589 邪剣とシエラ
「……」
「……」
フランとシエラが無言でにらみ合う。フランはいつも通り無口無表情なだけだが。
結局、シエラが視線を外し、フランの横を通り過ぎようと歩き出す。
その瞬間、フランの横にいたウルシが一気に巨大化すると、フランとシエラの間に割り込んだ。
「グルルル……」
威圧を全開にして唸り声を上げるウルシ。殺気すら混じったその反応に、シエラが驚いた様子で足を止める。
ウルシの視線はシエラ――ではなく、その腰に下げられた剣に向いていた。
ウルシが警戒するほどの魔剣ということか? いや、だからといってこの反応は? 殺気を放つ相手が、強力な魔剣を所持しているからか?
俺は疑問に思いつつ、シエラとその魔剣を鑑定した。
『どうってことないが……?』
シエラのステータスは以前見たものと変わらない。年齢の割に強いことは確かだが、せいぜいがランクD冒険者程度の能力だった。
だが、剣を鑑定してみて、俺はウルシが警戒する理由が分かった。
『銘が不明だと?』
相手が俺よりも格上で鑑定に失敗した場合、ただ表示されないだけで終わる。不明とは表示されない。
不明と表示されるのは邪人や邪気を纏ったものだけだった。なるほど、ウルシは邪気察知のスキルを持っている。俺やフランでも感じ取れないごくわずかな邪気を、剣から感じ取ったのだろう。
『ウルシ、少し抑えろ』
「ガル……」
ウルシが大型犬サイズに戻り、その威圧を弱めた。だが、いつでも飛び掛かれる体勢のままだ。シエラにもそれが分かるのか、こちらも警戒した様子で身構えている。
「その剣……どこで手に入れた?」
「……教える必要があるか?」
その声を初めて聞いたかもしれん。思ったよりも甲高い声だ。
「邪気が感じられる」
「だから?」
「別に」
「ふん」
今の反応、シエラは自分の剣に邪気が秘められていることを理解しているようだ。正直、どうするか迷う。
しかし、本人に邪気は感じられないし、邪気の籠った武器を持っているからといって、邪悪とは限らないだろう。
俺だってそうなのだ。いや、むしろもっと酷い? なにせ、邪神の魂の一部が封じられている。そんな俺を使うフランは邪悪なのか? 違う。ただ、使っている剣に少々曰くがあるだけである。
シエラもそうなのだろう。
少年は不快そうに眉をひそめると、そのまま歩き出す。ウルシの威圧に軽く驚く程度で済むのは凄いな。実力で言えば、瞬殺されてもおかしくはないはずなんだが……。凄まじく度胸があるらしい。
そのままウルシを避け、フランとすれ違う瞬間だった。シエラが足を止め、口を開く。
「……ウィーナレーンは、ロミオを殺すかもしれない」
「! どういうこと?」
「だが、あの女がそれを決めたということは、それが必要だということだ。その時は余計な真似はするな」
「まて! 説明する!」
「……ウィーナレーンに聞け」
シエラはそれだけ言って歩き去ろうとしたんだが、フランがそれを許さなかった。前に回り込み、睨みつける。
「……マグノリアの血筋には、『邪神の聖餐』の力が秘められている。だが、その力を使用すれば、ロミオは死ぬ」
「じゃしんのせいさん?」
「邪人を喰らい、邪気を吸収し、己が力と変える、邪神より与えられた邪悪を統べる為の悍ましい恩寵。それがマグノリアの邪神の聖餐。各家に伝えられる邪神の恩寵こそが、ゴルディシア3家の力の源泉だ」
ゴルディシア3家って、邪神を封じているっていう、神官みたいな家系だったよな? マグノリア、カメリア、ウィステリアの3家だ。もう滅ぼされたっていう話だが……。
今の話だと、邪神に力を与えられた? つまり、邪神を崇めていたのか? なのに、邪神を封印していた?
「邪神に与えられた?」
「自分で調べるんだな。今重要なのは、この湖だ。ここに封じられた魔獣には、邪神の欠片の力も取り込まれている。その力を抑えるには、ロミオを生贄にし、邪神の聖餐の力を利用して封印を行うことが最良の道だ」
おいおい、湖の大魔獣には邪神の力まで混じってるのか?
「何でそんなこと知ってる?」
確かに、シエラはロミオのことに詳しすぎる。ただの調査でここまで知ることができるとは思えなかった。しかし、シエラが答えてくれるわけもない。
「お前には関係ない。とにかく、俺やウィーナレーンの邪魔をするな。それだけだ」
冷めた表情で告げるシエラに、フランが反発するように言い返す。
「ロミオは死なせない!」
「……? お前は、ロミオの敵じゃないのか?」
「なんで?」
「ゼロスリードの敵なのだろう?」
「ん。ゼロスリードは敵。でも、ロミオは別に敵じゃない」
「……ちっ」
シエラは何をどこまで知っているんだ? ロミオやゼロスリードとフランの関係を知っている理由がよく分からない。
何者なんだ? 俺が疑問に思っていると、フランが立ち去ろうとしてるシエラの背に疑問を投げかける。
「お前は……ロミオのお兄ちゃん?」
「違う」
シエラはそれだけ答えると、町の雑踏の中へと消えていった。
『ロミオの兄? どうしてそう思ったんだ?』
「色々詳しかったから」
『なるほど。まあ、マグノリアの血の力とか、その辺を知っている理由にはなるか』
「それに……」
『それに?』
「ロミオに似てた」
『そうか?』
確かに髪の色などは同じだが、そこまで似ていたか?
「ん。目がそっくり」
『目?』
「私を睨む目が、同じだった」
ああ、言われてみると確かに似ているかもしれない。ロミオがフランに向ける目と、シエラがフランに向ける目。敵愾心の混じった鋭い目は、雰囲気がそっくりだった。
なんでフランにあんなことを教えたんだろうか? 何が狙いなんだ?
いったい、何者なのだろうか。ともかく、タダの冒険者ではないことは確かだろう。
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