次回は主人公、ネイトの紹介をはさんで本編に入ります
Side Nate
あぁ…これで終わり…かぁ…。
これで…ゆっくり…休める…。
『あの~。』
まぁ…ノーラやショーンと会えないのは残念だが…。
『もしも~し。』
それでも…あの世でもなんとかなるだろう。
皆もいるし。
『起きてくださ~い。』
それまでひと時の間だがゆっくり休むとしよう。
『聞いてますか~?』
…………聞こえない聞こえない。
あんな遠くなった耳でこんなはっきりと女の子の声なんか聞こえない。
若いころは戦闘中でも敵の動作音が聞こえてたんだけどなぁ…。
『無視してるんですか…?』
というか、俺は死んだんだ。
一体誰が積極的に話しかけてるっていうんだ?
『…起きないっていうなら。』
ン?いったい何をする…
『エイ!』
「ブハァッ!!?」
突然俺の顔に何かが降り注いで…いや俺の顔を埋めてきた。
これにはたまらず飛び起きるしかない。
「ペッ!ペッペッ!!!な、何をするんだ!?」
「あ、やっと起きましたね。」
「起きましたね、じゃない!こっちは老人で死にたてなんだぞ!?」
口に入ったそれを吐き出しながら声の主…というか今目の前にいる少女に抗議するのだった。
Side Out
息を引き取ったばかりだというのにそうそう埋められそうになったネイト。
「というかこれは…砂か?」
今しがた自分に降り積もったやけに細かい砂を確かめつつ目の前にいる少女を見据える。
目の前には見たことのない校章のセーラー服姿で腰より下まで伸び頭頂部からぴょこんと立った緑髪の少女がいた。
頭には何やら変わった形の天使の輪、いや宗教画などで描かれるような光輪『ヘイロー』が浮かんでいる。
「…で?誰なんだ、君は?いきなり砂をかけるのはあんまりじゃないか?」
「あ、アハハ…でも、私を無視し続けたあなたも悪いんですよ?」
「ムッ…。」
若干気圧されながらも少女はネイトが無視していたことを指摘する。
確かに幻聴だなんだと無視してたのはネイト自身。
そこを突かれると痛い。
「「………。」」
二人の間に沈黙が流れる。
しばしの間が開き、
「…確かにいきなりこんなことしてごめんなさい。」
「…いや、俺も無視したり声を荒げてすまなかった。」
一先ず互いに非を認め謝罪するネイトと少女。
「それで…ここはどこなんだ?俺は安楽椅子に座って死んだはずだぞ?しかもこの体…。」
落ち着いたところで改めて自分と周囲の様子を観察すると明らかにおかしい。
周りが連邦の拠点だった『サンクチュアリヒルズ』じゃなく真っ白な空間になったのは百歩譲って良しとしよう。
だが、自分の体の様子が明らかにおかしい。
年老いて衰えに衰えた体ではない。
およそ記憶にある中で全盛期、連邦で目覚めしばらく経った頃の若々しい姿となっているではないか。
「…なぁ、俺は死んだんだよな?」
「はい、皆さんに見送られた大往生でした。」
改めて状況を整理していく。
まず、自分が死んだことは確定。
「ここはあの世…ってことでいいのか?」
「う~ん…というよりはその二つ手前くらいですかね。」
まだここは自分が行くべきあの世ではない。
「…君は…いったい何者なんだ?」
そして、この少女の正体は?
