初等部生徒会選挙 その2
ちらちらと瑠奈の立ち位置の変化が書けるといいのだが。
もちろん、そのきっかけはあの巨大買収である。
「無視しましょう」
「「「え?」」」
私の一言に男子三人が固まる。
事前に勝負を決める人間が強い理由は、その勝負の仕組みを理解しているからだ。
そして、それが出来ない人間は場外乱闘で場を乱す事から始める。
状況を確認するならば、この勝負は戦う前から勝負が付いている。
「まず、前提条件。
初等部生徒会執行部はクラス委員からの立候補で、クラス委員の投票によって決められる」
これすごく大事で、初等部生徒会長に立候補する為には、五年生三学期の時点でクラス委員になっていなければいけない。
栄一くんは生徒会長を取りに行っているので、もちろんクラス委員になっている。
なお、私は今回外れて式典委員になっている。
生徒会選挙の選挙管理も式典委員会の管轄なのだ。
栄一くんと一緒になるクラス委員は、春日乃明日香さんだ。
「次に、副会長・書紀・会計は生徒会長の指名によって選ばれる」
つまり、三クラス男女合わせて六人のクラス委員の中から生徒会長が決まる訳で、初等部では執行部というのは責任の押し付け合いが強いので、栄一くんの立候補に対立が出ないのはそんな背景もある。
「で、ここからが重要。
源くんだっけ?
彼、クラス委員だったかしら?」
私の確認に裕次郎くんが苦笑して首を横にふる。
「あの主張でクラス委員になれるなら、僕はびっくりだね」
つまる所、そういう事なのだ。
栄一くんの立候補と当選は多分決まっている。
万一の対抗馬が出たとしても、春日乃さんが付いているからクラス内で分裂は多分無い。
源くんは、派閥連立というロジックを使って、裕次郎くんの代わりに執行部に入りたいだけなのだ。
ここで彼が一歩引いて春日乃さんあたりを入れろと言ってきたら話はややこしくなっていたのだが。
「執行部の指名は生徒会長の専任事項よ。
栄一くん。
彼を入れて仕事をしたいならどうぞ」
「冗談を言うな。瑠奈。
俺は裕次郎を外すつもりはないぞ」
方針は固まった。
では、次は叩き潰し方である。
「桂華院が凄くいい笑顔で笑ってやがる。
かわいそうに……」
「光也くん。
『雉も鳴かずば撃たれまい』ってご存知?」
翌日のお昼休み。
食堂は昼食を終えて、サロンみたいな感じで有閑生徒達がくつろいでいた。
「薫さん。
ちょっといいかしら?」
「瑠奈さん。
あなたがここに顔を出すなんて珍しいわね?」
雲客会の集まりの場に私は単身入ってゆく。
薫さんの近くには、修学旅行で一緒だった待宵早苗さん、開法院蛍さん、華月詩織さんなんかが一緒に居たり。
「で、瑠奈さんがここに来た理由ってなぁに?」
「ほら、この間雲客会館改修工事の寄付の話が出たでしょ?
あれを持ってきたのよ」
「あら、ありがとう。
これで工事が出来るわね」
もちろん薫さんとは打ち合わせ済み。
この手の芝居は根回しと大根芝居こそが信憑性を大いに高めてくれる。
優雅に大声で、私は制服から小切手を薫さんに渡した。
「ええ。
小切手だけど、一億円。
受け取って頂戴な♪」
場が見事なまでに固まった。
というか、蛍さんそんな怪訝な顔できるのですか。
早苗さんはあらあらまあまあみたいな顔で多分状況を理解していない。
意外だったのが詩織さんで、目の奥に一瞬見えた嫌悪感を私は見逃さなかった。
一回調べた方がいいかもしれないなと心の中にメモする。
「本物ですの?」
「本物です!
