浮遊城に生きた者へ感謝を込めて。


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作:あおい安室
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湖のほとりで勇気に焦がれる騎士に出会った。


 

 2023年7月XX日

 

 

「何だと?ええい、だから金入り袋がひっかけられてたのか。ご祝儀だといったろうに」

 

 頭をガシガシとかきながらウィンドウに表示されたキーボードを叩く。個人的にはペンで紙に直書きする方が好みなのだが、ソードアート・オンラインの世界におけるプレイヤー間で言葉のやり取りをする手段は直に会って話すかメッセージ機能を使うかの二択だ。

 ファンタジー世界の浮遊城だというのに手紙ではなくオンラインゲームなメッセージ機能で、しかもキーボードは空中投影パネル。茅場晶彦もこういうところはこだわりが足りてない。

 

 あの指輪は嫁さんとのペアリングだ、どっちも大事にしろよ旦那。金はそのために使ってくれ。

 

「送信、っと。たっく、あの頑固者め」

 

「どうしたんだよ爺さん。機嫌が悪いみたいだけど」

 

 釣竿片手に黒ずくめの少年が話しかける。攻略の暇を見つけて遊びに来たキリトだ。その手には青色のシャケもどきな魚がある。大物だ、釣果は上々だったようだな。キリトはテーブルのまな板の上にのせた魚に包丁の刃を通す。切り身を揚げ物にするかな、油を入れた鍋をたき火にかけた。

 

「知り合いのカップルが今度結婚すると聞いてな、プレゼントを贈ったんだ。そのお礼にと二十万コルもの大金を送ってきたんだが、いらん世話だ。結婚には金がかかるというのに」

 

「ああ、馬車にくくられてた袋か」

 

「そうだ。余計なことに気を回す男だよ、あいつは。既に礼はもらったというのに」

 

 ハンモックに放り出した中折れ帽を叩く。なかなかにおしゃれな帽子で、料理中に被りはしないが個人的にも気に入っている。セットで強奪したサングラスは微妙なセンスだと思うが。

 

「ん、もしかしてそのプレゼントってこの前エギルの店で売ってた指輪か?」

 

「ああ、そうだよ。高い金をふんだくられてしばらくは貯蓄の日々だ。今晩もちょっとばかし内職して売り物作るとするかねぇ」

 

「エギルは身内にも容赦ないからな。あの指輪は俺もちょっと狙ってたんだよ。AGIが二十も上がるアイテムだったし、最近装備更新した関係で体が重かったからな」

 

「太ったんじゃないか?」

 

「まさか、SAOではたくさん食べたら多少は腹が膨れるけど体形はほとんど変わらないよ。いや、もしかすると逆に痩せてきてるかもしれないな、俺たち」

 

「そうかぁ?おまえさんが遊びに来た時はいつもがっつり食事してるだろう?」

 

「……リアルの俺たちは寝たきりだろ。そういうことだよ」

 

「そっちか。あまり考えたくないな。昔病気で三週間ほど入院していたことがあるが、それだけでもかなり筋肉の量が減ってな。走るのも歩くのもしんどくてたまらん」

 

「爺さん経験者か。リハビリって何かコツはあるか?」

 

「味のない飯に楽しみを見出せ、美人看護師に表情を悟られないようにしろ、薬はちゃんと飲め」

 

「参考になるのかならないのか微妙なアドバイスありがとう」

 

 ふと思い出して取り出した石ころをキリトに渡す。キリトもそれの用途は知っていたらしくにやりと笑い返された。石をおろし金で削って粉末にして、それを切り身にパラパラと振りかける。岩塩だ。半分はフライ、もう半分は焼き魚にしよう。デカい魚を釣ってくれたよ。

 

「で、キリト。近々アルゴと会う用事はあるか?あいつに金を返してくるように言ってくれ」

 

「また頼み事かよ。爺さんはアルゴを顎で使ってるけど、そんなに仲がいいのか?」

 

「それなりに使える情報を売ってやったお得意様だ。ついでに弱味も握ってる」

 

「弱味?あのアルゴにそんなものがあるのか」

 

「人間誰にでも苦手なことがあるものだろう?私にもあるし、キリトもそうだろうよ。そいつの情報を誰にも売らない代わりに、ちょっとした依頼程度なら無償で引き受けてもらえるのさ」

 

「うっわぁ、あくどっ。女の子にひどいことするぜ」

 

「情報の有効活用と言ってくれたまえ、黒の剣士くん。代わりにあいつがダンジョンの情報収集やる時は休憩所として馬車を貸したりもしてるんだ、お互いに対等な取引だよ」

 

 そうだ、どうせならあいつへの料理も作ってやるか。チーズのストックはあったかな。カララン、とウィンドウの操作音を聞きながらチーズを探していると、鍋に魚の切り身が落とされた!

 

 キリトめ、魚を入れるなら入れると言え!油が散って熱いんだが!?焦がし魚が食いたいか!?

