一般常識人に新エリー都は生きづらい   作:こなひー

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こんな激重イケメン君を無料配布したら沼る犠牲者多いでしょ……。
あと緩い喋り方を文章だけで表現するのはこれまた難しいですね。


19.働かないアリ

 働きアリの法則、という言葉がある。同じ巣に住むアリの中で2割は働き者、6割はそこそこ働く者、そして残りの2割は働かない者に自然と別れるというものだ。

 

 働かない、と言ってもただ怠惰に過ごしているだけとは限らない。説によっては、働かない2割は非常時のためにエネルギーを温存しているという話もある。とはいえ、ただの怠け者を正当化する言い訳に使うのは良くないと思う。

 

 

 

 

 そして俺は今、店に来ている働かないアリはどう分類したものかと決めあぐねていた。

 

 

 

 

「……でさー、今朝も鬼の月城副課長が僕の休暇申請を却下したんだよ~。酷いと思わない?」

「じゃあ今店にいるのおかしくない?」

 

 18号の頬をモチモチしながらぼやくこの男は、浅羽悠真。第六課のサボり魔だと月城さんからは聞いている。今日の休暇申請が通っていないのなら、真昼間にビデオ屋来てちゃ駄目だと思うんですよ。

 

 久しぶりに店番を勤めるリンは彼の振る舞いには慣れているようで、あははー、と笑って流す。いや、職務怠慢は笑っちゃ駄目でしょリンさん。だったら俺もサボってやろうかな。

 

「マサマサはいつもこうだからねー。もうしょうがないんだよ」

「リンも僕の事わかってくれて嬉しいよ~」

 

 リンの肩を後ろから掴んで頭に顎を乗せる浅羽さん。わぁ、夫婦みてぇな距離感だ。ライカンさんが泣いてるぞー。どうでもいいけど、今のしょうがないって言い方は諦めの意味だと思うよ。もう何言っても無駄、的なニュアンスが入ってるやつ。

 

 浅羽さんはリンが大らかな人だと思っているようだけど、俺は知っている。リンはある程度気を許した身内には、ちょっと荒っぽいという事を。

 

「でもアキラが同じこと言ったらケツ引っぱたくじゃん」

「えっ、リンって意外とバイオレンス? 君は副課長みたいにはならないで欲しいんだけどなー……」

「こらサク! 変な事マサマサに吹き込まないでよ!」

 

 リンが顔を真っ赤にして否定しているが、事実なのだから仕方がない。俺が朝のシフトに来たタイミングで、ソファで寝ていたアキラを叩き起こす現場を目撃してしまったのだ。

 

 起こされたアキラが『寝なくても依頼を受け続けられるようにならないかな……』と呟いていた。作業を中断するのが面倒なのはわかるけど、寝ないと倒れちゃうから危ないよほんとに。

 

 

 

 人を動かすのって大変なんだなー、となんとなく思っていると、リンがそういえばと俺に話題を振ってきた。

 

「サクって、私達が居ない間に柳さんと何度か会ってるよね?」

「リンとアキラが最近店に居なさすぎるからね……。2人と会えなくて寂しそうだったから会ったげて」

「あちゃー、柳さんに悪いことしちゃったなー……」

 

 日頃の多忙によって閉店時間ギリギリになってしまう月城さんは、兄妹と会うこともストレス発散になると言っていた。俺じゃせいぜいパソコン投げさせるので限界だったから、早急に会って癒やしてあげてください。

 

 

 

 なんか浅羽さんが急に静かになったと思ったら、俺を見ながらあまりの驚きで固まっていた。特に変なことは何も言っていないはずだけど、一体どうしたんだろう。

 

「……あの友達居なさそうなサクが副課長と話しただって!? 君、女性とまともに会話できたのかい!?」

「うーし店長、この際だから店にブラックリスト作ろう。一人目はもう決まってるから真っ先に書こうぜ」 

「サクごめんって冗談だよ! だから出禁だけは勘弁してよ〜!」

「大丈夫だよ! マサマサを出禁にしたりなんか――」

 

 必ず追い出してやろうと決めた俺と慌てる浅羽。もうさん付けも止めだ止め。落ち着かせようと動いたリンだったが、しないからと言い切る前に店の扉が開いた。

 

 

 

 

 

「いいえ、私の方で出入り禁止にしますから手間は取らせませんよ?」

「ふ、副課長!?!?」

 

 

 

 

 

 鬼の副課長、月城さんの到着である。何故ここがわかったんだ、と驚きを隠せない浅羽と困惑するリン。俺は2人を尻目に月城さんからのアイコンタクトに答えつつ、内心ほくそ笑んでいた。

 

 

 

 残念だったな浅羽。俺は常識人の味方なんだ。店に居るという情報は最初から全てリーク済みだったのさ。

 

 

 

 事前に浅羽がサボり魔で悩まされているという話は聞いていた。その上、もしも業務をサボってビデオ屋に来た時は知らせてほしい、と月城さんが先手を打っていたのだ。俺はあくまでそれを実行したに過ぎない。

 

「い、嫌だ! 僕の憩いの場を奪うだなんて、例え副課長の命でもそれだけは聞けませんよ!」

「浅羽隊員にとってここが大切な場所である事はわかっています。ですが、業務を放棄するのは訳が違うのではありませんか?」

「や、柳さん……。流石に出入り禁止はちょっと厳しすぎるような……」

 

 必死に反抗する浅羽と庇うリンだが、月城さんは一向に譲る気が無い。それでもと必死に訴える浅羽を見ていたら、不覚にも少しかわいそうに思えてきた。いや、自業自得なんだけどね。

 

 

 

 月城さんからは浅羽の事は事前に聞いている。……彼が重病を患っているという事も含めて、だ。

 

 彼にとってこのビデオ屋、そしてリンとアキラはそれほど大切な存在なのだろう。自分に残された貴重な時間を割いてでも、こうして会いに来てしまうほどなのだから。

 

 もしも寿命が短い中で生き抜く事になったとしたら。それはきっと、当事者にならない限り気持ちは理解できないだろう。俺には想像もつかない程、大きすぎる感情を抱えているはずだ。

 

 

 

 

 まあ、それはそれとしてサボりは良くないよね。諦めて連行されてください(笑)

 

 

 

 

「うぅ……今度は絶対バレないように会いに行ってやる……」

「私の前でそのような宣言をするとはいい度胸ですね」

「ごめんなさい、冗談です……」

 

 首根っこを捕まえて連れて行かれる浅羽はまるで小動物のようだった。俺に恨みの目が向かない辺り、俺が月城さんにリークしている事はバレていないみたいで助かる。流石月城副課長、対応が完璧だ。

 

 

 

 そして浅羽は数日後、性懲りも無くビデオ屋への脱走を試みて副課長に連行される流れを十回以上繰り返した。流石にリンの同情も薄れたようで、浅羽が泣きついても『残念だったねー』ぐらいの塩対応になっていた。残念だったねー。




普通に話す分には全然まともな部類のマサマサだけど、サク的にはサボり魔がライン超えだったので脱落です。
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