性暴力だったと認識したのは自立した後
自分のされていたことはおかしいと平山さんがはっきりと認識したのは、施設を出てしばらく経ってからだ。
一人暮らしを始め、働き出してから、職場で信頼できる人物と出会い、あるとき、施設でのことを話した。すると、話を聞いて驚いたその人に「あなたがされたことは性暴力だよ。被害を相談しよう」と言われ、平山さんはその人に付き添われて警察に被害届を出した。
5回以上受けた事情聴取では、屈辱的な質問に苦しい思いもしたが、事態は動いた。被害を決定する証拠物が見つかったのだ。
それは産婦人科クリニックに残されていた。担当した医師が、人工妊娠中絶の手術時に平山さんから採取した組織物を保管しておいたのだ。そのDNA鑑定により性行為の相手が特定された。被害届を出した4カ月後、加害職員は児童福祉法違反で逮捕された。
代理人の井上莉野弁護士はこう説明する。
「逮捕に至ったのは、採取物という客観的な証拠があったことが大きいと思います。密室で行われる性被害においては客観的な証拠がないことが多く、立証できないことも少なくありません」
「恋愛感情があったんでしょう」に傷ついた
逮捕後、加害者は弁護士経由で「謝罪文」という体裁の手紙を平山さんに送っている。「(平山さんが前に話していた)アニメを見たよ」といったおしゃべりのような文とともに、「おおごとにすると(平山さんの)お父さんが気づいて大変なことになる」と、平山さんの父への恐怖心をあおって被害届を取り下げるよう働きかける内容が書かれていた。
平山さんは言う。
「加害者は複数の在園児に裁判で証言をしてくれないかと打診していました。打診された子の中には応じる子とそうでない子がいて、応じる子から見ると私が悪者になってしまう。つらかったです」
施設の関係者から「恋愛感情があったんでしょう」と言われたのもショックだった。
「あなたも好きだったんでしょう、とか、好きじゃないならどうして性行為をしたの、と言った人もいました。でも、私は加害者に対して恋愛感情を持っていませんでした。『父親を求める感情』を利用して性行為に応じさせたことが、性的虐待の発端でした。でも、仮に恋愛感情があったとしても、児童養護施設の職員が施設で生活している未成年者に対して性的行為を行うことは間違っています」