Lycoris(レイクァトム)
名前:関係性(%)
クロージャ:尊敬・恋(100%・100%)
アーミヤ:愛・信仰(120%・???%)
ケルシー:恐怖・尊敬(80%・90%)
テレジア:信仰・憎悪(100%・????……%)
Logos:対抗心・尊敬(70%・70%)
ネツァレム:尊敬・後悔(100%・100%)
カライシャ:尊敬(100%)
ボジョカスティ:尊敬・嫉妬(90%・20%)
ロドス:尊敬・忌避(100%・■■■%)
他の人はまた別の機会に。
side:Logos
時は遡り、ドクター救出作戦直後。
「Logosさん。Lycorisさんが……」
青年はロドス本艦にて報せを受けた。
エリートオペレーターの一人――Logosとして従事する任務は、何一つとして疎かにする事は絶対にあってはならない。
そんな風に、いつものように気の抜けない仕事を終えて本艦に帰還した後の事だ。
ドクター救出作戦に参加し、生還したオペレーターが声を震わせて伝えた内容は、古い戦友が先立ったもの。
誰よりもしぶとく、強い。
そんな豪傑の陥落に、Logos小隊の面々にも騒めきが起こった。
しかし、率いるLogosが軽く手を上げてその動揺を制する。
「……そうか、奴が」
Logosの一言はそれだけだった。
しかし、彼の隊に所属する者は見逃さなかった。
常に冷静沈着で皆に一切の不安を与えず導く怜悧な輝きを宿すその視線が、一瞬だけ揺れた事を。
「すみません……Logosさん」
「うぬが自責する由は無い。報告感謝する」
「でも、あの人だけに全部任せて我々はおめおめと……」
「オペレーターLycorisの働きは、誰かが死の淵に立つなら自らが代わる戦士の覚悟。うぬが奴に報いようとするならば、ただ奴の名を胸に刻んで感謝するだけで良い」
Logosが肩に手を置くと、そのオペレーターは嗚咽を漏らす。
そのオペレーターに隊員が集合して慰める光景に、Logosは何も言わない。
ただ、唇を開いてその旅立ちを労う挽歌を響かせようとして――。
「そういえば、うぬとの約束があったな」
自分の為に歌うな、それが生前のLycorisとの約束。
サルカズの同志がまた一人。
見送った顔はもう数え切れないが、一人ひとりが印象深く、片時も忘れた事は無い。
特にLycoris――レイクァトムは、随分と昔からの仲である。
互いに王庭一門の期待された星。
一方的な対抗心の所為で気が合うという機会は限りなく少なかったが、サルカズの未来についてテレジア以外で最も前途を憂いていた同朋として語り明かした夜の数は知れない。
事前に聞き及んでいたナハツェーラーとは大いに異なる人格者だが、戦い様はその種族の筆頭である伝説の宗主の再現。
かつてのロドス――バベルへの軍事委員会による侵攻時には、単身で数十人もいる歴戦のサルカズ傭兵を蹂躙していた。
枯朽の王庭の申し子は、オペレーター誰一人も出動させずに戦場を平らげる。
未だロドスで語られるLycorisの武勇伝。
『テレジア殿下を返せ外道共――がっ?』
『魔王を誑かじッッ』
軽く長槍を一周回旋させただけで敵の首が飛び、遺された胴体は腐ると同時に骨肉が枯れ枝となって周囲一帯の敵へと次々に襲い掛かる。
敵だけを腐敗させる死の濃霧。
現在こそ面白おかしい男だか、当初は恐怖の象徴的一面も孕んでいた。
殿下の隣に立つ者としては賛否両論。
その忠誠は本物だとしても、能力が理念とは大きく離れていると批難もあった。
『殿下の号を軽々しく口にするな――腐れ』
ただ、誰もが後に知る。
誰よりも前に立ち、皆を危地から遠ざけるべく率先して前線に立つ。
彼が見せるのは、Logosが目指した背中だった。
いつか将来、この戦士と共にサルカズの未来のために肩を並べて戦う姿を夢想した。
しかし、それに良い顔をしなかったのはテレジアだった。
『アエファニル。彼を見てあげて』
『……』
『彼は師によく似た力を使うの。でも、不幸な事に……レイクァトムは優しすぎた。本来なら糧として取り込んだ命の発する怨嗟にも真剣に耳を傾けてしまう質だった。…………その声に振り回されて、無辜の民を殺めてしまった経験もあるの』
『だから戦場より遠ざけよと?』
