ホワイトハウスの苦笑 11/10 更新
ここまでは書かないと読者が判断できないだろうと更に加筆。
意図的に整合性をあわせていないのは、修正前提だから。
こういう方向で、昨日の話も合わせるという予定。
米国首都ワシントン。
ペンタゴンとホワイトハウスに飛行機がつっこみ、その痕がまだ残っている中、ホワイトハウスの主は東京からの報告に頭を抱えていた。
「あのお嬢様の配下の仕掛けか。
向こうの統制はどうなっているんだ?」
「お嬢様のワガママは仕方ないさ。
大統領」
冷戦時に作られたという地下ブリーフィングブースで大統領がぼやき、副大統領が嘆く。
CIA長官は東京からの報告に頭を抱えながらも、今回の騒動について報告した。
「先に複数のファンドが古川通信のTOBを仕掛け、その過程で彼女が抱えている四洋電機に手を伸ばしていたのは事実みたいです。
桂華グループは防戦の為に四洋電機の株を更に買って、報復のためにWCI社の不正会計を密告してこちらの手を下させ、ニューヨーク市場を崩壊させ狙っていたファンドを撤退させたと」
情報を握るという事は、何を伝え、何を伝えないかを選別できるという点にある。
米国のインテリジェンス・コミュニティーででかい顔ができるのは、暴走してくれたお嬢様のおかげという所もあるので、CIA長官は彼女を守る立場に追いやられていた。
現在アフガン戦の進捗に合わせて、あのテロの原因追求が行われており、CIAもその矢面に立たされているのも見逃せない。
「エシュロンをはじめとした自慢の諜報網が機能せずにあのテロを許したのはどういう訳だ?」
「しかも、そのテロ報告が入ったのは極東の同盟国の商社だったではないか。
それまで君たちは何をしていた?」
ちょうど、NSA長官と仲良く追求されているのだが、CIA長官の顔色のほうが悪い。
CIA長官は民主党政権時にこの席に就いており、共和党政権である現政権において外様になっているのも立場の弱さを象徴していた。
ここで、CIAにでかい顔をさせている原因である極東のお嬢様を斬り捨てたら、組織的にCIAすらこの政権に斬り捨てられるのが目に見えていた。
なんとしても守る必要があったのである。
「で、仕掛けを見付けられず止められなかった結果吹っ飛んだ価値は数百億ドルか。
情報収集をおろそかにした報いとしては中々でかい授業料だな」
大統領の笑みに怒りより安堵の側面があるのは、現在破綻したゼネラル・エネルギー・オンライン絡みで政府の利益供与が議会で問われているからで、米政府は自らWCI社に司直の手を入れることで『腐ったりんごを自ら処分した』と評価する向きが出てきたことが挙げられる。
なお、WCI社も現政権の大口献金者なので、トカゲのしっぽ切りという見方もできるが、身を正したという主張も間違いではない。
「情報提供が本物であるおかげで致命傷を免れたのは事実である以上、その線では叩けませんよ。怪しい動きはしていますがね」
国務長官が呆れ声で手腕を称賛する。
CIAサイドというかアンジェラが頭を抱えたのがここだった。
WCI社の不正会計は杜撰なもので、司直が調べればすぐボロが出るようなものだったのである。
そして、CIAは桂華に垂れ込んだ情報提供者はついに発見できなかった。
ロンドンのネットカフェから捨てアドレスで送られたのは間違いがないのだが、エシュロンなどをはじめとしたネット監視システムに依存し過ぎていて、人の流れを把握できて居なかったのだ。
おまけにテロ後の安全保障シフトで経済スパイがそちらに移った間隙を突かれた形になっていた。
複数の仲介人を介して現地の第三者にUSBをパソコンに刺させて、仲介者がエロ画像を見ている際に気付かない形でウイルス形式でメールを発信した岡崎の勝利であり、彼はこれについてはついにアンジェラにすら口を割らなかった。
これは9.11テロでもCIAが叩かれた原因の一つになっている。
で、WCI社を調べてみると真っ黒である。
ITバブル崩壊で資金も年越し前で時間もなかった為に、不正会計から巨額損失を計上する羽目になったためチャプター11を申請するまで追い詰められたのだ。
