Welcome Kivotos
「…んん?」
扉を潜りそう時間は立ってはいないだろう。
目を開けたネイトの視界に飛び込んできたのは打ちっぱなしのコンクリートの天井だった。
「…ホントに二回目の人生貰っちゃったよ。」
正直今わの際に見た夢か幻でもよかったがどうやら自分は生きていて…
「あぁ、ここまで自由に体が動かせるのも久々だ。」
かつての活力みなぎる体に若返っているのは現実でしかない。
無論、彼女の贈り物はネイトの体だけではない。
「おぉ…どこでこんなにかき集めてきたんだ?」
腕に装着されたPip-Boyを操作しインベントリ等を確認すると感嘆の声が漏れる。
かつて自分が愛用していた武器はもちろん、アーマーや薬品類。
果てにはクラフトに必要な資材も潤沢にこの中に入っていた。
「…さて、頼まれたしもらうもん貰ったのならやることやらなくちゃな。」
彼女、梔子ユメは万全の状態で自分をこの世界に送り込んだ。
ここで彼女の約束を反故にするのはネイトの信条にはない。
「何があるか分からないし、とにかく頑丈なのを着ておこう。」
一先ず、インベントリ内から愛用の衣服をまとう。
『シルバーシュラウドの衣装』、黒いトレンチコート上の衣服だが対人ダメージを軽減する効果に加えアーマー並みの防御力も兼ね備えている。
その上さらに最上級の『バリスティックウィーブ』強化も施し並の弾丸では貫けない強度となっている。
本来なら拳銃の一丁でも腰に差しておきたいがもしかしたら武装しているとまずい状況かもしれないのでそれは後程。
「さて、まずは外の状況を確認しなくちゃな。」
室内の状況からどこかの廃ビルの一室なのだろう。
窓もあるので一先ず外の様子を窺うと…
「…え?」
そこには一面の砂漠が広がっていた。
それもただの砂漠ではない。
多くのビルや家、果てには電車を飲み込んだ砂漠だった。
「おいおい…荒廃具合…昔のボストンとそう変わらないんじゃないか…?」
衝撃の光景に顔が引きつるのが分かる。
…が、
「…ま、輝きの海でもない限り何とかなるか。」
言ってもただの砂漠。
放射能やら放射能で突然変異したクリーチャーがうようよいるような環境でもない限りできないことはない。
「とりあえず下に降りるか。」
Pip-Boyにもクエストとオプションが表示されている。
『アビドス高等学校』というのがどこにあるかは分からないが最悪Perk『V.A.N.S.』のナビ機能を使って現地に向かえばいいだろう。
軽やかになった足取りを確かめるように階段を降りネイトは砂漠の大地に降り立った。
「…暑い…。」
日陰だった室内から出たので当然だが当然暑い。
格好も格好なので余計に。
「上着だけでも脱いでおくか…。」
最悪このままでは目的地に着く前に熱中症で倒れかねない。
コートを脱ぎ下のシャツの袖をまくって日差し対策のサングラスも装着し砂に埋もれたアスファルトの道を進んでいく。
その最中でも手に入れられる情報は調べていく。
(東西南北、日が昇る方向は前の世界と変わらない。空には巨大な輪っか、あれは何なんだ?六分儀があれば天測も出来るが…。で、一番気になるのが…。)
Pip-Boyをいじりながら周囲に目を配るネイト。
目に入ったのは朽ちて倒れた道路標識だ。
そこに記されているのは『日本語』だ。
生まれも育ちもアメリカだったネイト。
一応簡単なあいさつや会話くらいなら何とか出来るが読み書きはやったことがない。
到底読めないはずだが…
「アビドス西八十四丁目…読めるな。」
なぜかすらすらと日本語が読めて淀みなく発音ができた。
どうやらユメがまたどうにかしてくれているらしい。
(彼女には感謝だな。)
未知の土地で言葉に不自由しないのは助かる。
「というか84ブロックってどんだけ広いんだ、ここ…。」
と、想像以上に道のりが長いことをいやいやながら思い知らされげんなりするネイト。
と、その時。
「……ン?」
鍛え上げられたネイトの
数は一つ、音からして自転車だろう。
自分でいうのは何だがこんな砂漠地帯で単独行動する部外者はそうはいないだろう。
つまり、この近づいている物は現地民の可能性が高い。
「ちょうどいい。道を聞けるかもしれない。おーい!」
これ幸いとネイトは声を上げその人物に呼び掛ける。
え?いきなり攻撃を仕掛けてくるようなやつかもしれないのに無警戒すぎるって?
