恋住派は泉川副総理に期待するが、彼は動かずに日米外交の立て直しに奔走するはめに。
一方の経済だが、米国のITバブル完全崩壊の余波を食らって景気が急速に悪化していたのを『改革なくして成長なし』で放置する事を選ぶが、桂華グループが中心となった大規模鉄道事業という真水の公共事業が支える形で景気崩壊を食いとどめていた。
その一方で、メガバンクが本格的に誕生・稼働する中で静岡県の帝産銀行が経営危機に陥り、桂華金融ホールディングスに駆け込む事態が発生。
これは金融庁の厳格な検査で、一気に不良債権処理を迫られた結果と業界で噂された。
既に金融業界内では最終的な不良債権処理をメガバンクに迫ることを覚悟しており、現在解体途中のスーパー太永とゼネコン業界の処理に皆の視線が集まっていた。
ゼネコンに金をぶち込んでなんとか再生させたい桂華グループと、不良債権処理の本丸であるゼネコンを処理することで改革の一里塚にしたい恋住政権は激しく対立していたが、国会における戦況は絶望的と言っても良かった。
「でかいわねぇ……」
福井県のとあるお寺。
そこにある大仏を眺めて私は拝む。
昭和のタクシー王が地元のためにと造り出した寺だが、ありがたみも無く残るはバブルの借金のみ。
ゴーストタウンと化した門前町を眺めながら、私は橘に告げる。
「いいわ。
これもまとめて買いましょう。
仏を作って魂が入っていないなら、私達がその魂を入れるべきよ」
元々は近隣の鉄道の経営危機救済にと鉄道を買いに来たのだが、せっかくだからと乗ってみて、そしたら見えるバカでかい建造物。
観光ついでに来てみたらという事で、即決でお買い上げである。
で、この場所、翌年のサムライ映画のロケ地に使われ、それ以後、ハリウッド系サムライ映画のロケ地として使われることになる。
また、後にニンジャがメガロポリスで活躍するSNS小説でのイメージ舞台ともなり、謎の暗黒ザイバツ女帝ムーン・フラワーの支配する北の都という地名が出るなんて妄想も。
話がそれた。
「お嬢様。
そろそろ移動をしないと……」
「そうね。
そろそろ行きましょうか」
福井から大阪まで約二時間ちょっと。
福井県の鉄道買収も実はおまけみたいなもので、本命はこれから行く大阪にあった。
「なにわ筋線。
こんなにはやく手を付けるとは思いませんでしたよ」
「私もよ。
米国の景気後退に引きずられないように手を打たないと、病み上がりのこっちは致命的な打撃を受けちゃうじゃない」
東日本は東京の新宿新幹線を中核として鉄道建設でゼネコンを食わせていたが、西日本にはそのような目玉が無かった。
工事の終わった四国新幹線と新大阪駅増設ホームだけでは景気刺激が弱いので、以前橘がTVで口に出したなにわ筋線建設に着手したのだ。
費用はおよそ四千億円なり。
と、同時に大阪の議員先生にも圧力が掛けられるネタを用意したとも言う。
「失礼ですが、総理と対立する方向ならば、総理を引きずり下ろす事も考えるべきでは?」
「それは絶対に駄目!
あの野党に政権が渡っちゃうじゃない!!」
私が嫌悪感すらのぞかせて強烈に拒否してみせたので、橘が怪訝そうな顔になる。
それを見て、私は己がどんな顔をしていたのか気付いて、わざとらしく笑ってごまかす。
「かつての新党ブームでできた野党連立政権が何をしたか忘れていないでしょう?
