アリウスの象徴は今日も死んだ顔で仕事をしている 作:ブルアカ世界は行きたいけど行きたくない
「……はっ」
朝、か?ああ、今日も仕事に行かないと。部屋の電気のリモコンはどこだろう。
うーん、それにしても、朝にしては薄暗いというか、空気が違うというか……今日は曇りか雨かな?頬を撫でる風がどこかジメッとしてて、まるで外にいるかのような感覚だ。窓開けっ放しだったっけ。というか、朝からこんなにクリアな思考できたか?
ん?なんかザラザラしてる……?
「ベッド、じゃない……?廃墟……?」
ここどこ!?
あれから分かったことがある。まず、俺のお気にのベッドは影も形もなかった……というのは置いておいて、俺は少女になっていた。前はヒョロヒョロのいつ死んでもおかしくない不健康お兄さんだった気がしたんだが……死んだんだろうな。転生ってやつか?死ぬ瞬間も覚えてねぇよ。
近くにあった水溜まりで顔を確認したが、幼い割には結構綺麗だった。でも目が死んでる。というか表情筋が死んでる。そこは前の俺の要素引き継がなくていいのよ?別の人生送らせてくれるならそういうところくらい直してくれよ。前の俺は手遅れだったが。それとも表情筋オワオワリ少女に憑依でもしちまったのか?
「……ハゲそう」
うっ、ストレスで若禿げになってしまった記憶が!というか表情筋死んでる少女がハゲそうとか言ってんのシュールすぎる。いや俺なんだが。他人感すごい。
あとなんか銃落ちてたんだよな。銃っつっても本物かは分かんないけど。実物を見たことないのに判断なんかできないし、試し撃ちとか怖いし。それにデカいんだもん。アサルトライフルってやつか?ゲームで似たようなの見たことある気がする。なんかあったときの護身用(笑)ってことで持っておこう。ついでに実弾っぽいのが入ったマガジンも。なんでこんなの落ちてんの?この子の持ち物?それとも転生特典的な?……なんも分かんないし考えないようにしとこ。
あ、休みの連絡入れなきゃ。スマホ、なんて無えよ!てか電話が繋がるのか?ここがどこかも分からん。圏外かもしれないしな。……いや、もう俺は俺じゃないのか。
当面の問題は衣食住だ。この廃墟俺以外いないし、食えそうな物もない。いま着てるボロ切れみたいな服と廃墟があるから衣と住はまだいいが、食がないと死ぬ。
クソッ、どうなってんだよマジで。なんで転生(?)直後に生命の危機なんだよ。家族とかは……居ないだろうなそりゃ。見た感じファンタジーな感じも無さそう。魔法とかないの?なんで銃なの?廃墟スタートとか優しくない。チュートリアル、チュートリアルさせて。
どこ見てもボロッボロだし、もしかしてここって戦争があった場所的な感じ?そんなとこに生まれ落ちたの?そしたらこの辺何も無いじゃん。
もしかして俺、もう一回死ぬ?
――フフフ、では説明通り貴方には衣食住を提供しましょう。その代わり私の言うことは絶対です。分かりましたね」
「……はい、マダム」
わぁ、思ったよりなんとかなりそう。あの後そのへんぶらついてたらガスマスク付けたいかにも「普段から訓練してますよ」って感じの女の子に保護されたんだよね。強そう。自衛隊的な感じなのかな?顔は分かんなかったけどぱっと見中学生か高校生くらいだったんだよな。この世界ってやっぱり物騒だったりする?
で、絶賛私の衣食住問題を解決させてくれたこの人……人?……はマダムって呼ばないといけないらしい。めっちゃ豪華な白いドレス着てる。あと肌赤い。これ地球じゃねぇな。
マダムって呼ばせるのなに?って素人は思うかもしれないが、俺は分かる。これはあれだ、呼び方の時点で立場の違いを刷り込むやつだ。俺がガキだからかね。呼び方の違う、偉い人なんだよって教えてる感じだね。しかも話聞いてる感じこの人ここのトップだし。
ん?この人社長ってこと!?うごごごごごご!!下手こいたら俺死ぬじゃん!!社会的に死ぬじゃん!!というか俺のライフライン握ってるのこの人だから機嫌損ねたら普通に死ぬじゃん!!「あっ、君そういうの分からない感じね」って評価下げていくんだろ!!知ってるんだからな!!飲み会で機嫌損ねたらおしまいなのに行かなかったら「私が行く飲み会に来ないなんて」とか言って評価下がるんだろ!!理不尽!!
