数日前、私のところに、ある方から「自転車のブレーキを、彼女の分を、右レバーが後輪制御になるようにしたい」という話をしてきました。
その方はアメリカにいらしたので、右ブレーキが後ろにかかるのが「国際的」と思ったのかもしれません。
これは、アメリカと言う国を理解するのにも良い例なのですが、まあ、それはさておき、右側のレバーを後輪にもってくることの是非を考えてみましょう。
アメリカ式に考えると、イタリアなどでは右ブレーキを後輪用にしている、という理由が少なくない。アメリカにも、英国のラレーが左ブレーキが後輪のものを大量に輸出しているわけですが、どちらも存在します。「レース用のイタリア車が右後ろなので、そちらのほうが高級に違いない」というアメリカ的考えなのでしょう。
さらには、右手のほうが握力が大きいので、後ろブレーキを右へ持ってくるほうが良いだろう、という考えもあるかもしれません。
ところが私はこの右後ろブレーキには、少々違った考えを持っています。
これを日本でやるとなると、日本は自転車は軽車輌で左側通行なわけですから、右手で手信号を出すことになるわけです。そうすると、「前ブレーキだけで、雨の日に片手運転でカーブを曲がるのか?」ということになります。手信号は出さない?それは道路交通法違反になります。
じつはこれこそ、英国に於いて、後ろブレーキを左のレバーで操作するようになった理由なのです。そして、英国でもかつては右レバーが後輪にきく時代がありました。私のローズも右後ろです。そして、重要な歴史的事実。
「前後車輪が同サイズのいわゆるセイフティー型自転車は、英国製以外のものは、すべて英国製自転車のコピーとして始まった。」という厳然たる歴史的事実です。セイフティー型自転車は、英国で発明され発達し、各国でコピーされました。ドイツのオペルなども自転車製造技術をなんとかドイツへひきよせようと、技師クリンゲルホーファーを英国の自転車工場に、送り込んだ事実が有ります。イタリアのロードスターのリアのブレーキシステムは、100%英国のサンビームのロッド・リンケージの真似です。
つまり、初期の英国式が、ヨーロッパ大陸でコピーされ、そのまま生き残って右後ろになっているのです。これはヨーロッパで主流の700Cが、本来、英国の古いほうのタイヤ規格「インペリアル28」であることも合わせて考えるとよいでしょう。そもそも空気入りタイヤも、ウッズバルブも、WOリムも、そしてフレンチ・バルブすらも英国の発明です。
さらに、英国では右レバーに後ろブレーキをもってくることの不具合のいくつかに気が付かれていました。
手信号の問題のほかに、問題とは、モーターサイクルと自転車と両方乗る人の場合、右前に統一されていないと困る、という問題がありました。モーターサイクルで、右後ろに確定した理由では、ハンドチェンジの初期モーターサイクルで、右手でシフトレバーとクラッチを同時に操作して乗ることは不可能なので、右に前ブレーキで決まったわけです。そのハンドチェンジの場所はチェンの左右のレイアウトの問題も絡みますが、モーターサイクルがどうして自転車と反対側にチェンが来るのか?という問題は別の機会に書くとします。じつは左側にチェンが来る自転車も初期セイフティー自転車時代にはあったのです。
実は左レバーを後ろブレーキにする理由のひとつに、人間の体の非左右対称性という問題が深く関わっています。これはモーターサイクルに乗られている人ならご存知のことですが、ほとんどの人は左カーブより右カーブのほうが苦手なのです。本来なら右カーブのほうが回転半径が大きく、見通しもよいわけですから、右のほうがよいはずなのですが、実際はそうはゆきません。
埼玉県警の調べでは、事故件数が右カーブが6割に対して、左カーブが4割、死亡事故数は右カーブ7割に対して左カーブ3割です。高速道路での横転事故なども圧倒的に右カーブが多い。
これは人間の心臓が右に寄っていて、二輪車では右カーブの時に、心臓が地面に近くなるので、恐怖感が本能的に出るからだという説もあります。そうした時、右カーブで、左より右が、手前にハンドルが寄った状況で、右手でブレーキを操作するのが良いのか?という話にもなるでしょう。
皮肉な話ですが、英国よりアメリカのほうが自動車の法定制限速度は低い。しかもヘルメットの着用率は英国より、オランダより、デンマークより、どこよりもアメリカは高い。にもかかわらず、自転車の死亡事故の率がアメリカはきわめて高いのは、さまざまな理由を考えてみる必要がありそうです。訴訟社会を形成する前に、考えねばならないことはたくさんあるはずです。
ブレーキの左右は単なる「慣れ」の問題とするなら、右側通行のアメリカでは、自動車に引っ掛けられないように、自転車の右がわから乗り降りするか?というと、これはほとんどの人が出来ないでしょう。人間の体には左右の役割分担と得手不得手が決まっているのです。
左が利き手の人は別として、右手は微妙なコントロールを利かせやすい。そうした時、前ブレーキと後ろブレーキではどちらが微妙なコントロールを要求するか?と言えば、前ブレーキでしょう。その意味でも右手に前ブレーキを持ってくるほうが有利と言えると思います。
roughton
自然と調和して、自転車の上のEthicalな生活をして、健康長寿。
コメント
raijin&fuujin
手信号は「美風」ですね。おおいに復活して欲しいです。これは周囲の交通とのコミュニケーションですから、自分ひとりで勝手に走らないことに通じると思います。そのために、左側交通では、絶対、前ブレーキは右レバーに来るべきですね。
2011/01/27 URL 編集
raijin&fuujin
最近のサイドプルは本当にワイヤー取り回しで自由がきかなくなっていますね。このあたり、「利き腕」により「国別」により、左右両方あって欲しいですね。左前に慣れさしてしまうと、モーターサイクルに乗ったとき、これはそうとう危険な感じがします。私などではちょっと考えられません。
2011/01/27 URL 編集
raijin&fuujin
お仕事中の、危険を覚悟の書き込み(?)ありがとうございます(笑)。鼓笛隊の太鼓の叩き方だって、繊細なほうは右手に任せていますよ。左ブレーキはそれほど繊細さを必要としない風にも思います。現実問題、海外のレーサーでも右前はきっといると思いますよ。クリス・ボードマンとかデイヴィッド・ミラーなんかは英国人ですから右前にしているのではないかな?要チェックですね。
2011/01/27 URL 編集
Phil NAKA
ブレーキの話はモーターサイクル党の私にも、実に興味深いものです。とても面白く、また勉強になりました。
2011/01/26 URL 編集
82ZUNOW
少なくとも右利きであれば、より大きな制動力と繊細な操作を要求される前ブレーキは右にあるべきで、モーターサイクルと同じであることも重要な要件と思います。
欧州の自転車競技選手がシーズンオフにモーターサイクルに乗る例も多いというのに左前に甘んじているのは、ロード用ブレーキアーチの設計が左前用に設計されており、それをプロとして我慢しているだけではないかと思っています。いまや一部例外を除いて右前用の品揃えがないのはメーカーのエゴと思っています。
2011/01/26 URL 編集
黒鉄党
歴史的な経緯が分かり、スッキリいたしました。
2011/01/26 URL 編集