 

 

 

 

 ソードアート・オンラインの気候変動システムが夏の色をアインクラッドに写し始めた頃、私たちは程よい田舎の湖のほとりで釣りキャンプを楽しんでいる。いい休日、いつもの休暇。いつも通りの休日になるはずだったが、今日は珍しい客が訪れることになるとは思いもしなかった。

 朝食はシャケもどきフライの黒パンサンドで済ませて、今度は夕食用の魚釣りを始めた頃。

 

「フガアッ!?」

 

「……おっ、キリトを釣ったかエヴァ。おめでとう。女たらしだから気を付けろよ」

 

「ほ、ほめれとうじゃねえって!釣りはり外してふれ!」

 

 相変わらず釣竿の使い方がどこかおかしい御者NPCの奇行に笑う。こいつの思考ルーチンはどうなっているのだろうか。釣り針を外そうとしてなぜか釣竿を引っ張るエヴァを静止しつつキリトの口から外してやる。その時だ、遠くからガシャリと金属音が聞こえる。

 この階層にそんな音を鳴らすモンスターはいないし、湖周辺は対岸にある小さな村込みで圏内設定されている。となれば音の主はモンスターではなく、人間。それもこんなのどかなところに鎧姿で来るのは限られる。

 

「えええ?なんであいつがここにいるんだ……」

 

「い、つつ……ペインアブソーバがあってもこういう小さい痛みはあるから困る。で、どうしたんだよ爺さん。また変な顔してるぞ」

 

「うるさいな、そういうならおまえもあれ見ろ、あれ」

 

「あれ?ああ、湖の向こう側に誰かいるな。よく見えないけど」

 

「遠視スキル取ってないのか」

 

「いらないだろあれ。双眼鏡で代用できるクソスキルってアルゴも酷評してたぞ」

 

「極めたら透視スキルに進化するぞ。服は透けるし女湯も覗ける」

 

「マジで!?」

 

「嘘に決まってんだろスケベ。そんなセクハラスキルがあったらCEROがもっと上がるわ」

 

「で、ですよねー……まあいいや、双眼鏡借りるぜ」

 

 キャンプ用具&ガラクタを突っ込んだチェストから双眼鏡を取り出したキリトが向こう側を確認する。そして先ほどの私と同様に変な表情を浮かべていた。目を細めて苦笑いってやつだ。

 

「嘘だろあれ。なんであいつがこんなところにいるんだよ、夢でも見てるのか?」

 

「現実だろ。何しに来てんだあの鉄仮面」

 

「えっ、爺さん知り合いなのかよ。どういう付き合い?」

 

「さあてねぇ……あいつはよくわからん。釣りを続けようじゃないか。不審者は無視しろ、無視だ」

 

「あいつがよくわからないのは同感。そっとしておこう」

 

 釣竿を引き上げる。餌のミミズはなくなっていた。食われたな。つけ直すと再び湖に向かって放り投げてあいつから視線を逸らす。キリトもそれに倣い、エヴァもなんとなく真似をする。

 

 今晩のメニューはどうするかな。シンプルに魚を刺身にしてどんぶりにするか、ホイルにくるんで焚火に放り込むか。ちょいとばかり手がかかるがスモークして燻製なんてのも悪くないな。

 香木はそれなりにあるが、スモーク用の調理器具はこの前壊してしまった。まさか温めると爆発を起こす魚だったとは想定外だ。残骸は残しているが整備するにしろ新しく作るにしろ、添加材のストックが足りてないのがよろしくない。日が落ちる前に北にあるダンジョンで採掘することも検討するか。

 

「やあ」

 

 あのダンジョンに潜んでいるモンスターはスライム系ばかりだ。困ったことに光を吸収する個体がいるせいで暗さが尋常じゃないし罠も多い。その代わりにスライムからとれるオイルは極上品。

 

「やあ」

 

「なあ、キリト。おまえスライムオイルはいるか?」

 

「え、あ、うん?武器を直す道具だっけ?」

 

「そういう使い方もあるやつだ。取りに行かないか」

 

 スライムオイルは金属や革製の装備品に溶かしこむことができる。耐久度の回復、ステータスの向上が見込めるかあくまでも簡易的なもの。効果が切れれば耐久値もステータスも元通り。

 だが、鍛冶道具としては非常に多くの使い道がある。溶接剤代わりにもなるし硬度を高めるのにも使える。装備品や道具、どちらを製作する場合にも使える便利な道具として、鍛冶をかじった者は重宝している。おっと、これはダジャレではない。

 

「やあ」

 

「決まりだな。午後は北東にある月夜の水路跡地に行こう。スライムハント、だ」

 

「俺はいいけど本気かよ。爺さんあんまり戦闘が得意じゃないだろうに。で……どうすんのこれ」

 

「やあ」

 

「無視しろ、無視だ。面倒ごとな気がする」

 

「なんだねその言い草は」

 

 声の主の方を向かない。回り込んできたが顔を見たくない、面倒ごとになる気がする。キリトのひきつった表情と目が合った。おまえもわかるだろう、これは面倒な予感がするだろう?