「では、行きなさい」
わっかりましたぁ!!なんでもこなしちゃうぞぉ〜!!一応大人だったんだからな!!少しでも気に入られてやる!!へへっ、社長さん、荷物持ちやしょうか?……社長さん荷物が無ぇ!!お、俺のアピールできるところがもう無いだと!?
むりぽよ。帰りたい。なにこれ。
朝起きたらパンとスープだけの最低限の飯食って朝練(ぶっ倒れるまで)。昼食ったら昼練(ぶっ倒れるまで)。夜飯食ったら自由時間と言う名の風呂と装備の整備するだけの時間。そして睡眠。
……一日のスケジュールが子どものソレではないのですが!?
死んじゃう。俺死んじゃう。なんでこんなことしてんの?バカなの?死ぬの?死にそうだよ?前世で五徹したときくらい死にそうだよ?
でも、俺以外の子たちもみんな似たような境遇っぽいんだよね。あんま過去の話とかはしてないけど……というか会話を全然してないけど……みんな過去とか重そうなんだもん。毎日ボロボロで明日が怪しいみたいな感じだし、そう考えるとココって身寄りのない子どもを拾い上げてくれる結構優しいところなのでは?
いや、訓練の内容は優しさの欠片もないけど。
なんでナイフとか銃の使い方を教わらなアカンのですか。なにが爆弾の有効的な利用方法だ。視線誘導だぁ?選択肢を押し付けるぅ?うるせぇ!ンなもんどっかに捨てちまえ!俺は戦いが起きる前に逃げるぞ!!
……と、散々思ってはいるが、最近は少し考え方が変わってきた。実はこの世界が結構終わってて、外では子ども達ですら「戦わなくては勝てない!」みたいな世界になってんじゃねぇかなって。だってありえないじゃん。こんな使えねぇ子ども囲って飯やらなんやらの世話して力付けさせてって、相当の理由がないとやらないはずだし。この世界で戦い抜く兵士を育成してるみたいなさ。
でも、今の体ならその辺の生物くらいフィジカルで勝てるんじゃないすか?銃弾効かねぇもん。ちょっと痛いくらいだし、ナイフもそんなグッサリいかないし、なんとかなるんじゃね?俺天才か?
……。
いや、そういえばそういう子ども達が集まって鍛えさせられてるんだったわ。絶対外にやべぇ化け物いるじゃん。
あれ?外に出たくなくなってきたぞ。一体外にはどんな化け物が……?え?誰か助けて?社長!俺をここでずっと養ってくれ!ずっと荷物持ちするから!
やったぜ!俺にもフレンズが出来たぞ!
俺入れて六人グループなんだけどよ、なんでも姫ってやつが本当に姫扱いされてんだよね。こ、これがオタサーの姫!?噂に聞くあの!?女子間でもそんなのがあるのか!?くっ、堕とされる前に距離を取っておかねば!俺は貢ぎ物なんてやらねぇからな!いくらかわいい顔してても無駄だぜ!
あっ、あっ、みんな優しいね。俺みたいな表情筋がサボってる人間にも優しいね。ごめんね、いっぱい貢ぎ物するね。ちょっと若い女の子の会話とかよく分かんないし頷き全肯定マシーンになるね。
うんうん、みんな頑張ってるね、えらいね。
ん?なにか悩んでるのかい?お兄さんに任せろ。
どしたん話聞こか?あー、うん……あー、それは俺が悪いわ。俺じゃなかったらそんな思いさせへんのに。また今度ちゃんと話し合おうや。君たちは妹みたいなもんやし手出すわけないやん。守ってあげたいし後輩にそんなことするわけないやん。じゃ、俺は帰るで(泣)。
悲報、俺、グループ脱退……!なんてことだ!仕事仲間からようやく本当のフレンズになれそうだったのに!もしかしたらそう思ってるの俺だけかもだけど!でも悲しいじゃねえかよぉ!俺の数少ない会話のできる人達が!ちゃんと会話してたかは怪しいけど。
でも、俺の次のポジションがねぇ……?なんと、なんとあのマダムのお膝元!!マダムの右腕!!カーッ!!俺の有能さ、気付いちゃったかい!?流石はマダムだぜ!!そのいかにもな立ち振る舞いは飾りじゃなかったんだな!!さっすがしゃっちょさん!!一生着いていきやす!!
マダムはよぉ、俺が仕事をこなすとすこぶる機嫌がよくなるんだぜ。ペコペコしてると機嫌が鰻登り!全肯定マシーンが最適解だと気付くのに1日もかからなかったね。これは自己肯定感と承認欲求がありえないくらい高いと見た。前世とアイツらとの元で鍛えた究極の全肯定を食らえ!
