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高市発言に対する中国激怒はいつまで続く。忘れてはならない、台湾と日本が見捨てられる「悪夢のシナリオ」

山田順作家、ジャーナリスト
「日本の存立危機事態になり得る」などというべきではなかったのか?写真:ロイター/アフロ

■首相という立場で言わなくてもいいことを言った

 高市早苗首相の国会発言に対し、中国政府の「撤回しろ」抗議が続いている。次々と対抗措置(カード)が出され、日本側はただ困惑するばかり。一刻も早く収束させたいところだが、切るカードがないという状況だ。

 それなのになぜか勢いづいているのが、高市応援団と強硬保守の議員や識者たち。彼らは「高市発言はなにも間違ってはいない」「撤回など絶対するな」「大阪総領事を直ちにペルソナノングラータ(追放)せよ」などと、火に油を注ぐ発言を続けている。

 しかし、問題は「台湾有事が起きて中国の軍艦が武力行使する場合、日本の存立危機事態になり得る」という高市発言が間違っているかどうかではない。首相という立場では、これは言わなくてもいいことだったということだ。

 また、大阪総領事の発言は、もちろん常軌を逸しているが、だからといって、高市発言とイーブンにするような問題でもない。

■「TACO」と呆れられるトランプですら“曖昧戦略”

 では、この問題の核心とはなにか?

 それは、中国側が高市発言を、中国への内政干渉であり、台湾有事(武力による併合)の際に、日本(自衛隊)は参戦すると受け止めたことだ。だから彼らは「レッドラインを超えた」と反発した。

 残念ながらと言うべきか、このレッドライン超えは、「TACO」と呆れられるトランプ大統領ですらしていない。

 たとえば、今年の2月、ホワイトハウスでの会見で「アメリカは中国が台湾を武力制圧するのを許すのか」という質問をされたとき、こう答えている。

「私はそれに対して決してコメントしない。その立場に自分を置くことをしたくない」(“I never comment on that. I don’t want to ever put myself in that position.”)

 これが、いわゆる“曖昧戦略”というものだ。

■「台湾を侵攻すれば北京を爆撃する」という発言

 一部メディア、ネットで、「トランプは高市首相をはるかに超えた発言をしている」という指摘がある。それは、7月にCNNが報道したもので、トランプは昨年の大統領選の最中に、習近平主席に対し「(中国が)台湾を侵攻すれば北京を爆撃する」と伝えたというもの。

 習近平は「北京を?」と聞き返したが、それに答えてトランプは「選択肢がない。爆撃しなければならない」と言ったという。

 しかし、これは選挙キャンペーン中の支持者向けの会合での自慢話であり、真偽は不明だ。しかも、大統領としての発言ではないから、高市発言と比較して論じるようなものではない。

 トランプは、台湾有事を聞かれた際には、「自分のカードを明かしたくない」「答えるのを控えたい」などと答えている。ただし、これは“曖昧戦略”ではなく、単なる面倒は回避したいだけという見方もできる。それは、彼の外交姿勢、世界観を考えれば明らかだ。

■ウクライナに降伏を迫り暴言を繰り返した

 トランプの外交姿勢、世界観が端的に表れているのがウクライナ戦争である。トランプは、これまでロシアの肩ばかり持ち、ウクライナに対しては「早く負けを認めて停戦しろ」という要求を繰り返してきた。

 11月19日、トランプの“茶坊主”ウィトコフ特使が示した新たな和平案は、「東部2州(ドネツク・ルハンスク)をロシアに割譲する」「軍の規模を半減する」「アメリカの軍事支援を縮小する」「ロシア語を公用語にする」など、ウクライナに「降伏せよ」というのも同然のものだ。

 ホワイトハウスでのゼレンスキー大統領との口喧嘩を思い出せば、トランプが決して平和主義者などではなく、国際法などは無視していいと考え、自由、平等、公正などという価値観を持ち合わせていないことがわかる。

「ゼレンスキーは外国援助の“うまい汁”を吸い続けたいのだろう」「ゼレンスキーが何年もなんのカードも持たずに交渉するのを見てきた。うんざりする」など、トランプはこれまで数々の“暴言”を繰り返してきた。

■平和を望むなら「弱肉強食」を受け入れよ

 トランプのウクライナに対するスタンスは、前大統領バイデンとは180度違っている。これまでの発言をそのまま受け止めれば、強国に侵略された国は抵抗せず占領を受け入れるべきだ。そうすれば、戦争などすぐに終息する。ウクライナは即座に降伏すべきだったということになる。

