転生逆玉の輿を狙った男の末路 作:猪突猛進で書く
平穏な郊外の夜、ブレイズウッドに停車したアイアンタスクのバーでは、ルーシーとクリスの二人がお互いが向かい合うように横向きにカウンター席に座っていた。
「……えっと、ルーシー?ルーシーさん?」
「…………」
「えっと、かれこれ五分くらい待ってるぞ……?」
「……さ、三十分待ちなさい……!」
この場所へクリスを呼んだのはルーシーだ。
しかし、彼女はクリスに自分と向かい合うように座れといってから五分以上の間、ほんのりと頬を赤らめたまま沈黙を続けていた。
「……ルーシー、もしかして風邪が治ってなかったとか?もしかして俺、結構な無理をさせてたか?……バーニス、ルーシーを運んでやるからちょっと手伝って─────」
「違いますわ」
「いや、これで違うは無理があるだろ!顔も赤いし、無理すんなって──」
「違うと言っているでしょう!」
少し俯いたルーシーがぷるぷると震え出すと、やはり風邪かと自分の上着を着せようと近づこうとするクリス。
しかし、そんな彼が動き出すよりも前に、ルーシーの口から蚊の鳴くような小さな声が絞り出された。
「す、好き……」
「……え?」
「な、なんです?聞いてなかったんですの?」
「い、いや聞こえてたよしっかりと!」
「それなら良かったですわ」
ルーシーはより赤くなった顔のままクリスから顔を背けた。
「……思い返せば、私からこう伝える機会が少なかったように思いまして……その、しっかりと言葉にしようと……」
ルーシーがチラリとクリスの表情を覗き込もうとすると、その目に映ったのはこちらへと凄まじい勢いで近づいてくるクリスだった。
次の瞬間、視界が真っ暗になると同時に背中に感じた温もりから、ルーシーは数秒をかけて自分が抱きしめられたのだと理解した。
「ありがとな、俺も好きだよ。ルーシー」
「──な、ななな……」
「ちゃんと言ってくれて嬉しいよ」
抱きしめられたルーシーはクリスの腕の中で固まって動かない。
あまりの反応の無さにクリスが疑問を抱き始めた頃
「その辺にしといてやんな。ルーシーの奴、とっくにフリーズしてるぜい」
クリスが腕を離すと、ルーシーはその顔を耳まで赤くして目を回していた。
そうしてルーシーが放心していると周りから
「……その、仲良さそうでよかったぜ」
「よかったね、ルーシーちゃん!」
と、潜んでいたカリュドーンの子のメンバーが姿を現した。
茹った頭のルーシーでも、全員にこの会話を聞かれていたことくらいは理解できた。
「み、みみみ……見せ物じゃねェんですのよ!!!」
ルーシーの大声に、寄って来た全員が半笑いのまま蜘蛛の子を散らすようにそれぞれの場所へ戻っていった。
「……はぁ、ムードが台無しですわね」
「はははっ、それがこの場所らしいんじゃねぇの?」
「そう思うことにいたしますわ。さて、私たちも帰りますわよ」
「はいはい」
その夜、ルーシーたちの部屋にて
「では、良い夢を──」
「ここ俺のベットじゃない?」
「……乙女心のわからない貴方でも、今何をすべきかくらいは理解できると思っておりますわ」
クリスと向き合うようにベッドに入ってきたルーシーをクリスが抱きしめるように腕を回すと、ルーシーは満足そうな笑みを浮かべる。
「よろしい。……では、また明日」
「おやすみ。愛してるよ」
「──んなっ、ななな……」
数秒間固まったルーシーがやっとのことで言い返そうと自らを抱きしめる男を見上げたが、彼はすでに眠っているのだった。
「こ、この男……!明日絶対に仕返しを……」
明日の計画を頭の中で組み立てているうちに、ルーシーも彼と同じく眠りについた。