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590 モドキの狙い


 シエラが去った後、俺たちはようやくロブレンと接触できていた。


 シエラ少年に気をとられていて気付かなかったが、同じ港にいたのだ。


「町中ではもう少し大人しくしてくれるとありがたいかなー」


 ロブレンは、当然先程のシエラとの一件を見ていたのだろう。苦言を呈された。


 特にウルシかな? 急にあれだけ大きな狼が出現して、威圧を放ちながら獰猛な唸り声を上げたのだ。


 幸い、港に人がいなかったからよかったが、場合によっては大騒ぎになっていただろう。冒険者や衛兵が出動する事態になっていてもおかしくはなかった。


『フラン、ウルシ。謝っておけ。確かに俺たちが悪い』

「ごめんなさい」

「オン」

「分かってくれればいいんだ。次は気を付けてくれよ?」


 あれ? それで終わり? もう少し小言が続いても仕方なかったと思うんだが。


 やはり高位冒険者とは思えないほど、柔和な男だな。


「ねえ、シエラの持ってる剣。あれ、なに?」

「気になるのかい?」

「湖にチャポンて浸けてた」

「え? そんなことしてたかい?」

「ん」

「うーん、シエラが冒険者になった頃にはもう持ってたね。6、7年くらい前かな」


 なに? 6、7年前って言ったら、シエラはまだ本当に子供だぞ?


「この国だと、そんな子供が、冒険者になれる?」

「まあ、登録はね。12歳を超えるまでは、ランクGから上がれないから、雑用しかできないんだ」


 なるほど。冒険者になろうっていう子供が、まともな素性なわけがない。追い返しても、犯罪に手を染めるか。野垂れ死ぬだけだろう。なら、仕事を与えてやる方が子供にとってもマシってことか。


「あの剣は……。この辺だと、呪いの魔剣と言われてるよ。あの剣を無理やり奪おうとした冒険者が、ことごとく不運に見舞われたんだ」

「……死んだの?」

「いやいや、せいぜい大怪我をした程度だね。当初はシエラが何かしたんじゃないかって言われていたけど、全部にアリバイがあったんだ。でも、無関係とも思えない。だから呪いさ」

「なるほど」


 邪気が関係しているのだろうか? 呪いをかけられた様子はなかったし、呪いは状態異常耐性で防げるはずだからフランは大丈夫だろう。


 結局、ロブレンは剣に関してそれ以上の情報を持っていなかった。まあ、魔剣というなら、探査や感知系の能力があるのかもしれない。


 それで、湖の異変を調べていたのだろう。


「シエラがモドキのことを調べているのは知っていたけど……。何か掴んでいるのかな? 次に会ったら聞いてみるか」

「その時は私にも教えて」

「おや? もしかしてフランも異変について調べているのかな?」

「ん」

「こんなところでどうしたのかと思ったら、そういうことかい。でも、セフテントを離れていいのかな?」


 ロブレンは、どうやらフランが魔術学院の教官になったという情報はすでに掴んでいたらしい。


 それならば話は早い。


 俺たちはロブレンを捜していた理由を説明し、何か情報がないかと尋ねる。勿論、ウィーナレーンの名前もしっかり使わせてもらったよ? それが一番話が早いからな。


 すると、ロブレンも納得したようにうなずいた。


「なるほど。ウィーナレーン様が腰を上げたのか」

「ん」

「実は、ちょうど今から商会に行って、資料をもらってくるつもりだったんだ」

「資料?」

「ああ、良ければ一緒にどうだい? 手伝ってくれたら、助かるんだけど?」


 その方が早く情報を入手できるだろうし、話ももっと詳しく聞きたい。ここは手伝う方がいいだろう。


「わかった」

「おお、ありがとう。じゃあ、行こうか」


 商会に再び戻ってきたフランを見て、情報の不備に文句を言いにきたとでも思ったらしい。先程と同じ担当の人が真っ青になっていたが、そうじゃないと分かると非常に丁寧に対応してくれた。


「よく分からないけど、助かったよ。こんな簡単に資料を見せてもらえるとは思ってなかった」


 積み荷の情報などは、商会の機密に抵触する場合もある。ロブレンがランクB冒険者とは言え、そこまであっさりと見せてもらえることは稀だという。


 それが、今回はお願いしたら即座に資料室まで案内された。それに驚いているらしい。


「普通は、これこれこういう資料が見たいとお願いして、それを持ってきてもらうんだ」


 しかも、それは持ち出し禁止が当たり前だし、写しをとることさえいい顔をされない。


 資料を見る者が見れば、商会の内情や、仕入れの状況も全てわかってしまう。だからこそ、普通は冒険者に情報を全部開示するなど絶対にしない。


「さっききた時にウィーナレーンの名前を出したから」

「ああ、それは確かに怖いかもね。あの方に逆らったら、この国じゃ生きていけないし」


 そうこうしているうちに、資料室に到着する。そこにはすでに、いくつかの資料が机の上に出された状態であった。


 お茶もポットと一緒に用意されているし、お茶菓子まで置かれている。


 至れり尽くせりだ。やはり、ウィーナレーンがそれだけ恐ろしいらしい。その部下と思われるフランに、できるだけ便宜を図ろうというのだろう。


「何を調べるの?」

「襲われた船の積み荷だよ」


 なんとロブレンは、方々の町の商会を回り、モドキに襲われた船の積み荷を調査しているという。


 場合によっては船長などに話も聞いているそうだ。


「人の魔力目当てで襲われたのか、特定の積み荷が狙われているかをハッキリさせようと思って。フランさんは、こっちの資料の確認を頼むよ」

「……わかった」


 一瞬、メッチャ嫌そうな顔をするフラン。


 だが、ここまできて断ることはできなかった。


『フラン、頑張れ』

「……ん」


 そうして2人は資料を読み、船の積み荷をリストアップしていく。根気の必要な作業ではあるが、フランはそれでもやり遂げた。


 何度か居眠りしそうになったが、俺が声をかけたらすぐに復活して、作業に戻ったからな。偉い偉い。


 全ての資料を確認し終えたのは1時間後であった。


 ロブレンがすでに調べ上げていた他の商会の積み荷のリストと照らし合わせ、1つの結論に達する。


「何か分かった?」

「ああ。襲われた船、全てに積み込まれていた荷は1種類しかなかったよ」

「なに?」

「緋水薬。もしくはその原料となる緋水草だね」


 確かに、全部の船には緋水薬や緋水草が積まれていた。あとは食料品類だが、パンや小麦をモドキが狙うとは思えなかった。


「人間の魔力を狙ってという線も完全に消えたわけじゃないけど……」

「魔獣とかもいる。人を襲うのは変」

「そうなんだよね」


 魔力を摂取したいのであれば、もっと手頃な獲物がいるだろう。レイク・マーダーのような魔獣なら、人間よりも魔力が多いはずだ。そして、モドキであればその強さも全く問題にならないだろう。


「……工房に行ってみるか」

「工房?」

「緋水薬を製造している工房さ」

「どこにある」

「商業船団だよ」


前話の、マグノアリア家に伝わる能力に関して、作者が設定を勘違いしておりました。

邪神の魅了ではなく、邪神の聖餐という能力でした。数日以内に書き直します。

そのシーンと前後の会話が少し変更されるだけですので、ストーリー自体に大幅な変更はありません。

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