 つまり、この世界は「適者生存」「弱肉強食」の世界ということだ。

 となると、これを極東世界に置き換えれば、台湾が中国に攻撃・併合されても台湾は抵抗戦争をしてはいけない。中国が尖閣諸島を力ずくで日本から奪っても、それを受け入れよということになる。

 つまり、台湾や日本をアメリカは守らない。台湾防衛のための「台湾関連法」も「日米安保」も無意味と言っているのと同じだ。

 トランプがはたして、本気でそう考えているのかはわからない。しかし、そうとしか思えない発言をしているのは確かだ。

■バイデン前大統領は米軍による台湾防衛を明言

 大統領選挙中の昨年7月、トランプは「台湾はもっと防衛費を払うべきだ」と言い、さらに、「台湾はわれわれの半導体ビジネスを盗んだ。彼らはわれわれに防衛を求めているが、防衛の費用は払っていない」と、不満をぶちまけている。

 これは、バイデンとはまったく正反対である。バイデンは大統領在任中、何度も台湾有事に際してはアメリカが守ると言ってきた。

 昨年6月の「タイム」のインタビューでは、「中国がもし台湾を武力攻撃したら米軍が防衛する」と答え、インタビューアーが「侵攻があった場合に、米軍を台湾に派遣する可能性は排除しないということですか?」と聞くと、「米軍の軍事力を使う可能性は排除しない」(“the United States would not rule out using military force.”)と明言している。

 つまり、これは“曖昧戦略”ではない。

台湾防衛の約束は「愚か者のすること」

 思うに、バイデンにはおそらく反省があった。それは、ウクライナ戦争において、「米軍の直接介入はしない」としながらも「支援はする」という、一見矛盾する“曖昧戦略”をとったため、戦火が拡大してしまったことだ。

 そのため、台湾に関しては、“曖昧戦略”を捨て、防衛を明言したと言える。

 ところが、トランプはなにがなんでもバイデンのすべてを否定しなければ気がすまない。そのため、台湾防衛に対し、「それは愚か者のすることだ」と言い放ったのである。

 これを直接的に解釈すれば、「台湾を放置する」「見捨てる」ということになる。

 台湾がそうなら、日本も同じ目にあう可能性がある。トランプは一次政権のときから、「日米安保」の片務性に不満を表明し、「自分の国は自分で守れ」という言い方をしてきた。つまり、日本防衛に乗り気でないことは確かだ。

 

■台湾「放置」「切り捨て」はもっとも現実的

 いまや、私たちの国は、トランプの自分勝手な「MAGA」政策のため、関税をふっかけられたうえ、対米投資5500億ドル、防衛費増額まで約束させられている。

 それなのに、台湾有事が起きたら見捨てられるとしたら、まさに悪夢である。しかし、トランプである以上、これは十分に可能性がある。

 

 じつは、トランプの台湾「放置」あるいは「見捨てる」は、単なる“曖昧戦略”ではなく、極めて合理的という見方がある。なぜなら、中国がもし武力ではなく、包囲・封鎖によって台湾を併合したら、手の出しようがないとされるからだ。

■武力による台湾併合はリスクが高すぎる

 

 こうした見方を端的に示したレポートがある。

 昨年5月にアメリカン・エンタープライズ公共政策研究所(AEI)と戦争研究所(ISW)が共同で発表したレポートがそれだ。

 その主旨は、「統一のために中国は台湾に侵攻する必要はない」というもので、「われわれはこのことを長いこと見逃してきた」と述べている。

 

 要するに、中国は武力攻撃によって台湾を併合するようなリスクの高いことはやらない。やるとしたら、台湾を丸ごと封鎖し、台湾経済を止め、「中台和平協定」の締結に持ち込んで統一を成し遂げるという。

 こうされたとき、はたしてアメリカは軍事力を行使して封鎖を破り、台湾を守るだろうか?