 

「やブフッ」

 

 べしゃあ、と音が聞こえたが振り向かない。キリトが驚きながらエヴァの方を見る姿しか見ないぞ。エヴァは釣り上げた魚を不審者に命中させたようだな、よくやった。

 

「ブフゥッ、クククッ……」

 

 不審者とキリト、エヴァ以外のもう一人の声が聞こえる。笑っていた。白い衣装に赤い紋章等をあしらったその装備は血盟騎士団の証。血盟騎士団の少年が笑っていた。

 

「……ははぁ。部下に笑われるとはとんだ失態だな、ええ?」

 

「NPCのしつけをちゃんとしてない君に言われたくないな」

 

 不審者の顔を見る。少年と同じ系統のカラーリングだが、こちらは真紅の鎧に白いマントが眩しい。青年というには年を取っていて、中年というには勇ましい顔つきの男には感情がなかった。感情を押し殺しているのか、それとも元々薄かったのか。尋ねたところで答えはしないだろう。

 

「久しぶりだな、ヒースクリフ。相変わらず無表情な男め」

 

「ゴロー、君も相変わらずだな。そんなに私のことが嫌いか」

 

「嫌いなんじゃない、厄介ごとを持ち込まないでほしいだけだ」

 

 にらみつけても表情一つ変えやしないそいつには鉄仮面というあだ名がピッタリだろうよ。苛立ちを隠すかのように煙草をくわえれば、どこからか取り出したマッチを自分の鎧に擦り付けて火を灯して差し出してきた。仕方なくその火を使って今日の一服を味わうことにした。

 

 彼の名はヒースクリフ。攻略組筆頭ギルド血盟騎士団団長にして、私の知人だ。

 

 

 

 

 

「相変わらず元気そうだな。馬の調子も悪くない」

 

 ヒースクリフは馬車から外してその辺を歩かせていた馬の頭を撫でている。私が使っている馬車と馬、そして御者の入手には全て彼が関わっている。故に多少の面識があるからか、馬も嬉しそうにヒースクリフに頭を擦りつけている。そのままべちゃくちゃに舐められてしまえ。

 

「……なぁ、爺さんあのヒースクリフと知り合いなのかよ」

 

「知人だ。以上」

 

「本当にそれだけの関係なのか?団長があんなことをいう姿初めて見たぞ」

 

「それだけだ、団員くん。私は何も言いたくない」

 

 攻略組として、ギルドの一員としてヒースクリフを見ていたキリトと血盟騎士団の少年にとってあの姿は信じられないらしい。

 正直言って私も信じられない。あのヒースクリフがあんなにも人間臭い男だったとは……

 

「君が言わないのなら私が言うとしよう。ゴローは私の恩人だよ」

 

「あんたの恩人だって?ゴロー爺さんがか?」

 

「ふふっ、ゴロー爺さん、か」

 

「言葉だけ笑って表情一つ変えてねぇ……」

 

「生まれつきさ。彼とは血盟騎士団を結成する以前にパーティを組んでいてね、お互いに助け合ったものさ。故に彼は私の恩人であり、彼にとっても私は恩人なのだよ」

 

「否定はしない。昔から私は戦う実力がなかった。だが、ヒースクリフは知っての通り攻略組最強の実力だ」

 

「だから私はゴローの護衛をしていた。どういうわけかNPCから反応が悪く、クエストの攻略がうまく行かなかった私にとって人当たりがいい彼と行動を共にするのはメリットがあった」

 

「どう考えてもその鉄仮面が原因だとあの頃から言ってるよな?笑うぐらいはしてろ」

 

「生まれつきだ。私に笑顔を期待されても困る」

 

「それで困るのはこっちなんだが……貴族のNPC相手でも仏頂面だから「貴様、私を舐めているのか!?」と叱責されたこともあったろうに。口先でどうにかするにも限度はあるぞ?ああん?」

 

「だが君はどうにかしてくれた。感謝しているよ」

 

 そう言いながらも無表情。年を取ると察しが悪くなる生き物に裏を読めと言われても困る。ヒースクリフは椰子の実に似た形状の白い木の実をたき火に放り込んだ。見覚えがない木の実だな。

 

「最前線の海岸で取れたエンジェルドロップという実だ。キリト君も知っているだろう?」

 

「あ、ああ。体術スキルか低火力のソードスキルを叩き込むと落ちてくる木の実で叩き割ると赤い汁がたっぷり出てくるんだ。回復量が最上位ポーション一歩手前だから、乱獲されまくってるよ」

 

「レアモノじゃないかそれは!おいおい、そんなものを焼いていいのか?」

 

「焼いていいんだ。この木の実はそのままだと不味すぎてろくに飲めたものじゃない。フォア―ド隊指揮官のゴドフリーさんも苦い顔で飲んでいる。だが、温めると汁が変質するのさ」

 

 団員の少年は剣を抜くと器用に木の実を引き寄せて刃を通した。切り口から見える汁の色はオレンジ。ふむ。お味の方は、と……んんっ!?塩辛い中にほんの少し鳥ガラ風味。懐かしい味だ。

 

「ははぁ……いいな、いいじゃないか!こいつ、コンソメスープだな!?」

 

「なんだって!?おい団員さん、俺にも一口!」

 

「あ、ああ。別にいいが……」

 

「ありがとな。んーっ、うまい!懐かしい味だ、うちでもこんな味のスープをよく食べたっけ」

 

