第3章: 日本再生の「4つのプロセス」とは
アギヨン=ホーウィットの「創造的破壊」理論は、経済成長を単なる“結果”ではなく、社会全体で回す4つのプロセスとして説明する。
すなわち、
この循環が滞りなく回る社会こそが、変化を恐れず、変化を幸福へ変えられる社会である。
いま日本に欠けているのは、まさにこの循環の推進力だ。創造は少なく、破壊は遅く、成長は浅く、制度は硬い。アギヨン理論を日本再生の設計図として読み解くならば、この4つの歯車を再びかみ合わせることが「物価上昇を上回る賃金上昇」への唯一の道である。
1. 創造(Innovation)――新しい挑戦を生み出す
アギヨン理論の第一の歯車は「創造」である。創造とは、単なる発明や新製品の開発ではない。それは、社会が自らに新しい問いを投げかけ、挑戦の総量を増やすことである。
①λ(革新頻度)を高める国家戦略
日本の“企業新陳代謝率”(開業率+廃業率)は10%未満。米国や北欧に比べて半分しかない。「安定」が「惰性」に変わり、挑戦が制度に阻まれている。λを高める――すなわち“挑戦の呼吸”を取り戻すためには、次の政策が不可欠である。
・規制サンドボックスの常設化:AI、医療、建設、金融など新分野の社会実験を法的に保証。
・起業コストの引き下げ:登記、社会保険、税務を一元化し、起業を日常化する。
・大学発ベンチャー支援:研究成果の「社会実装」までを国家戦略に組み込む。
・公共データの開放:AI・医療・交通などの共通データをオープンにし、民間創造を誘発。
創造とは制度によって生まれるものだ。挑戦が例外ではなく、社会のルールとして機能するとき、λ(革新頻度)は自ずと高まり、賃金上昇のエネルギーを生む。
②経営の創造力――「自己破壊の文化」を持つ企業
企業にとっても創造は「選択」ではなく「必須条件」である。アマゾンが社内技術を外販してAWSを生み出したように、内部での挑戦を「仕組み」として制度化できる企業こそが、未来を掴む。創造的企業は、自らを更新する。新しいことを試す頻度がλを上げ、結果的に「創造的破壊」を企業内部で完結させていく。