どこもかしこも、エーテリアスばかりだ……(涙目)   作:bbbーb・bーbb

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今回シリアス強め。


For the honor of Cainhurst.

GLORY TO EMPIRE(帝国に栄光あれ)!!!」

 

 ビッグ・シードの駆動音を掻き消す勢いで叫んでいるのは狩人であった。散弾を仕込んだ「銃槍」を両手で握り、サクリファイス相手に銃剣突撃を決め込んでいる。

 

 恐らくは行軍の最中にトリガーから貰った紅茶をがぶ飲みしたのが不味かったのだろう。その後サクリファイスに出会うや否や「バグパイプの音が聞こえてくる」などと抜かして銃槍両手に突撃し始めてからはもうずっとこの調子である。

 

FOR QUEEN AND EMPIRE(女王陛下と帝国の為に)!」

 

「鬼火隊長、あれ、止めなくて良いのでありますか?」

 

「ほ、放っておけっあんな狂人!」

 

 クソ、なんだかこっちまでバグパイプの音が聞こえてきたぞ……。何なら赤子の声もと存在しない両手で頭を抱える鬼火。胎児の死体を振り回すような男の妄言をいちいち相手にしていては話にならない。

 

 尤も、狩人は必死に戦っていた。それは誰の目にも明らかであった。命を削り、とっくに滅んだ帝国の名を叫びながら短槍を振り回している。

 

 が、まるで効いていない。狩人の全体重を乗せた全力疾走での突撃も、サクリファイスの柔肌にコツンと受け止められ、掠り傷しか与えられていないのだ。

 

「ええい、もう良いっ」

 

 銃槍をしまう狩人。かつては信じられない程強かったと別世界の狩人から聞いたことがあるが、とても信じられそうにない。ノコギリ鉈を取り出し、群れの中から孤立しているものを一匹ずつ狩っていく。

 

 敵が大勢固まっている時、狩人は通常火炎瓶などを用いる。だが今回は別である。軍人であるオボルス小隊の皆から「手榴弾」なるものを貰ったのだ。使い方は先程トリガーに教えてもらった。

 

 球体からピンの刺さった部品が飛び出し、そこから球体に沿った形の細いレバーが伸びている。「りんご型」というそうだ。

 

 レバーごと握り締め、ピンを抜き、まだこちらに気付いていない怪物の群れの中心にひょいっと投げ込む。数秒遅れて耳をつんざくような炸裂音が鳴り響き、群れは纏めてバラバラに吹き飛んだ。

 

 危ないな。それが狩人の感想であった。武器である以上危ないのは当然のことなのだが、これでは使う自分まで危ないだろうという意味である。

 

 致死範囲が広すぎるのだ。こちらにまで破片が飛んできた。わざわざ壁に隠れて使うのも納得の威力である。そうしなければまた死を重ねるところであったと狩人は身を震わせた。

 

 それはそれとしてありがたく貰っておいた。こちらに気付いていない群れを殲滅するのにはとても役に立つのだ。今度ホロウレイダーを襲って調達しようと心に決める狩人。当然だが市販はされていないのである。

 

 それにしても、彼らと行動してからまだ一度も死んでいないな。狩人はオボルス小隊のチームワークに感心した。互いが互いのことを守り、信頼している。

 

 ときどきほっぽり出されることもあったが、それでも自分で対処できる程度の敵にしか出くわしていないのだ。

 

 輸血液について鬼火は聞いたが、「私にしか効果がない」と狩人は言っておいた。まさか広めるわけにもいかないだろう。寄生虫のおかげだと狩人が話すと途端に質問は減った。

 

 狩人が一際大きい怪物相手にステップを踏んでいたその時、オルペウスの胸元にあった無線機が鳴った。遅れて聞こえてきた声はイゾルデのものであった。

 

 あの程度では死ぬまいとほっぽり出されていた狩人がなんとか一人で怪物を倒し、なにやら集まっている小隊達に駆け寄っていく。鬼火が凄まじく怒っているが、狩人に向けたものではなかった。