一見して連邦に住んでいるような恰好ではない。
健康的すぎるし身なりがきれいすぎる。
…若干、お人よしが過ぎるというか無鉄砲そうな雰囲気は感じるが。
「・・・何か失礼なこと考えてません?」
「いや、全然。」
「本当ですかぁ~?」
そんな考えに勘づいたか少女は鋭い指摘をするが…
「まぁいいです。」
スピーチチャレンジが成功し何とか誤魔化せた。
生前培われた交渉術はここでも健在のようである。
「それで私が何者かでしたね?」
「あぁ、ぜひ教えてほしい。」
「ではお教えしましょう。私は…いわばあなたの裁判官みたいな者です!」
と、胸を張り自信満々の表情で答える少女。
「裁判官?…キリストにしては若々しいし女性だが?」
「きりすとって誰ですか?」
「あぁ、知らないならいいんだ。」
状況がようやく飲み込めてきた。
ここは要は死後の裁きを決める裁判所のような場所だ。
で、自分は被告人で彼女が裁判官である。
「…んじゃ、さっさと俺を地獄にでも何でも送ってくれ。」
ならここに長居する理由はない。
サクッと判決を出してもらうのが吉だ。
が、
「え!?私そんなとこへのあなたの送り方知りませんよ!?」
「…え?」
なんとこの少女、裁判官を名乗っておきながら地獄への行き方を知らないらしい。
「…いや、裁判官なんだろ?」
「はい、みたいなものです!」
「俺の生前の行いを知ってる訳だろ?」
「はい、しっかりと見てきました!」
「じゃあ、俺は地獄行き確定だろ?」
「でも地獄なんて知りませんし行き方なんかもっと分かりません!」
「…分かった。さては君、相当馬鹿だな?」
「馬鹿ってなんですか、馬鹿って!?」
とうとう、少女について思っていたことが口に出てしまったネイト。
少女は両手をぶんぶん降り眉を吊り上げて怒るがその所作がますますその考えを加速させていく。
「そんなんじゃいつかどデカい詐欺とかに会うぞ?あの世には詐欺師なんてうようよいそうだし。」
老婆心からか、この裁判官を名乗る少女が心配になるネイト。
だが…
「………………。」
「え?お、オイどうかしたか?」
その一言で急に固まってしまった少女。
今度はネイトが少し慌て始めた。
「す、すまない。バカってのは言い過ぎ…。」
「いえ…ホントのことなんです…。私がバカだっていうのは…。」
「え?」
「その…裁判官名乗っておいてなんですけど…私の話聞いてくれませんか?」
謝るネイトを制し、少女は自身の話を始める。
少女は、かつてネイトと同じように生きていた。
そこで彼女はある学校の学生で通っていた学校は荒廃し、生徒も少なく周囲の街の治安も悪くなる一方であった。
そんな彼女にも一人後輩がいたそうだ。
「目つきは少し怖かったんですけど私がドジするといつも助けてくれるいい子だったんですよ。」
「フム…。」
そんな後輩とともに何とか学校を立て直そうと奮闘する日々。
だが、悪い大人に騙されたり危ない目にあったりと前途多難であった。
それでも後輩と一緒に過ごす日々は充実していた。
事態はよくならないが楽しい毎日だった。
だが…
「でも…恥ずかしい話…その子を残して…。」
彼女はその日々に終止符を打った。
「……これが私の生きていた頃のお話です。」
「フム…なるほど…。」
そう長い時間話していたわけではない。
それでも非常に濃密な話であった
「…なぁ、一ついいか?」
「はい、なんですか?」
「君の話は分かった。君の状況もあらかた理解した。で、ここまで聞いてなお教えてほしい。なぜそんな君が死んだ俺の前にいるんだ?」
ネイトの疑問はもっともだ。
確かに彼女の最期は褒められたものではない。
それでも聞いたところ、彼女は根っからの善人だ。
そんな彼女が…なぜ極悪人ともいえる自分の前に立ち裁判官をやっているのか?
