「がっっ!?」
荒れ果てた場所で少女はただ1人、敵を斬り伏せていく。彼女の顔はどこか怒りと困惑が入り交じったような顔をしていた。
「(黙って抜け出してきてしまった。どこに向かう訳でもなく、1人都市をさまよって。「義務」のように、闇派閥を斬り続け・・・)」
明け方、療養所を抜け出したリューは今に至るまでずっとオラリオをさまよっていた。何を目的とする訳でもない、どこに行きたい訳でもない。
ただただ、
「(私はいったい、何をここまで迷っているのだろう。敵の性格が何であろうと、
『今まで何をしてたんだ!俺達が大変なこんな時に!』
『私達を守ってくれるんじゃなかったの!?』
『肝心な時に使えねーんだから!もう『正義の眷属』なんて辞めちまえ!』
「(怒りと非難。今日で何度も目や耳にしてきた。すれ違いざまならまだしも、闇派閥から守ったはずの彼らからさえ言われる始末。どんなに身を粉にして力を尽くしても、苦しむことからは逃れられない怨嗟の声は絶えることはない。)」
信頼とは築くことは難しいが、壊す時は一瞬だ。今までどんなに積み上げてきた過程があろうと、壊れる時は一瞬にして全てを失ってしまう。例え、それがどんな理由であったとて、知らぬ存ぜぬで失ってしまうのだ。
「(あの
「リオン!」
「アンドロメダ?」
「もう傷は癒えたのですか?ヘルメス様からはあと1日は様子を見ると聞いてましたが。」
アスフィが
「問題なければ力を貸してください!神エレボス及び、敵の所在を掴みたい!市壁周りに陣取り、自分達の存在を主張していますが、敵幹部がひそんでいるのは恐らくは地下!きっと下水道を利用していると思うのでそこを叩きます!」
「・・・」
アスフィの提案にリューが応えることは無い。目も合わせられず、肯定も否定さえも彼女の口からは紡がれない。
「・・・戦えないのであれば今すぐ戻りなさい。リオン、貴方は腐ってはいけません。顔をあげてください。あなた達【アストレア・ファミリア】が絶望に染まってはいけない!」
希望を失ってしまえば、人はいずれ壊れてしまう。【アストレア・ファミリア】を非難する事もまた、彼らが希望を抱いているからこその裏返しだからこそ。
そんな希望が失われてしまえばオラリオがたどり着く道など破滅しかない。
「・・・アンドロメダ。すまない、私はもう・・・」
どんな状況下でも、アスフィは彼女を信じ続けていた。親友であるリオンはちゃんと戻ってくると。
そんな2人を狙った魔法が放たれる。駆けつけてくるは
「我等に仇なす上級冒険者の首級を挙げよ!かかれぇー!」
「リオンはここから早急に離れてください!ここは私ひとりで対応します!」
「わ、私も加勢します!」
「今の貴方では足でまといにしかなりません!見たところ死兵しかいませんが、万が一幹部でも現れれば間違いなく守りきれません!貴方が死んではならないのです!」
「・・・っ!!必ず、戻ります!」
・・・
「やぁ、リオン・・・と思ったら、別の眷属を引き当ててしまったか。まぁ、いい。」
「てめぇ・・・!」
「邪神エレボス・・・!」
「今俺はリオンを探している。知っていたら教えてくれないか?迷える正義の使徒よ。」
「リオンの居場所?知らねーな。アタシ達が聞きてえくらいだ。」
「たとえ知っていたとしても、答えるわけが無い。よくも騙ってくれたな。神エレン。」
「ヘルメスの真似事をしていただけだ。しかし、あれはあれで疲れる。ヘルメスもそうだが、初めて
「「ッ!!」」
エレボスは神エレンとして何度か【アストレア・ファミリア】・・・否、リュー・リオンに接近していた。だからこそ彼女達はエレボスを警戒し、より困惑する。
「おい、神サマよ。どうしてリオンを付け狙う?