小選挙区制になった今は、更に野党に政権が渡りかねないわ」
都市部及び都道府県の県庁所在地のある選挙区、通称一区選挙区は都市化が進んだこともあって野党議員の拠点と化しつつあった。
それに伴い無党派層が増加しつつある現在、TVを始めとしたメディアの風さえあれば、政権を倒すことはたやすい状況なのである。
恋住政権はそんな危険水域で躊躇うことなく攻勢に出た。
もちろん、
「引きずり下ろすならば解散するぞ」
という脅しを暗に突き付けた上でだ。
それを理解しているからこそ、私は従わざるを得ない。
野党に政権が渡って、感謝されずに叩かれて捨てられるぐらいならば、まだ恋住総理相手に良い敗者を演じたほうがマシである。
おまけに、与党反対派も野党も恋住総理相手に自滅し続けており、この状況で選挙なんて出来るわけもなく。
「泉川副総理が頑張ってくれているうちは、こちらからは動くのは禁止。
腹が立つけど、次の選挙に向けて足場を固め直すべきよ」
「かしこまりました。
という事は、愛知のあれもその対策なのですね?」
橘の言葉に私はあっさりとその意図を認めた。
若干不機嫌気味で。
「当たり前じゃない」
「よお。瑠奈。
やっぱりお前が来たか」
「当たり前じゃない。栄一くん。
これができると、貨物輸送についてはだいぶ改善するわよ」
桂華鉄道が買収及び建設を宣言したのは、名古屋交通事業城北線に南方貨物線、青波鉄道の三路線。
元が貨物線という事で、この地方の貨物輸送の強化を名目にしている。
事業規模は二千億円程度。
この貨物で一番メリットが出るのが、ここに本社を置く帝亜グループという訳で。
「瑠奈。
素直に質問なんだが、これどうやってもとを取るんだ?」
「新大阪駅方式かな?」
その一言で栄一くんは察する。
名古屋駅には、元国鉄以外の私鉄が走っている事を。
その駅が狭くてカオスで、とても混雑していることを。
「さすがに東海帝国鉄道を怒らせる事はしないけどね。
建設途中の中部国際空港のアクセス鉄道。
あれの専用ホームとして貸そうかなと思っているわ」
桂華鉄道という第三者が入ることで、東海帝国鉄道と私鉄との間を取り持つ。
金山駅で東海道本線に乗り入れさせ、こっちのホームを使ってもらう。
そこから新幹線のホームが近いのが売りでアクセスを良くして対処。
名古屋駅と金山駅間の鉄道の混雑は中央本線と接続する城北線でバイパスを作り、そっちに流す。
建設費用の大部分はこっちが出すが、地元政財界との関係を重視して、帝亜グループを始めとする地元政財界にちゃんと根回しをした上でのゴーサインである。
「京都議定書でCO2削減をしないといけないし、愛知万博は成功させないといけないでしょ?
色々手伝ってあげるからこっちも色々手伝ってよね」
「……お前のそーいう所、俺は嫌いじゃないぞ」
「何か言った?」
「さあな」
退屈な式典だが、栄一くんがいたおかげで暇が潰せたのは感謝。
式典後に栄一くんと名古屋駅のきしめんを食べたが美味しかった。
この春の劇場
民主党 大橋巨泉参議院議員 党の方針に反発して辞職
自民党 田中真紀子衆議院議員 外相更迭
自民党 鈴木宗男衆議院議員 議院運営委員長辞職・離党
社民党 辻元清美衆議院議員 議員辞職
横浜市長選 中田宏市長 無党派の支持を得て当選
自民党 加藤紘一衆議院議員 議員辞職
鉄道買収
買う意味はあるのと言われると、福井県に恩を売るのが目的。
若狭湾は物流における日本海航路の接点なので、抑えておきたいのだ。
SNS小説
『ニンジャスレイヤー』。
多分間違いなくニンジャとして書かれるお嬢様。
そのお体はナンシー・リーとタメを張る豊満だった。
名古屋交通事業城北線に南方貨物線、青波鉄道
貨物路線の旅客化がメインだが、本命は貨物輸送の多様化にある。
中部の物流の円滑化と将来発生するドライバー不足に対処することを目的にしており、カーフェリーだけでなくRORO船を中心とした陸海の物流の一体化を視野に入れた一手だったり。
愛知万博と中部国際空港
名古屋経済界の悲願でも有り、そのアクセス路線としての意味合いもある。
だからこそ顔を立てた結果として、JRと名鉄の手打ちを取り持てたという。
京都議定書
CO2削減で合意した国際条約の一つ。
これから本格的に『環境』という言葉がTVにて聞こえてくるようになる。