桂華銀行九段下支店の私の口座から振り込ませていただきますわ」
小切手を確認して薫さんは立ち上がって私に優雅にお礼を述べた。
「雲客会を代表して感謝いたしますわ」
「昼のあれ、する必要があったのか?」
「あるに決まっているじゃない。
札束でぶん殴るってのは、万人が見ている中でやるのが一番効果があるのよ。
その分下劣でもあるけどね」
もちろんちゃんと校則確認済み。
というか、生徒会選挙で買収してはいけないなんて校則は書いている方がおかしい。
この帝都学習館学園はエリート育成というか権力者育成を兼ねているので、このあたりのダーティー手段をある程度許容していた。
ゲーム的には悪役令嬢である私の暴虐ぶりとその失脚を肯定化させるための穴なのだろうが、遠慮なく突かせてもらおう。
まぁ、現実の立憲政友党の総裁選に比べたら可愛いやり口である。
「初等部生徒会長の選挙工作に一億円。
それだけの価値があるかと今頃各派頭を抱えているだろうよ」
光也くんが私の狙いを見抜いてそのやり方を非難する感じで言葉を吐き捨てる。
真っ向勝負でも勝てたと目が言っているのだが、そこは反論させてもらおう。
「あの金は掛け金か。
『この合意を潰すなら、それ以上の金を用意しろ』って意味だな。
緑政会でも文句が言えないだろう」
もちろん、それを吹聴して回っているのは明日香さんだ。
この手の札束ビンタは当事者にやらない事で価値がある。
『利害関係が無い』と言い逃れられるし、『それを受けたいなら分かっているな?』と暗に言えるからだ。
初等部だけでない、中等部、高等部に向けてまでの買収工作資金で一億ならば安い物である。
なお、一条とアンジェラが一億の使い道を聞きに来て唖然としていたが、『その手を多用しないように』と最低限の注意を受けて黙認してくれた。
橘だけは『お祖父様の悪い所ばかり真似なさりませぬように』と苦笑していたが。
「さて、瑠奈がここまでお膳立てしてくれたんだ。
降りるなんて言わさないからな」
「……今、やっと太一郎兄さんの気持ちが理解できたよ」
当たり前のように初等部生徒会長選挙は栄一くんが会長に就き、彼の指名という形で以下のスタッフが固まった。
副会長 桂華院瑠奈
書紀 泉川裕次郎
会計 後藤光也
「我々は変わらないといけないのです!
この腐敗した国を反省し、改革こそが停滞した……」
数日後、学園校門前で一人みかん箱に立って演説をする源貫太郎くんの姿があった。
少なくとも針の筵に座る覚悟はあるらしい。
チラチラと見えるマスコミのカメラ。
これは彼を出汁に親の源衆院議員のPRという所だろう。
こうやって、この国は少しずつ俳優政治家が台頭してゆく。
(……おかしいと思いませんか!
私達は同じ人間のはずです!!
それなのに……)
ああ。
思い出した。
ゲームでは決定的な対立として、一枚絵だった小鳥遊瑞穂の演説がこの場所だったのだ。
だとしたら……居た。
貫太郎くん。
残念だけど、私は貴方には倒されない。
私が倒されるのは小鳥遊瑞穂であり、彼女に味方した帝亜栄一・泉川裕次郎・後藤光也の四人なのだ。
そのカメラを意識して、私は毅然と優雅に通り過ぎた。
後日、週刊誌に『公爵令嬢の傲慢!野党政治家の子息の正論を無視して通り過ぎる』なんて記事が書かれて笑ったのは言うまでもない。
キャラ設定とかデザイナーメモを後出しで作るから、前の方は必然的に大改訂が前提になる。
春日乃明日香と運動会でデットヒートをしたりとか、待宵早苗と音楽談義で盛り上がるとか。
華月詩織の立ち位置がこんなのは、実は桂華院家が窮乏して他所の家に嫁に行った時の一族の娘だから。
また、瑠奈誘拐未遂事件の医者と知り合いだったとかの裏設定もあったり。
このあたりは何処かでエピソードを入れる予定。