 

「ロレンツ……戦友たちの死も、この滑稽な体も……」

 

 目を赤くする鬼火。たった今、イゾルデから聞かされたのだ。金欲しさに自らを地獄へ突き落とした、その指揮官の名前を。

 

 今では少将となったロレンツはあの時ポーセルメックスのトップであるルクローと手を組み、鬼火やイゾルデ達を激戦の中に捨て置いたのだ。

 

「ルクローは死んだ。そしてロレンツは、君の向かう道の先に居る……」

 

 オルペウスの無線越しに、囁くようなイゾルデの声が響く。この先に、あの男が、あの裏切り者が居るというのか。

 

「こうなったら、本人に直接問いただしてやるっ」

 

「待ってくれ鬼火隊長っ。証拠があるわけでも無いんだろうっ」

 

 加えて彼女の物言いは誘導的であったと指摘するアキラ。まるで、鬼火が復讐に加担することを望んでいるようだった、と。

 

 それの何が問題だ。鬼火が返す。何も間違ってはいない。私たちは同じ道を歩む、ただ一人の同志なのだからと。

 

「隊長。その表現には、些か同意しかねます」

 

 トリガーの言葉であった。同じ境遇や思いを共有していたことが己の入隊の理由、しかしそれは嘘だったのか? それでも同志は彼女だけだったのか? 怒りを帯びた疑問を投げかけている。

 

「ふん、言葉を尽くすだけでは分かり合えないこともある」

 

 お前も理解できて居ないんじゃないか? 私のやろうとしていることが……。オルペウスに向かいそう言う鬼火は、少し暗い顔をしていた。

 

「目を覚ましてください、『鬼火』姉さん!」

 

 オルペウスのそれは懇願でもあり、同時に怒号、叱咤でもあった。鬼火が思わずびくりと銃口を震わせる。「『同じ道を歩む、ただ一人の同志』……?」と怒りを孕んだ口調でオルペウスが続ける。

 

「どんな道であろうと、 実際に歩んでいるのは、このオルベウスの足でありますっ!」

 

 それをいうのなら、私たちこそが「ただ一人の」同士になるだろう。そういうことを、オルペウスは言った。

 

「それをどうして……! ただ何もせずに見ていれば、 あなたを『理解した』ことになるのでありますか!?」

 

 鬼火は何かに気付いたような顔をした。オルペウスもすぐ我に返ったようで、申し訳ありませんと威勢がなくなっている。気まずい沈黙が流れた。

 

 とにかく、行こう。任務はまだ続行中だ。アキラの鶴の一声で、ようやく一行はまた動きはじめた。

 

 あの男、殺すべきか。歩きながら、狩人はそんなことを考えていた。いざやろうとなれば狩人は全力で手伝うつもりだが、やらないのならそれまでである。

 

 元々彼らとは大した関係でも無い上、実際被害に遭っているのは子供どころか屈強な軍人たちである。騙されて死ぬのは可哀想だと思うが、さして強い怒りを覚えるわけではない。

 

 そもそもこの状況での自らの独断行動はアキラにも被害が及びかねない行為であることを狩人は理解していた。

 

 アキラは「今だけ軍属」状態なのだ。シード、つまり子供にも「要人暗殺テロを防げなかった」と矛先が向くかもしれない。

 

 鬼火がやるなら、シードがやるなら私も手伝おう。結局のところ、それが狩人の結論であった。

 

 が、砂浜にて、鬼火は結局ロレンツを殺さなかった。彼が犯人であることを殆ど自供するようなセリフを吐いたにも関わらず、である。その頃にはもう夜中であった。

 

 理由は狩人にもなんとなく察せられた。あの子供である。鬼火と戦友だった叔父を失ったあの子供、ダンテである。

 

 怪物に襲われている彼を助けたあの時、鬼火はこう聞いた。「もしお前の叔父を殺した怪物をやっつけられたら、それはお前にとって慰めになるか」と。

 

「嬉しいよ。でも、それでも叔父ちゃんは帰ってこないんでしょ?」

 

