帝西百貨店セール写真展『小さな女王陛下の肖像』
私は不機嫌である。
そりゃそうだ。
いくら目玉イベントとはいえ、あの写真家のイベントに行くことになったのだから。
しかもその題材が私と来たもんだ。
「この企画止めるやつ居なかったの?」
私のぼやきにアンジェラが容赦なく突っ込む。
「あのお方を止めるなら、お嬢様と同じく予想外奇天烈な手で逆襲を食らうと思うのですが、それでよろしいので?」
年末年始にかけてのTOBからの巨大コンピューター企業誕生の経緯を、結構根に持っているアンジェラの言葉がグサグサと刺さる。
あれについては、正直チャンスとは言え悪かったと思っているので、こちらもそれ以上突っ込めずに大人しく特設会場の入り口に立つ。
とはいえ、あの写真家の才能は本物であり、彼が手がけたイベント写真は帝西百貨店のポスター頒布の目玉として常に引き合いに出されていた。
今回はそれをまとめたものを中心に私の写真を発表する事になるのだが、まずはきっかけとなった最初のポスターがお出迎え。
――欲しい物はありましたか?小さな女王様――
「考えてみれば、これがきっかけだったのよねー」
名は体を表したのか、名に体が釣られたのか知らないが、今や公爵令嬢として、日本の小さなフィクサーとして、巨大財閥の陰のドンとして君臨している。
思えば遠くに来たものだ。
――貴方の走りは未来に続いている――
次の写真は運動会の写真で、シューズをもらって力走したやつだ。
つくづく思うが本当にこの人の写真は躍動感を写真の中に閉じ込めるのが上手い。
「え?
あの時居たの!?」
今度の写真は首相官邸で渕上総理と共に北海道農業親善大使だった私が、食べ物を食べながら歓談している写真。
よく見ると私も渕上総理も目が笑っていない。
マスコミを追い出す前で、互いにタイミングを図っていたのだろう。
――北海道の未来はこの時に決まった――
決まっていない。決まっていない。
誰だこのタイトルを付けたのは……ってあの先生だよなぁ。
あの時は生臭いけど、己に降りかかる火の粉を振り払うのに忙しかっただけである。
ただ、この頃から私と北海道の関係は強くなってゆく。
たしか……あった。
これも撮っていた覚えがあったからだ。
――成田発千歳行き。北の翼離陸――
成田空港の出発ロビーで旅行に行く姿で写真を撮った私だが、私がこのロビーを使ったことが無いと知ってあの先生が笑ったのは覚えている。
そうなると……やっぱりこれもあったか。
――東京発八十八箇所。悟りも近くなりました――
四国新幹線開通のポスターで、東京駅のホームで700系をバックにお遍路姿でポーズをとる私の姿が。
隣にはちゃんと落ちをつけている当たりあの先生分かってやがる。
「アンジェラ。
あのやられた写真があるわよ」
「もうあんな失態はいたしません!」
――高松-東京11時間。それは悟りの時間――
悟った顔が私とアンジェラのやられた顔なのだから、高僧というのはどれほどの苦行をする事になるのやら。
なお、飛行機で前日に高松に入って元気な顔で写真を撮ったこの先生に罵倒を浴びせた私は悪くない。
ついでにいうとその一部始終をTVカメラに撮られていたがそれも気にしないことにする。
――そのランドセルと共に少女は大人への道を歩む――
翌年の帝西百貨店の春の新入生キャンペーンである。
ランドセルを背負った学生服姿の私の写真だが、えらく人気があったらしくポスターが剥がされて持ち去られるので有料頒布したらそれもあっという間になくなったといういわく付きのポスターである。
――小さな女王陛下の閲兵式――
これは九段下の喫茶店『ヴェスナー』のメイド達を見せてくれと頼まれた時だが、こうやって見るとメイド側がその手の訓練を受けているから本当に閲兵式にしか見えないのが困る。
――山も人生もそこにあるから登るのだ――
これは高尾山登山のやつだ。
本当によく撮っているというか、あれ大規模警備をやってくれたから、それに便乗したんだろうな。
後で聞いたが、私がウキウキで用意した登山グッズは女子中心に飛ぶように売れたらしい。
――メガロポリスの秘密の花園。神よ。この塔の花園を見逃し給え――
これは素直に上手いと思った。
私は写っていないけど、何処から聞きつけたのか庭園を撮らせてくれと言って発表していなかったがここで出してきたのか。
そして、去年の賞を総取りした時代の一枚に私は向き合う。
モニターに映るツインタワー、倒れる私を抱きかかえる恋住総理という一枚の写真に。
「それだけ何も付けられなかった。
時代の決定的変化には言葉なんて無くても分かるのね」
いつの間にか私の後ろに写真家の先生が立っていた。
いつものおちゃらけさは無く、その語り口はちゃんと芸術家していた。
いつもこんな風にしていればいいのにと思ったがそれは口に出さないでおいた。
「貴方はきっといい女になる。
それは私が保証してあげるわ。
だから、貴方は幸せになりなさい。
いい女に不幸は似合わないわよ」
その言葉に射抜かれる私が居た。
何処で悪役令嬢とバレた?
混乱している私に写真家の先生は笑った。
「この会場、一番いい場所に写真を飾っていないの。
どうしてだか分かる?」
彼の言葉に首をひねる私に、写真家の先生は堂々とその答えを告げた。
「一番いい場所は、貴方のヌードを撮る…あたっ!蹴ることはないじゃない!!」
「うっさい!
私の感動を返しなさいよ!!」
写真家の先生のスネを思いっきり蹴った私だが、その才能は評価しているからこそこんな関係が続いている。
少なくともこの人はプロとして、被写体の私の全てを撮ろうとしている。
だからこそ、限りなくカメラを通じて私の内心に近づけるのだろう。
たとえ不機嫌ぶっていても、自分を美しく撮ってくれるこの人を私は嫌ってはいないのだ。
「仕方ないわね。
じゃあ、そこはウェディングドレス姿で我慢してあげるわ」
そして、こんな言葉をさらりと言ってくれるから、私はやっぱりこの人に仕事を頼んでしまう。
つんと拗ねた顔をして私は写真家の先生に憎まれ口を叩いた。
「そんな事約束できないに決まっているじゃないですか!」
この写真展、案の定大盛況だったらしい。
どうしてくれようか……
なお、写真の順番は物語の流れと異なっている。