三巻特典SS 写真家石川信光コミュ 写真撮影小話 2025/11/17 投稿
人が子供から大人になるように、街も年を経て変わってゆく。
その変化というものを、写真は捕らえて離さない。
「何かかっこいい事言っていますけど、撮りたいだけなんでしょう?先生?」
「わかる?」
写真家の先生はカメラを向けてオコ顔の私をパチリ。
元々は帝西百貨店のキャンペーン写真という予定だったのだが、「街中を適当に歩いて」と来てこれ絶対あの写真家の先生の趣味だと今は嫌でもわかる。
なお、誰もこの先生に文句を言わないのは、それでも上がってくる写真の出来が素晴らしいからに他ならない。
「お嬢様。知っている?
この東京という街は、その名前では百五十歳に満たない若い都市なのよ」
江戸から東京に変わるのは明治維新からなのだが、明治改元が1867年だから、21世紀である2001年時点でこの東京という街の年齢はたしかに先生の言うとおりだろう。
先生はそんな講釈をたれながら写真を取り続ける。
「ちなみに、ニューヨークは設立に諸説あるけど、ニューヨークという名前になった年でも1664年。
ロンドンやパリなんてローマ帝国時代。そのローマともなると……ね♪」
「永遠の都ローマと比べるのはずるくありません?」
この街は第二次世界大戦後にここまで進化した。
その摩天楼はニューヨークやロンドンと比較される大都会としてそびえ立っている。
急に雨が降り出してきた。
先生が傘を差し出し、私は傘を広げて雨の東京を歩く。
「お嬢様には、この街みたいな女性になってほしいのよね。
ニューヨークみたいに豪華で、ロンドンみたいに知的に、パリみたいな流行に敏感で、ローマみたいに愛にあふれている。
そんな女に」
「あら。そんな女がお好みならば、雨の中で歌いましょうか?
傘を閉じてタップダンス付きで?」
「それをすると秘書の人に怒られるから勘弁して頂戴」
夕立らしく雨が激しくなってきたので、流石に近くのビルの喫茶店に退避。
東京は、こういう事ができるからありがたい。
「そういえば先生。
結局、私の何処が気に入ったんですか?」
激しく降る夕立の雨音をBGMに私はグレープジュースを片手に訪ねてみる。
こんな時でもカメラを手放さないあたり、この先生がプロなのは間違いがない。
「アンバランスな所かな。
子供なのに、その中身は大人の女性みたい。
そういう危うさが私を惹きつけたのよ」
これで裸を撮らせろと言ってこなければ良い先生なのだが。
ロリコンというより、博物標本を作るノリで言ってくるからたちが悪い。
「雨が上がりましたよ。
じゃあ、続き撮りましょうか」
「はーい」
この日撮った写真は百枚近く。
その中から極上の一枚だけが帝西百貨店のイベントに使われた。
こんな台詞とともに。
『雨上がり 水も滴る 東京少女』
なお、この時さしていた傘は飛ぶように売れたらしい。