その転生者は見届ける   作:街中@鈍感力

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第26話『その転生者達は食卓を囲む』

電車に揺られながら岩槻駅に到着し、そのまま俺達は新菜の家に帰宅。

俺は三人分のお茶を用意する名目で居間に移動し、少し休憩させてもらう。

電車の中でのわかまりの二人が尊すぎてちょっとしんどいのと、その間の二人を邪魔しないためである。

 

「あの……本当にいいんですか? 俺がやっておきますけど……」

 

「いいよっ、だってあたしが着たんだし! 自分で洗うのがフツーじゃん⁉」

 

洗面所で二人のやり取りが聞こえる。

イベントにて雫たんコスの海夢ちゃんの笑顔に心を奪われた新菜。

電車の中で微睡む新菜の心からの言葉に恋を自覚した海夢ちゃん。

今日、二人は両片思いとなった。

 

(Congratulations! Congratulations!)

 

俺の中の黒服達が拍手で二人を祝福している。

今日は海夢ちゃんのコスデビュー記念であり、二人の両片思い記念日だ。

なんて素敵なんだろう。来年はケーキ買ってお祝いしないと。

 

プルルルルッ プルルルルッ

 

素晴らしい一日だった事を噛み締めていると、五条家の固定電話が鳴る。

新菜は海夢ちゃんとウィッグを洗っている最中なので、俺が代わりに対応した。

 

「はい、五条人形店です」

 

『守優か、じいちゃんだ』

 

電話してきたのは薫おじいちゃんだった。

 

「おじいちゃん、どうかした?」

 

『今美織の車に乗せてもらってそっちに向かってるとこでな。一度連絡しておこうと思ってよ。本当はもう少し早めに伝えようと思って昼間にも電話したんだが……どこか出掛けてたのか?』

 

「そうだったんだ。うん、新菜達と一緒にちょっとね。電話出られなくてゴメン」

 

『はは、気にすんな。じゃ、そういう訳でもう少ししたら着くからな』

 

「はーい、気を付けてね」

 

帰宅する前に一報を入れる為の電話だったようで、会話もそこそこに通話を切る。

さて、こんな電話が掛かってきたのは予想外だったが、わざわざ教えてくれたのだから出迎えくらいした方がいいだろう。

俺はそう思って立ち上がり、玄関に向かう途中で洗面所へと顔を出す。

 

「新菜~、おじいちゃんがそろそろ帰ってくるってさ。俺、玄関でお迎えしてくるよ」

 

「わかった」

 

「帰ってくるって事は、おじいちゃん腰良くなったんだ。よかったね、ごじょー君」

 

「はい」

 

まるで自分の事のように喜びながら、笑顔で新菜へと言葉を掛ける海夢ちゃん。

それを受けた新菜も嬉しそうに微笑んで頷いて返す。

俺はそんな二人のやり取りを見て寿命が延びるのを感じながら、二人のお邪魔にならないようその場を後にし、外でおじいちゃんの帰りを待った。

本当にすぐ近くまで来ていたようで、数分で一台の車が家の前に泊まる。美織お姉ちゃんの車だ。

 

「こんばんは、守優君」

 

「こんばんは、美織お姉ちゃん。おじいちゃん、お帰りなさい」

 

「おお、ただいま。わざわざ待ってたのか?」

 

運転席に座るお姉ちゃんに挨拶をした後に、おじいちゃんに声を掛ける。

俺が外で待っているとは思わなかったのか、おじいちゃんは少し意外そうにしながらも、その後「ありがとな」と顔を綻ばせた。

大丈夫とは思うが念の為に車を降りる際に傍で待機していたが、やはりほぼ全快したようで降車の動作に危うさは全くない。

 

「もう大丈夫みたいだね」

 

「おう、先生からも太鼓判押してもらったぞ」

 

「だからって無理しちゃダメよー。まだ治ったばっかりなんだから」

 

笑顔で力強く言うおじいちゃんをお姉ちゃんが苦笑しながら窘める。

それに対しておじいちゃんは「わかってるわかってる」と苦い顔で返した。どうやら耳タコらしい。

 

「送ってくれてありがとな。気ィ付けて帰れよ」

 

「分かってる。じゃあね、守優君。わっちゃんによろしく」

 

「はーい」

 

