好きと言わせてくれない   作:布団は友達

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クロージャを曇らせたい内容なので一定の反感買うと思ってたら……。


良い意味(?)で終わってるぜ、この界隈!


我のいる悪夢

 

 

 

 

 side:クロージャ

 

 

 

 ベッドの上にいた。

 龍門に接近するチェルノボーグ中枢区画へと突入したアーミヤちゃん達を見送り、その無事をエンジニアルームで作業しつつ祈っていたんだけど……。

 いつも会議で居眠りしちゃう質とはいえ、流石に今回眠ってしまうのは自分でもどうかと思ってしまう。

 最近、いつも以上に眠れてないからかな。

 原因は……言わなくても分かる。

 

 レイ君の遺品……。

 

 あの時は迷惑かけちゃったなぁ。

 涙が止まらなくて、アーミヤちゃんとケルシーに両隣から背中を擦ってもらった。

 その日の仕事は平時通り行えたけど、腫れた目元で周囲にまた心配までさせて。

 我ながら情けないよね。

 皆が踏ん張ってる時期なのにさ。

 

 あたしは起き上がって周囲を見回す。

 自室なのを理解し、後で運んでくれた誰かに感謝しなくては――と考えて、はっと気付く。

 

「う、嘘っ! 何で!?」

 

 慌てて備付の机に飛び付く。

 無い、無い!

 レイ君が遺したチョーカーが見当たらない。

 あたしにはアレしか無いのに!

 どう保管しようか悩んで、結局見失わないように一番見えやすい場所に置いてあった筈なのに!

 あたしは部屋中を引っ掻き回して探す。

 それでも見つからない。

 

 もしかして、無意識でエンジニアルームに持ち込んでた?

 

 だとしたら拙い。

 チョーカーなんて小さくて紛失しやすい。

 あたしは急いで部屋を出て通路を走り、その直後に誰かとぶつかって後ろに倒れる。

 こ、こっちは全力走行だったのに弾き返されるとか、どういう体幹の強さしてんのさ……!

 い、いやそれどころじゃない!

 

「ご、ごめん今急いでて」

 

「急用なら我が馬となって馳せよう、愛しの姫よ」

 

「――」

 

 呼吸が止まる。

 この、やけに聞き慣れた声に心臓が大きく跳ねた。

 あたしは、恐る恐る目の前の人物を見上げる。

 爪先から視線で辿れば頭に至るまでの時間が長く感じる長身に、右の半身を隠すような古びた独特の装束。

 そして顔は、顔、は……。

 

 

「さあ、我の背に乗るのだ……能うならば情熱的な激しさで!」

 

 

 人相を包帯で秘匿したサルカズに、あたしは名前を呼ぼうとする口がうまく動かない。

 そっと手が差し出された。

 

「ど、うして」

 

「む?」

 

「何で、ここに……だって君は……」

 

 君は、死んだじゃない。

 そう言いたかった。

 でも、言葉にしようとするとぎゅっと首を絞められたような感覚に陥る。

 思えば、目の前の彼が亡くなってから「死んだ」なんて直截的な言い回しは一度たりとて口にしていなかった気がする。

 無意識に、避けてたのかな。

 

 動揺から立ち直れないあたしを、彼は見下ろす。

 そして、勝手にあたしの手を取って立ち上がらせた。

 

 

「何故ここにいるか、と?」

 

「だって……だって……」

 

「言ったであろう。ロドスが我の居場所たり得るのは殿下の遺志やアーミヤの理想、大師父に誓いし我が使命……諸々挙げると限が無いが、第一に」

 

 大きな手があたしの両頬を包む。

 

 

「――そなたがいる、これぞ我が存在意義よ」

 

 

 昔と同じ台詞だった。

 それだけで、混乱していた物が一気に消えて一つの感情に支配される。

 あたしは目の前の体に殴りかかる勢いで飛び込んだ。

 抱き着かれた事が予想外だったのか、さっきあたしを跳ね返した逞しい体が怯んだように固まる。

 

「レイ君……」

 

「お、お? 我の夢ついに結実……?」

 

「夢なんでしょ、こんなの絶対……」

 

「わ、我も夢かと一瞬疑ったが、よくよく我が足跡を顧みれば実らない方こそ不自然だと言える弛まぬ努力があったなッッ!!」

 

「へへ……バカっぽい、本物のレイ君じゃん。どっちだよ……」

 

「我の真似をする偽物がいるのか……いやはや、いつかそんな日が来るとは予想していたが」

 

 偽物、なんて思えないクオリティ。

 あたしは顔を上げて改めて彼――レイ君を見ると、遺品であった筈の耳飾りをしていた。

 って、ん? ……ちょっとデザイン違うな。

 

「いつもと耳飾り、違くない?」

 

「いつも通り、そなたの贈ってくれた物を身にしているのだが……?」

 

「へっ?」

 

 い、いやレイ君にプレゼントした記憶なんて一度も…………一度も、無かった。

 え、これやっぱり夢?

 そう思った瞬間に体を巡る血が冷たくなっていくのが分かって。

 

「れ、レイ君……夢じゃないよね!?」

 

「然り。我々は真実の愛に生きている!!」

 

「そういう意味じゃなくてぇ!?」

 

「相変わらずお熱いな、お二人さん」

 

 トンチキなレイ君に抱き着いたまま話していたら声を掛けられた。

 振り返ると、Scoutや他オペレーターがニヤニヤとあたし達を見ている。

 

「Scout。そなた、もう傷は」

 

「問題無い。ただ、通行の邪魔だから二人きりになれる場所で存分にやってくれ」

 

「なるほど、一理ある……が、我ら二人揃った時点でそこが愛の巣となる! 邪魔者はむしろそなただ!!」

 

「愛の巣、て……まだ結婚してないだろ」

 

 呆れるScoutと惚気るレイ君。

 どっちなの、夢なの?