そんなこんなでへーこらしてたら待遇がどんどん良くなってくんだわ。この人、好き。こなした仕事をちゃんと評価してくれるしご褒美もくれる。あと結構見た目がいい。なんだ、ここホワイトだったのか。
うーん、よくよく考えたら上層部だけが利益を貪るブラック企業の典型みたいな場所だな。でも、俺が今ホワイトだし……アイツらはアイツらでスクワッドとして活動してるみたいだしいいよね。
……俺、ぼっちやんけ。いいもん!俺には俺のこと分かってくれるちょーいいケツしたマダムがいるもんね!この神職場でそこそこの貯蓄をして将来は適当に株とかやって自由に暮らすのさ!もう何も怖くない!
悲報!!職場で!!大乱闘!!
どうして……
マダムの命で俺は大乱闘の原因、侵入者の対処へ向かった。ここまではよかった。
侵入者がスクワッドと先生と呼ばれてる人だった。ここまでもよかった。
そしたらスクワッドのみんなが交渉してきたわけ。顔見知りだしここまでもよかった、はずなんですけどね?なんかね、俺がみんなとの友情☆と仕事♡どっち優先すりゃええんやろ、とか悩んでたら突然覚悟を決めた顔して突撃してきたんだわ。
こわいて。
あれかな、悩んでるくらいならお前敵な!とかいう感じかね?一応フレンズだったんですけど……もしかしてそう思ってたの本当に俺だけ……?お姫様のこともあるししゃーないっちゃしゃーない……しゃーないと思うことにする。一応俺も隙見てなんとかできんかなーとは思ってたよ。かわいいかわいい後輩ちゃんだしね。
そんでまあ「あの先生って人の指揮やべー!みんなの動きごっつええやん!」とか思ってたらアイツら、周囲の建物ごと破壊しやがった。俺生き埋めだぞ。マジで殺されるかと思ったわ。「すまない」ちゃうねん。こっち死ぬかと思ったねん。まあ、つよつよフィジカルのおかげで普通に動けるんすけどね。それでも元一般人には生き埋めは怖い。こ、これが閉所恐怖症の感覚……ッ!
必死こいて瓦礫の山から出たらみんな居ないし、服ボロボロだし、どっかから戦闘音するし。置いてけぼりーぬしょんぼりーぬ。とぼとぼ歩いてたらなんか讃美歌?みたいなのも聞こえてくるし……ナニコレ怪奇現象?ついにそういうの出るようになったかこの場所は。やっぱり過去に戦争とかあったって。死者の怨念的なのあるって。こわ。
……なんて言うと思ったか!誰やねんピアノ弾いてるやつ!こんなときにイタズラしやがって!成仏できねぇ魂は俺があの世に送り返してやるッ!な、生身の俺が霊的な存在を……?出来らぁっ!
ンギャアアッ!!血塗れの女がピアノ弾いてるゥ!!調子こいてすいませんしたぁ!!逃げるんだよォ!!
俺は何も見なかった。幽霊なんていなかった。そう、あれは……あれは、幻覚だ。きっと瓦礫に埋もれたときに頭でも打ったんだろう。そうに決まってる。目が合った気がするが気のせいだ。俺はまだあっちの世界に連れていかれる訳にゃいかんのだよ。
恐怖に竦む足でいざ戦闘音の聞こえる場所に向かったら、よく分からん枯れそうな木みてぇなボディに花びらくっつけたバケモンがボコされてた。
ナニコレ。
えっ、あれ俺の社長なんですか?俺の社長……人外……?いや、肌の色で分かってたけどね。てかこのバケモン倒したの??マジで??見るからにコイツヤバいよ??すご。すごすぎてむしろ怖い。コイツらの方がバケモンじゃない??ちょっと近寄らないでもろて。
……あれ?マダムが倒された?マダムが?マダム、マダム……俺の生命線がッ!!こ、これからどうやって生きていけばいいんだ!?衣食住が!!まだまだ寄生する予定だったのに!!誰だよこんな酷いことしたの!!誰だ!!お前らかァ!!
お前らかぁ……。
……。
俺、今日からホームレスになる模様。誰か助けて。
第二の人生を上手く生きてきたつもりの自称お兄さん、自分を拾ってくれた社長の夜逃げ()により職を失う。
「なんだこのホワイト企業!?まさか、これが巷で噂の……初任給だけ異様に高くしてそれ以降給料が上がらない企業のやり方ッ!?」
次回!自称お兄さん、もう一度大人に拾われる!デュエルスタンバイ!(続きはない)(別にホワイトでもないどころか普通にブラック)