表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
現代社会で乙女ゲームの悪役令嬢をするのはちょっと大変  作者: 二日市とふろう (旧名:北部九州在住)
カサンドラの慟哭

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

163/821

忘れていた感情

 私は大事を取ってその週は全部休むことにして静養とカウンセリングを受けつつ、学校に登校したのはその翌週からだった。


「お。瑠奈。

 もう大丈夫なのか?」


「とりあえずはね」


 私は笑って栄一くんに答える。

 その後で、裕次郎くんと光也くんも私に挨拶する。


「おはよう。

 桂華院さん。

 とりあえず元気そうで何より」


「おはよう」


 当たり前の日常。

 それがこんなにも愛しい。

 だからこそ、私はいつものように挨拶する。


「おはよう。

 みんな」


 世界が変わっているというのにも拘わらず。

 その変化を止められなかった私は、その日常を受ける資格があるのだろうか?




 少なくともあのテロがイスラムの過激派の犯行で、彼らをかくまっているアフガニスタンを討つべしという声はこの時点で米国を始めとした国際世論になりつつあった。

 だが、それとは別に頭を抱えたのはその当事者となる軍人たちである。

 理由はアフガニスタンの地理的要因にある。


「内陸国って事はどこかに拠点を造らないときついんだろうが……」


 放課後の勉強会。

 栄一くんが新聞と世界地図を見ながら私に話を振る。

 私は宿題をしながら適当に栄一くんの相手をしていた。

 裕次郎くんと光也くんはそれぞれ委員会に出ていてこの場には居ない。


「パキスタンの動向が読めないのよね。

 あっこの軍部がイスラム過激派と繋がっているから、米国側に付きたいけど旗幟を鮮明にしたら国内でクーデターが起こりかねないの。

 北部同盟が守りを固めているみたいだけど、激戦になっているみたいね」


 あのテロの後、連動するかのようにアフガニスタン内部では北部同盟に対する攻勢が強化され、北部同盟が防戦に追われていた。

 北部同盟の将軍を狙ったテロ未遂もあったので、それが成功していたら北部同盟が瓦解していた可能性もあっただろう。

 これに、米国は機敏に反応した。

 北部同盟側の国境に接しているタジキスタン・ウズベキスタン両国と交渉し基地を置く交渉をする傍らで、PMCを介して北部同盟の支援を開始したのだ。

 まだアフガニスタン国境を越えていないが、この両国に派遣された連隊規模の兵力はPMCの皮を被った元米軍なのは言うまでもない。

 というか、両国への兵力派遣が外交的に正式に決まれば、彼らは制服の隠蔽用テープを剥がして星条旗を見せるのだから今や隠す素振りすら見せていない。

 なお、この両国への派遣をサポートしたのが我が国という形である。

 同盟国があれだけやられて、自国でもテロ未遂をやってくれた奴らに容赦はないとばかりに、恋住総理承認の元で自衛隊派遣の前準備とばかりにうちのPMCが出動と準備していたら米国から待ったが掛かったのである。


「頼む。

 奴らを最初にぶん殴るのは俺たちにさせてくれ」


という交渉があったとか無かったとか私は詳しくは知らないが、タジキスタン・ウズベキスタン両国のパイプと拠点は米国がお買い上げとなり、こちらが用意していたPMCは第二陣以降に回ったという訳だ。

 一方、武器弾薬の提供も躊躇う事なくやっている。

 ソ連によるアフガン侵攻からかの地の武装勢力は東側製武器を扱い慣れており、これ幸いと北日本政府製の武器弾薬を在庫処分価格で政府がうちに押し付けたのだ。

 目玉はT-72戦車30両で、自衛隊から払い下げられたこの戦車を赤松商事が買い、それをタジキスタン政府が買うという名目でロシアの航空会社からチャーターしたAn-124が引っ切り無しに運ぶあたり、ロシアもこの件で敵に回るつもりはないらしい。