『ええ。たとえ、それが戦士の道に非ずともね』
テレジアから知らされたLycorisの、レイクァトムの苦しい実情。
それ以来、並ぶべき存在ではなく、一刻も早く超えるべき存在となった。
自身が立場を代わり、彼を戦場から遠ざけなくてはならないと。
Lycorisはその姿勢にいい顔をしないが、訓練にはよく付き合ってくれる。反省会と称した飲み会にも参加し、Logosの成長を表には見せずとも喜んでいるようだった。
『あと数年で我も超えそうな才……生意気だ』
『今宵の酒は美味い』
『チッ……この宴は華を欠いている』
『うぬの申す華とは?』
『我が姫、士爵、アスカロン……ロドスはもはや美の宝物殿。しかし、比類なき美男は酒の肴足り得ぬ』
『ふ……相も変わらずうぬの口振りから我への未練を感じる』
『キモ。勘弁して』
『動じると口調をすぐ崩す』
『我そんなんじゃないし。別に宗主の真似で話し方も無理しているとかではない、邪推するな愚か者め!』
『さらばRaidianはどうだ? そなたの誘いとあらば否やはあるまい』
『罪悪感で酒どころではないわッッ!!』
ブラッドブルードに懸想する――というのも珍しい。
とにかく、感性から立ち居振る舞いまで腐敗とは無縁にすら思える愉快な男だ。
それは、初対面時から変わらない。
男との交流は、物申したい出会い方から始まった。
まだ幼い時分、ナハツェーラーから次代の英雄「魔王の盾」現ると聞いていた。
バベルへと合流したLogosを迎えたのは、テレジアより先に件のナハツェーラー。軍事委員会の差し金を疑ってか、六英雄が一角を担うバンシーの実子と聞き及んでか、或いはその両方と予測される思惑で目の前にそれはいた。
見上げる先から色濃い死の影を落とす長駆が聳える。
『そなたがバンシーに誕生した奇跡、か』
『うぬは、かの戦神の後継か』
『控えめに言って好み。あと二年したら、我と夫婦になるとか如何か? 是非考えてくれ』
『我に男色の気は無い』
『百合を愛でる質とな……!? 謎の興奮催す、尚良しッッ。この才媛、想定以上』
『我は男だ』
『ふ。拙い嘘で我を退けると思うなど笑止! さあ、我らの赫耀たる将来に向け、語り明かそうではない――うっ!?』
『…………』
『……ここどこ? あねさま? あねさまどこ?』
Logosへの必要以上の邪な干渉が条件を満たしたのか、故郷の同朋が護身の為にと幾重にも施した呪いがLycorisを襲った。
突然幼児退行した大男が、通路でハイハイしながら居もしない姉様なる人物を探している。
いつの間にか後ろで事の成り行きを静観していたテレジアが笑いを堪えていた事も、正気を取り戻した折に伝えてLycorisは三日自室から出てこなくなってしまった……尊敬する戦士との初対面とは言い難い思い出だ。
『傷が増えたな』
『その声、Logosか』
『! ……その目は、いつからだ』
『Raidianは仕方無いとしても、やはりそなたには誤魔化せぬか』
『うぬは秘匿し過ぎる。言動と一致せぬ表情を隠す為の包帯、敵を滅した後の引籠り……我がうぬをどれだけ見ているか』
テレジアに言われ、そして目標として。
この男を常に見ていたからこそ、僅かな変化も看過しない。
『うぬはサルカズの未来の一翼を担う。みすみす己を損なう行いは……戦はもう控えよ。今のままでは真に未来すら見えなくなるぞ』
『ふ、我の眼はもう何も映さぬとも
『…………』
『Logos。弔鐘の王庭の主ではなく、エリートオペレーターとして在るそなたには敬服する。……なればこそ、我が醜態を触れ回ってくれるなよ。バンシーの道義に悖るとも我が死に挽歌も不要』
『…………』
『殿下と大師父への証明、その為にも我は戦場を離れる気など無い』
ロドスにとって大きな戦力。
Lycorisの存在があらゆる脅威を前にしても安心できる精神的支柱となっている。
そんな彼がもし、もう戦えないのだと知れたなら大いに士気は削がれるだろう。内戦以来、誰一人として殺さない道を選び……アーミヤの意志を冒涜すまいと種族の本能に逆らって努める男の覚悟。
Logosが尊敬した、戦士の意地だ。
『うぬを見殺しにせよ、と?』
『安安と滅ぶまいよ。……うぬとサルカズの未来を創り上げると約した身だ』
