東広島市にある実家の庭先で夕暮れまで柿をもいだ。ことしは豊作だ。袖口で拭って、かぶりついた。思い浮かんだのは〈柿くへば鐘が鳴るなり法隆寺〉。正岡子規の句である▲無類の柿好きだった。胃を壊して医師から止められた際、そばで食べる家族をうらやむ句を残す。病に伏せった晩年も〈三千の俳句を閲(けみ)し柿二つ〉と詠んだ。新聞の俳句欄選者として応募作に目を通し、うれしそうに大好物に手を伸ばす姿が浮かぶ▲旬の味覚とは違う面で柿が注目される。人里に下りてきたクマがむさぼり食う。身の毛もよだつのは本紙1面に載った写真だ。廿日市市の山里で、民家そばの木によじ登る巨体を捉えた▲もう収穫しない柿や栗の木は切ってください―。補助金を出して住民に促す自治体が増えている。一つの危機回避策だが、いざとなると懐かしい思い出がよみがえろう。子どもの頃の木登り、ねっとり甘い干し柿…。昔から暮らしに根を張ってきた▲子規はクマについても詠んでいる。〈うつむいて谷見る熊や雪の岩〉。人目の届かぬ奥地で冬ごもりする姿を想像したのだろう。季節の移ろいを表す七十二候で「熊蟄穴(くまあなにこもる)」は来月12~16日。クマよ、早く山に戻れ。