どこもかしこも、エーテリアスばかりだ……(涙目) 作:bbbーb・bーbb
次回からはちゃんとブラボとゼンゼロの話になります。
「讃頌会殲滅完了」。夕方に吉報が届いた。主要メンバーは皆死んだのだという。
サクリファイスを保管する装置となる「オブスキュラ」が衛非地区の中にも大量にあるそうだが、既に住民の避難が始まっており、オボルス小隊は翌日からその護衛をするそうだ。
あっけないものだと狩人は唇を噛んだ。讃頌会の奴らは、出来ることなら自分の手で殺したかった。
まあ、潰れたのならそれで良いか。暫くは残党狩りでもするとしよう。モノブロックチェアに腰掛けたまま血の酒を煽る狩人。
皆祝杯を上げているが、部外者である自身が歓迎されないことくらい狩人にも分かっていた。影の中、灯りを遠巻きに見つめながら一人酒を飲む。
──筈が、アキラにテントへ誘われた。オボルス小隊の皆も一緒である。有り難いことだ。オルペウスとシードは酒が飲めない上、他の皆も翌日仕事がある為飲むことを拒否したが。まあ、そういうことなら仕方があるまい。
楽しそうな兵士たちを見て、ふと、11号は仲間たちのことを思い出した。紙くずの様に消費されていった命を。笑っていた彼らの顔を。家族を。
「貴公、大丈夫か」
「……ああ、いいえ、なんでもないわ」
まさか死んでいった彼らが今頃どこぞのアイルー村でぽかぽかしていることなど知る由もなく、11号はそうっとゴーグルを被り直した。これ以上考えても仕方が無い。
「待って。それ以上の酒は良くないわ」
「……これは水だぞ」
「そんな色の水がある筈が無いでしょう」
ゴーグル外せ。今の今まで気付かなかったがこの女、相当酔っている。顔が真っ赤だ。ここ最近のあまりの出番の無さに絶望してヤケ酒を決め込んだ結果であることは本人を除いて誰も知らない。
「私も……別衣装に……」
わけのわからないことを呟きながら眠りに落ちる11号。一筋の涙を流していたが、それはゴーグルに阻まれ、遂に彼女の頬を濡らすことはなかった。
更に後、夜も更けた頃、狩人が遥か遠くのラマニアンホロウを眺めていると、シードに声をかけられた。アキラ──彼も状況が良く分かっていないようであった──とトリガーも一緒である。
夜間特別軍事作戦と聞きすぐさまノコ鉈を取り出すも、武力は必要ないと言われたので懐へしまった。
トリガー達についていくと、オルペウスの背中が見えてきた。鬼火は寝ているようで、だらりと垂れ下がっている。ゆっくりと背後からシードが近づく。
「ばあ!」
「ひいぃぃぃぃ…………!」
情けない、消え入るような悲鳴を上げるオルペウス。鬼火の邪魔をしてはいけないと眉間に皺を寄せるも、両手に抱きかかえられたレモン味のスナックをシードに見られるや否や一瞬にしてその顔は絶望一色となった。
「アキラ殿に、狩人殿まで……あなた達もグルでありますかぁ!?」
それは酷い誤解というものである。オルペウスはもう今にも泣き出しそうになっていた。涙ぐみ、嗚咽し始めている。お菓子は禁制品なのである。鬼火にバラされればとんでもない叱られ方をするだろう。
そのスナックをシェアしよう。トリガーの提案に、オルペウスがNOと言える筈も無かった。「こうなったらアキラ殿も狩人殿も共犯でありますぅっ」とヤケクソになっている。
狩人もお菓子を持ち込んでいたので共有した。山盛りのそれに「わぁ……!」と子供のように瞳を輝かせるオルペウス。色々ある。
「狩人さん。先程から、何を食べているのですか?」
「ああ、要るかね」
聞いたことのない音を立てるお菓子に興味を引かれた盲目の狙撃手トリガー。狩人がひょいとそれを手渡すと、すぐに口の中へ放り込んでしまった。
夜の暗闇の中、それが何なのかは狩人以外の誰にも分からなかった。せいぜい「丸っこい何か」という程度である。もぐもぐと球体を頬張るトリガー。
「美味しい……」
感嘆の息を漏らすトリガー。そうだろうと狩人が返す。シロップ漬けにしてあるのだ。噛むとぷちゅんと弾け、口内にぶわりと甘味が広がる。不味い筈が無いだろう。
飲み込み終わると、それにしてもこれはどういうものなのかとトリガーが狩人へ疑問を投げかけた。食べてみてもそれが何なのか分からないようだ。大体の予想はつきますが、と微笑んでいる。
「ねっとりと柔らかく、甘く、そして熱い……きっと、美しい果実なのでしょうね」
「それは人の瞳だ」
なんてもの食べさせてるんだっ。慌てるアキラ。冗談だと思ったオルペウスが狩人の握っているもう一つのそれを目元に近寄せじっと見つめる。すぐに「ひっ」と小さな悲鳴を漏らして飛び退いた。
「わあ、ホントにお目々だぁ~」
流石のシードも少し驚いた様子を見せている。トリガーはまだ「えっ……?」と声を震わせ固まっていた。
それは儀式素材であった。「血走った目玉」であった。リナに料理を教わった際ブドウのシロップ漬けの作り方を学んだので、身近にあるもので応用してみたのだ。その結果がこの冒涜的なヤーナムスイーツ、「ヤーナムのブドウ」である。
「……そんな、まさか……いや、でもあれは……貴方は……あの音は……」
うぷっ、と両手で口を抑えるトリガー。しかしすぐに限界を迎え、フェンスへ駆け寄り身を乗り出すと思い切り胃の中身をぶちまけ始めた。
狩人は集団リンチに遭った。欲しいと言ったのは彼女であろうっ。なぜ殴るっ。悪態をつきながら相手を傷つけない範囲で必死の抵抗をしている。喰らえ爆竹レッドゼリー!