俺とおじいちゃんの二人でお姉ちゃんを見送る。

ものの数秒で車が見えなくなり、それを確認したところでどちらともなく踵を返して玄関の扉へと向かった。

 

「帰ったぞー」

 

「あっ、じいちゃんお帰り!」

 

おじいちゃんがガラリと扉を開けながら帰宅を告げると、パタパタと足音を立てながら新菜が玄関までやって来る。

その声は嬉しそうに弾んでおり、大切な祖父が無事戻ってきた事に対する喜びが滲み出ていた。

それを感じ取ったのか、おじいちゃんも少し嬉しそうに頬を緩めている。

そしておじいちゃんは可愛い孫へと視線を向け、

 

「悪かったなぁ、二週間も家空けちまって――……おぉッ⁉」

 

新菜が持つコス衣装に釘付けとなった。

想像もしなかった物を孫が手にしている事におじいちゃんは驚愕の声を上げる。

 

「おジャマしてマース」

 

「なぁッ⁉」

 

そこに遅れて登場した海夢ちゃん。

これまた予想外のギャルの登場におじいちゃんは驚きの余りに後ずさった。

このまま後ろに倒れこんだから大変なので、俺はそっと背中を支える。

 

「~~ッ‼ 新菜ぁ‼」

 

五条家に家主の大声が響き渡った。

それから俺達は二週間に渡り何があったのか、おじいちゃんに説明した。

 

「なんだ、そういう事だったのか……」

 

説明に納得したおじいちゃんが安堵し、俺が用意したお茶を飲んで一息つく。

 

「海夢ちゃんごめんね、おっきい声出しちまって……」

 

「全然大丈夫ですっ!」

 

自分が一人で勘違いして大騒ぎしてしまった事を申し訳なさそうに謝るおじいちゃんに対して、海夢ちゃんは笑顔で手を振って返した。

その様子から本当に気にしてないのを察したおじいちゃんは「ありがとね」と一言礼を述べた後に、彼女の隣に座る新菜へと視線を移す。

 

「じいちゃん、てっきり……」

 

「? べつにやましい事してないよ」

 

「!」

 

勘ぐってしまっていたおじいちゃんの目線に新菜はきょとんとした顔で答えた。

その横では彼の言葉に反応した海夢ちゃんが新菜の顔を見つめる。

一方、おじいちゃんはゆっくりと頷き、壁に掛けられた衣装を見上げた。

 

「おお、アレ見りゃそんな事分かるよ。しかしお前、よく作ったな。立派なもんだ」

 

「もっと褒めてやってよ、おじいちゃん。新菜、本当に頑張ったんだから」

 

「ちょっと、守優……っ」

 

俺が横から口を出すと新菜が少し恥ずかしそうに遮ろうとする。

しかし、俺は新菜がこの二週間どれだけ頑張ってきたのか見てきたのだ。彼はもっと評価されて労われてもいいと思う。

雛人形の衣装の作り方しかおじいちゃんは知らないだろうが、それでも衣装を作る事がどれだけ大変かは分かるはずだ。そして、人間用となれば大きさも勝手もまるで違うという事も。

 

「……はは、そうだな。よく頑張ったな、新菜。流石、じいちゃんの孫だ」

 

「……うんっ」

 

俺の思いが伝わったのか、おじいちゃんは穏やかな笑顔を新菜に向けて、孫の努力を労った。

祖父であり頭師としての師匠であるおじいちゃんに褒められ、新菜は少し頬を赤くしながら、照れくさそうに笑う。

そんな微笑ましい二人のやり取りを見ているとこちらもなんだか心が温まり、自然と笑みが零れた。

 

「でも、色々まだまだでさ……」

 

「そうかぁ? 上等だろ~」

 

「こことか、いつもの癖でボンドで付けそうになっちゃってさ」

 

新菜は頬の赤みが引かぬまま、それでも衣装を作った人間としてまだまだ自分に至らぬ点があった事を気にしている様子で、師匠であるおじいちゃんに自身が気付いた反省点を挙げる。

それを受けておじいちゃんも「確かにな……」とすぐに職人の目つきになって衣装を観察し始めた。

そこから始まった二人の雫たんの衣装における改善点や注意点の談義を俺は聞きながらチラリと視線を移す。

 

「~~~~っ♡♡♡♡」

 

そこには真っ赤な顔で新菜に熱烈な視線を送り続ける海夢ちゃんがいた。

彼女は俺に気付く事なく新菜を見つめ続けている。

その表情は完全に恋する乙女。落ちたな(確信)。

 