 ならそれよりも、自分は母親を泣かせないような男になりたい。復讐よりも、きっと大切なことがあるはずだから。その年十と少し程度の子供が、平然とそう言ってのけたのだ。

 

 あの時のあからさまに動揺した様子の鬼火の顔は滑稽ですらあった。狩人がぼんやりと回想を終えると、もうロレンツはボートへ向けて護衛達と共に足を進めていた。

 

「証拠も無い癖に宣いやがって……」

 

 吐き捨てるロレンツ。鬼火は怒りに震えていたが、やはり遂に撃鉄を振り下ろすことは無かった。それで良い。アキラ含むオボルス小隊は皆彼女を肯定した。それで正しいと。狩人は無言でロレンツの背を眺めていた。

 

 決めた。ムカつくし今度殺そう。狩人は目出し帽の購入を決意した。服装から全く変えてしまえば恐らく犯人とバレたりはしないだろう。

 

 さて我々も帰ろうか。アキラの提案に異議を唱える者は居なかった。狩人が手を出さないのを見て内心ほっと胸を撫で下ろすアキラ。

 

「ああ、帰ろう。もう軍令は解除されるのだろう」

 

 早く人形ちゃんに会いたい。彼女の淑やかな笑顔を狩人が脳裏に浮かべていたその時。

 

 ロレンツの「うん?」という声に一行が振り向いてみると、ボートの操縦席、小さな部屋からイゾルデが姿を現していた。

 

「今回はお手柄だったな」

 

 皮肉たっぷりに言ってみせるロレンツ。「『お手柄』?」とイゾルデは呟き、黒く曇った空を見上げている。

 

「かつて捨て駒にした、あの兵士たちもか……?」

 

 イゾルデは自らの右胸に添えられた白い花を見つめ、撫でながらそう呟いていた。怪訝な表情を浮かべるロレンツ。

 

「彼らもまた……」

 

 何を言っているのだ。呆れたロレンツが足を踏み出そうとしたその瞬間、突如としてイゾルデの顔が燃え盛る怒りを露わにした。彼女が左手を抜く。

 

「『お手柄』か?」

 

 怒鳴る彼女の左手に握られていたのは──一本の短銃であった。撃鉄が下ろされるのと殆ど時を同じくして、弾丸がロレンツの心臓を貫いた。

 

「……ん?」

 

 膝から力無く崩れ落ちたロレンツがただの肉となるその間際、最後に放った一言であった。

 

 敵襲っ。裏切り者だっ。叫ぶ護衛達の銃弾はボートに弾き返され、その影に隠れたイゾルデに追いつくことは無かった。ボートで走り去っていく。

 

「イゾルデ!」

 

 鬼火たちが浜へ走るも、その頃にはボートはホロウの中へ一直線に突き進み、彼らの視界には米粒ほどの大きさに縮んでしまっていた。

 

 暫くすると、銃声を聞きつけて儀玄達も駆けつけてきた。オルペウスと鬼火はまだ海辺で立ち尽くしていた。

 

 ラマニアンホロウの限界が急激に近づいているとFairyから警告が入った。讃頌会絡みのあれである。イゾルデのこともある。すぐにでも全員がホロウへ向かうことが必須であることは自明であった。

 

 狩人は先に向かうこととなった。丁度讃頌会のアジトのど真ん中にランタンがあるのだ。入り組んだホロウの中で狩人がイゾルデを見つけるのはアキラ達より後、彼女が逃げている最中のことだったのだが。

 

「……馬鹿な」

 

 狩人の口から驚愕が漏れる。讃頌会本部、そのど真ん中にいたイゾルデは──司教メヴォラクの装束を身に纏っていたのだ。

 

 上層部への復讐に狂った彼女はいつしか讃頌会と関わりを持つようになっていき、遂には司教、「メヴォラク」としての地位までを手に入れたのだ。

 

 つまり、メヴォラクは死んでいなかった。道理であの時血の遺志が入らなかったわけである。狩人は納得した様子を見せた。

 