 この目玉商品を買ったのもタジキスタンが雇ったという米……げふんげふん。PMCで、もちろん北部同盟に渡す為に国境を越える訳でして。ええ。

 戦車の他に対戦車ロケット等の武器弾薬に食料・医療品等の物資が山程積まれたトラックも一緒に国境を越えることになる。

 きっと、今あの二カ国にいるPMCは、表に出せないけど米軍特殊部隊という肩書ばかりの人たちなのだろうなぁ。


「米軍自慢の空爆もパキスタン領内を通らないとできない訳で、どこもパキスタンがどう動くかに注目しているわ」

「で、そんな時にこれか……」


 栄一くんが新聞の国際面を見ながらため息をつく。

 インド国会議事堂でイスラムテロリストが銃を乱射し死傷者が出たニュースがでかでかと載っており、インドは準戦時体制に移行。

 パキスタンも戦時体制に入り、今や一触即発の状態になろうとしていた。


「テロリストの目的がこの混乱なのだとしたら、現状テロリストの方が一枚上手なんだろうな」


「冷戦終結と湾岸戦争のツケがここで出ているのよ。

 ある意味ツケを払っているとも言えるわね」


 少なくともここでインドとパキスタンが戦争なんておっぱじめたら、アフガニスタンは脇に置くしかなくなる。

 軍隊を展開するにも維持するにも拠点は必要で、その拠点として一番効率の良い港はパキスタンのカラチ港なのだから。

 パキスタンをテロ勢力に走らせないようにする事ができるかどうかは、その後の戦いの展開に関わってくる。


(そして、テロリストが核を持っているかどうかがわからない……)


 私は黙って懸念点を考える。

 彼らはネットを通じてテロの成功と、核の脅迫を宣言したのである。


「我々の事は我々が決める。

 それを欧米は力で我々を従わせようとしている!

 我々はもう欧米の力に怯えない!!

 なぜならば、我々も欧米の力を手に入れたからだ!!!」


 ここであえて核というワードを言っていないのがポイント。

 とはいえ、散々この核に振り回されたあげくに今回のテロという醜態を晒しているのだから、いまさら無視するわけにも行かない。

 その上テロが成功した事で、中東諸国の原理主義勢力が騒ぎ出し、米国に付いた政府を激しく非難していた。

 世界はまるで第三次世界大戦の前夜のように見えていた。


「瑠奈。

 無理をするな」


 私の耳に不意に全く脈絡無く栄一くんの言葉が届く。

 気づいてみたら栄一くんは真顔で私を見詰めている。

 宿題をしていた手が止まる。

 その言葉に固まった私に、栄一くんは再度ゆっくりと言った。


「泣いていいんだ」


 ああ。そうか。

 私は泣く事すら忘れていたのか。

 その感情に気付いてしまった私の視野が涙でぼやけた。


「しばらく席を外す。

 誰も来ないようにするから」


 その声に我慢ができなかった。

 栄一くんが出ていって扉が閉まると涙を流し、大声で私はやっと泣けた。

 栄一くんは私が泣くのを邪魔しなかった。




「ありがとう。

 取り乱しちゃって」


 しばらくして、泣いて泣いて泣きじゃくった後、栄一くんがハンカチを差し出す。

 私を元気付けようと笑顔で。


「いいよ。

 瑠奈も俺たちと同じ子供なんだって分かったから」


 どくん。

 その笑顔に私の心臓が鳴った。


「なにそれ?」


「さあな。

 そろそろ行こうか。

 裕次郎と光也が待ってる」


 気付いてはいけない。

 そんな事をする余裕もない。


「ええ。

 行きましょう」


 けど、栄一くんの笑顔と暖かさは忘れたくは無かった。

 泣き濡らしたハンカチをポケットに入れて、私は栄一くんの後を追う。

 そんな私は我儘なのだろうか?

内陸国のジレンマ

 空母からアフガンを空爆する場合、イランかパキスタンの領空を通らないといけず、現実ではパキスタンもイランも米軍機を見なかったことにして通した。


パキスタン政府

 政府<<軍というパワーバランスで、つい最近クーデターで参謀総長が大統領についたばかり。

 その軍内部でも力を持っているのが情報局で、イスラム原理主義勢力の実質的後ろ盾になっているだけでなく、核開発を主導した部署でもある。

 現実では、元参謀総長な大統領がついに情報局を制御しきったが……


インド国会議事堂襲撃事件

 現実にはこの年の12月に発生しており、アフガンがひとまず片付いた後だったのでタイミングを逃した形に。

 今回は最良のタイミングで仕掛けた為に、インド-パキスタン間が開戦前夜の雰囲気に。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=890190079&s
― 新着の感想 ―
[良い点] 忘れた頃にやってくる乙女ゲー要素が清涼剤になっていて好きです。 [一言] 恋住さんの名前を見る度に乙女ゲーの世界だってことを思い出してたのに、ここの怒濤の911情勢で完全に忘れてた……
[良い点] 男性陣がイケメンすぎて感動する。 どうか、お嬢、闇落ちしないでおくれ......
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