事実をあいまいにするから被害が減らない
回答書は、以下の理由から施設名を伏せるよう求めていた。
また、当法人内には、当該施設以外にも児童養護施設や障害児施設があり、多くの児童が生活しています。こうした児童についても同様の懸念を払しょくしきれずにおります。
しかし、本稿では、前述のように「施設のほかの子が被害者だと勘ぐられる事態を避けたい」と顔を隠さずに取材に応じた平山さんの意志に添い、法人・施設名を記載した。
2023年7月の刑法改正により、性行為への同意が得られると法的に認められる年齢(性交同意年齢)が、原則13歳から16歳に引き上げられた。16歳未満のこどもは性的な行為の結果について十分に理解し、判断する能力が未熟であると考えられるためだ。行為者が「5歳」以上年長の場合、処罰の対象となる。
平山さんの事案は刑法改正前の事件であるものの、当時14歳だった平山さんが性的な行為の結果について十分に理解し、判断する能力が未熟だったことはいうまでもない。
児童養護施設内の性的虐待に関して、「報道が騒ぎ立てることで、在園児童への誹謗中傷の二次被害が生じる」という意見は、本件に限らず、この領域の取材で必ず聞こえてくる。しかし、そのように事実を曖昧にすることが、被害を長期・拡大化し組織の改革を遅らせる。その結果、被害を受けるのは、ほかでもないこどもたちである。
心の傷は10年経った今も残っている
現在の平山さんは、自身に起きたことを対象化して自分の言葉で説明することができる。だが、提訴の決断までまっすぐに進んだわけではない。
警察に被害届を出したあと、平山さんは「性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター」につながった。
これは、性犯罪・性暴力の被害にあった人が、被害直後から医療、カウンセリング、法律といったさまざまな支援を、可能な限り1カ所で受けられるようにする総合的な支援拠点のことだ。被害者の心身の負担を軽減し、回復を支援することを目的に、2019年までに全国の都道府県に設置された。
平山さんはそこで初めて被害について法律家に話を聞いてもらうことができ、井上弁護士とも知り合った。
井上弁護士をはじめ専門知識を持つ支援者たちが、電話、メール、対面などさまざまな方法で、時間をかけて平山さんの話を聞き、サポートした。平山さんは2023年には受診していた精神科医に被害を話し、複雑性PTSDと診断された。治療は現在も続いている。