私の誕生パーティー オフィシャル編 その4
あの時総理フィーバーに目がくらんでいたけど、2001年はかなり極東は危険度が高かった。
面白いのが、自民党反主流派から総理になったことで、米国は最初彼をリベラル系総理として反米に舵を切ると真剣に考えていたらしい。
お仕事が終わったので、そのまま待合室で癒やしタイム。
という訳で、いつもの面子を呼んで愚痴タイム。
「絶対小学生がする仕事じゃないと思うのよ」
「それを愚痴られても俺らに何ができる?」
ばっさりとぶった切ってくれる栄一くんの言葉が心地よい。
狐や狸の会話だと、言葉尻を取られて有利不利が決まるから、会話も疲れる。
「そういえば、今回のパーティーに来客が何人か僕らと同じ年齢の子を連れてきていたけど、顔合わせしなくていいの?」
「今回はパス。
政治的縛りが多すぎるから、礼状から繋げる予定」
裕次郎くんの言うこういう場所での挨拶からはじまるコネ繋ぎは、挨拶からその後相手のパーティーへの招待という形になるのだが、政治外交が強すぎるとそれもまずい状況がある。
たとえば敵対している二カ国がそれぞれ大使や公使を送り込んできたケースとか。
その場で判断する事自体が角が立つので、『パーティーに来てくれてありがとう』という礼状を送って、その返信でご招待という形にする事でそれを回避するという訳だ。
「愚痴れる内に愚痴っておけ。
せいぜい俺たちには聞き流す事ぐらいしかできないからな」
「それでも吐き出せる相手がいるだけましよ。
ありがとう。光也くん」
待合室にも料理が運ばれて、今のうちにパクパク。
パーティーの主役というのは、基本料理が目の前にありながらそれを食べられないきつい役なのだ。
「しかし、そうそうたる方々で羨ましいですわ」
「だったら代わってみます?」
「遠慮させていただきます」
薫さんとの会話も段々慣れてきた。
同性の友人というのも悪くはない。
特に環境が似通っているとこちらの愚痴の意味まで分かってくれるからありがたい。
「お嬢様。
よろしいでしょうか?」
橘の声に私の顔がお嬢様モードに移る。
橘がこういう時に声をかけてくるのは、大体緊急の報告だからだ。
でも、その緊急の報告は私にとって想定外だった。
「たった今官邸より連絡が。
恋住総理がパーティー出席のために、こちらに向かっているそうで」
たしかに、パーティーでオフィシャルともなれば、官邸に招待状の一通ぐらいは送っている。
とはいえ、敵対している財閥令嬢のパーティーに本当に来るとはさすがに思っていなかったみたいで、義父上を含めた桂華院家のスタッフ全員が少しうろたえている。
到着時間を考えると、パーティーが終わる時間あたり。
最初から来ないで、急に来るあたり恋住総理らしいサプライズである。
「会場の皆様に総理が来ることを伝えるように」
「料理については食べ終わったものは片付けて見苦しくないように」
「時間延長も考えて簡単なツマミを厨房の方に頼んでおいて!」
「駐車場と周辺道路の警備チェック急いで!!」
裏方は修羅場で、こっちもそれを見て覚悟を決めざるを得ない。
何を言うか?
何を伝えるか?
ここで会う事にどういう意味が付与されるのか?
「ごめん。みんな。
ちょっとでいいから私の後ろに居て頂戴」
私の声が少し震えていたのだろう。
栄一くんの返事が頼もしく嬉しかった。
「安心しろ。瑠奈。
後ろでお前の代わりに睨んでいてやるから」
「宴もたけなわとなりましたが、ここで急遽この方がいらっしゃってくださいました。
内閣総理大臣。
恋住総一朗氏のご入場です」
来客もこのサプライズに驚いているが、この場はどちらかと言えば反恋住派のパーティーに近いものがあるからだ。
総理が解体を叫ぶ財閥関係者や、現在外務省の官邸機密費で叩いている華族達が多くいるのに、そこに乗り込んでゆく度胸は素直に感心するしかない。
「お誕生日おめでとう。
パーティーに間に合ってよかったよ」
「ありがとうございます。総理。
来てくださって嬉しいですわ」
総理が私に花束を渡し、私はそれを笑顔で受け取る。
皆の視線が突き刺さるように痛い。
「申し訳ないが、あまり長居はできなくてね。
また機会があったら今度は最初からお邪魔させてもらうよ」
「あの総理。
幾つかお話が……」
折角なので国務副長官からのお話云々を伝えようと別室に誘うつもりだったが、彼は私の頭に手を当てて撫でる。
そこからの言葉を私に言わせなかった。
「君が気にすることではないよ。
ここからは大人の仕事だ」
私の特異性を知り、それを利用する人やそれを利用する事を謝罪する人は、今まで結構居た。
だが、その特異性を窘め、『子供のままで居なさい』と叱る大人は恋住総理が初めてだったのだ。
その一言に射抜かれた私が居る。
「かなわないなぁ……」
恋住総理が去った後、その言葉は自然と口に出てしまう。
政策的には敵対することになるし、彼の方向性の果てに前世の私がひどい目にあった事を含めてすら、この『俳優』恋住総一朗に惹かれる自分を自覚せざるを得なかった。
翌日。
米国国務副長官との会談で日米同盟の堅持と米国との協調姿勢がニュースに流れる。
国務副長官はそのまま満州に飛ぶそうだが、東シナ海と黄海には米海軍の空母戦闘群が二個ほど遊弋し、呉から海上自衛隊の機動部隊が一個出撃。
極東における緊張状態は北日本政府が崩壊した時と同じぐらい緊張した状況に陥ったが、その後妥協が成立。
捕まっていた米軍パイロットが釈放され、満州政府は独立宣言を出さなかった。
結果、最初から米国に全賭した恋住総理は米国の信頼を得るという外交的勝利を上げ、支持を磐石のものにする。
一方、ネパールだが、その杜撰な工作が私の送ったPMCによって暴露されると、米国とインド双方が手を引き未遂という結果に。
ネパール政府からの正式抗議に米国はしらばっくれるが、裏でかなり高くついたらしい。
しかも、この仕掛けを作ったのはインド政府で、共産中国に捕まったパイロットを助けたい米国CIAはそれに乗っただけ。
おまけにこの事自体が上に報告されていなかった事が発覚するに及んで、醜い責任回避と押し付けあいが発生することになる。
報告してくれたアンジェラの顔がとても良い笑顔だったのは見なかった事にしてあげよう。
感想などで恋住総理の方向性に疑問を持っている人がいるけど、当時の資料を見るとこれよりひどかった。
何しろこの話の幹事長が外相だったせいで、外務省が死んているどころか崩壊しきっているのだから。
これで上手く回るから、『運スレ』なんてものができる。
遊弋中の空母達
『カール・ヴィンソン』 (東シナ海)
『キティホーク』 (黄海)
『そうりゅう』 (呉より出港東シナ海を目指す)
それぞれ巡洋艦2-3隻、駆逐艦数隻、潜水艦などが護衛につく。
もちろんイージス艦。