「おいっ、煩いぞオルペウス! 一体何を──は……?」
あまりの騒ぎに目を覚ました鬼火であったが、狩人を見るなりフリーズしてしまった。尻穴に爆竹を詰め込んだ胎児の死体に火をつけて皆に投げつけている。爆発しないようオルペウスたちが必死に火を吹き消していた。
幸か不幸か、レッドゼリーのインパクトのおかげでスナックの持ち込みがバレることは無かった。鬼火がもう一度眠りについたあと皆に殴り倒されパンパンに腫れた顔でスナックを食べる狩人。輪に入れてもらえるだけ幸運であろう。
夜会も終わり皆と解散して数十分後、アキラが一人で突っ立っているのを見つけた。声を掛ける狩人。なにやら問題があるそうだ。讃頌会の本部が別にある可能性が存在するのだと。
おまけにどうにもラマニアンホロウのエーテル濃度が凄まじい速度で上昇しているようで、要はこのまま放っておくと数日の内に衛非地区が丸ごと滅ぶかもしれないというのだ。これも讃頌会の仕業とアキラは睨んでいる。
「オボルス小隊の皆は軍令無しには動けない……だから、こっそり雲嶽山と連絡を取ったんだ」
ここで突っ立っているのは物音がしたためテントから飛び出してきただけだという。用心深さに感心する狩人。
ちゅんちゅん。そんなさえずりに視線を導かれた二人が下を見てみれば、そこには儀玄の操る小鳥、
「奇妙だな。一体何故──アキラ……?」
困惑する狩人の視線の先には、青溟鳥の前でおもむろに「丸くなる」アキラの姿があった。わからない、自分でもどうしてこんなことをやっているのかわからないんだがと返すアキラ。「ただ、なんと言えば良いのか……」と続ける。
「僕の中の『暗い魂』がそうしろと言っているような気がして……」
「貴公は何を言っているのだ」
狩人の呆れる視線にアキラが耳を赤くし、そろそろ立ち上がるかと呟いたその時。
突如として巨大な鳳凰と化した青溟鳥──ではなくどこからともなく現れた馬鹿デカいカラスに連れ去られるアキラ。丸まったまま、卵のように両足で掴まれている。
ぽかんと口を開けたまま固まる狩人&巨大化青溟鳥。暫く経ってようやく両者我に返り、鳥はカラスを追いかけに飛び、狩人はオボルス小隊に事の顛末を伝えに走った。
大声を上げてテントに転がり込む狩人に驚く小隊の面々。アキラが、アキラがっ、と言うとトリガーの顔が真剣みを帯び始めた。何があったのかと聞かれる。
「
「
一瞬にしてトリガーの顔が青ざめる。いや違う。そんな筈は。震える声で質問を絞り出す。彼は、今どうなっているのだと。狩人が両の拳を握り締める。
突然にして限界まで追い詰められたトリガーの精神は、彼女に凄まじい聞き違いを引き起こさせた。
「
「
「
数秒後、彼女は思い切り吐いた。また、失ったのか。愛する仲間を。大切な人を。引き裂かれたアキラの死体は彼女の脳裏に浮かんで離れない。床に両手を付き、腹の中身をぶちまける。透明だった。動悸を起こした彼女の心臓が跳ね回る。
「
グーで殴られる狩人。聞き間違えたのそっちなのに。仕方の無いことであろう。狩人に限らず不死人というのはいつも理不尽に苛まれるものなのだ。
幸いアキラにはGPSをつけているようで、彼がどこへ行ったのかは丸わかりであった。適当観である。わざわざ極北の僻地、山々の奥を通過していたらしいが理由はわからない。
向かいながら狩人がアキラの目的を皆に伝えたため、適当観に着いても一悶着が起きるようなことは無かった。
「ああ、アキラっ。無事だったかっ」
「ああ。変な寒い牢獄に捨て置かれたけど、すぐにやってきた青溟鳥に助けられたよ」
枯れ果てたゾンビらしきものにたいまつで襲われていたそうだ。ほっと胸を撫で下ろす狩人一行。無事で居てくれて本当に良かった。トリガーなど泣きながら彼に抱きついていた。
たいまつとは恐ろしいものである。狩人が心の中で悪態をつく。こちらが持つと弱いのに相手が持つとたちまち上位者をも嬲り殺せる決戦兵器と化す。ブリンガーにはかなり効いたが。