 でも、自分の願望は……夢じゃ嫌だって想いだけは分かる。

 

「それよりLycoris。ドクターが呼んでたぜ、アンタの力がないと難しい戦場だそうだ」

 

「む、そうか。仕方ないな」

 

 え……戦場?

 また戦う、レイ君が?

 あたしの脳裏に、突きつけられた手紙と遺品の数々が蘇る。

 肩を掴んでそっと離れようとするレイ君の服を強く掴んだ。

 

「ま、待ってレイ君」

 

「……?」

 

「行っちゃダメだよ、絶対……また、また死んじゃう……!」

 

 もう帰って来ない事なんてあってはいけない。

 レイ君は小首を傾げる。

 

 

 

 

 

「安心せよ。我はもう死んでいるのだから戦場など恐るるに足らず。

 

 姫こそ(ここ)ではなく、本当のロドスに行かねばな」

 

 瞬間、レイ君の姿が音を立てて破片になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――待っ……!」

 

 手を伸ばすと、レイ君ではなくLancet-2だった。

 あたしは床に倒れていた、らしい。

 睡眠不足が祟って、あんな夢を見ちゃったのか……思い返すと、レイ君にぶつかって痛くもなかったし、抱き着いた体の感触も温もりすら覚えていない。

 

 現実では……出会ってから一度も、触れた事すら無い。

 

「はは……笑っちゃうよ」

 

 酷く乾いた声だった。

 そうだよね。

 居なくなる可能性も考えず邪険に扱ってきたあたしと、頑なにあたしに人殺しの手で触れたくはないと口説いても触ろうともしなかったレイ君。

 ……夢の中みたいに、出来たら良かったのに。

 

「クロージャお姉様」

 

「ごめん、心配させたよね。立つ、立つから」

 

 あたしは両手にぐっと力を込めて起き上がる。

 大丈夫、あたしはまだ立って歩けるよ。

 だって、夢でもレイ君の顔も見れたから――

 

『我はもう死んでいるのだから』

 

 大、丈夫。

 

『我はもう死んでいるのだから』

 

 大丈……。

 

『我はもう死んでいるのだから』

 

 やめてよ。

 そんなこと、夢でもレイ君は言わないよ……やっぱり偽物だよ。

 素顔も見たことない。

 触れたことすらない。

 色んなこと知らない。

 あたしは偽物かどうか断言できるほど彼を知らない。

 でも。

 

 

「偽物、だよね……?」

 

 

 

 レイ君じゃないって、信じさせてよ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 side:W

 

 

 あたしは襤褸同然の体を引き摺ってチェルノボーグ中央のタワーを目指す。

 一度は龍女の猛火に叩き落とされたけど、命があるってんなら幾度だって噛み付いてやる。テレシスも、龍女も、あのドクターも……!

 

「チッ、何もかも上手くいかないわね……!」

 

 腹立たしい。

 思い描いていた作戦の大筋通りに行っていない。

 龍女に備付の地雷は封殺されるし、チェルノボーグは動くしで最悪の連続。

 元はと言えば、アイツを引き込めなかった事から始まってる。

 

 チェルノボーグでタルラ達なんかに負けちゃってさ。

 

 まあ、初めて会った時よりも弱ってる印象があった。

 最初のアイツは……。

 

 

『やめっ……ギぁががぁ……!?』

 

『ゆ、許しぃいいいいいい゛ッッッ!!』

 

『え゛ぁ、ごめ、なざ……!』

 

 

 絶対的窮地、サルカズの戦士に包囲されたあたしの前に現れた姿は、死が人の形を象ったようなヤツだった。

 アイツの槍を受け止めれば、武器ごと体が腐る。

 アイツの足下から伸びた枯れ枝に捕らわれた人間も枯れていく。

 アイツが一歩刻めば、その結果が無数の死体としてその辺に転がった。

 

 

『殺すなら殺される覚悟を。呪うなら呪われる因果を。……戦士を名乗る者が、愚昧な』

 

 

 吐き捨てるような言葉と共に、串刺しにしている枯れたサルカズを長槍の一振りで遠くに放る。

 まだ生きているサルカズ戦士の包囲網は、アイツが一歩進む毎にジリジリと広がっていく。

 あの光景は忘れられない。

 あたしが見た、数少ない絶対的暴力の一つ。

 忌々しくも、テレジアの盾なんて呼ばれて……納得するしかない化け物。

 

 アイツなら、タルラもテレシスも殺れる。

 特に、ドクターの事は許してない筈だから協力関係を結べると思ったのに。

 

 Scoutとの取引でドクター救出を手伝う為に動いていた時に再会した瞬間から、あたしは……利用するのは気分が悪いって思っちゃった。

 

『アンタもドクター救出なんて言ってるわけ?』

 

『……業腹だが、それが此度の我の任務』

 

『アンタも思ってるんでしょ。アイツは――』

 

『それでも。殿下が遺した希望の芽……我が手で摘む事こそ最大の違背となろう?』

 

『…………』

 

『我はヤツではなく、ヤツを信じた殿下を信じる』

 

 アイツもまた、殿下の為に動いていた。

 選んだ道は違うけど、妨害する気にはならなかった。

 結局……アイツも、死んだわけだけどさ。

 

 テレジアは言っていた。

 サルカズの未来は変わる……それがあたし達や、アイツという形だって。

 だから。

 

 

「あんたの分も、テレジアの為に……あたしはやってやるのよ……!」

 

 

 一人、また同志がいなくなったって、立ち止まらないわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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