「そこをどきやがれ!」
「どいたらお前たちはリュー達を助けに行くだろ。だから通さん。」
「言っていることがよく分かりませんね。リオンを追わせたくないのは分かりますが。それならどうして私たちを殺そうとしないのでしょう?」
「お前たちを殺すだけならそんなことはいつだって出来る。だが今はそんなことには微塵とて興味はない。貴様らとて一方的な殺戮になんも興味などわかないだろう?」
「それならば貴方の目的は何でございますの?
『大抗争』が起こったあの夜、
最後にアリーゼに重傷を与えるまで、他のメンバーには意識を刈り取る程度の傷しか負わせていなかった。やつがその気になれば彼女達の命など風前の灯でしかない。
「恨むならお前らの弱さを恨むんだな。目の前の力を押しのけられぬ貴様らの弱さを…な。」
「へっ、アタシらは生かしといても支障はないってか!」
「自惚れるなよ小娘風情が、お前らは『殺す価値』にも値しないと言っているんだ。」
低すぎる堤防では襲い来る波を防ぎ止めることは叶わないように、弱すぎる力では襲い来る理不尽な暴力を止めることすら叶わない
彼らを生かそうが殺そうが、彼の行く道を阻むことすら出来ないのだと暗に彼は諭しているのだった
「俺はお前らとの決闘を楽しみたいんだ。どうせ終焉までの刹那の暇つぶしにしかならんが、お前らのような何度でも挑んでくる奴は実にいい。」
「ちっ、言い回しがいちいちウザってえが事実なのが余計頭にくるぜ!」
「ならばここでしっぽを巻いて逃げ出すか?それもよかろう。ここで逃げたとて誰も責めまい。」
「けっ、敵を目の前にしておめおめと逃げ帰れるかってんだ。」
「ホント、憎たらしいくらいの減らず口。縫い付けて差し上げたくらい。」
今までとは一変、輝夜たちの雰囲気が急に暗くなり始める
「死に急ぐなよ小娘共。いくら抗ったところで貴様らの死の運命が変わることなどありえない。ならば残り短い人生、仲間内でワイワイ最期のときを過ごしたいだろう?俺は優しいからな、背を向けた敵には追い打ちをかけるほど非道では無い。」
どんなに優しい言葉を紡ごうとも、そこに含まれるのは彼女たちへの侮蔑
お前たちの力では訪れる終末は変えられぬと、そう告げているのだ
「それでもまだくらい足りぬと言うか。ならばお望み通り食らわせてやる。せいぜい見にくく足掻けよ。」
イアンが右手を掲げると、その右手が光り始める
さらにはどこからともなく鳴り響く大鐘楼
あの夜の光景が彼女らを突き動かす
「あの時は気づくのに遅れちまったが、2度目は喰らわねえよ!」
「この鳴り響く鐘の音と異様に光るその右腕、連発しない【超短文詠唱】の魔法。恐らくその発光はトリガー。なればやることはただ1つ。切り落としてでも止めるだけ。」
「ほぉ、あのたった一撃でボロボロになった身でよく観察できていたな。褒めてやる。・・・ただな。」
2人の猛攻を涼しい顔で交わしていく
「不正解だ。」
2人を最大まで引き寄せた上でイアンは右腕を彼女らの眼前に突き出す
高速で飛び交う戦闘。それも最大限まで引き寄せられたゼロ距離での砲撃
予測可能、回避不可の最大火力
「【ファイアボルト】。」
白昼の市街地に、雷が落とされた
雷鳴はとどろき、閃光は瓦礫を砕き突き進む
炎は辺りを焼き付くさんと燃え広がる
「やはりこの程度か・・・」
ピクリとも動かなくなった彼女らから目を離し、燃え盛る炎の中を歩き始める
イアンの足がライラの横を通過しようとした刹那。ライラの唇が、ほんの僅かに、つり上がった
「やっぱ輝夜の言った通りだな。こいつは穢れをしらなすぎる。」
ライラが顔を上げ、イアンの両足首を掴む
「アタシはよぉ・・・チビで弱っちいから・・・死んだ振りだって、爆弾なんかも作るがよぉ。」
ライラはほのかにほくそ笑んでいた
「仲間の足を引っ張らないためには『囮』だってやってやるが、ここまでハマりやすかったやつは初めてだな。」
イアンのLv7の感覚が真横で起きた動きを鮮明に捉える
しかし、それでも。背後に迫った『影』の方が僅かに速かった
「居合の太刀ー『双葉』」
ほぼ意識外からの一撃、完全に懐を取ったその刃はイアンの脇腹を確実に撃つはず・・・だった
「やはりお前らは若すぎる。俺を穢れを知らないと言ったが、お前らは『理不尽』を知らなすぎる。。」
輝夜の太刀が確実にイアンを捉えようとしたその刹那、彼の体は残像だけを残すように消え失せる
彼を捉えるはずだった一太刀はそのまま空を切る
「なっ・・・」
「ぐぅっ・・・」
イアンを掴んでいたはずのライラの両腕は斬り取られ、掴んでいたはずの両足は姿形も無くなっていた
「どこを見ている小娘共。そんな所に俺はいないぞ?い中の面影でも思い出していたか?」
「てめぇ、今どうやって抜け出した!」
「どうやっても何も、地を蹴れば後ろに飛べる。赤子でも知っている常識だろ?」
イアンは何も特別なことなどしていない。至極単純、邪魔な枷をとっぱらってそのまま太刀の射程距離から外れただけ
「ハハッ、バケモンかよ・・・」
「まぁいい、お前らとの茶番もほとほと愛想が尽きた。リオンの場所は教えてやる。アストレアの所にでもかえって迎えに行ってやるんだな。」
「待ちやがれ!」
「言ったはずだ、俺はお前らを殺すつもりは無い。無論リオンもそうだ。これ以上続けて貴様らの無様を晒し続けるだけの茶番をなぜ続けなければいけない。それとも何か、『これ以上恥は晒したくないのでいっその事一思いに殺してくださーい』とでも懇願するか?」
彼は嘲笑いながら立ち去っていく。それをライラ達は歯ぎしりしながら見つめることしか叶わなかった
「あぁそうだ、言い忘れていたな。リオンは『第7区画』の教会にいる。早めに手を貸してやることだな。早くしないと死体が2つ増えてしまうぞ?まぁ、生きていたらまた会おう。正義の使者よ。」
・・・
「許サナイ!許サナイ!許サナイ!」
風が吹いていた
「待つんだアイズ!一体どこに向かおうとしているのだ!」
おぞましいほどの黒で染められた暴風を撒き散らしながらアイズはオラリオを突き進む
「許サナイ、絶対ニ倒ス!」
立ちはだかる闇派閥を一方的に蹂躙しながらも、その風は留まることを知ろうとしない。彼女を突き動かすのは怨嗟の炎
そして彼女の脳裏に浮かんだのは今は亡き両親の面影
「この街から出ていって!今すぐ!」
「あぁ、やはりこの風はきらいだ。ただただ壊すだけの弱い風。そんなそよ風では何かをどかすなど到底不可能。そんなもんでは無いでしょう?」
「うるさい!うるさいうるさいうるさいうるさい!今すぐ私の、ここから出て行け!」
少女は、ただ彼に、昔の『英雄』の姿を映し出していた