第30回【詳報】山上被告「生きているべきでなかった」「多額献金なければ」

 安倍晋三元首相銃撃事件の第10回公判は20日午後、奈良地裁で開かれています。被告人質問があり、山上徹也被告(45)が証言台に立ちました。初公判で「すべて事実です。私がしたことに間違いありません」と話した山上被告が何を語ったのか。タイムラインで詳報します。

17:05被告人質問 来週も

 この日は午後5時過ぎに閉廷した。次回公判は25日午後1時10分からで、引き続き被告人質問が行われる予定だ。

16:35「神のために献金」 そして破産、母は「ショック」

 弁護側の質問が続いた。

 経済状態が良くないため、兄は大学を目指したが、山上被告自身は就職することを決めたという。

 「兄と妹を養うだけの経済力は母にはない。母を助けなければと思ったが、旧統一教会に対する反発があった」と話した。

 自衛隊に就職後、母親から現金を無心された。最初のころは応じたことも何度かあったが、「納得していたわけではなく、『おそらく母親が旧統一教会に献金させられたのだろう』と思った」。半ば無理やり取られたという感覚があり反発を覚え、断るようになったという。

 だが断っても、何度も電話があり、着信拒否をしていた時期もあったという。

 2004年ごろ、母親が破産したと聞かされた。

 「母はショックを受けていた。統一教会の教義に照らしても神のために献金していれば救われる。破綻(はたん)することはない。裏切られたというか、その事実にショックを受けていると感じました」

 その後、山上被告は自殺を図る。職場での生活がうまくいっておらず、父が生きていれば果たすべきだったであろう役割を押しつけられたことに嫌気がさした、と話した。

16:25自宅押し入れに大量のつぼ

 山上被告への質問は続いた。高校の卒業アルバムには将来の夢として「石ころ」と書いたという。

 どういう意味か尋ねられると、「ろくなことがないだろうということです」と答えた。

 自宅の押し入れには旧統一教会に関する本や高麗ニンジンのエキス、高額なツボが大量にあったという。

 高校卒業後の6月には、母親と2週間ほど韓国へ行ったという。「母の強い勧めで断り切れなかった」と振り返った。

 韓国では講堂のような場所に大勢の人がいて、身体をたたくなどしていたという。

 他にも旧統一教会の関連施設に行ったことがあるといい、「母親や、母親の信仰仲間の女性から『ぜひ行ってみろ』と勧められた」と経緯を語った。

16:00応援団に入部「忍耐の訓練になると」

 弁護側から山上被告に対して、被告自身や家族のこれまでについての質問が続いた。

 山上被告は、旧統一教会に関するトラブルが起きるまでは順調な生活だったと述べた。

 中学2年の時、祖父から、母親が入信し、祖父の不動産を無断で売却して教団への献金にしようとしていたことを知らされた、と証言した。

 祖父は「いずれは全て財産を持っていってしまうぞ」と脱会を強く勧め、親族を呼んで説得したが、母親は聞かなかったという。山上被告は法廷で「どうしていいか分からないのが、正直なところでした」と述べた。

 祖父からは経営する会社を畳みたいから家を出ていくよう言われたといい、「中学生なので自活はできないので、何時間か外を歩いたり、駅のホームで座っていたりということはありました」と証言した。

 弁護側から、高校進学後に応援団に入った理由について問われると、「イメージとして上下関係が理不尽なことがあり、忍耐する訓練になると思った。自分の置かれている家庭環境が理不尽に思えたから」などと答えた。高校の教師に相談はできなかったという。

写真・図版
山上徹也被告の家族構成

15:45母は「統一教会に関わり、理解しがたいことが多々」

 初めての被告人質問が始まった。山上被告はゆっくりと証言台に向かい、椅子に座った。

 冒頭、山上被告は弁護人からの質問に対し、45歳となった今まで、「(自分は)生きているべきではなかったと思います」「このような結果になってしまって、たいへんなご迷惑をおかけしておりますので」などと語った。

 また、母親の法廷での証言について、「相変わらずだなと思いました。非常にマイペースといいますか」とする一方、証言台に立たせる結果になったことを「非常につらい立場に立たせてしまったと思います。事件を私が起こしたことについて、母も責任を感じていると思うので」などと述べた。

 弁護側の「どんな母親だったか」という質問には、「基本的に悪い人間ではないが、統一教会に関わることは理解しがたいことが多々あった。あれほど多額の献金がなければよかったと思う」などと答えた。

14:50入学志願書に「カルト教団の被害者を救済したい」

 審理の再開後も弁護側の書証調べが続いた。

 弁護側からは、山上被告が東京にある大学の通信課程入学志願書に書いた志願動機の内容が明かされた。

 それによると「将来は法曹としてカルト教団被害者の一助となることが目標です」とあったという。

 また弁護側から、山上被告が旧統一教会の元教会長へ送ったとされる複数のメールが読み上げられ、「母を許すことは教団を許すことになる」「兄も私も、母と関わらない方がいい」などという内容が明らかにされた。

14:10兄のメール、母親は「悪魔だ」

 弁護側の書証調べで、山上被告の自殺した兄が、旧統一教会の元教会長に送ったとされる数多くのメールの内容が読み上げられた。

 弁護側によると、メールの中には、母親について「悪魔だ。無責任だ」、旧統一教会について「詐欺集団」「山上家は時間と金を奪われた。いいカモだった」などとする内容があったという。