「神々の言う『すとーかー』というものでございますか?嗚呼、全くいいご趣味で反吐が出てしまいそう・・・この変態め。」
「猫の如くじゃれるなよ。
「・・・こいつ!!」
「それに、
おどけたように怖がる素振りをしながらもその笑みは崩さない。
「そして、
神は返ってくる言葉も待たずにライラに目を向けて答えを紡ぐ。
「・・・だって、アレが1番純粋だろう?潔癖で無垢。お前達の中でも紛れもない、『正義の卵』だ。『絶対の悪』を提示され、あの娘がいかなる答えを出すのか。後学のためにも俺はそれを知りたい。今後の
「ふふふっ・・・我が主神ながら、本当に趣味が悪い。都市の代弁者を、年端もいかない妖精に押し付けようなど。」
「本当なら、お前達が俺の問いに答え、満足させてくれるなら、リオンを玩具にするのはよそう・・・と思っていたんだが。」
「・・・だが?」
「気が変わった。やはりリオンに聞かない限りは満足してくれないらしい。最後だ、優しい優しい神様からの忠告してやろう。俺がここにいる間に早くお家に帰った方がいい。そして
「自分で言うかよ、くそ神様っ。」
「そそるだろう?抱いてやろうか?」
「・・・蛆と寝た方がマシでございますねぇ。」
「やはり口が減らないな、正義の眷属。しかし、そろそろ飽きた。予定通り『正義の卵』を食すとしよう。」
「敵の頭っつう、ごちそうが目の前にあんだ。たとえ糞不味かろうと、見逃すわけはねぇな。」
「神を屠る禁忌は犯せずとも、捕縛程度は我々にも可能だ。・・・貴様をアストレア様の手土産に、この戦いを終わらせてやる。」
「悪の慈悲を無駄にする。それもまた正義か。否、アイツに言わせてみれば『
「嗚呼、何度目の溜息でしょうか・・・眷属こそ神の保護者なのではと、考えさせられますねぇ。私は彼のように従順では無いのですけど。さて・・・18階層以来ですね、お嬢さん方、神に頭を痛めさせられる者同士、再び踊りましょうか?」
2人とエレボスの間にヴィトーが割って入る。
「抜かしやがれ!今度こそ仕留めてやる!」
こうして2vs1の決闘のゴングが鳴らされる。
レベル4の中でも上位の実力を持つヴィトー相手、アリーゼ込の3人かけて拮抗していた程なのだ、1人欠けた2人では難しいものがある。
「ははははははは!そんなものですか!?前回の戦いから一人欠けたとはちえ、2人がかりでこの程度ー」
それでも、力で劣るといえど戦術次第ではいくらでもやりようはある。なによりこちらは2人だった。
「阿呆。」
「
力及ばずとも、人が多ければその分手は多くなってくる。それこそ、『必殺』を叩き込むほどの『時間』を稼ぐ時間は作れる。
「居合の・・・チっ!」
【居合の太刀】。壮絶な研磨に裏付けされた、高速の抜き打ち。そうとある武神は語る。鞘に収めた状態から抜き放つ動作による一撃を加える技。
極東生まれの輝夜だからこその必殺の一撃。意識外からの反撃、回避する時間などない・・・が、一撃が繰り出されることは無かった。
「全く・・・まだ貴方の出る幕じゃないでしょう?」
ヴィトーと、輝夜が立っている間に1本の太刀が差し込まれる。
「交代だヴィトー、お前はあの男神のお守りでもしておいてくれ。」
「おやおや、突然現れて獲物を横取りとは感心しませんねぇ。」
「どの口が言うか。」
「とはいえ、
この場を立ち去るヴィトーと入れ替わりにイアンが立ちはだかる。
「さてと・・・2日ぶりだなお前達。」
「相変わらず
「御託はいい。巻き込まれたくないなら立ち去れ。」
「それではご注告に預かりまして、私は立ち去るとしましょう。それでは皆さん、ごきげんよう。」
「輝夜・・・逃げんぞ・・・こんな化物と、やり合ってられるか・・・!」
「時として逃げることもまたいいでしょう。それもまた冒険者。見逃してあげることにしましょう。ですが、それでも立ち向かうというのであれば、一つだけご褒美をあげましょう。」