「……ハッ‼」

 

若菜とおじいちゃんが気付かぬ後ろで数秒悶え続けていた海夢ちゃんは急に正気に戻り、俺の方を見てきた。どうやら俺の視線に気付いたらしい。

そのまま固まってしまった海夢ちゃんに俺は笑顔で手をひらひらと振って返す。

 

「……っ」

 

すると、海夢ちゃんは固まったままどんどん顔を赤らめた。

 

ぐぐうぅ ぎゅるるるる

 

しかも、腹の虫まで鳴いてしまうオマケ付き。

まるで湯気でも立ち上りそうな程の赤ら顔になった海夢ちゃんに、お腹の音に気付いた新菜とおじいちゃんの視線が集まる。

 

「喜多川さん、お腹すきました?」

 

「ちょっ、あはははっ」

 

新菜の質問に海夢ちゃんは答えになっていない返事で誤魔化す。

時計を見ればもうすぐ19時を回ろうというところだ。普段よりも遅い夕食になっちゃうなぁ。

 

「海夢ちゃん、よかったらうちで食ってくかい?」

 

「へっ? いいんですか?」

 

まさかのおじいちゃんからのお誘いに海夢ちゃんは一瞬固まる。

そんな海夢ちゃんにおじいちゃんはゆっくりと頷いた。

 

「ああ。守優、お前も食っていくだろ?」

 

「うん。新菜、今日も俺作ろうか?」

 

「最近ずっと作ってもらってたし、今日は俺が作るよ。喜多川さん、待っててくださいね」

 

新菜が立ち上がり、台所へと向かう。

なんだかんだ新菜の料理は久しぶりだなぁ。

 

「喜多川さん、新菜の料理美味いから期待してていいよ」

 

「マ⁉ めっちゃ楽しみ~!」

 

「守優、ハードル上げないでよ……っ」

 

「はははっ」

 

俺達三人のやり取りを見ておじいちゃんが楽しそうに笑う。

久しぶりの我が家に戻って来られた上に、新菜が俺以外の友達と交流し、こうして家にまで呼んでいるのを見れたのが嬉しいのかもしれない。

その後、新菜が料理を作るまでの間に海夢ちゃんがモデルの仕事をしている事や、おじいちゃんを心配していた事などを話した。

 

『こんなに別嬪さんなんだ、モデルになるのも頷けるなぁ』

 

『心配かけちまってごめんね。もうすっかり良くなったから。ありがとう』

 

おじいちゃんは俺達の話を聞いてる間ずっと笑顔で、海夢ちゃんとの交流を深めていた。

海夢ちゃんも海夢ちゃんでおじいちゃんにすっかり懐いた様子で、傍から見ればまるで本当の祖父と孫の様である。

 

(ま、あと何年かしたら本当におじいちゃんと孫の関係になるけどね!)

 

義理ではあるけど、そこは些細な問題だ。

俺はそうなる未来を待ち遠しく感じながら、二人の交流を眺めたり会話に混ざったりした。

 

「お待たせしました」

 

そうこうしているうちに新菜が料理を完成させ、居間へと食事を運んでくる。

 

本日の五条家の夕食

・白身魚の南蛮漬け

・南瓜のそぼろ煮

・味噌汁

・漬物

 

バランス良く健康的な和食メニューだ。

俺も料理はそれなりに自信あるけど、正直自分で作るより新菜の料理の方が好きだったりする。

四人で食卓を囲み、皆で手を合わせる。

 

「「「いただきます」」」

 

「いただきま~すっ!」

 

食前の挨拶を終え、それぞれが料理に箸を伸ばす。

ん~、南蛮漬け美味しい。

対面に座る海夢ちゃんも一口食べると、目を輝かせてその味を堪能していた。

 

「~~っっ♡♡♡♡ んまーっ‼ 月見里君の言う通りめっちゃ美味しい‼」

 

「でしょ~?」

 

自分が美味しいと思うものを誰かと共有し、それを相手にも共感してもらえるのは嬉しいものだ。

しかもそれが家族同然の親友の料理なら猶更。俺は自分の事のように新菜の料理を褒めて、今度は味噌汁に口を付ける。

 

「月見里君もだけど、ごじょー君も料理めっちゃ出来んのヤバっ‼ 神っ‼」

 