「ディープ・スロートは闇の中か。
おまけに、コールガールよろしく誰でもなれる杜撰さときた」
大統領がぼやく。
彼はその政権時色々と批判を受けているが、地頭は悪くないし、周囲の意見を聞く素直さを持っていた。
だからこそ、素直にその疑問を口にした。
「疑問なんだが、こんな仕掛けができるならば、どうしてゼネラル・エネルギー・オンラインの時に仕掛けなかったんだ?」
彼らの疑問はそこで迷宮に落ちる。
これほど見事な仕手戦を仕掛けたのならば、9.11の時、またはゼネラル・エネルギー・オンラインの時に仕掛けた方がもっと利益が大きかった筈だ。
にも拘わらず、彼女はここで仕掛けた。
その理由が分からない。
「で、それで得た資金を何に使ったかといえば、ポータコンの救済に、スイング・ステートにPACを設立だ。意味が分からんぞ」
「彼女は基本われわれの味方であり、敵対行動に反撃しただけ、基本は仲良くしていたいのでフォローしたというところでしょう」
大統領のぼやきにCIA長官が答えるとみなが納得した顔をした。
疑問が解消されると、司法長官がWCI社救済歓迎という大統領発言に関して苦言を呈する。救済されると反トラスト法に引っかかるからだ。
「分かっていると思いますが、帝国電話にはWCI社を売らないように」
「ああ、向こうも本気で買えるとは思って居ないだろうけどな。
帝国電話が桂華に売った古川通信の売却益で説得力はある、実際にするつもりが無くてもありがたい発表だった。
市場が歓迎したのは事実だし追認発言で効果を高めるくらいはしないとな」
なお、帝国電話は本気だったらしく、この後司法省と醜いバトルをして見事に敗北する事になるのだがそれは後の話。
CIA長官は、一枚のレポートを大統領に差し出した。
「表向きの理由などはそんなところでしょうがそっちは囮ではと思っています。
得た利益の内、100億ドルを彼女はバーレーンにつぎ込んでいます。
名目はインフラの確保です」
わざと分かるようになっているそれは、土木機械名目で戦車が登録され、現地作業員の名目で傭兵達が登録されていた。
詰まる所、彼女の切り札はこれだった。
「イラク侵攻するんでしょ。
手伝ってあげる」
という何処よりも早い参戦表明。
むしろ、仕手戦より未来予知に等しいこの読みを大統領と副大統領は恐れたのだ。
国防長官が周りに釘を刺す。
「分かっていると思いますが、現在のアフガン情勢はPMCを抜きには語れません。
その供給に多大な貢献をしているのが、彼女という事をお忘れなく」
ベトナムで米兵の血が流れる度に反戦運動で追い込まれて最後には叩き出された事を、米国はまだ忘れていなかった。
そして、米兵の代わりにアフガンで血を流しているのは、PMCとして参加している日本人とロシア人であり、新しくインド人まで加わろうとしていた。
国会議事堂での襲撃事件の報復と、そのテロリストと関係があるアフガン武装勢力への報復として書類上は退役したインド兵がアフガンの地に入り、泥沼の殺戮劇を繰り広げていた。
そんな彼らにPMCの身分保障をしているのが彼女が持つ傭兵会社である。
「ご存知の通り、戦争には金が掛かります。
彼女が我々をアフガンで支える資金を用意する必要があるのなら、必要経費と割り切ってしまうべきです」
「暴落した数百億ドルが必要経費か。
ずいぶん戦争も値段が張るようになったもんだ」
国防長官の台詞に財務長官がジョークを入れる。
軍隊という金食い虫に予算が取られ続けられる以上、軍最大の敵は財務省であるというのは何処の国もあまり変わらない。
けど、それに国務長官が淡々と根本的な事を指摘して皆黙らざるを得ない。
「それをケチって、今度は自由の女神が破壊された時、数百億ドルをケチった愚か者と我々は歴史に罵られるでしょうな」
彼女にとって運が良かった、いや知っていたからこそだが、今の米国は戦時だった。
そのため、その戦争が何よりも優先される。
そして、彼女は米国の戦争、その理由に深くコミットし過ぎていた。
怒ろうが、嘆こうが、彼女がその戦争理由にコミットし続けている限り、それは最終的に許容される。
次のイラクに向けて。