『忘れるでないぞ』
『我これでも記憶には自信があるのでな。そんなに心配か?』
『うぬが我の頼みを忘れた数が凄まじいのでな。一応の確認だ』
『えッッ嘘ォ!?』
『冗談だ』
『ぅおのるぇええ……!!』
それが最後に交わした約束。
最後まで命を賭けてナハツェーラーに死と乖離した戦いにも未来があると示さんとしているが故に、その心を認めてエリートオペレーターに推薦した。
珍しく猛反対するRaidian、素行不良で難色を示す数名もいた……そちらの意見が通ったとしても、Logosは納得しただろう。
エリートオペレーターとは、ロドスの理念に共感し、その為に命を捧げられる者しかなれない。
むしろ、これだけのエリートオペレーターから反対されている、と突きつけられたなら命を惜しんでこそLycorisの道は進めると伝えられる。
結果は半数に分かれた。
アーミヤの採決を待ち、決定が下される。
たとえ、どちらに結果が転ぼうともLycorisの言葉を――約束を守る、忘れないと誓った時の事を無かったことにはさせないつもりだった。
Logosは、今目の前で彼の死を悼んで泣く仲間達を見ながら、小さく呟いた。
「守れなければ忘却と同義だ、友よ」
後に、Logosの手元には遺品整理で受け取る事になったLycorisに縁ある品が届けられた。
それは、一通の手紙――遺書。
何度も長文を消した跡があり、結局手つかずの小さな余白に書かれたメモのような短文。
おまけ
side:Ace
「我って、Raidianと結婚してたっけ」
休憩時間の雑談のつもりだった。
何やら日がな上の空だったLycorisの様子を訝しんだ俺とScout、ブレイズで悩みなら相談に乗ろうと提案したんだが、早くも後悔している。
恐らくクロージャ関連か、ケルシー先生の呼出を如何に回避するかとか下りない内容だろうとか思っていたらこれだ。
正直、触れたくねえ。
深掘りしたくねえ。
ちら、と俺たちは後ろを振り返る。
ショートした機器の修理作業をしていたクロージャの手元から騒がしい音がする。
ガタガタガチャガチャ。
ちったぁ抑えろ…………露骨すぎる!
無関心を装って背中を向けたまま作業しているが、聞き耳立てているのがバレバレだ。
面倒臭い……話を逸らすか?
「夢でも見てるんだろ。幻だ」
「そうそう。Lycorisってばそんなに飢えてたのかー」
「我が姫にしか飢えとらん」
Lycorisの言葉で音が止む。
ちら、と見ると額の汗を拭いながら大きく安堵の息を吐き、胸を撫で下ろしている。
だ・か・ら!
せめて隠す努力をしろ!
Scoutも知らない内に消えてやがる。
「幻ならいい。だが、どうも保育活動の折にRaidianを探すと職員から『奥さんはあっちだ』とか、『奥さんが呼んでましたよ旦那』とか……」
「へ、へー」
「全く、困ったものだ」
「ホントだよね!」
気付いたら後ろにクロージャがいた。
おいおい、勘弁してくれよ……Lycorisまで驚いてやがる。
「全く、誰も彼も仲いいだけですぐ変な想像するんだもん。レイ君も誤解はすぐ解いてあげないとRaidianにも迷惑だよ?」
クロージャはニヤニヤと笑っている。
怒っているように見えて滲む喜色が隠せていない。
駄目だ、この天才エンジニアをやっているポンコツ。
一方、嬉しそうな姫様に反してLycorisの反応は芳しくない。
「いや、それがRaidianもな――」
「Lycoris。子供達が呼んでいたよ」
噂をすれば、Raidianが近くまで来ていた。
「Raidianよ。そなたも職員らに注意してくれ……夫婦扱いするなと」
「ふふ、私も言ったけど聞かなくて。最近は子供達にも誂われるよ。私は気にしないけど……そんなに、嫌かな」
「えっ、いや、我とて不快ではないが……」
「うーん、本当かな?」
「だからそうと……む、我を弄ぶのはよさぬか。意地が悪いぞ」
「ふふふ」
何だか和むような歓談に俺もブレイズもゆったりした気分になり――はっと後ろを振り返る。
「レイ君の回線ってどこだろ。ちゃんと直せば余計なことしなくなるかな」
握っているスパナを軋ませている昏い目のクロージャを見て、そっと俺とブレイズはその場を離脱した。