「だろう?市販のコンソメを使ったスープにそっくりな味だ。こっちでもコンソメの再現を試みていたんだがどうにもうまくいかなくてな。まさか完成品がこんなところで出てくるとは」

 

「インスタントのコンソメに近い、いや、そのものと言っていい味付けだが、恐らく開発スタッフの手抜きだな。味覚エンジンのサンプルとして登録されたモノを流用したのだろう。ここまでコンソメらしい味だとかえって馬鹿らしく思えてくる。もう少し植物らしい臭みをだな」

 

「そういうなよ。おかげでこの仮想世界でもコンソメを楽しむことができるんだからな」

 

 ありがとう、いいものを教えてくれたな。おかげで煮詰まっていたスープ料理のレパートリーも増やせる。そう言って褒めてやっても表情は変わらなかったが内心複雑だろうな。

 

「さて、ゴロー。エンジェルドロップが依頼の代金でいいな?」

 

 訂正。してやったりとか考えているに違いない。全く、困った男だ。

 

「……くそっ、仕方ない。わかった、引き受ける」

 

「そう言ってくれると信じていた。キリト君、キミもそれでいいかね」

 

「うん。……うん?えっ?えっ、俺もやらないといけないのか?」

 

「君がいないと難しい依頼だ。正確に言うならゴローが役に立たない」

 

「誰が役立たずだ。それなら私じゃなくてキリトに依頼すればいいだろう」

 

「キリト君だけでも難しい依頼なのだよ。ゴロー、キミもいてくれて初めて解決できる依頼だ」

 

 こいつは一体私たちに何をさせる気なんだ。これまでも何度か厄介ごとを持ち込んできた男だが、今回はこれまで以上に面倒なことになりそうだ。依頼で使いそうな記憶の扉を開きながら二本目の煙草を……ちくしょう、カラだ。後で買い足さないと、何層のやつにしようかな。

 二本目を諦めて吸殻をたき火に放り込む。ヒースクリフは少年団員の背中を叩いた。

 

「紹介しよう。彼は血盟騎士団期待の新人でね」

 

「フォワード隊二軍に所属しています、ノーチラスです」

 

 薄茶髪の少年は頭を下げる。なるほど、君がノーチラス。だが、フォワード隊二軍とはなんだ?

 キリトに肩をぶつけると意図を察したのか囁くようにして説明してくれた。血盟騎士団の構成人数は百人を超えており、プレイヤーの戦闘能力に応じてフォワードやタンクといった役職だけでなく一軍二軍に分けられているのだとか。攻略組筆頭ギルドはプレイヤー層が厚いことで。

 

 ありがとう、最近副団長とよろしくしてるおまえに聞いてよかったよ。

 

「最近スカウトしたばかりだが実力は確かでうちの教官からも筋がいいと評価されている。遠くないうちに一軍に昇格できるだけの戦士に成長するとみている」

 

「お前がそこまで言うとは優秀らしいな。で、そんな新人を連れて私たちに何をしろというんだ」

 

「新人を休ませてやってくれ」

 

「は?」

 

 休ませてやってくれ、と言ってるんだ。その言葉に私もキリトも首をかしげたし肝心のノーチラスも驚いていた。おい、ヒースクリフ。おまえ秘密主義もほどほどにしておけよ。

 

 ……言ったところで聞きゃしないんだろうな。実際聞いてくれなかった。

 

 

 

 

 言いたいことだけ言って仕事があるとか言い出してさっさと転移結晶で帰ったあいつに塩をまく。

 キリトも少しだけまいた当たりヒースクリフには思うところがあるのだろう。女か?アスナを血盟騎士団に取られた恨みでもあるのか?

 

「さて、と。どうするオウムガイくん」

 

「……オウムガイ?ぼく、あ、いや、私のことですか?」

 

「そうだよ、ミスターノーチラス。ノーチラスはラテン語でオウムガイっていうのさ。それにかしこまらなくていい。ヒースクリフから何を聞いたのか知らんが、私は大した男じゃない。だろ?」

 

「だな。安心しろよ、ノーチラス。この爺さんは煙草と遊びが好きなただの爺さんだよ」

 

「そこはそんなことはないと言ってほしかったなぁ」

 

「じゃあ訂正する。この爺さんはSAOで一番煙草と遊びが好きな爺さんだよ」

 

「ダメ人間感が増してるじゃないかこいつめぇ!」

 

 ここは圏内だからダメージを与えることはないが過度な接触は弾かれる。お互いにシステム妨害をさける程度にほどほどな取っ組み合いの喧嘩をしていると、ノーチラスは私たちに背を向けた。

 

「……ちっ、くだらない」

 

「あっ、おい。どこへ行くんだオウムガイくん」

 

「うるさい、爺さん。後僕はノーチラスだ。ここで遊んでる暇はない、最前線に帰らせてもらう」

 

「だからと言って団長命令を無視するのはよくないぜ?」

 

「部外者には言われたくない。あんたに何がわかるんだ」

 

「血盟騎士団のことは少しわかるさ。規律に厳しいトップギルドってな。休んでいるはずの団員が最前線にいたら、そこらかしこでレベリングしてる他のメンバーに見つかる。そうしたら叱られるどころか下手したら除名されるぞ、コンディション管理もできない者はいらない、ってな」