「勿体無い」

 

 讃頌会にさえ入っていなければと突然肩を落とす狩人に「いなければ?」と返すイゾルデ。罪を肩代わりしても良かったのだぞと狩人が答える。

 

 そんな筈があるものか。目の前の男が不死人、死刑が刑として成り立たぬ相手であることを知らぬイゾルデは舌打ちをした。侮辱だと感じたのだ。

 

「貴公が奴を撃った時、私が喜ぶのを見ていただろう」

 

 事実であった。イゾルデがすぐ前の記憶を引き出す。彼女がロレンツを撃ち抜いたとき、確かにこの男はマスク越しに笑顔を浮かべ、両手を挙げて歓喜していたのだ。

 

「退いてくれはしないか? 君を殺す理由はないんだ」

 

 イゾルデの言葉に、狩人は黙って刀を取り出した。一瞬にして格好を変える狩人にイゾルデが目を軽く見開く。

 

「これは……」

 

「抜け」

 

 紙のように薄い銀の鎧が、満月の光を水面のように煌めかせていた。左手にはイゾルデのそれに少し似た、趣向を凝らした短銃が。

 

 右手に握られた刀の表面には悍ましくも美しいきめ細やかな紋様が浮かび上がっており、その柄には西洋風の拵えが施されていた。

 

「決闘……古き良き、か」

 

 イゾルデが微笑む。狩人は黙ったまま動かない。言葉は無用か。ふっと笑ったその柔らかい表情とは裏腹に、彼女も軍刀と短銃を取り出している。

 

 話さないながらも、狩人の心は湧き上がっていた。やっと闘える。初めて彼女の得物を見てからずっと殺し合いたかったのだ。

 

 逸る心を必死に抑え、丁寧な一礼。左手を胸に、右手を横に。右足を一歩後ろにやり、上体は少しだけ折り曲げる。カインハースト式の「簡易拝謁」である。

 

 一対一で別世界の狩人と殺し合う時、狩人は必ずこれをやった。騎士ごっこも悪くないものなのである。

 

「……まあいいさ。どのみち、このまま逃がしてはくれないんだろう?」

 

 イゾルデも一礼を行った。それは狩人達の間で一般的なそれに似ていた。左手はだらんと垂らしたまま上半身を曲げ、右手を左胸へ。

 

 狩人に遅れてイゾルデが上体を起こす。神聖なる決闘が、円形広場、そこへ続く広い道にて始まった。ゆっくりと、互いに距離を詰めていく。中々に離れている。十五メートルはあるだろうか。

 

 辺りには何もなく、満月が二人を照らしていた。軍事パレードが行えそうなこの広さなら、戦闘に何の支障もきたさないだろう。

 

 歩きながら、狩人は短銃に「骨髄の灰」を詰めていた。遺骨を擦る。白い気が狩人の身体を覆った。

 

 イゾルデはただ両手を垂らし、静かに歩いて距離を詰めている。そこにもう笑顔はなく、あるのは目の前の男と命を削り合う覚悟のみであった。

 

 彼を無視して広場に突っ込むのは不可能だろう。そんな確信がイゾルデにはあった。戦いを放棄した瞬間、自らは狩られると。

 

 その距離およそ十歩分といったところで、突如イゾルデが刀を振り上げる。瞬間、彼女は凄まじい縮地で狩人の()()場所を斬り裂いた。

 

 ──消えた。違う、後ろだ。イゾルデが振り返ると、既に刀の先は鼻の頂点に触れていた。狩人の突きである。咄嗟に顔をずらすも、頬に一筋の切れ込みが入った。

 

 「消えた」。それは、初めて狩人と戦う者がまず最初に味わう驚愕であった。大抵は、この幻惑から抜け出す前に狩られる。

 

 相手が武器を振り上げた瞬間に、身を低くしたステップで側面や後方へ回り込む。された側からすれば、それはまるで狩人が突如として消滅したように見えるのだ。

 

 すぐさまイゾルデの銃口が狩人の額に当たる。引き金が引かれると同時に、狩人はまたしても彼女の視界から消えた。

 

