医療事故調査・支援センターへの再調査 依頼の8割は遺族から 医療機関の報告に納得できず

父親の死亡を巡り、病院と医療事故調査・支援センターがそれぞれ出した報告書を手にする長男(画像の一部を修整しています)

 医療法に規定された医療事故調査制度を巡り、医療機関の調査後、遺族が第三者機関の医療事故調査・支援センターに再調査を依頼する事例が相次ぐ。再調査は医療機関側も依頼できるが、センターによると、この10年に受けた308件のうち約8割の246件が遺族からだった。責任追及を目的とした制度ではないものの、医療機関の報告に納得ができないとして求めるケースが多いとみられる。

 広島県東部の病院で手術後に死亡した男性=当時(82)=の50代の長男もその一人だ。

 男性は2019年4月、胸痛を訴えてこの病院を受診し、不安定狭心症と診断された。処置中に右外腸骨動脈が損傷し出血。止血のための緊急手術後、腹痛と息苦しさに襲われ、約12時間後の翌朝亡くなった。解剖の結果、体内に約2リットルの血液がたまっていた。

 病院は医療事故調査制度に基づき、自ら院内調査を開始。翌20年6月、13ページの報告書をまとめた。死亡までの経緯が時系列で記されていたが、肝心の出血源については特定されていなかった。長男はこれまでの病院の対応や報告書の内容に不信感を強め、21年にセンターに再調査を依頼した。

 センターは23年11月に41ページの報告書を作成。病院の報告書よりも記述は詳細で「止血方法が適切でなかった」など再発防止への提言もあった。長男は「再調査により理解が深まった。再発防止の提言などを病院が受け入れるのであれば有効な制度」と評価する。

 一方で長男は「死亡理由や責任を明確にしたい」と24年9月、処置に使った器具などへの注意義務を医師らが怠ったのが原因として、病院を管理する自治体に約4500万円の損害賠償を求め広島地裁に提訴した。

 同制度は医療事故の再発防止につなげる狙い。厚生労働省は創設の趣旨を説いた上で「病院や医師個人の責任追及を目的とする制度ではない」とする。県医師会の山田謙慈常任理事は「医療機関は事案を丁寧に検証し、遺族に説明を尽くす必要がある」と指摘する。

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 【医療事故調査制度】医療法に規定され、全ての病院、診療所、助産所を対象に2015年10月に始まった。医療機関の自主性に基軸を置いており、患者が予期せぬ死亡だったかどうかの判断は医療機関に委ねられている。医療機関は対象と判断した場合、第三者機関の医療事故調査・支援センター(東京)に報告。自ら原因を調査し、結果を遺族やセンターに伝える。遺族か医療機関が結果の検証を希望すればセンターが再調査する。センターは各医療機関の調査結果を分析し、再発防止策の普及に生かす。

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