 

「それは……そうだ。あんたの言うとおりだ。だからといって、前線から離れた辺境で遊ぶために血盟騎士団に入ったんじゃない!こんなところで燻っているくらいなら少しでも剣技を磨く!」

 

「……強さを求める気持ちはわからんでもない。やれやれ、君は筋金入りの頑固者ときたか。ヒースクリフが休ませろというのも納得だ。君は休憩時間にも自主練するタイプだろう」

 

 問いかけにはそっぽを向いて答えを返す。図星だったか。ヒースクリフめ、攻略に関係ないことは基本人任せにするが人間関係まで人任せにするとは。あいつの手にも余るタイプではあるが。

 

「仕方ないな。ノーチラス、君の希望に沿ってやる。キリト!」

 

「了解。月夜の水路跡地に行くんだろう」

 

「最深部まで、だ。若い団員さんに地獄と天国を見せてやろう」

 

「マジかよ?最深部のカギはあるのか?」

 

「ここに。カジノでちょいとばかり荒稼ぎしてきていただいてきたぞ」

 

 取り出した鍵の持ち手にはめられた宝石の輝きが眩しいが、肝心の刺す部分は錆びだらけで一度使えばポッキリと折れてしまいそうな代物。それを見たキリトがしゃぁ!と声を上げた。

 

「な、なんだ?その古いカギがどうしたんだ?」

 

「あれがないとダンジョンが攻略できないんだよ。あ、でも本当に大丈夫かよ?新人さん連れても実力的には行けると思うけど、初心者を連れていくにはきついところだぞ」

 

「僕を馬鹿にしてるのか、黒の剣士」

 

「馬鹿にしてない、冗談抜きできつい。あそこは初見なら攻略組でも苦戦するし、俺も苦戦した」

 

 キリトの言葉に頷く。あそこに一人で行った時は隠蔽スキルの効果が薄いスライム主体ダンジョンだったとはいえ、中層すらたどり着けずコテンパン。何とか命は拾って帰ってこれた。今度はキリトを連れて行ったが、ダンジョンボスがかなりの強敵で一度退却する羽目になった。

 

「ノーチラス。俺が黒の剣士だと知っているなら実力も知ってるだろう。そんな俺でも最深部を突破できていないダンジョンだし、血盟騎士団も攻略できてないはずだぜ」

 

「なんだって?ここは三か月も前に攻略された層だぞ、なのに血盟騎士団が攻略してない?」

 

「アインクラッドの攻略状況に応じて解放されるダンジョンらしい。情報屋に確認してみれば攻略当時には入り口が開いていなかった。そんなダンジョンだから難易度も高いのさ」

 

「モンスターのレベルは安全マージン内だけど、数が多い。でも、頭を使えばどうにかなる。そういうのは爺さんが強いし、俺たちは腕っぷしに自信がある。強くなりたいんだろ、腕試ししようぜ」

 

 黒シャツにジーンズの少年は装いを変える。薄い胸部プレートに黒いコート、私の知る限り一番の輝きを見せる剣を背負ったその姿は黒の剣士と呼ぶにふさわしいものだった。キリトが差し出した手をノーチラスは迷うことなく握り返す。黒の剣士に白の剣士、か。

 

「頼む、連れて行ってくれ。足手まといにはならない」

 

「頼りにさせてもらうぜ。爺さんのお守りも任せた」

 

 笑いあう二人の姿は悪くないがその一言だけはいただけないぞ。

 

「……お守りが必要なくらいに弱いのか、爺さん?」

 

「あー……まぁ、強くはない。ソードスキルの発動が下手だし」

 

「そうなのか。団長と似た雰囲気だから強いのかと」

 

「エヴァ、全速力で馬車を出せ!クソガキどもを置いていくぞ!」

 

 言葉に出さずとも馬を馬車に戻して出発準備を整えた優秀な御者NPCに叫ぶ。バチン、と手綱の音が響き馬が走り出し、剣士二人は置いて行かれた。

 

 数分後、普通にレベルが高く走る速度も速い二人は普通に追い付いてきた。

 

 文句を言われたのは言うまでもない。後でうまいもの食わせてやるから許してくれ。

 

 


 

 

 湖の北側、なだらかな坂道を下りながら川の行く先を追いかけると廃墟となった砦がある。さらに北側には街があるが、モンスターが占拠されている設定のダンジョンだ。人が住まない街には水路は無用、水路管理施設の砦もさびれてしまった。モンスターがいないのがせめてもの救いだ。

 クエストを受けていれば砦に立てこもって命を落とした貴族の遺品や街の隠し通路を通るためのカギを探したりとイベントが盛りだくさんだが、今日は砦に用はない。

 

 砦の向こう側、湖からの水の行方。錆びついた柵は崩れ、水路の奥へと戦士を誘う。

 

 入り口に馬車を停車させると、エヴァに待機と馬車の護衛を指示する。兜で表情は見えないがサムズアップで答えると大剣を構えて周囲の警戒を始めた。気に入っているようだな。

 