 また兄は自身について「生きていても仕方がない」とする一方、別の日には「明るい家庭を築きたい。いい加減な親に苦しめられている子どもを救いたい」などとメールで語っていたという。

 午後2時半ごろから約15分間の休廷に入った。

13:45「『神様に呼ばれた』と韓国に行った」

 弁護側の書証調べが始まった。

 山上被告と妹や母親とのメールのやり取りの一部が読み上げられた。

 メールでは、母親が韓国へ渡ったことや、現金に関するやり取りがあった。「『神様に呼ばれた』と韓国に行った」と書かれたものもあった。

 弁護人による山上被告の兄の主治医に対する聞き取り調査の内容も明かされた。

 兄は主治医に対し、大学へ行けなかったことについて母親を責めており、「父親が死んだ保険金を団体に寄付し、大学に行けなくて憎い」と話していたという。母親に対し「死ね、死ね」と言い、それを母親が黙って聞いていたこともあったという。

13:20弁護士「教団に力、危機感」

 全国霊感商法対策弁護士連絡会メンバーである神谷慎一弁護士に対して、裁判員から、2021年に安倍晋三元首相が、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の友好団体のイベントにビデオメッセージを送ったことが与えた影響についての質問があった。

 神谷弁護士は、首相経験者が表立って後押しをすることが教団に力を与えてしまうという衝撃や危機感があった、などと述べた。

 また、弁護側からの同じ趣旨の質問に対して、「それまでは祝電を送るなどの関わりだったが、(ビデオメッセージでは)自分の姿をさらして本人の口からとなり、大きく違う」と、影響力の大きさを強調した。

 開廷から約30分で、神谷弁護士に対する証人尋問が終わった。

写真・図版
安倍晋三元首相は2021年9月、旧統一教会の友好団体が主催した韓国でのイベントにビデオメッセージを寄せていた

13:10元信者の弁護士の尋問 引き続き

 山上被告が黒の長袖シャツ、長ズボン姿で入廷。開廷前には資料に目を落としながら、弁護士と話し込む様子が見られた。

 第9回公判に引き続き、全国霊感商法対策弁護士連絡会メンバーで、自身も旧統一教会の元信者である神谷慎一弁護士の証人尋問が始まった。

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被告人質問のポイント

 世界平和統一家庭連合(旧統一教会)への恨みが、なぜ安倍氏に向かったのか。自身の言葉でどう説明するのか注目される。

 これまでの裁判では、弁護側の証人として被告の母親と妹が出廷。母親の信仰に翻弄(ほんろう)された家庭環境が浮かび上がった。

 母親は妹が小学1年のときに教団に入信した。やがて多額の献金が発覚し、家族は同居する祖父から「出て行け。面倒を見切れない」などと強くとがめられるようになったという。

 「祖父は私と徹也に愛情を注いでくれた唯一の存在だった」。だからこそ、行き場のなさを感じたと妹は証言した。

 「父親代わりだった」という祖父は、被告の高校卒業を前に亡くなった。被告は大学進学を断念し、消防士になろうと公務員試験の勉強をした時期もあった。

 2002年に自衛隊に入った頃、母親は自己破産。祖父が孫に残そうとした財産までも、献金につぎ込んだという。被告は05年に保険金の受取先を兄と妹にして、自殺を図った。

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 裁判では、10~12年ごろにやりとりされた被告の携帯電話のメールも示された。

 「愚かなことをし続けるなんてありえないどころじゃない」「老後どうするつもりなのか」。母親の献金を強くとがめる文言があった。

 「統一教会はおそるべし」「家がめちゃくちゃになった」。兄や妹とのメールからは、兄妹が教団への恨みを募らせていく様子が浮かんだ。

 兄は15年に自殺した。それから事件まで、被告は母親とはほとんど連絡をとっていない。

 22年に41歳で犯行に至るまでに何があったのか。被告人質問でどこまで解明されるかも大きな焦点だ。

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    藤田直哉
    (批評家・日本映画大学准教授)
    2025年11月20日18時0分 投稿
    【視点】

    一家の状態は本当に心が痛むぐらい悲惨な状態ですね。どうしてこれほどの状態なのに、福祉や支援などが届いていなかったのでしょうか。どうしてここまで人の不幸に付け込み家庭や子供に大きな被害を与えているような集団が野放しになっているのでしょうか。「小鹿が柵から抜け出せず死んでいた。ほんの少しの手助けがあれば死なずに済んだのだろうか? 2021-01-18 06:14:48」という彼のポストを思い出します。

    …続きを読む
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    杉田菜穂
    (俳人・大阪公立大学教授=社会政策)
    2025年11月20日19時2分 投稿
    【視点】

    「家庭の問題は家庭で解決を」というような価値観によって、「貧困や宗教を原因とする虐待は家庭の問題」などと矮小化されがち。そのことにもっと目を向けたほうがよい。

    …続きを読む

安倍晋三元首相銃撃事件

安倍晋三元首相銃撃事件

2022年の安倍晋三元首相銃撃事件で起訴された山上徹也被告の裁判が始まりました。旧統一教会の影響をめぐる検察と弁護団の対立などから公判前整理手続きが長期化し、初公判まで3年余りを要しました。関連ニュースをまとめてお伝えします。[もっと見る]

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連載深流Ⅶ 「安倍氏銃撃」裁判(全60回)

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