「いえ、そんな……うち両親いないんで、守優がいない時は俺がやってるだけで大したものは……」

 

「マジ⁉ あたしと一緒じゃん!」

 

「え?」

 

海夢ちゃんに料理を褒められて嬉しそうに微笑みながら、新菜は謙遜する。

これだけ美味しいなら十分大したものだと思うけどな。

そんな事を考えていると、新菜は自身には両親がいない事を告白し、それに対して海夢ちゃんが自分もそうなのだと軽いノリで返す。

 

「あたしんち、昔病気でお母さん死んじゃってお父さんと二人なんだけどー、高校受かった後にお父さん転勤になっちゃって。単身赴任中だから今一人暮らしー、みたいな」

 

サラリと自身の家庭事情について語った海夢ちゃんは「カボチャもうまっ♡ 甘~♡」と南瓜のそぼろ煮に舌鼓を打っていた。

おじいちゃんは勿論、新菜もそんな事情を知るはずもなく、二人揃って海夢ちゃんを気遣うような視線を送っている。

 

「そりゃ大変だ……ちゃんとご飯食ってんのかい?」

 

「はい。基本コンビニなんですけどー、バイトない日は割と作ってますよ!」

 

そう言って海夢ちゃんは自身のスマホの画面を俺達に見せてくる。

俺と新菜、そしておじいちゃんが顔を寄せて三人でスマホを覗き込んだ。

 

「「‼」」

 

「うわ、すご」

 

映し出されていたのは栄養バランスもへったくれもない真っ茶色の料理だった。

俺の両隣に座る新菜とおじいちゃんは二人揃ってギョッとした顔で固まっている。

 

「それは納豆と冷凍チャーハンと冷凍唐揚げとウインナーご飯。一時期ハマってそればっか食べてたかな~」

 

健康という概念に真っ向から勝負を挑むようなその料理はどこか威圧感さえ感じる。

きっと横にいる新菜の脳内では海夢ちゃんが言っていた『いちおーあたし、料理とか出来たりするし……!』という言葉を思い出している事だろう。

ばれないように新菜の顔を窺えば凄い顔して、周囲に疑問符を飛ばしていた。おもしろ。

しかし、こうして写真で見ると本当に暴力的な料理だな。

……でも、ちょっと美味しそうなんだよな。

 

「……今度一回作ってみるか」

 

「守優?」

 

俺がぼそっと呟けば、新菜が信じられないものを見るかのような目で俺を見てくる。

流石にこればっかり食べるのはアレだけど、一回食べてみたいと思うじゃん! 推しが食べた料理(?)と同じものを食べたいと思うのはオタクとしての性じゃん!

それにこの料理自体、美味しいものだけで構成されてるし! あと、健康に悪いものは美味しいって言うし!

 

「……大丈夫かぁ? 体どっか具合悪くなってないかい……?」

 

健康的な食生活を送っている五条家では考えられないような料理を見て、おじいちゃんは海夢ちゃんを気遣う。

それに対して海夢ちゃんは元気いっぱいの笑顔で返した。

 

「全っ然ケンコーですよ! 毎日牛乳飲んでヨーグルト食べてるんで、大丈夫っ‼」

 

海夢ちゃんは牛乳(コーヒー牛乳)とヨーグルト(マンゴーヨーグルト)の写った写真を見せながら、可愛らしくウインクする。

くっ、可愛い。海夢ちゃんの前に俺が健康になる!

それにしても、あれだけ欲に忠実な料理を食べておいて牛乳とヨーグルトだけでなんとかなっているのは若く健康な証拠だろう。

……正直、前の人生の俺ではあの料理はちょっとキツいかもしれない。若さと健康って大事なんだなと再確認。

 

「……ま、海夢ちゃん……よかったらこれからはうちでご飯食っていきな……いいだろ、新菜……な?」

 

「あ、うん……そうしましょう、喜多川さん……」

 

おじいちゃんは言葉を選びながら、これからも一緒に食事をするよう海夢ちゃんを誘う。

新菜もおじいちゃんに同意したが、二人の表情はどこかぎこちない。

 

「え⁉ ホントに⁉ いーんですか⁉ やった~っ‼」

 

一方海夢ちゃんは二人の心配に気付く様子もなく、純粋にこれからも五条家で食事が食べられる事を喜んでいた。

これで海夢ちゃんは今後もこの家で食事をする事になった。俺にも家があるので毎回というのは無理だが、一緒に食事をする際にはそれも考慮してメニューを考えるとしよう。

元々おじいちゃんの事を考えて料理はしていたが、海夢ちゃん的に物足りなく感じてしまう可能性もあるし、健康と食べ応えの両立をしなければ……!