「爺さんが最近大剣使ってないのは御者NPCに渡したからか」

 

「そういうことだ。大剣は元々素材を食う武器だからな、普段使いは整備が楽な短剣でいい」

 

「あの御者、本当にNPCなのか?やり取りが人間にしか思えなかったぞ」

 

 NPCだよ。出会った頃は簡単な受け答えすらままならなかったが、今ではこちらの考えもある程度察知して行動してくれる。ソードアート・オンラインの世界を生きる我々が日に日に強くなっていくように、NPCも成長しているのだろう。

 

「さて、これからダンジョンに潜るわけだが事前に渡しておく物がある」

 

 二人にポーションを6本差し出した。流通しているポーションのほとんどが色付きの液体ばかりだが、差し出したポーションはどれも透明な液体だ。見慣れないモノに首をかしげるノーチラスにキリトが説明を入れる。

 

「馬車の中でも説明したけど、ここに出てくるモンスターのほとんどがスライムだ。水路だからフィールドは狭いところに相手のスライムはちょっと大きめなんだよ」

 

「だから体の大きさを生かして被弾を気にすることなくまとわりついてくることがある。こっちの足がとられるのは命取りだろう?」

 

「それは怖いな。僕も何度かやりあったことはあるが、ソードスキルで吹っ飛ばせばどうにかなったはずだぞ」

 

「なるにはなるけどヤバいやつだと全長3mぐらいのビッグサイズがいるぜ。そいつはまとわりつくなんてもんじゃない、こっちを丸呑みするんだよ」

 

「そうなると息ができなくなるし言葉が出せない。転移結晶で逃げることもできん」

 

 だからこいつが対策になる。鍛冶素材用のスライムオイルを掌に少し垂らして、そこに特製ポーションを振りかける。青色で少しブヨブヨしていたそれにポーションが混じるとあっさり溶けた。

 

「取り込まれた時の緊急脱出用か」

 

「便利なんだが素材の流通量が少なくてな、一人三本ずつしか用意できなかった。それと、拘束から抜け出す分には有効だがダメージはあまり入らない。注意しておけよ」

 

「いくつか気を付けることはあるけど、後は現場で教えるよ。それじゃ、行こうぜ」

 

「わかった。よろしく頼む、黒の剣士」

 

「キリトでいい。あ、こっちはゴロー爺さんな。爺さん付けないと怒るんだ」

 

「別にそこまで怒りはしないが……まあ、頼むぞ。ノーチラス」

 

「ああ、任された。キリト、ゴロー爺さん」

 

 私たちはサムズアップを返すとノーチラスも親指を上げる。さぁ、行こうか。

 

 手慣れたキリトがポイントマン、先導役を務める。ノーチラスは一歩引く形で追従して同時に罠に引っかかる危険を避ける。私は殿を務めながら後方警戒、戦闘時は援護に入る形になる。

 

 ダンジョンに仕掛けられている罠の種類と対処法、敵発見時に音を立てずに伝える合図など。進軍しながらノーチラスにダンジョンの進み方を教えて、時には彼も意見を出す。

 

「爺さん、今日はノーチラスがいるんだしたまには前に出ないか?」

 

「悪くないが、スライム相手には厳しいぞ。ノーチラス、課題はわかるか?」

 

「僕に聞くのか?……そうだな、短剣は他の武器と比べると手数と状態異常を付与しやすいのが特徴だ。スライムには状態異常は刺さりやすいが、リーチが短くてコアを突きにくく相性が悪い」

 

「ちなみに私は両手剣も使えるが相性が悪い。理由は言えるか?」

 

「どうせ爺さんのレベル不足だろ。威力の割にモーションが遅すぎるからスライムを吹っ飛ばしきれず襲われる危険もある。だからフォローで連続スイッチが必要だが困難だな」

 

「ひどいことを言いやがるが事実だよ。スイッチからの連続スイッチは熟練した冒険者ならできるかもしれないが、出会って間もないノーチラスとやるには高度すぎる」

 

 しっかりと連携訓練を積んだ血盟騎士団なら話は別だがな、と笑っているノーチラス。よく勉強してるじゃないか。期待の新人という評価がふさわしい男だ。それはそれとして殴りたいが。

 

「そうだな、無茶な話だった。悪かった、爺さん。ノーチラスが初撃を与えた後に爺さんと俺が行く、ってパターンならどうにかなるかもしれないけど、装備変えたからAGIが下がってるしなぁ」

 

「……なあ、話を聞いた感じだと爺さんは本当に弱いのか?言うほど弱くなさそうなんだが」

 

「攻略組の強さがバグってるだけだ。私は一般人だ、並べたら弱いに決まってる」

 

「後、俺はSTR寄りのステ振りで爺さんはAGI寄りとお互いに耐久力がないから、レベルが低い爺さんがヘイト取っちゃうと地獄なんだよ……」

 

 あれは地獄だった。うっかりソードスキルをぶちかまして援護したらヘイトが移ってとことん追い回された。私が必死に逃げるものだからキリトが置いてけぼりになったりと連携もぐだぐだだ。

 

「かといって距離を取れる投擲も使いすぎればヘイトを稼ぎやすい」

 

