刑事裁判で認定された被害はほんの一部

民事訴訟の提起にあたっては、前段となる刑事裁判で実刑判決が出たことが足がかりとなった。児童養護施設という、外部から閉ざされた空間で行われた性的虐待が逮捕・起訴につながったのは、第1回で見た通り、産婦人科医が証拠物を残していたことが決定打だったと思われる。

「医師は平山さんの妊娠を性被害という前提で診察し、長期間、採取物を保存していたのだと思います。医師のその判断もそうですし、そもそも平山さんが施設を出てから相談した大人の人が、性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップセンターにつないでくださったことも重要なポイントでした」(井上弁護士)

刑事裁判で有罪と認められたのは中絶に至った性行為のみだった。長期間に渡った性的虐待については証拠がなく、立証の観点から立件が難しかったためだ。

懲役1年10月という量刑は被害者側からすると短い。だが、この判決をめぐっても、平山さんは周囲の「執行猶予に比べればいい」「実刑判決が出てすごい」といった、被害者の気持ちを無視した周囲の言葉に複雑な感情を抱いた。

「社会は変わらない」と言われたが…

今回の民事訴訟についても「あなたが発信しても社会は変わらない」と言われたという。

ところが、提訴の会見後、変化の兆しを感じることになる。黒田弁護士が言う。

「顔を出しての会見ではSNSでの誹謗中傷を心配しましたが、蓋を開けてみると、平山さんへの嫌がらせのコメントはほとんどなく、むしろ、応援の言葉のほうが多く、施設側の姿勢を問題視する書き込みがたくさんありました」

平山さんが初めて大人に被害を打ち明けてから今年で6年。2024年に大阪地検の女性検事が上司からの性暴力を告発したが、それも被害から6年後だった。告発の覚悟を決めるには相応の時間を必要とする。

「#MeToo運動」や、所属する陸上自衛隊での性暴力被害を告発した五ノ井里奈さんの姿が平山さんの背中を押した。

提訴は自分のためのものではないと平山さんは言う。

「児童養護施設で生活する子たちが自分のような被害に遭ってほしくないという気持ちです。民事訴訟を起こしたことも、顔を隠さずに会見をしたことも、同じ被害が繰り返されないためにはどうすればいいのかを考えた結果、自分で決断したことです」

全国に児童養護施設は約600。およそ2万2000人のこどもたちが生活している。

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