 この「台湾包囲・封鎖作戦」は、台湾が独立の動きを見せた際には即座に実行される。まず、中国海軍による海上封鎖、港湾封鎖が行われ、台湾に向かうすべての船舶が停止させられる。当然、台湾海峡は封鎖される。

 台湾は島国だけに、封鎖は容易だ。

■包囲・封鎖されたら2週間しか持たない

 レポートは、「台湾包囲・封鎖作戦」は、合理的かつもっとも成功度が高い作戦であると強調している。台湾はほぼ全エネルギーを輸入に頼っているからだ。

 エネルギー資源は主としてLNGと石炭だが、LNGの備蓄は11日間、石炭の備蓄は39日間しかない。つまり、封鎖すれば、台湾は2週間しか持たない。

「台湾包囲・封鎖作戦」は、戦争ではない。台湾への砲撃・空爆も、ミサイル攻撃も、上陸作戦も行われない。よって一般市民の命は失われない。こうなったとき、米軍、自衛隊はなにができるのか? 尖閣諸島も台湾と同時に包囲・封鎖されたら、自衛隊は出動するのか?高市首相は、その命令を下せるのか?

 包囲・封鎖作戦というのは、これまでの戦争で幾度となく行われてきた。いわゆる「兵糧攻め」である。日本の戦国時代では、豊臣秀吉が得意とし、三木合戦、備中高松城の戦い、小田原征伐などで行い、いずれも成功している。

 国共内戦においても、毛沢東の八路軍が、長春攻略で行っている。それにより、長春市民数十万が餓死に追いやられ、国民党軍は敗走した。その壮絶さを描いた遠藤誉・著『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』は、日本人なら必読の書だ。若いときこれを読んで、私はしばらく呆然とし、言葉を失った。

 

■「見捨てられる」側ではなく「見捨てる」側に

 習近平は、軍事侵攻による台湾併合のリスクを十分に理解している。そんなことをすれば、国際社会から非難を浴び、いくら国内紛争と強弁しても、政権は崩壊しかねない。また、上陸・占領に失敗するというリスクもある。さらに、本当に米中戦争になってしまう可能性もある。よって、「台湾包囲・封鎖作戦」は合理的かつもっとも成功度が高い作戦と言える。 

 ウクライナ戦争の経緯を見て、「次は日本だ」という声がある。それは、日本が次のウクライナで、アメリカに見捨てられることを意味している。トランプなら間違いなくそうするだろう。

 そしてそのとき、対米従属しか選択肢のない日本は、アメリカと同じ行動を取らざるを得ない。それは、台湾を「見捨てる」ということだ。

 つまり、日本は「見捨てられる」側ではなく、「見捨てる」側になる。いまのまま、単に防衛費の増強だけで、戦略なき安全保障政策を続けていけば、当然、そうなるだろう。

 この辺を高市首相はどう考えているのだろうか?


■周囲は全力で高市首相をサポートすべきでは

 先の韓国で行われた米中首脳会談では、台湾有事は議題にならなかったという。米中が揃って台湾を議題にしなかったということは、外交において極めて重要なシグナルと言っていい。

 そして、その前に行われた日米首脳会談では、高市首相は、ノーベル平和賞に推薦するとトランプのご機嫌を取り、次の言葉を引き出した。

「あなたに知ってもらいたいのは、いつでもあなたが質問、疑問があるとき、なんでもあなたが欲するもの、必要とするもの、ともかくなんでも私は日本を助けられる。私たちはここにおいて、最強レベルの同盟である」(“I want to just let you know anytime you have any questions, any doubt, anything you want, any favors you need, anything I can do to help Japan, we will be there, we are an ally at the strongest level." )

 こんな社交辞令にすぎない言葉を信じられるだろうか? せっかく日本初の女性首相が誕生したというのに、このままでは高市首相は窮地に陥る。日本国の安全と平和は、ワシントンと北京の微妙な均衡の上に成り立っている。この冷厳な事実を踏まえて、周囲は真剣に、そして全力で首相をサポートするべきではないか。

 日本は、女性がリーダーになれる国になった。いま、日本は変わろうとしているのだ。

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ありがとうございます。
作家、ジャーナリスト

1952年横浜生まれ。1976年光文社入社。2002年『光文社 ペーパーバックス』を創刊し編集長。2010年からフリーランス。作家、ジャーナリストとして、主に国際政治・経済で、取材・執筆活動をしながら、出版プロデュースも手掛ける。主な著書は『出版大崩壊』『資産フライト』(ともに文春新書)『中国の夢は100年たっても実現しない』(PHP)『日本が2度勝っていた大東亜・太平洋戦争』(ヒカルランド)『日本人はなぜ世界での存在感を失っているのか』(ソフトバンク新書)『地方創生の罠』(青春新書)『永久属国論』(さくら舎)『コロナ敗戦後の世界』(MdN新書)。最新刊は『地球温暖化敗戦』(ベストブック )。

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