「チャクラムはどうなんだ?一桁代の層を攻略してた頃は有効だったと聞くが」

 

「今はもう火力不足だぜ。知り合いのチャクラム使いも前線からは引退して鍛冶屋に戻ったよ」

 

「そもそもチャクラムには体術スキルが必要だが、取得するには岩を叩き割らにゃならん。老骨にしみる肉体労働はこりごりだ。肉体労働は若いのに任せるよ」

 

 私はああいうのが好みだな。カンテラで道を照らせば古びた扉が見える。キリトが調べるが開かなくて蹴り飛ばした。いってえー、なんて言いながらつま先を抱えた。何やってんだ。

 

 ノーチラスもそれを調べるが首を横に振ってドアノブに親指を向けた。鍵がかかっているんだろう?わかってる。ダンジョンのカギは一度開いてもしばらくすれば勝手に閉まる、もう一度開けなくちゃならないのが手間なところだ。振り向いて戻ろうとするノーチラスの肩を掴む。

 

「大丈夫だ、どうにかなる」

 

「ならないだろう。あの錆びた鍵はもっと奥で使うって言ってたのは爺さんじゃないか。ここに対応した鍵を探しに行かないと」

 

「言っただろう、ああいうのが好みなんだ」

 

 鍵を探しに行かなくていい、茅場晶彦の意地悪に付き合わなくていい。爺がこじあけてやるぜ。チャリンと手の中で金具を鳴らしてみせた。男たちが小さく笑いあう。

 

「3分よこせ。鍵の構造はランダムだから毎度毎度手間がかかる」

 

「そういって4分オーバーはやめてくれよ。またデカいスライムに潰されるのはこりごりだ」

 

「なんだって?あのデカいスライムがやってくるのか、こんな狭いところに」

 

「しかも水路の向こう側からな。ダンジョン設計者が鍵をぶっ壊そうとするのはズルだとか文句言ってるんだろうよ、馬鹿らしい。なら開錠スキルなんて実装するなって話だ」

 

 鍵の装飾を見る。ランダムとはいえこういうところからある程度は中身の形状がわかる。頭の中で構造のシミュレート、そして仕事の段取りを組んでいく。その間に手持無沙汰なキリトとノーチラスは水路にワイヤーを張っていく。麻痺毒を刷り込んである、スライムには効くぞ。

 

「こんなの気休めにしかならないだろうに」

 

「その気休めが必要だぜ、ノーチラス。でなきゃあいつの足が速すぎる。さっきみたいに足がすくんだらヤバいぞ」

 

「それは!……くそっ、キリトの言う通りだよ。僕が悪かった、8本目をよこせ」

 

 悪態をつきながらノーチラスは仕事をしているようだ。無理もない、さっきのボス相手に目の前で棒立ちしたところで陣形が崩れたからな。話には聞いていたが彼のフルダイブ不適合症状はかなり深刻だ。だが、それを言い訳にしたくない気持ちがよくわかる。

 

 さて、今回の構造は手前は素直だが奥は複雑で手間だな。奥でミスれば手前の単純な構造もリセットがかかる。集中しないとな。煙草が欲しいところだが無口でやるしかあるまい。

 

「今日はラッキーだぞ。うまくいけば2分、悪くて3分で片づけてやる」

 

「そいつはいい話を聞いた。いいか、狭いから刺突系ソードスキルで突っ込んでも戻れない」

 

「それくらい言われなくともわかる。斬撃系のノックバック付きでどうにか凌ぐんだろう」

 

 剣を抜く音二つ。キンコンと金具の様子を確かめる音で返す。

 

「さて、いくぞ!」

 

 剣士が頷く。鍵穴に針金を入れた。どこかから水音が聞こえる。きっと音が鳴るところには巨大なスライムが生まれてるんだろうな。余りもの大きさに初めて見たときは拝んだくらいだ。

 

 

 

 

 ……ん?水音がうるさいぞ。近くでも聞こえる気がする。

 

 

 違うぞ、本当に近くだ。索敵スキルがかすかに反応している……っ!!

 

「足元、横の水路だ!」

 

 二人の剣士が左右の液体へ剣を突っ込む。液体が崩れると同時に小さくポリゴン片が散る。

 

「やられた、アップデートされてやがる!雑魚が沸いてるぞ!」

 

「巨大スライムだけでなく雑魚までいるのか!冗談じゃない、撤退しよう!」

 

「もう遅い。針金抜いてもオオモノはこっちまで来る。時間の勝負だ!」

 

 カチカチと金具を鳴らして入り口を突破して奥まで到達した。多少強引にやったから金具がお釈迦確定だがやむを得ない。ズブリ、ズブリと音が鳴る。その度に何かが割れる音。

 

「沸くスピードは大したことないな。処理はできるがボスはどうするか」

 

「本気か、キリト。やるつもりなのか?」

 

「やってやるのさ。ちょっとばかりヒヤヒヤしてきたがこれが楽しいんだよ。爺さん、首尾は?」

 

「6、いや、7割。強引にやったからオキニの道具がパーだ」

 

「ネズハにまた打ってもらえよ。俺も金を出すから、さっ!」

 

 ズバン。おや、イキはいいやつを仕留めたな。だがどっちがやった?

