私の誕生パーティー プライベート編
「お。来た来た」
「おまたせ♪」
「僕たちもこっちに来た所」
「改めてご挨拶を。
わたくし、瑠奈さんの友人の朝霧薫と申します」
「よろしく。
俺は後藤光也、こっちが帝亜栄一に泉川裕次郎だ」
『アヴァンティー』の一箇所を貸し切ってのパーティー。
私の誕生日パーティーがその名目である。
誕生日イベントなどは華族や財閥クラスになるとそれだけで政治的イベントになるので、その前にやってしまおうという訳で。
せっかくだからと、友だちになった朝霧さんも誘うことにした。
「「「「誕生日おめでとう」」」」
「ありがとう♪」
という訳で、ささやかなパーティーが始まる。
最初にテーブルにならんだのは、最近流行しているアロエヨーグルト。
上にミントの葉がおいてあるのがちょっとしたポイントである。
「この食感が癖になるのよね」
「健康にも良いらしいわよ」
「で、ケーキは瑠奈の好きな生チョコのケーキと生クリームのイチゴケーキか」
「誕生日だからと桂華院の好きなものを頼んでおいた」
「まぁ、今日は桂華院さんが主役だし、好きなだけ食べるといいんじゃないかな」
で、四人の視線がケーキの隣のものに移る。
揚げたての唐揚げに、スパゲティーナポリタン、チキンサラダに、カレーライスである。
「……これ、全部食べるのか?」
「もちろん、食べられなかったら持って帰るわよ。
もったいないじゃない」
「あ。
うん。そう。そうね」
栄一くんのつっこみを当然と答え、裕次郎くんの目が少し泳いでいる。
この辺り大陸から入った風習の一つで、特権階級はある程度大量に料理を頼み、食べきれないものを下々に食べさせてあげるなんて文化が入っていた。
これが日本古来のもったいない文化と実に相性が悪く、華族批判の一つになっていたりするがまぁ置いておこう。
「正確には、持って帰ったものを家の者たちに食べさせてあげるのですわ。
家人やメイド達へのボーナスみたいなものです」
そのあたり理解できる薫さんがすっとフォローに回る。
彼女と友だちになってよかったとこういう時にありがたみが分かる。
「そうだ。
はい。プレゼント」
「ありがとう♪薫さん。
開けていい?」
「どうぞ」
基本安いものしか受け取らない事を公言しているのだが、華族ともなるとそれを許さないからガチで良いものを選びに来る。
正式なパーティーでも家の名前でプレゼントをもらうから、これは薫さんが個人で選んだという形になる。
薫さんが用意してくれたのは、サンストーンのネックレスで淡い橙色がいい感じに光を輝かせていた。
お値段諭吉さん一人あたり。家名義だと諭吉さんの桁が変わる。
「ありがとう♪
大事にするわね」
「俺達からは三人連名だ。どうぞ」
三人を代表して栄一くんがプレゼントを私に渡す。
笑顔でお礼を言ってそれを開けると、中から出てきたのは万年筆だった。
「お前は結構サインをする機会が増えているからな。
三人で合わせて、そこそこのを用意した」
「ありがとう♪
今度書く機会があるから早速使わせてもらうわね」
お値段三諭吉ぐらい。
大体の金額をさらっと四人で決めてきたな。これは。
「桂華院。
お前が前に出て使うって事は何か大きな事を決めたな」
光也くんの話の振りに私は苦笑して言い切る。
こういう所でも政治の話が出てくる私達は小学生。
「ええ。
売り言葉に買い言葉で、新宿新幹線建設してしまおうかと」
さらりと言って唖然とする四人。
経済財政諮問会議の整備新幹線の一件はニュースになっていたので四人とも知っているらしい。
何しろ建設費用二兆円の超巨大プロジェクトである。
これは都の岩沢知事がバックに付いて支援を表明していた。
「『新宿ジオフロント計画』。
新幹線新宿駅を再開発の核として、いろいろやりたいみたいね」
現在のこの国の治安はバブル崩壊と共に悪化しておりなんとか押し留めてはいるが、二級国民問題を中核にした治安対策は各自治体にとって待ったなしの方向になっていた。
それに対する策として副知事が主導して監視カメラの設置と警察官の増員及び、法改正を視野に入れた民間警備会社や探偵及び賞金稼ぎ等の提携などを始めており、都心公共事業兼雇用創出の切り札として都が大々的に発表していた。
「あれ結局自腹を切るのか?」
「第三セクターの関係で都が絡むのと、国は許可を出すだけになるけど乗り入れる鉄道会社の方は諸手を挙げて賛成するみたい。
京勝高速鉄道や新常磐鉄道の件で縁があったのも大きかったし、ICカード事業にも絡む予定。
まずはこっちの勝利って所ね」
栄一くんの質問に私はケーキを食べながら返事を返す。
何しろ東北・上越・長野・山形・秋田と新幹線が東京目指して走ってきており、既に終点の東京駅の処理能力は飽和しきっていた。
根回しについては林政権下で大体終わり、後は金を誰が出すかの所で止まっていたから、ここさえクリアできるならば武永大臣と言えどもストップは掛けられない。
勝ったというより、お手並み拝見という所だろうか。
「あの人の動きにみんな右往左往しているよ。
桂華院さんも気を付けてよね」
父親がそれに巻き込まれ中の裕次郎くんの声にはどこか大人びた重さがあった。
私も同じような声で返事をしたのだろう。
「ええ。
分かっているわよ」
「楽しかったぁ♪」
「今日は呼んでいただいてありがとうね。瑠奈さん」
「次の誕生日誰だっけ?」
「俺だ。
5月30日」
「じゃあまた、その前後でここでパーティーをしようぜ!」
「いいよ」
「異議なし♪」
そうやってみんなと別れる。
迎えの車に乗ると、橘がちいさな小箱を用意してくれていた。
「これは我々からのプレゼントでございます」
開けると小さな箱に入っている香水が一つ。
もちろん超高級ブランド品だ。
「お嬢様はこの香水が似合うレディーになられるお方。
その時まで我々はお側にお仕えいたします」
「ええ。
約束よ♪」
そう言って私は小指を差し出し、橘もはにかんだ笑みで指切りをした。
こんな日が続けばいいと思った。
それが続かないことを知っているとしても。
アロエヨーグルト
この年ブレイクらしい。
パーティーの食材
みんなで持ち帰って、お付の人達の夜食となった。
なお、後藤家は家族みんなで食べたらしい。
新宿ジオフロント計画
大深度地下の活用による地下街の拡張の他に、地下駐車場の大規模整備が目玉の一つになっている。
これは何かあった時に余剰スペースとして使えるようにという副知事のアイデア。
瑠奈がもらった香水
英国王室御用達。
小瓶で二・三人諭吉が消える。