「私がここに居るのも、フロリダの数千票のおかげだが、それは彼女の会社の積極的応援の賜物だったんだよなぁ」
懐かしそうに大統領はぼやく。今年は中間選挙がある年だ。あの時と同じく選挙がある。
彼女はスイング・ステート(接戦州)にPAC(政治行動委員会)を設立していた。PACの問題は、この団体そのものには資金が無い所にある。賛同者達から上限5000ドル/1人の寄付金を集めて政治家に渡す形なので、これだけでは意味がない。
彼女はPACに協賛する会社を大量に作っているのだ。接戦州にある経営の傾いた会社の株を、第三者割当増資という形で買うことによって。毎日のように流れる企業救済関連のニュースは、市場の安定化に多大な貢献をしていた。
「つまり、選挙では少しばかりわれわれに有利になり、大敗で政治方針の大転換を強いられる心配はあまりない。ならば我々の予定に変更はないという訳だね?」
副大統領がCIA長官に念を押し、彼はそれを無言で頷いた。
9.11テロの報復でイラクを叩くのは無理があったので、『大量破壊兵器の保有』でイラクを叩くプランをこの時ホワイトハウスは立てていたが、湾岸戦争後の経済制裁でそれを持っていない事が既に分かりつつあり、押し通すかごまかしてあるように工作するかの二択が迫られていた。
そんな中、実に都合が良かったのが、彼女が見付け出した核ミサイル紛失事件である。
9.11テロと合わせて、核ミサイルを奪えなかった連中があのテロを起こし、その資金源がイラクであるというストーリーが用意されようとしていた。
笑えるのが、このストーリーは基本今回のお嬢様の暴走と同じで、決定的な所をCIAがコントロールしてでっち上げている所で、そのでっち上げにはどうしてもお嬢様の協力が必要だったのだ。
特に、生きているテロ要員を抱えている日本の協力が。
「ならば問題がない。
失った金は、血で払うと言っているのだから、それに便乗しようではないか」
数日後、議会で行われた大統領一般教書演説にて、『テロとその支援国による悪の連帯』という言葉が用いられ、世界は次の戦争に否応なく備えることになる。
CIA長官
調べて笑ったのが、『クリントン政権時任命で議会スタッフであり、諜報活動の実務経験は皆無。調整役としての経験により手腕を発揮』とあり、平時の人材だったんだなぁと。
エシュロン
米国を中心に構築された軍事目的の通信傍受システム。
ネットの世界を網羅出来て、9.11テロ後の捜査などで役に立ったのだが、情報を管理分析するのは結局人間なのでという落ち。
AIが進化した今だと凄く脅威になるものなのだが……
副大統領
最強の副大統領。
なお、この政権はネオコン(新保守主義)政権でもある。
エロ画像を見ている内に
ブラクラを踏んだらしい(笑)
ディープ・スロート
元々はこれエロ用語。
だが、ウォーターゲート事件から内部情報提供者の事を指すようになって、そっちの言葉のほうが有名になる。
今思ったが、修正、ウォーターゲート事件方式を使えば行けるかな?
反トラスト法
米国の独占禁止法。
感想にもあったけど、通信会社は1984年に8社に分割された。
インド傭兵
イン-パ国境の衝突がエスカレートして核の投げ合いにならないように、第三国で思う存分殺し合えというぶん投げ政策。
もちろん米仲介で両国黙認済み。
アフガンはこれで泥沼化するが、タリバンの犯行は徹底的に封じ込める事に成功する。
急上昇をつげる民間人犠牲者は見なかったことになっている。
PAC
政治行動委員会の略。
米国では政治家への献金はこの手の組織を通じて行われる。
この時はまだ5000ドルという上限があった。
スイング・ステート
接戦州。
米国選挙で、民主党・共和党の支持が拮抗しており、ここの結果で議会や大統領が決まる。
特に、オハイオ・バージニア・ペンシルベニア・フロリダの四州は大統領選挙人が多く、この四州の内二州は絶対に取らないと大統領になれない。
この大統領が2000年の大接戦を演じたのがこのフロリダ州。
悪の連帯
現実では悪の枢軸。
この演説を聞いて『あ、イラクやる気だ』と政経関係者は確信したらしい。