欧州などでは今、子どもの「デジタルレイプ」が大きな問題になっている。写真はイメージ(写真:PantherMedia/イメージマート)


(松沢 みゆき:在スウェーデンのジャーナリスト)

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わが子を性的搾取の餌食に差し出す母親たち

 先日、朝日新聞(電子版)の「人身取引」という見出しが私の目を引いた。

「人身取引、国内で増加傾向 タイ人12歳少女、東京の「マッサージ店」に(11/5)」
「人身取引の12歳、33日間で60人の客 「いやだ、やりたくない」(11/6)」

 2人の娘を持つ筆者にとって、このような事件は心が痛む。日本における「人身取引」の認知件数は、近年増加している。

 警察庁の統計「人身取引事犯の検挙・警察における保護状況の推移」によると、2024年(令和6年)は63人の被害者を認知し、96の事件で57人の被疑者を検挙したという。

 被害者の多くは外国人女性だが、近年では日本人被害者も確認されており、その多くが未成年者だ。未成年者の場合は特に、売春やAV出演強要などが含まれているという。搾取が行われる場所も巧妙化している。

 上の記事でタイ人の少女が働かされていたのも、看板を掲げていない「マッサージ店」だったという。

 さらに気になるのは、近年の児童の性的搾取は、大規模な犯罪組織が子どもを巧妙に誘い込んだり、騙したりするものだけではない、ということだ。家族、特に子どもの母親が、わが子を意図的に性的搾取するビジネスの餌食として提供し、利益を得ているケースが増加している。

欧州で広がる児童の「デジタルレイプ」

 未成年者の性を搾取する人身取引は、欧州では一大ビジネスになっている。

 国際労働機関(ILO)の「強制労働による違法利益」に関する報告書(2024年4月)によると、強制労働全体(民間セクターの強制労働、強制的な性的搾取、子どもの商業的な性的搾取などを含む)から生じる年間の違法利益は年間2360億ドル(約36兆円)と推計されている。

 商業的な性的搾取に遭った子どもの被害者数は年間100万人と推定され、被害者一人当たりの性的搾取によって生まれる利益は2万7000ドルとされている。

 これらの数字を用いて概算すると、未成年者の性的搾取の市場規模はおよそ年間270億ドル(100万人×2万7000ドル)と推定される(「グローバル・サプライチェーンにおける児童労働、強制労働、人身取引に終止符を」より)。

 これらは基本的には犯罪組織が得ている金額であり、脆弱な立場の子どもたちが、貧困地域や紛争地域などから大がかりに取引され、組織的に搾取される形態を指している。

 だが、子どもを搾取しているのは犯罪組織だけではない。

 英国の「Internet Watch Foundation(インターネット監視財団、IWF)」によると、2024年、IWFがネット上で確認した違法な画像や動画のページ数は29万1270ページにのぼり、過去最高だったという。

 前年よりも5%増加し、子どもの性的虐待などの画像の拡散状況は、年々深刻化している。実際の人身取引と合わせて、インターネット上での児童搾取も急激に拡大しているのだ。

 特に昨今の欧州で急激に蔓延しているのが「デジタル児童レイプ」だ。

 これは従来のような犯罪組織を介した取引と違い、貧困にあえぐ親やきょうだいによって、幼い子どもたちが直接・個別に犯罪者に搾取されることだ。

かつての被害者が親となり、わが子を売る

 11月6日付のスウェーデン全国紙ダーゲンス・ニーヘテル(DN紙)の「Våldtäktsindustrin(性暴力産業)」と題された調査報道シリーズ「Vi var tvungna - vi är så fattiga(私たちはそうせざるを得なかった――私たちはとても貧しいから)」では、フィリピンで広がるオンライン児童性的虐待について取材している。

 記事では、スウェーデン人をはじめとする欧州人が金銭を支払い、児童への性的虐待を指示し、子どもが性的虐待を受ける様子をライブ配信などで視聴している実態が明らかにされている。

 記事では、フィリピンの貧困層の家庭で起きたことに焦点を当てている。幼い2人の娘を持つマリアは、かつて自分自身が性的な児童虐待ビジネスの犠牲者だった過去がある。その被害者だったマリアが、今度は自分の子どもの性を売る加害者になっているのだ。

 被害者と加害者の境界が曖昧になり、かつての被害者が一転して加害者になるという悲劇的な現実と、その背景にある絶望的な状況が浮き彫りにされている。

 DN紙が入手したマリアとスウェーデン人の顧客とのやり取りは次の通りである。最初の会話は公開のウェブサイト上で始まり、すぐにプライベートチャットへ移る。価格の交渉が終わると、彼らが“ショー”と呼ぶものが始まる。DN紙が報じたチャットのやりとりは、次のようなものだ。