そんな事を考えているうちに俺達は食事を終えた。

 

「ご馳走様でしたー!」

 

「はい、お粗末様でした」

 

満足気に手を合わせる海夢ちゃんに新菜が笑顔を浮かべる。

時計を見ればもう20時を過ぎている。俺は近所だから構わないが、海夢ちゃんはそろそろ帰らないと心配になる時間だ。

 

「うわっ、もうこんな時間。あたしそろそろ帰らないと……!」

 

海夢ちゃんもそれに気付いたようで、自身の荷物を纏め始める。

 

「なぁ、新菜。時間も時間だし、駅まで喜多川さんの事送ってあげなよ」

 

「そうだな。新菜、そうしてやんな」

 

駅まで海夢ちゃんに同行する事を提案すると、おじいちゃんもそれに賛成した。

それに対して新菜も同じ事を考えていたのか頷いて返し、立ち上がって出掛ける準備を始める。

 

「喜多川さん、駅まで送りますね」

 

「ホント? ありがとー」

 

荷物を纏めた海夢ちゃんが新菜に続いて立ち上がる。

そして俺、続いておじいちゃんへと声をかけた。

 

「月見里君も、今日はありがとね。おじいちゃん、お邪魔しましたっ」

 

「こちらこそ、今日はありがとう。また明日、学校でね」

 

「海夢ちゃん、気ィ付けてな。明日もまたおいで」

 

「はーい! 行こっ、ごじょー君っ」

 

「はい。じゃあ、行ってきます」

 

俺達に笑顔で手を振りながら、海夢ちゃんは新菜と共に居間の出ていく。

ガラガラと玄関の戸を開き、二人が出ていく音が聞こえた。

 

「随分と元気な子だったなぁ」

 

おじいちゃんが呟く。その声色は穏やかで、表情もどこか楽しげだ。

それを見て俺はおじいちゃんが海夢ちゃんにマイナスな感情を一つも感じていないのを察して、笑顔で返す。

 

「いい子でしょ?」

 

「ああ。新菜に、あんな友達が出来たなんてなぁ」

 

おじいちゃんは壁に掛けられた衣装へと目を移す。

その瞳は孫の成長を喜び、幸せを願うような温かさが感じられた。

 

「毎日毎日、人形の事ばっかりだったあの子がようやく他の事に目が向けられるようになった」

 

「本当にね。俺があれだけ言って誘ってもダメだったのに」

 

「ははっ、拗ねてんのか?」

 

「ンなわけないでしょ」

 

ニヤリと俺をからかうように笑みを浮かべるおじいちゃんに俺も笑って返す。

新菜の人形に対するストイックさはよく知っている。原作よりちょっとマシになっただけでも重畳だろう。

まぁ、全く思うところがないと言えば噓になるが。それでも、海夢ちゃんとの縁から始まり、これから更に新菜の世界が広がる事への嬉しさの方がずっと大きい。

 

「……なぁ、守優」

 

「ん? どうしたの、おじいちゃ――」

 

 

「お前も、よく頑張ったな」

 

 

「……え?」

 

突然の言葉にドキリとして固まってしまう。

そんな俺を見るおじいちゃんの目はとても優しいものだった。

 

「新菜がこんだけ立派な衣装を作れたのは、お前が支えてやってくれたお陰だ。これからも、新菜の事をよろしく頼む」

 

おじいちゃんはそう言って俺の頭を撫でる。

その言葉と手に、思わず目頭が熱くなるのを感じた。

新菜の手伝いをしたのは俺の自己満足で、誰かに褒めてほしい訳ではなかった。

身勝手で新菜に無理をさせた罪滅ぼしの為で、感謝してほしい訳ではなかった。

それでも、この二週間の頑張りが報われたと思うと……嬉しくて堪らない。

 

「――当たり前じゃん。俺は新菜の兄弟みたいなもんだしっ」

 

「……そうか。ありがとな」

 

俺がそう返すと、おじいちゃんは嬉しそうに目を細めて頷いた。

 

 

 

 

.

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