勝手な行動は軍規違反だが、アキラが脱走したので追いかけに行ったという口実を用意するそうだ。作戦の実行は翌日のことであった。
軍規に背く極秘任務であったが、ホロウに入って早々バレた。イゾルデがリンを伝ってアキラ達に連絡を入れてきたのだ。イゾルデが画面に映るなり白目を向いて許しを請う鬼火。
「赦してくれ……赦して、くれ……」
あまりに必死な鬼火の様子に、イゾルデは笑った。しかし彼女は狩人たちに怒るどころか、君たちの判断は正しいとすら言ってのけた。人の命を守る為なのだから、と。
「だが今回こうして連絡を取った理由は他でもない。あれの真相が分かった」
「──! イゾルデ、それは本当なのかっ?」
鬼火の言葉が熱を帯びる。あれというのは、旧都陥落時彼らが闘った時のとある陰謀の話であった。あれはやはり本当だったんだと溜め息をつくイゾルデ。
曰く、「人々を護る」と聞かされ必死で戦った鬼火やイゾルデたちが本当に守らされていたのは、実にただの企業の財産だったのだという。
軍の上層部の一人はその企業とズブズブの関係であり、その作戦の指示により企業から多額の報酬を貰ったそうだ。勿論違法である。
「鬼火隊長! それ以上は熱暴走を起こしてしまいます!」
激昂に真っ赤になった鬼火をなだめるオルペウス。遂には強制シャットダウンをするぞと脅しはじめた。
イゾルデも静かながら彼女──鬼火は女性であるようだ──と勝るとも劣らぬ憎しみを宿していることを伝えるが、効果は薄い。オルペウスが電源ボタンに手を伸ばしたその時。
「やめにしないか!」
アキラが声を張り上げる。あの災厄で何かを失わなかった人など居ない。それでも自分たちがここまで来れたのは、そこで悲しみや怒りに立ち止まらなかったからだと。
「もちろん、過去は大事さ……けれど、今目の前にあるものだって同じくらい大事だろうっ!」
鬼火がはっと息を飲む。暫く俯いていたが、顔を上げる頃にはもう平静を取り戻していた。アキラに感謝を告げている。
「イゾルデ、永遠にこのままにしておくつもりはないが……然るべき時が来るまでは我慢してやる」
「そうしてくれると助かるよ」
鬼火の言葉に微笑むイゾルデ。目の前の裂け目に入れば目的地である。
「諸君、ためらわずに進め。軍の圧力は私のところで止める」
頼もしい言葉を聞きながら、一行は裂け目へと潜っていったのであった。
飛び出してみれば広場であった。奥の方にぽつんと女が立っている。見れば分かる。この女、聖杯の赤蜘蛛鐘女にも匹敵するド外道売女である。
サラと呼ばれるその女を睨みつけ、話し始めるアキラ。彼女によれば、讃頌会の行った悪事は全て彼女が関わっているのだという。
よし殺そう。これ以上聞いていられん。狩人が銃を抜く。サラが逃げる。やけに運動音痴さを感じさせる走りであった。
「待て、売女めがっ。貴様もヤーナムスイーツにしてやるっ」
「無駄よ! 始まりの主の加護は巡り、そして終わらないものなのだから!」
高笑いをしながらサラが裂け目に潜ると、その裂け目は一瞬にして消滅してしまった。追うのは難しいだろう。舌打ちをする狩人。
何が始まりの主だ。出会ったら上位者デスマッチでもしてくれる。ヤーナム神拳でボコボコにしてやるぞと狩人が拳を握り締めていると、「大変だ!」とアキラが叫んだ。
「リンから連絡があった! 衛非地区の方でサクリファイスが大量発生したらしい!」
狩人の判断は早かった。「狩りに行く。後で会おう」とだけ言い残し徴で帰ってしまったのだ。突如消滅する狩人に驚く一行。すぐに皆衛非地区へと向かいはじめた。
街へつくなり狩人が見たものは死体の山と血の海であった。人はもう殆ど居ない。皆逃げたか死んだようである。