 

「……イカれてるよ。なんで普通に鍵を探さないんだ」

 

「ナイス。その場合罠だらけの道を折り返し込みで一キロくらい歩かないといけないぜ」

 

「それは面倒だな。爺さんを酷使しないといけないじゃないか」

 

「攻略組どもめ、少しは探索スキルを取っておけよ」

 

 そのうちね、じゃないぞ。なんで同時に返すんだ。全く若い連中は元気なことで。あんな奴らみたいになるには私は遅すぎるってのに。

 

「で?そう言う癖に付き合ってるノーチラスもイカれてるんじゃないか?」

 

「イカれてない。副団長が口うるさいんだ、攻略組は死にに行く馬鹿がいたら止めろとな。攻略組見習いとしておまえたちを見捨てられるかよ」

 

「なるほどね。アスナに後で礼を言っておいてくれ」

 

「自分で言ってくれ、黒の剣士」

 

 そいつは無理だろうなぁ。ある程度仲直りしているとは思うが、関係が完全に修復されるのは来年の春くらいだろうし。問題はそれまで私の体がもつかどうかわからないこと。

 

 

 今でも最高の夢を見ているんだ。黒の剣士と白の剣士が肩を並べる姿なんて、見たことはなかったんだよ。未来もわからない夢を私は見ているんだ。まだ、夢を見ていたいのさ。

 

 神様がいるのなら、もう少し、もう少しだけ夢を見せてくれ。

 

 

 浮遊城の夢から覚めるまで、私に生きる力をくれ。

 

 

 

 

「ヘアッ!?」

 

「おいどうした爺さん。なんだか嫌な予感がするんだが」

 

「……金具が折れた。抜けない。詰んだかもしれん」

 

「何やってんだクソジジイが!!」

 

「いや待て、最後の手段があるんだが――」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 2026年4月10日

 

「そう言った爺さんが扉を吹っ飛ばしたのを見て最初からやれ、と思った僕は悪くないよな」

 

「あれ正規手段じゃないからカーディナルに修正される恐れがあったらしい。とはいえ爆発性質の素材を突っ込んで鍵を無理やり壊すとは無茶だよ」

 

「あんな無茶をやっていた頃が懐かしい。今じゃそんなことはできないからな」

 

「……FNC、だったな。ALOで会えるかと思ってたんだが」

 

「ナーブギアで発症した症状だ、アミュスフィアでも発症するしどうやらアミュスフィアとの相性は悪くて症状も重い。だから僕はこっちだ」

 

「なるほどね。ノーチラスがやってるのなら俺もやろうかな」

 

「いや……やめておけよ。黒の剣士様には向いてない。僕よりも弱い体つきだしな」

 

「俺はインドアなんだ。てかヒョロいのはどうだっていいだろ。わざわざうちに来た理由は何なんだよ。しかもこれ……ナーブギアじゃないか。どうしてここにあるんだ?回収されたはずだろう」

 

「少し意見を聞きたくてな。おまえのところにSAOのMHCPがいると聞いた、力を貸してくれ」

 

「ユイの力が必要?」

 

「そうだ。このナーブギアには奇妙なデータが入っている。それを解析してほしい」

 

 

「ゴロー爺さん、見つかってないんだろう?これが手掛かりになるはずだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なかなかいい冒険ができたと顔に書いてある。で、どうだった?」

 

「言われた通り、そして予想していた通りの行動を取ってもらったよ。あれは酷いな」

 

「記録はここに。脳波データの変換結果は資料の通りだが、先生の初見はどうかね」

 

「ナーブギアの脳波変換プロセスに問題があるとは聞いていたが、実際に見てみればかなり深刻だな。病巣の規模は大きくないが、それが些細なところにチラホラ散ってるように見える」

 

「SAO発売前にその辺りをアップデートしたのだが、完治には至らなかった。君の指摘通り私の怠慢という言葉は否定できんな」

 

「気持ちはわからなくない。これに対処するには骨が折れる。病巣は脳波変換プログラムの根幹にも潜んでいる、薬を入れれば今度は他のプレイヤーに類似した症状が起きるだろう」

 

「患者であるノーチラス君限定でパッチを当てる形になるか。睡眠中を狙って少しずつ投与しよう」

 

「だが、私だけで薬を作るには半年以上はかかるかもしれん。作り方をマシンに教えて後は自動処理、その上で私が手を入れた後にあなたが確認する形がいいだろう」

 

「そういうことならエヴァに頼みたまえ」

 

「エヴァに?どうして。ただのNPCのあいつにそんなことができるのか?」

 

「できる。ふむ、君にも知らないことがあるのだな。彼女は――

 

 

 

 

私はあの城に生きることを許された。とある男の夢を飛び続ける城に。

 

だからこそ。あの空で焦がれていた『騎士』に手を差し伸べたかった。

 

ノーチラス、いや、エイジ。私にできるのは足枷を外してやるのが精一杯だ。

 

 

待ち受ける運命を本当に変えられたのかどうか、2024年の私にはわからない。

 

3/7 



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