「この際、君の裁判官という立場は無視するぞ。いったい、何の目的で君はここにいて俺に接触しているんだ?」
核心を突く質問だった。
睨んでいるわけではないが半端な理由は許さない。
鋭いまなざしで彼女を見つめるネイト。
そんなネイトの問いかけに彼女はゆっくりと答えていく
「…私は貴方の言うようにバカでした。あの子に迷惑ばかりかけて。いろんな悪い大人に騙されて。日に日に悪くなる学校の状況にも気づかないふりをして…」
かつての日々、動こうにも動かない、動けなかった自身への後悔。
「そして、あの子にすべてを背負わせてしまったんです。私が一緒にいて解決すべきことを全部…。」
残された後輩に重荷を背負わせてしまったことに対する懺悔。
そして、
「それなのに…今からでも…あの子の力になりたい…。そう思っちゃったんです。」
そんな罪を少しでも贖えるなら…という淡い希望。
「そんな時に…貴方を見つけたんです、ネイトさん。」
「俺を?」
「はい、あの荒れ果てた世界で人の輝きを信じ続け…そして荒野を蘇らせたあなたを。」
そんな希望をネイトに見出したのだった。
「…だが、さっきからいうように俺は極悪人だぞ?君が言う『悪い大人』なんだぞ?」
なおも自分は極悪人のたぐいであると告げるが、
「『悪い大人』が自分から悪い大人だなんて言わないですよ。いくら私でもそれくらいは分かります。」
柔らかな微笑でそれを切って返す少女
「…妻を護れず、息子の夢を踏みつぶしても…か?」
搾り出すようなネイトの言葉。
その言葉さえも、
「でも、それ以上に多くの物を護り息子さん…ショーンさんの夢を違う形ででもかなえようとしていたじゃないですか。決して人を信じることを諦めずに。」
まるで日差しのような温かい言葉で溶かされてしまった。
「………。」
「ようやくやり遂げてお休みになれたことは分かります。でも…私に少しだけ力を分けてくれませんか?」
そういうと彼女はネイトの手をそっと取り、
「私は…あの子たちに何も残せなかったの…。だから…私の代わりにあの子たちを…私の学校を救ってはもらえませんか?」
まるで神にささげる祈りのように静かに言葉を発するのであった。
「…………はぁあぁぁぁ。」
「ネイトさん?」
「さっき、君のことを馬鹿と言ったが…俺も相当馬鹿なお人よしらしいなぁ。」
顔を伏せ深く息をつき自嘲するようにそう言葉を発し、
「…まぁ、300年生きてたんだ。あともう少しだけ生きてからでも地獄は遅くないだろう。」
そういいながら少女に向ける彼の顔はどこか困った様子だが微笑んでいたのであった。
「…分かった、どこの誰だか知らないお嬢ちゃん。君の頼みを聞こう。」
「…!ありがとう…ございます…!」
ネイトから出た了承の言葉、その言葉に少女は安堵したように涙を流した。
「…で、引き受けるのはいいんだが、俺はどうやって君のいたとこへ向かえばいいんだ?」
「あ、それはですね・・・。」
そういうと、少女はネイトの左手首を優しく包み…
「はい、これで私のいた世界へ行くことができますよ。」
手を離すとそこにあったのは…
「…また懐かしいな、俺がつけてた『Pip-Boy』じゃないか。」
「はい、あなたが使っていた物の機能そのままです。」
かつて自らの生命線でもあったウェアラブルデバイス『Pip-Boy』がいつの間にか装着されていた。
だがよく見ると…何かが違う。
「ン?Vault-Boyにこんなマークなかったぞ?」
画面に映し出されるマスコットキャラ『Vault-Boy』。
その頭上に・・・形は違うが目の前の少女と同じような輪っか
が浮かんでいた。
「それは私たちがいた世界でも重要になる物です。詳しくはあちらに行ってから現地の人に聞いてみてください。」
「…分かった。そうさせてもらう。」
「あ、あと当面必要な物はその中に入ってますから心配しないでくださいね。」
「了解。で、まずは何をすればいい?」
ネイトの声に反応するようにPip-boyから通知音が鳴る。
そこに映し出されてあったのは・・・
『When Assistance Calls』
さらにオプションとして
『アビドス高等学校の生徒と接触せよ』
と記されてある。
そして目の前に、
「これは…ヒエログリフ…?」
古代エジプト遺跡で見られるヒエログリフが刻まれた扉が現れた。
「アレを潜ればかつて私がいた世界に行けます。」
「分かった。それじゃ出発するか。」
ネイトは立ち上がり扉に近づくと重たそうな石造りの扉は徐々に開いていく。
その向こうは光で何も見えない。
「では、向こうではみんなのことをお願いしますね。ネイトさん。」
「やれる限りのことはやってみるさ。…短い間だったが話せて楽しかったぞ、お嬢ちゃん。」
振り返らず手を振りながらその扉の向こうを進んでいくネイト。
「私もです!またいつか出会えたらいろいろ教えてくださいね!」
少女もおおきく手を振ってネイトを見送るのであった。
と、
「…そうだ、お嬢ちゃん。君の名前を聞くのを忘れてた。」
思い出したように少女に名前を問いかけるネイト。
「あ、そうだった!自己紹介がまだでしたね!」
思い出したかのように少女は大きな声で伝える。
「私はユメ、梔子ユメです!」
次の瞬間、扉は閉じネイトの意識は暗転するのであった。