空撮で動く黒い点「ミノかもしれない」 大火の規制線ではぐれた愛犬

根元紀理子 小勝周
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 大規模火災が発生した18日夕、渡辺寿賀子さん(64)は夫の敏夫さん(64)と大分市佐賀関(さがのせき)の自宅にいた。

 近くで火災が起きていると知り、12歳の雄のミックス犬「ミノ」と外に出た。

 100メートルほど離れた義母の家へ。火元の可能性がある場所から遠く、自宅より安全だと思い、ミノのリードを玄関の手すりにくくりつけた。

 高齢の義母を避難させたら、すぐに迎えにくるつもりだった。

 ところが、火は強い風にあおられ、勢いよく広がっていた。

 午後6時すぎ、自宅へ戻ろうとすると、規制線が張られていて近づけなかった。

 「ああ、ミノに気の毒なことをした」

 その後、少し離れて暮らす息子からLINEのメッセージが届いた。

 テレビの空撮映像に、自宅近くの運動場で動いている「黒い点」がある。ミノじゃないか――。

 運動場は、いつもの散歩道。メッセージを読んで「もしかしたらミノかもしれない」と思った。

             ◇

 170棟以上が焼け、一帯になお白い煙がくすぶる中、その住宅は延焼を免れていた。

 20日朝、土を掘り起こして火がないか確認する「残火処理」をしていた消防団員の首藤敏行さん(59)は、玄関先でくるくると回る犬を見つけた。

 首輪だけをつけている。「おいで!」と手を広げると、飛びついてきた。消防局からもらった緑のロープをリード代わりにし、水をあげるとゴクゴクと飲んだ。パンもあげてみたが、食べなかった。

 飼い主が心配しているに違いない。表札に「渡辺」とあった。

 避難しているだろう。公民館に行き、表札の名前を頼りに捜した。

             ◇

 20日午前10時。108人が身を寄せる公民館に首藤さんが訪れた。

 その手には緑色のロープが握られ、全体が黒で口元や脚が白の毛の犬を連れていた。

【動画】大分の大規模火災で、救出された犬「ミノ」=小勝周、根元紀理子撮影

 渡辺さんが右手を差し出すと、ミノは手のひらに鼻を近づけ、尻尾を右と左に大きく振った。

 40時間ぶりに果たした再会だった。

 「生きていてくれて、ありがとう」

 10年以上、一緒に暮らしてきた家族に語りかけた。

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