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【生活保護最高裁判決】政府は「全員に全額補償」を

大西連認定NPO法人自立生活サポートセンター・もやい 理事長

【生活保護最高裁判決】政府は「全員に全額補償」を

2013~2015年の生活保護基準の引き下げについて、2025年6月27日に最高裁判決において、その減額処分が違法である、とされました。

厚労省はそれを受け、8月13日から全9回、「最高裁判決への対応に関する専門委員会」を開催し、11月18日には報告書が公表されました。

厚労省はこれまで、この専門家委員会での結論をもって政府としての対応を検討する、と一貫して発信しており、報告書が公表された今、まさに政府としての対応が近く決定、発表される情勢となっています。

専門委員会での議論やこれまでのさまざまな報道等をふまえると、政府の対応としては減額処分が取り消された最高裁判決ですので、該当時期に生活保護を利用していた方に対して、補償をおこなうことになります。

そして、その補償の範囲は、下記の3つにしぼられると考えられます。

①全員に全額補償

②原告には全額補償、原告以外には策定しなおした基準で減額補償

③全員に策定しなおした基準で減額補償

なお、ここでの「全員」は減額処分の対象となった生活保護利用者全員、を指します。

「全額補償」の「全額」とは、「引き下げ前の基準」から「違法とされた減額後の基準(実際に使用された基準)」の差額の「全額」を指します。

「策定しなおした基準」は今回の専門家委員会をもとに新たに作り直された基準、を指し、「策定しなおした基準で減額補償」は、「策定しなおした基準」から「違法とされた減額後の基準(実際に使用された基準)」との差額を補償(「全額補償」よりは減額された補償になる見込み)を指すものとします。

■速やかに全員に全額補償を

結論から言うと、政府は上記の①の「全員に全額補償」を実施するべきです。

専門家委員会においても全員に全額支給について否定的な意見は出ていません。(そもそも専門家委員会に対して厚労省が設定した論点は、基準を策定しなおすことが可能かどうか、であったため)

②については、原告と原告でない当事者に補償金額の差が出ることになります。私も支援団体の人間ですので、原告になられた方、原告にはなられなかった方、それぞれ関わりがある方がいらっしゃいます。さまざまな事情で原告になることを断念した方もいます。

補償の金額が変わることには正直、大きな違和感がありますし、分断をうむような判断になってしまうのではないかと考えます。

また、今回原告でなかった方からの訴訟等が起こされることも予測されます。

③については、原告に全額補償がなされないことについて、専門家委員会での議論においても、報告書においても、最高裁判決が出ていることの意味から「紛争の一回的解決の要請が強く及ぶ」との意見もあるため、その判断が妥当なものかどうか、原告との新たな争点、訴訟等になる可能性もあります。

②にしても③にしても、さらなる訴訟を招く公算が高いと言わざるを得ません。今回の最高裁判決にいたるまでに10年以上の裁判となっており、亡くなった原告もいます。さらなる訴訟は、より泥沼化してしまう、と言えるでしょう。

■政府は「政治的判断」を

すでに、ボールは専門家委員会の手を離れ、政治的な判断のフェーズになっています。

11月7日の衆議院予算委員会で、高市総理は政府として初めてこの最高裁判決についての答弁において「違法と判断されたことについては深く反省し、おわびを申し上げます」と謝罪の意を述べられました。

判決から5か月弱、これまで厚労大臣から「反省」の弁はあっても、「謝罪」はありませんでした。高市総理が謝罪の意を述べられたことは、非常に大きな前進であることは間違いありません。

また、残念ながら報道等では、上記②で政府が事実上、決定をした、といったものもあります。先ほどと繰り返しになりますが、原告とそれ以外の方を区別するという政治的判断をすることが本当に適切なのか、真摯に再考してもらいたいなと思います。

「全員に全額補償」という英断を政府には期待しています。

■補償の金額や体制は

報道等によれば、①の「全員に全額補償」を実施すると4000億円程度の費用がかかる、と言われています。

ちなみに、②③ともに①と同様の大規模な補償とそのための手続き、体制になりますが、こちらは報道等によれば2000億円程度、とも言われます。正確な金額については公式には公表されておりませんが、たしかに①より金額は少なくなります。そして、これらは補正予算のなかに盛り込まれることが予測されます

予算を削減したいから「全員に全額補償」はしない、という判断をすることはさすがにないと思いますが、実際の執行をおこなう自治体の負担軽減等もふまえ、予算を削減することを前提にではなく、誠実な対応をしてもらいたいと思います。

■政府がしなければならないのは「検証」と再発防止

今回、専門家委員会では、基準を策定しなおすことが前提の議論となっており(厚労省が論点をそのように設定したため)、どのような「対応」をするかは議論されたものの、なぜ最高裁が違法と断じたようなプロセス上の瑕疵が発生したのか、についての「検証」はおこなわれていません

生活保護の基準という、国家にとって非常に重要な「前提」を決めるプロセスに瑕疵があった、というのは相当な大事件のはずです。なぜそのようなプロセスの誤りがあったのか、「反省」のみでなく、「検証」し、再発防止について方策を講じる必要があるでしょう。

■早期の解決を

すでに最高裁判決が出てから5か月弱となりました。原告のなかには高齢の方も多いと聞きます。また、原告に対して、いまだに政府からの直接の謝罪はない、と聞いています。政府には誠実な対応を求めたいです。

「全員に全額補償」をはじめ、早期の解決を期待したいと思います。

■参考:これまでの経緯(最高裁判決以降)

・2025年6月27日最高裁判決

・8月13日第1回「最高裁判決への対応に関する専門委員会」開催

・8月15日福岡厚労大臣が定例の閣議後記者会見で記者の質問に対して「真摯に反省」と表明。一方で、「謝罪」はなし

・11月7日衆議院予算委員会において高市総理が「違法と判断されたことについては深く反省し、おわびを申し上げます」と初めて反省のみならず謝罪の意を表明

・11月11日上野厚労大臣が定例の閣議後記者会見で記者の質問に対して「深く反省し、おわび申し上げたい」と表明

・11月17日第9回「最高裁判決への対応に関する専門委員会」が開催(最終回)

・11月18日「最高裁判決への対応に関する専門委員会」による最高裁判決への対応に関する専門委員会報告書が公表

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ありがとうございます。
認定NPO法人自立生活サポートセンター・もやい 理事長

1987年東京生まれ。認定NPO法人自立生活サポートセンター・もやい理事長。新宿での炊き出し・夜回りなどのホームレス支援活動から始まり、主に生活困窮された方への相談支援に携わっています。また、生活保護や社会保障削減などの問題について、現場からの声を発信したり、政策提言しています。主著に『すぐそばにある貧困」』(2015年ポプラ社)。

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