血肉を求め、怪物どもが我が物顔で街をうろついている。見慣れた光景である。大きな違いといえば、空がとても明るいことくらいであろう。
近くの建物、その影に溶け込む。遥か遠くの方では儀玄を含む雲嶽山の人間たちがもの凄い速度で怪物を狩って回っていた。
至る所で火災が起き、灰色の煙がそこら中で立ち込めていた。地面へ視線を下ろせばどこを見ても人の死体があった。瓦礫と共にその辺やこの辺に転がっている。
ブリンガーにたいまつを押し当てた時と同じような独特の臭いに惹かれた狩人が影の中からこっそり広場へと顔を出してみると、大勢の人間が集まっているのを見つけた。住民や兵士たちも怪物に応戦しているようである。
広場の中心では、衝突事故を起こした車が数台、山型に積み重なって炎上していた。その燃え盛る車たちの上では、怪物の一体が磔にされて焼かれていた。まだ辛うじて生きているようで、縛られたまま力無く鳴き声を上げている。
兵士たちは当然銃火器を持っていたが、一般市民たちも銛やたいまつで武装していた。数十人が集まり、焼けていくサクリファイスをぼうっと囲んで眺めている。犬も居た。
衛……衛非地区キャンプファイヤー……! 怯える狩人。とても声を掛けるだけの勇気は無かった。彼らが正気かどうか確証が持てないのだ。
あの数に囲まれて集団リンチにされてはたまったものではない。自動小銃持ちまで大勢居るのだ。あんなミニガトリングみたいな化け物兵器、相手にできるものか。
そもそも自分はサクリファイスを狩りに来たのではないか。目的を思い出す狩人。影に隠れたまま群衆と距離を取る。一瞬獣と化している者が居たように思えたが、髭を獣毛と見間違えただけであった。
狩人がこうしている間にも儀玄は尋常ではないスピードで怪物どもを片っ端から狩りまくっていた。雪崩のような勢いである。
できることならば一緒に戦いたいが、如何せん彼女たちはかなり遠くにおり、その上儀玄に至っては空を飛び回っている。上位者より上位者してるではないかと狩人はひとりごちた。
彼らが怪物を殆ど殲滅し尽くしていたおかげで、狩人はもう呑気に残党狩りをすることしかできなくなっていた。尤も、大勢居る方が困りものなのだが。
幸か不幸か建物の崩落のおかげで「石ころ」は沢山拾えたので敵の釣り出しにはさして苦労しなかった。それにしても自分の拾う石は全部目玉に見える気がするなと少し疑問を抱く狩人。
鋭い棒を杖のようにして歩くそれらは大きさも含めて人型であったが、右腕が存在せず、代わりに右上半身から背中にかけて異様に肥大化した真っ黒な瘤、膿のようなものがあった。顔には金色の仮面が付いている。
個としては苦戦などするはずもないが、二体以上になると急に厄介になる。そのくらいの強さであった。幸い知能は獣程度なので簡単に一対一の状況に持ち込めたが。
安全な区画ができたようなので、今だ街中に残っているまともそうな市民を地上へ降りてきた儀玄達と共に避難場所へ送り届けることにした。
救助活動を続けることおよそ一時間、遂にアキラ達と合流できた。これから兵士達の少ないエリアに向かうそうだ。当然狩人も同行することにした。
何か物足りなかった。アキラ達と共に出発する時、狩人はまたそんなことを考えていた。確かに、人を助けられた時は胸が暖かくなった。一人の少女を無事親の元へ届けられた際などその子の両親より泣いた。
だが、己がひっそり期待していた地獄は存在しなかった。今度ヤーナムで憂さ晴らしでもしようと心に決める狩人。せめて相手が違えば。
「どこもかしこも、エーテリアスばかりだ……」とか言ってみたかったのだが、などと考えながらアキラ達についていく狩人であった。
こういう形でしか私にはツイッギー達を救ってやれなかった。すまない。
「今でも夢を覚えていますか」完了しました。泣きました。
タイトルはまた今度ちゃんと回収するかも。こんな雑な使い方で終わらせるのはちょっと勿体無い気がするので。