 また後ろか。イゾルデが身を低くしながら振り返ると、やはりそこに狩人が居た。もう一度銃口を向けるイゾルデ。

 

 再び、回避。また消えた。ステップで側面へ回り込み、横に薙ぐ狩人。後方へ飛び退きながらイゾルデが狙いを定める。直後、狩人の左肩、銀の鎧に弾丸が沈んだ。

 

 怯んだ狩人へ切り上げでの追撃。血が噴き出した。狩人が輸血液を使う。

 

 ステップ、ステップ、もう一度ステップ。互いに近寄ってはすれ違い、 また距離が空く。はたから見れば、それは踊っているように見えただろう。

 

 イゾルデは苦戦していた。銃を向ければ消え、刀を振ればまた消える。常に姿を消し続け、視界の外から絶え間なく強引に攻撃を差し込んでくる。これ程厄介な敵も居ないだろう。

 

 一方、狩人もけして優勢ではなかった。彼女は狩人でなく軍人、人を殺すことこそが最も得意とするところなのである。蹴りや肘打ち、素早い体術に狩人が怯むのを見逃さず、連撃を叩き込むのだ。

 

 休む暇を与えない。それがお互いに共通している狙いであった。ひたすらに身を躱し、刀を振り続ける。立ち止まる瞬間など存在しなかった。

 

 イゾルデがしゃがみ込む。回転斬りである。前は不味いと察した狩人は珍しく後ろへ下がった。

 

 地を踏み締めるなり狩人が愛銃を放つ。灰と共に凄まじい破壊力を纏った弾丸は、しかしいとも容易く躱されてしまった。だが、それで構わない。

 

 一瞬、ほんの一瞬弾丸にイゾルデが気を取られた隙に、狩人はもう間合いに彼女を捉えていた。下がっても間に合いはしない。そのまま右腕目掛けて切り上げる。次の瞬間、狩人は目を見張った。

 

 狩人の刀が当たる寸前で、イゾルデはその進行方向に身を捩り、受け流すようにして喰らう傷を最小限に留めたのだ。彼女は少し切り傷を負った程度である。

 

 わざわざ間合いに入ってきた彼を逃すイゾルデではない。身を捩る勢いでの回転斬りを躱しきれず傷を負う狩人。その瞬き一つ分にも満たぬ隙を、しかし彼女が見逃す筈も無かった。

 

 燕返し。刃が狩人の首に触れんとしたとき、ふとイゾルデはとあることに気がついた。狩人の体勢に。敵の目の前だというのに刀を鞘に納めている、その()()に。

 

「──ッッ!!!」

 

 全身を貫く生存本能のままに攻撃を中断し、倒れるように身を低くしながら飛び退くと、彼女の頭上、すぐ目の前を「死」が通っていった。びしゃりと血が床にへばりつくも、それはイゾルデのものでは無かった。

 

 それは狩人の血であった。イゾルデが飛び退いたのを見て輸血液を太ももへ刺している。

 

 なんだ、今のは。イゾルデは自身の呼吸が乱れていることに気がついた。

 あんなものを喰らえばただではすまない。そんな根拠の無い確信だけが今の彼女にはあった。

 

 狩人が両手で握ったその刀には、刀身の紋様に沿って狩人自身の血が薄暗く這っていた。

 

 息つく暇も与えず、狩人が刀を振り上げる。袈裟切りである。横へ跳び、すんでのところで躱すイゾルデ。

 

 あの刀身はもちろん、血に触れることすら死に直結する。イゾルデにはそれが本能で理解できた。

 

 互いの距離が空く。狩人は刀を両手で握ったまま、一歩一歩とイゾルデへ足を踏み出している。

 

 昏く侵された満月の光の中で、血を纏う刀身が閃いていた。










「ヤーナム神秘ファイヤー」の後書きでヤーナム売女糞袋野郎とか言ってすまねえイゾルデ。あの時はお前だって知らなかったんだ。

ダイジェスト気味ですまない。
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