「今日は何も食べていないの」「1000ペソでどうだ」

マリア「誕生日おめでとう」
男「どうも」
マリア「食べ物を買うおカネがない。今日は何も食べていないの」
男「1000ペソ(2600円)でどうだ。今、1000ペソ送ったら、何を見せてくれる?」
マリア「以前のように、娘の性器でプレイする。性器を舐める。娘の性器」
男「同じ子で?」
マリア「2人とも見たければ、2人でもいいよ」

 こうした交渉を重ねて、“ショー”が始まる。

 十数分後、マリアはカネの礼を伝え、今から食べ物を買いに行くと言う。男が最後に少女の顔をもう一度見せるように言う。

男「もう一回顔見たい」
マリア「寝てるよ。部屋も暗いし。見たいの?」
男「見たい。p***y(女性器を意味する英語の卑語)と顔」
マリア「OK」

 その数分後、男はmmmmだのawwwwだの、「カワイイ」という意味の言葉を書き込み、ハートの絵文字を送る。その後、マリアは子どもを無理やり起こして顔などを撮影し、画像を送信したものと思われる。

 記事によると、フィリピンでこのようにネット上で幼児や未成年を性的に虐待し、その映像が売買される「デジタル性的児童虐待ビジネス」が拡大しているという。

 極度の貧困のために、ほかに生計を立てる手段がない親が、自分の子どもの性を弄ぶ映像を撮影し、金銭と引き換えに視聴させているのだ。

スウェーデン男のデジタル性加害の捕物劇

 同じ記事では、オンラインでの性加害に金銭を支払っていたスウェーデン人を、宿泊中のホテルで取り押さえる捕物劇も描写されている。

 今年4月、フィリピン・アンヘレス市でフィリピン警察の特別捜査官らが高級ホテルを急襲し、宿泊中のスウェーデン人男性を拘束した。捜査官らは数日間にわたって、小児性愛者とされる容疑者を監視し、ホテルの従業員にドアを開けさせ、十数人で部屋へなだれ込んで男を取り押さえた。

 スウェーデン警察の分析官エリン・ネリー氏に、この男に関する情報が米国の捜査機関からもたらされたのは昨年12月のことだったという。この捜査機関(正式には国土安全保障捜査局=HSI)は、2012年以降、フィリピンの人身売買ネットワークに潜入しており、犯罪者の痕跡を発見すると関連国に連絡する。

 同機関から男の情報を得たネリー氏は、数カ月間にわたってこの男を監視。4月に男がスウェーデンを離れてフィリピンへ渡航すると、スウェーデン警察はフィリピン警察に連絡し、前述の捕物劇が展開された。

 スウェーデン刑法では、自国民が国外で児童性的搾取を行った場合でも、国内で裁くことが可能である。

 こうして犯罪は立件され、この男は現在、児童に対する加重性的虐待、児童に対する強姦、児童に対する強姦準備の3件の罪状で起訴されている。

 ネリー氏ら警察関係者、およびこの捕物劇を追跡してきたDN紙は「国際的な警察協力がこれほど迅速に実現することは稀だ」と、自画自賛している。

「典型的な加害者は欧米諸国の男性」との調査も

 こうした問題の根底にあるのは貧困だ。経済的に困窮している親が、子どもや幼い兄弟姉妹を性的虐待の対象とする犯罪に手を染めている。被害に遭う子どもたちには幼児や乳児も含まれているそうだ。

 貧困と絶望が人々を犯罪に追い込み、被害の連鎖が続いている。子どもの性を売るのは、フィリピンなどアジアの国々に住む貧困層で、自分では直接、手を下すことなく子どもの性を搾取しているのは裕福な国に暮らす者たちだ。

 ユニセフ(UNICEF)や国際司法ミッション(IJM)の報告によれば、フィリピンはライブ配信や画像送信を通じた児童搾取の最大の供給国の一つになっている。

 ユニセフは、2021年だけで約200万人のフィリピンの子どもがオンライン上で性的搾取の被害に遭ったと推定している。また国際司法ミッションの調査では、「典型的な加害者は欧米諸国の男性」と指摘している。

 フィリピンでこの種の犯罪が拡大している背景には、国民の90%以上が英語を話すという環境、約83.8%という高いインターネット普及率、国外からの出稼ぎ送金が多いため、国際送金ネットワークが整備されていることなどが挙げられる。

 貧困とデジタル化の発展が交差するこの地で、いくつもの条件が複合的に重なり、オンライン児童性的搾取の震源地となっている。

「おとり捜査」で逮捕されるフィリピン人母親

 DN紙の別の記事では、子どもの性の「売り手」である親のマリアを取り押さえる様子も描かれている。

 フィリピン北部の小さな村、コンセプシオンにあるマリアの自宅。彼女は電話で、“ショー”の予約をしたアメリカ人のマイクと話している。これはいわゆる「おとり捜査」だ。米国の捜査官マイクは小児性愛者のふりをして何年もこのような潜入捜査をしてきた。