その時は相手が武器を向けた瞬間殴り倒して情報を聞き出すだけである。
『!』
どうやら自転車にまたがっている人物もこちらの存在に気が付いたようだ。
近づくにつれ徐々に速度を緩め、互いの姿が鮮明に捉えられる距離まで近づき止まってくれた。
が、
「ん…どうかし…?!」
自転車にまたがっていた少女はネイトの姿を見て固まった。
「大人の男の人…?!」
どうやらいきなり大人の男に声をかけられたことに驚いているようであるが…
「え…?」
驚いているのはネイトも同じであった。
ここは連邦ではない、少女が一人でサイクリングしていても問題ないのであろう。
だが、ネイトが驚いたのはそんな彼女の容姿だ。
水色の瞳にセミロングの銀髪、こんな暑いのになぜかマフラーを巻いているのは変わっているが服装はセーラー服。
頭上にはユメと形状は違うが銃の照準を模したような輪っかが浮かんでいる。
どこかの学生だというのは一目瞭然だが…
「ライフルに…狼の…耳…?」
後ろ腰にはカスタマイズされたライフルを提げている。
が、銃が必須だった連邦に暮らしていた身である。
少女が武装しているのはさして問題ではない。
ネイトが目を見張ったのはその頭部にはイヌ科の、それも狼をほうふつとさせる耳が生えていた。
カチューシャなどの装飾かとも思ったが今現在ひょこひょこ動いているので間違いなく本物だろう。
「「…………。」」
互いの衝撃が妙に重なり妙な沈黙が流れる。
最初にこの沈黙を破ったのは…
「…ん…こんなところで何をやっているの?」
狼耳の少女のほうだった。
「あ、あぁすまない。少し道を尋ねたくて…いいかい?」
「ん…構わない。けれど、私もあなたに聞きたいことがある。」
「なんだい?」
「あなた…外から来た人なの?」
頭の上からつま先までなめるように確認しながら少女はネイトに尋ねる。
嘘をつく理由もない。
「まぁ、そうだな。ある人に頼まれてここにやってきた、って感じだ。」
今は余計な混乱をもたらさない為に梔子ユメのことは伏せて真実を告げる。
「……ん…分かった。じろじろ見てごめんなさい。『人間』の大人の人を見たのは初めてだったから。」
「いやこちらも…ん?人間を見るのが初めて?」
今度はネイトが少女に聞き返す番だ。
今、彼女は自分を見て人間といった。
ユメを見てからここの住人は頭に輪っかが浮かんでいる者もいるんだなぁ、くらいには思っていた。
だが、この少女の口ぶりからしてその認識は誤りのようである。
むしろ、頭に輪っかの無い自分はどうやら希少なようである。
「ん…貴方、キヴォトス人を知らないの?」
「き、キヴォトス?」
少女の口から出た『キヴォトス人』という耳なじみのない言葉に首をかしげるネイト。
「…すまない、俺はどうやらここのことに無知すぎるようだ。よかったら、ここがどんな所か教えてはくれないか?」
大の大人が情けない話だが知らずにいるよりもここで基礎くらいは知っておいたほうが身のためである。
「ん…分かった。歩きながらでもいい?」
「あぁ、構わない。」
少女もそんなネイトの頼みを聞き入れ道すがらこの地のことを教えてくれた。
この場所の名前は『キヴォトス』。
なんと数千の学校、その学校それぞれが運営する自治区で構成された超巨大学園都市とのことだ。
住人は二足歩行の犬や猫、ロボットなど多種多様な種族が暮らしている。
そして、その中でも最も特徴的なのが少女のような人間に近い見かけをし動物の耳やしっぽや角などが生えていたりもして頭上に輪っか『ヘイロー』をいただく種族、『キヴォトス人』だ。
そして『ヘイロー』以上にキヴォトス人の特徴なのが『異常なタフネス』だ。
なんと銃撃、爆発、物理的衝突を耐える非常に頑丈な体を持っている。
どれほどかというとヘッドショットを受けても最悪気絶で済み、中にはびくともしないものまでいるというではないか。
さすがに気絶状態からさらに食らい続けるとまずいがそれでも銃撃戦で命を落とす事態はまれであるらしい。
なので、ここキヴォトスでの武力衝突のハードルは非常に低い。
さらに銃だけではなく、個人や一学校が装甲車…どころか戦車まで保有し公道を疾走可能。
一部組織は戦闘ヘリまで保有しているらしい。
(オイオイ…昔の連邦よりもやばい感じじゃないか、ここ…!?)
