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現代社会で乙女ゲームの悪役令嬢をするのはちょっと大変  作者: 二日市とふろう (旧名:北部九州在住)
カサンドラの慟哭

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三巻特典SS 栄一くんコミュ 金華山登山 2025/10/26 投稿

「はぁ……はぁ……」


 帝亜栄一は山を登る。

 ある程度の荷物を持ち、アドバイザーと共に。


「そうです。坊っちゃん。

 リズムは崩さず、呼吸も乱さない。

 同じリズムで確実に進んでください。

 山というのは、最後は自分との戦いなんです」


 帝亜栄一は金華山を登る。

 それは、行われる高尾山登山のリハーサルだった。




「高尾山登山?

 あの遠足のやつか?」


 最初に帝亜栄一が思ったのは『面倒だな』である。

 別に運動が嫌いな訳でもないが、かと言って好きで登りたいとも思えない。

 参加は任意。だったらサボってもという彼の心を変えたのは、いつもつるんでいる桂華院瑠奈の楽しそうな笑顔だった。


「面白そうよね!

 登山用の靴に服にリュックに、色々入れて頂上を目指しましょう!!」


 こうなった時点で、サボるという選択肢は帝亜栄一の中から消える。

 次に問題となったのは『彼女の前で醜態を晒さないか?』である。

 そういう点で、帝亜栄一は努力を惜しまない。

 家の人間に話して、密かにリハーサルを行うことにした。

 そのリハーサルに選ばれた山が金華山である。


「まずは、自分の限界を理解しましょう。

 そこからアドバイスしないと意味がありません」


 大企業帝亜グループの社員の中には登山を趣味にしている人間もいる。

 密かにピックアップして指導を請うと、そんな返事が返ってきた。


「山というのは、最後は自分との戦いなんです」


 この言葉は覚えるぐらいアドバイザーの社員が口にした。

 その意味は登りだしてから思い知ることになる。


「何で金華山なんだ?」


 帝亜栄一が登る前の準備体操時に聞くと、アドバイザーの社員は運動をしながらその理由を口にした。

 準備運動がしなやかで、かなり登山をしているらしく、運動しながらも口はなめらかだった。


「坊っちゃんが遠足で登る高尾山は標高599メートル。

 この金華山は標高328メートルです。

 標高が低いと、トラブルの際に麓に戻りやすいというのがあります。

 あとは成功体験ですね。

 一つ山を登頂してそれを基準に考える事ができるでしょう?」


 大雑把な計算だが、高尾山は金華山二個分と考える事ができる訳だ。

 実際に標高が上がれば上がるほどその苦労は加算的ではなく乗算的に上がるのだが、そこまでアドバイザーの社員は教える気はなかった。

 まずは山に登る楽しさを理解してもらおう。

 そして、基本的な事をしっかりと帝亜栄一に教えてゆく。


「山に登る前には地図を見る癖をつけてください。

 道に迷った場合は動かずに助けを待つか、頂上に向かって登ってください。

 間違っても、沢を下るなんてことはしないでください。戻れなくなって死ぬケースもあります」


 ゆっくりと山を登る。

 急がす、呼吸を乱さず、体を慣らすように。


「天気にも気をつけてください。

 標高の高いところは気温も低いので、体温を容赦なく奪っていきます。

 水分補給はこまめに行なってください。

 脱水症状も登山ではよくあるトラブルです」


 山の中ほどまで来て休憩ついでにアドバイザーの社員が自分のリュックサックを渡す。


「背負ってみますか?

 坊っちゃんが飲んだ水や食べ物を入れると、これぐらいの重さになります。

 本来の登山ではこれを自ら背負うんですよ」


 背負った帝亜栄一がその重さに愕然とする。

 今回は金華山という事で水や食料に救急キットにタオルぐらいだが、それでも10キロはあった。

 自分の体重にこれらの荷物を背負っての登山はその分体力を消耗する事を帝亜栄一はその重さで理解した。


「聞いていいか?

 いつもはどれぐらいの荷物を背負って山に登るんだ?」


 吹き出る汗をタオルで拭いながら帝亜栄一は前を歩くアドバイザーの社員に尋ねる。

 振り向いて、帝亜栄一の確認をしながら、彼は疲れすら見せずに返事をした。


「私はエンジョイ勢ですから、せいぜい北アルプスを夏場に遊ぶ程度ですよ。

 テントとか背負うから30キロぐらいは軽く背負いますよ」


 後で調べてそもそも北アルプスが登山ガチ勢の聖地である事を知る。

 だが、今は疲労と乱れる息と目に入る汗でそこまで考えが及ばない。


「さぁ。着きましたよ!頂上です!!」


 金華山には有名な城が建っていた。

 その城の名前から、この地名というか県名がつけられた。

 岐阜城である。

 眼下に広がる濃尾平野の景色は、今までの苦労をすべて忘れさせる何かがあった。


「いいな」


 声は自然と出た。

 それに頷きながらアドバイザーの社員はスポーツドリンクを手渡してくれた。


「帰りも気を抜かないでくださいよ。

 登山は下りこそ危ないんですからね」


 それから帝亜栄一は筋肉痛に悩まされながらも三度ばかり秘密裏に金華山に登る。

 最後の登山はリハーサルとして、自ら荷物を背負っての登山である。

 付き合ってくれたアドバイザーの社員は最後もこの言葉で締めてくれた。


「忘れないでください。

 山というのは、最後は自分との戦いなんだという事を」




 高尾山登山当日。

 金毘羅台を出発するが、帝亜栄一の気力体力共に問題なし。

 後ろに居た桂華院瑠奈の所に行くが、彼女も気力体力は問題なさそうだ。


「瑠奈。

 ちょっといいか?」


 会話をしながら帝亜栄一は思う。

 山というのは自分との戦いなのだろう。

 だけど、一緒に登る人が居ると、こうも楽しいのかと。

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