お嬢様の修学旅行 初等部編 その3
朝食だけで一話終わってしまった……
朝6:00起床。
着替えてロビーでまったりと寛ぐ。
私がグレープジュースが好きなのは公言しているので、全国の桂華ホテルではオレンジジュースだけでなくグレープジュースのサーバーも用意されている。
地味に他のホテルと比べてポイントが高い。
TVは経済ニュース専門チャンネル。
朝から芸能人のスキャンダルだの殺人事件だのを見るよりもまだこっちの方がましである。
問題は、もっと生々しい経済なる化物を見ているという現実なのだが、それには触れないように。
『米国市場はハイテク株を中心に動揺が収まっていません。
ゼネラル・エネルギー・オンラインの不正会計は次々とスキャンダルが出てきており、カリフォルニア州の大停電では停電を長引かせるような会話が公開されたことで有権者の怒りが爆発。
同業他社への売却交渉も難航しており……』
分かってはいたが見たくないニュースが最初から炸裂している。
で、その次がこれだから芸能人のスキャンダルと殺人事件のニュースの方が良かったのかもしれない。
『アフガニスタン情勢は首都カブールを巡る攻防に移り、最後の砦であるサラン峠にて北部同盟軍と武装勢力が激しく交戦しており、多国籍軍は空爆によって北部同盟軍を支援しています。
多国籍軍の広報官の発表では、北部同盟軍はアフガニスタン第三の都市であるヘラートを解放しており、武装勢力の生命線であるカイバル峠の連絡線遮断を目的とした空爆の強化を……』
アフガンは放置してももう大丈夫だ。
だからこそ、もう一つの方の事を考えて、軽く頭を振った後に隣に控えているアンジェラに話しかける。
「アンジェラ。
米国での時価会計とその規制を調べておいて。
おそらくこれを機会に何らかの法が通るだろうから」
「かしこまりました」
不良債権処理過程でグローバル化に逆らって抵抗した結果、時価会計を遅らせるだけ遅らせたがIT業界を中心に時価会計導入を主張する一派の発言力が大きくなっていた。
そんな彼らが頼りにしていたのが武永大臣であり、ITバブルが崩壊した今その圧力はなおのこと強まっていたのである。
「質問だけど、時価会計云々って何?
おはよう。
桂華院さん」
ぺたぺたスリッパの音をたててロビーに現れたのは明日香さんだが、低血圧なのか寝不足なのか実に眠たそうだ。
まぁ、聞かれてまずい会話でも無いので、通したのだろうが。
「現金を用意せずに金儲けができる新しい手段」
「何それ?
信じられないわよ」
冗談と思った明日香さんが笑うが、本当なんだがなぁ。
まぁ、世の小学生は時価会計について頭を悩めたりはしない。
「こうやって話してみて改めて知ったけど、桂華院さん普通じゃないわ、天才ね。友達として鼻が高いわ。けど、もっと普通の女の子してもいいのよ」
「私を何だと思っていたのよ?」
明日香さんの冗談に私が付き合う。
とはいえ、彼女もハイソサエティークラスの人間。
一般人ではないそれ相応の背景がちゃんとあったりする。
「うちの父さんなんて、桂華院さんが泉川くんと友達になった事で泉川議員に伝手ができたと大喜び。
永田町ってろくな所じゃないわよ」
「あー。
春日乃さんのお父さん、大臣適齢期かぁ」
「正解。
うちのお父さんは二世議員だからねー。
スタートは早いけど、実績づくりで地元から急かされているみたい。
桂華院さんが造ってくれた四国新幹線には本当に感謝しているんだから」
「で、あの柑橘類大量プレゼントって訳ね」
瀬戸内海の温暖な地区が選挙区の彼女の地元はこの時期になると有り余るほど穫れるみかんを始めとした柑橘類を容赦なく振る舞うことから、『オレンジ明日香』なんてあだ名がつけられている。
その結果、彼女のクラスメイトでみかんを食べていない人間はまずいない。
「じゃあ、その四国新幹線の延伸がネタ?」
「だと思うけどねー。
『だったら、桂華院さんに頼めば?』と言っておいたから、土下座しに来るんじゃない?」
明日香さんは笑って言うけど、その言葉には蔑みは無い。
地元のために土下座ができる父を尊敬しているのだ。
こういう親子関係は嫌いではない。
「♪」
「「っ!!」」
ふいに肩を叩かれて私と明日香さんがびっくりするが、振り向くと蛍さんがいて、にこにこ顔が『おはよう』と言っていた。相変わらず話さずとも言いたいことが分かる子である。
控えていたアンジェラもびっくりしている。
気付かなかったのか……
「あ。もう朝食の時間だって。
桂華院さん。
食堂に行きましょう♪」
「ええ。行きましょうか」
食堂に向かう際にアンジェラが私の耳元でささやく。
彼女の視線は私の前を歩く蛍さんから離していない。
「お嬢様。
あのお方、人間ですわよね?」
「足付いているでしょう?
元CIAが警戒している中ふっと現れたとでも言うの!?」
私達二人のこそこそ話、前を歩く蛍さんは多分絶対に気付いていると思うぞ。
朝食はバイキング形式で和食洋食両方用意されている。
私はご飯にアサリのお味噌汁、焼き鮭の切り身に梅干しと千枚漬けと海苔という和食を箸でぱくぱく。
皆の視線が実に痛い。
「まぁ、見た目どう見ても外国人の瑠奈がここまで綺麗に和食を食べるのは……なぁ」
栄一くんのフォローというかツッコミというかよく分からない言葉にまぁそんなものかと苦笑するしか無い。
見た目だけはどうにも変えられないものだし、こうやって栄一くんをはじめとした人たちは見た目よりその中身に興味がある人たちばかりだからだ。
なお、栄一くんの朝食は、トーストにベーコンエッグとサラダ、モーニングコーヒーである。
私は食後の緑茶をすすりながら、みなと一緒に手を合わせた。
「ごちそうさまでした」
春日乃衆院議員
恋住総理と同じ派閥だけど、あの人派閥を無視して一本釣りをするので、大臣目指して土下座行脚中。
こういう陣笠議員も昭和の頃は結構居たりする。
現在の土下座ネタは四国新幹線としまなみ海道である。
カリフォルニア州の大停電
これ2000年夏の話だが、まさか北海道で似たようなケースが発生するとは思わなんだ……
時価会計の規制
SOX法。正式名称は、サーベンス・オクスリー法。
米国は法律に議員の名前をつける事から、法律が議員の実績という一面を持っている。
不正会計の防止策なのだが、これでもリーマンは防げなかった。
大臣適齢期
日本の与党では五回当選すると大臣適齢期と言われ、大臣に成ると地元で箔が付くので選挙に有利という風潮もあった。
小選挙区においては、その大臣の看板もあまり効いていないみたいだが、現職大臣の落選はやはり政権にダメージになるので、身体検査と同時に地盤のチェックも行われているとかなんとか。