ネイトの印象であるが…連邦より数割増しで危険地帯のように思えた。
連邦はまだ、『脅迫』とか『交渉』など銃撃戦に発展しないよう心掛けられればやろうという気持ちは一応あったが…。
「ん…これがキヴォトスや私たちの大まかな紹介かな。」
「ちなみに外部から俺みたいな人間が来ることってあるのか…?」
「私が知る限り…貴方が初めて。だからさっきは少し驚いてしまった。」
「…そうか、ありがとう。」
一通り、キヴォトスのことを知ることができたことにネイトは礼を告げる。
すると、
「ん…じゃあ、今度は私の番。」
「そうだな。こういうのはギブ&テイクだ。答えられる範囲は答えよう。」
質疑の立場が入れ替わり少女がネイトに一問一答形式でいろいろ尋ねる。
「それじゃあ…貴方の名前は?」
「名前はネイト。短縮形の名前だがこれで皆に呼ばれている。」
「ん…じゃあネイトさん。ここに来る前は何をしていたの?」
「前職は軍人、今はエンジニア…というより何でも屋だな。」
「おぉ~軍人さん。じゃあ銃も撃てる?」
「それはもちろん、引き金と照準に弾があればいろんなのを扱えるぞ。」
「今持ってるの?」
「持ってるがちょっとしまっている。」
「今は私がいるからいいけどここで暮らすなら最低でも拳銃くらいは提げておいたほうがいい。不良やスケバンに絡まれるよ。」
「分かった。今度から気を付けるしいつでも取り出せるようにしておく。」
そんな感じで少女もネイトのことの情報を得ていく。
そして、これが彼女にとっての本題だった。
「ん…じゃあネイトさん。どこへ行くつもりなの?」
ネイトがなぜここにいてどこへ向かうかについての質問だ。
その問いに対しネイトは、
「先も言ったがある人に頼まれてな。『アビドス高等学校』へ向かっていたんだが場所がはっきりわからなくてな。」
隠すことでもないので非常にあっさりと目的地である『アビドス高等学校』の名前を出す。
その瞬間、
「!」
少女は今日一番目を見開き驚きの表情を浮かべた。
「…何か気に障ってしまったか?」
「…私の学校…。」
「え?」
「…アビドス高等学校は私が通っている学校。」
「え、そうなのか!?」
なんとこの少女の通う学校、それこそが目的地であるアビドス高等学校なのである。
「じゃあ話が速い。君について行っても構わないか?」
「ん…構わない。お客さんは久しぶり。みんなも歓迎してくれると思う。」
「でも驚かないか?いきなり俺みたいなやつが来て…。」
「驚くとは思う。でも大丈夫。四人ともとてもいい人たちばかりだから。」
「それはよか…………え、四人?」
何やら聞き捨てならないキーワードが聞こえた気がした。
どういう意味か、聞きただそうとしたその時だった。
ドォォォン、という遠雷のような音がそう遠くない場所から聞こえてきた。
さらに引き続き、銃声も絶え間なく聞こえてきている。
「「ッ!!!」」
瞬時に二人は会話を切り上げほぼ同時にその方向に顔を向け、
「行くぞッ!」
「うん!」
再びほぼ同時に走り出した。
走り出すと目的の場所はすぐだった。
ネイトのイメージするような学校、その校庭で爆煙が上がり今なお銃声が鳴り響いている。
「皆…!」
到着するや否やいの一番に校庭に、戦場に銃を構え飛び込もうとする少女。
だが、
「待て、いきなり飛び込むな…!」