 マリアはカメラを自分の顔に向け、マイクに顔が見えるようにするが、マイクは決して自分の顔を映さない。

「みんないますか?」とマイクが尋ねると、「はい、全員います」と答えるマリア。

マリア「今からショーを始めますか?」
マイク「全員集まりますか?」
マリア「はい。どうするんですか?」
マイク「全部です。胸も、アソコも」

 マリアはそれがおとり捜査だとは知らない。

マイク「そこは安全ですか? ほかに誰もいませんか?」
マリア「ええ。ほかに誰もいません」
マイク「部屋の反対側を見せてもらえますか?」
マリア「空っぽです。誰もいません。」
マイク「もう少し、あなたの周りを見せてもらえますか? 監視されていないことを確認したいんです」

 マイクはそう言い、マリアに部屋の隅々や庭にまでカメラを向けさせ、周囲を確認する。

 フィリピンの法律では、このようなケースの場合、容疑者は現行犯で逮捕しなければならない。つまりこの場合、マイクとマリアの間で価格交渉がまとまり、マイクがオンラインで送金した時点で犯罪が成立、それによって逮捕・拘束できる。

 マイクが送金すると、数百メートルほど離れた場所で待機していた特別捜査官らが、マリアの家を急襲した。そこに地元警察や児童心理学者、ソーシャルワーカーたちも続く。

捜査官ら総勢20人ほどで突入

 総勢で20人ほどがマリアの家に突入し、23歳のマリアと、共犯とされた22歳の妹を取り押さえて手錠をかけ、SUVの後部座席に押し込む。2人とも裸足のままだ。

 同時に彼らは、寝ている赤ん坊や子どもたちを取り上げ、泣き叫ぶ子どもたちを車に乗せていく。パニックに陥ったマリアが「子どもたちはどこ!」「私の子どもは!!」と叫んでいる。DN紙のカメラマンはその様子を執拗に追い、映像に収めている。

 同紙のウェブ上では、その急襲時の様子をネット上で配信している。

 車中、マリアは妹と肩を寄せ合い静かに座っている。そこにDN紙の記者が問いかける。

--なぜきょうだいや子どもたちにこんなことをするのですか?
「私たちはとても貧しくて、そうしなければならなかった。母は病気で、薬が必要なので私が買わなければならないんです」

--子どもたちの気持ちを考えたのですか?
「ええ、子どもたちはこんなことをするのは嫌だと言いました。でも、私はお金が必要なんだと説明しました。自分が身売りしようとしたのですが、外国人は子どもしか興味がありませんでした」

 彼女は、未成年の子どもに性的虐待を行ったことを認めている。

「違法なのは分かっています。でも、家族のためにお金が必要だったんです。そうしなければならなかったんです。私たちはとても貧しいのです」

 彼女の声には嗚咽が混じり、震えていた。

フィリピン人は「実名」、スウェーデン人は「匿名」の矛盾

 同紙の公開記事には、子どもの性を売ったフィリピン人のマリアの名前、年齢、居住地が明示されているのに対して、その性を買ったスウェーデン人の名前は書かれていない。

 この報道姿勢を見ると、DN紙はフィリピン人の人権が虐待に加担した白人のそれよりも軽いものであると見なしたようにも思える。もしマリアが欧米の白人だったなら、このように実名をさらし、逮捕の様子をそのまま撮影し、ネットで配信するような「見せしめ」を行っただろうか。

 マリアを“罠”にかけて摘発した米国人の捜査官マイクは、自分の功績によって子どもたちが救われたと語り、DN紙上ではまるで自分が子どもたちを救ったヒーローであるかのように主張している。

 そしてDN紙の記者は、犯罪を犯したマリアを容赦なく問い詰めていった。貧困に苦しんだ結果、犯罪に手を染めているのは明白であるにもかかわらず、である。

 この記事から垣間見えるのは、「子どもたちを救う『絶対善』の西欧」と「子どもを搾取し金を稼ぐ『犯罪者』」という単純な二項対立だ。ここで犯罪者とされているのは、貧しすぎてほかに生計を立てる手段を持たない貧困層の親と、富裕な地域に住む西欧のスケベオヤジである。

貧しい母親を犯罪者としてさらしても問題は解決しない

 この悲劇の根底にあるのは貧困である。

 “ショー”を摘発することで、本当に子どもたちは救われたのだろうか。

 根底にある貧困が解決されない限り、児童搾取の悪循環を根絶することは難しい。

 西欧メディアの報道は、表面的な問題だけを取り上げ、マリアのような貧しい母親を犯罪者としてさらし、自分たちの道徳的な優位性を確立しようとしているようにも見える。

 だが真の解決策は、そこにはない。

 性的搾取を生み出してしまったグローバルな経済格差、つまりはマリアとその家族のような貧困層の経済的安定を確立する取り組みこそが、欠かせないのだが。

筆者:松沢 みゆき