「放して…!みんなが戦っている…!」
「いいから、こっちだ…!」
ネイトはその少女を制し一旦校門わきの壁に身を隠した。
「少し話を聞け…!奴らは今撃ちまくってる。これはどういう意味か分かるか?」
「そんなの…学校が襲われていることだって誰にでも分かる…!」
「そうだ、今現在奴らは攻撃中だ。つまり、中にいる生徒たちも応戦中ということだ。」
「!」
「深呼吸をしてよく聞くんだ。君に友達の銃声が聞こえるはずだ。」
目線を合わせ諭すように語り掛けるネイトの言葉。
その言葉に彼女は冷静さを取り戻し、
「すぅ~…ふぅ~…。」
深呼吸をして戦闘音に聞き耳を立てる。
するとしっかりと聞こえてくる。
いつも聞く仲間たちの声とその得物の銃声が。
「…聞こえる。みんなまだ無事なはず。」
「そうだ、それでいい。少し落ち着いたか?」
「うん…声を荒げてごめんなさい。」
「いいさ、若いうちはそんな無鉄砲さも悪くない。」
そういいつつ、ネイトはミラーを物陰から出し線上の状況を確認する。
校庭には様々な遮蔽物が置かれそれに身を隠すようにヘルメットをかぶった少女たちが校舎に向け発砲している。
その数は50名ほど、約一個小隊だ。
校舎側からも応戦しているがいかんせん数の差が厳しいか精細さに欠いている。
「あのヘルメットの連中は?」
「ん…あいつらは『カタカタヘルメット団』。学校を奪おうとしょっちゅうちょっかいをかけてきている。」
「あいつら全員キヴォトス人ということでいいんだな?」
「そう、ちょっとやそっとくらいじゃ死なない。」
「…奥の遮蔽が見えるか?土嚢が積み上げられているところだ。」
「ん…見える。」
「俺が合図を出す。援護するからあそこへ一気に駆け込め。」
「ネイトさん、指揮できるの?」
「これでも中隊長を務めていた。ツーマンセル位朝飯前さ。」
そういい、ネイトの手に突如として銃が握られる。
「え、いきなり銃が…!?」
今周囲で使われている銃と比べるとなんともメカニック。
はたから見ると精巧なおもちゃにも見えなくもない。
だが、少女は感じ取った。
その銃から放たれる異質な気配を。
「ネイトさん…その銃は…?」
「終わってから説明する。まぁ撃ってるとこは見るからすぐに分かるか。」
そういいつつ、今度は片手に数個のフラググレネードとタバコ箱サイズの無線機を出現させ、
「これを持って行け。使い方は分かるな?」
「………ん…任せて。」
なんとも不思議な光景だが追及はあとだ。
少女はフラググレネードを受け取り、レバーをスカートの間に差込み固定する。
無線機はマフラーにひっかけた。
「よし、そろそろ始めようか。」
「ん…行こう。」
準備は整った。
二人は立ち上がり、位置につく。
「ッと、そうだ。最後に一つだけ。」
「ん…何?」
「君、名前は?」
「………ん…そういえば言ってなかった。」
こんなタイミングだが、ネイトは少女に名を尋ねる。
これから戦場に飛び出すのだ。
名前を知っていたほうが連携は取りやすい。
そして少女は名を明かす。
「シロコ、私は砂狼シロコ。」
「OK、シロコ。奴らを叩きのめすぞ。」
「ん…絶対後悔させる。」
ネイトは狼の耳を持つ少女、シロコは軽くこぶしを突き合わせ、
「……Go!」
二度目の人生で初めての、幾千も潜り抜けてきた戦場に飛び込んだ。