「褒美だァ?ふざけんじゃねぇ!おい輝夜、聞くだけ無駄だ!早く行くぞ!」
「あんたのお仲間・・・リューだったか?そいつの居場所を知っていると言ったならどうする?」
「・・・っ!?」
・・・
「己が信仰を築く場所で再会するとは・・・神ながら運命を感じずにはいられない。」
爆発音を聞きつけたリューが廃教会を見つけ、中に入るとそこでエレボスと鉢合わせる。
「邪神、エレボス・・・!?なぜここに!」
「お前を探していたからだ、リオン。お前に会いに来てやったからだ、『正義の卵』。」
「ふざけるな!エレンなどと名を偽り、私達を騙しておきながら!」
「その件は既に、お仲間のヒューマンと
「ヒューマンに、小人族・・・?まさか輝夜とライラ!?二人に何をした!」
「少しつついただけだ。安心しろ、見逃してやった。・・・と言っても、今アイツらがどうなってるかは俺は知らないがな。それに、妙な気は起こすな。仲間と同じように、痛い目に遭うぞ?」
「・・・!【ヘラ・ファミリア】・・・」
「戦いに来たわけじゃない。俺達も、そしてあいつらの方もだ。何、安心しろ、アイツは俺達の中の中でも1番平和な奴だ。美品に傷をつけるような事はしないだろうさ。だからという訳じゃないがまた神の酔狂に付き合ってくれ。」
「・・・何が目的だっ。」
「いつかの問いの答えを、もう一度聞きに来た。」
リューの足は、少しだけ距離をとったが逃げようとする意思は見せなかった。
「リオン、お前の『正義』とは?」
「・・・なぜ、私に問う?どうして『悪』が『正義』を問おうとする?」
「神聖な儀式だからだ。公平な問答でもある。何より、おれが下界の行く末を占っておきたい。今のオラリオは世界の『縮図』だ。男神と女神が『黒龍』に敗れ、下界そのものに混沌が渦巻いている。絶望による自暴自棄、快楽のための暴力、欲望による略奪・・・これらのことが今も、どこかで、必ず起こっている。光に照らされるか、闇に染まるか。世界こそが二者択一に問われている。そして俺は断然、闇に染まる方を支持している訳だが・・・」
エレボスはここで一度言葉を斬り、リオンに改めて見向く。彼女の目はまだ死んでいない。それを確認した後、また語り出す。
「そうなると気になるのは、『正義』の動向だ。この暗黒の時代でなお、『正義』は真なる答えを持ち、反逆の剣を掲げてくるのか、否かーそれを確かめておきたい。」
エレボスは1つ大きいため息を吐いて仕切り直す。
「かの『英雄』はこう言った『【悪】とは1つの【正義】であり、対になる【正義】が生まれて初めて自分を突き通す為に【正義】は【悪】になる。』と。だが、俺はちょっと違うと思っている。『正義』も『悪』も己のみで成立はする。が、対立する
「・・・何を言っている。」
「お前も言った、『巨正』と『巨悪』の理と同じだ。『正義』と『悪』は衝突するからこそ肥大化し、強大になる。やがて育まれた暁に、『絶対の正義』と『絶対の悪』が生まれ、正義の決戦が始まる。そして、勝ち残った方が、世界を統べるーあるいは、滅ぼす。エルフの聖書の一節にも綴られていそうな、単純な話だろう?」
「ならば!貴方の言う『悪』とは!『正義』を嘲笑う『邪悪』の正体とは、いったいなんだ!?」
「『気持ちのいいもの』。」
「なっ・・・!?」
「『悪』を追求するのは簡単だぞ?極論、『気持ちいい』を突き詰めればいい。それは利己的で、他者にとっては不利益であり、同時に憎まれるものだ。そして行き過ぎれば、決して許されざるものとなる。人はそれを『悪』と呼ぶようになる。言い方を変えると、そういうものが『悪』と呼ばれやすい。お前達が今まで斬ってきた『悪』は本当に万人にとっての『悪』だと言いきれるか?」
「・・・」
「俺の掲げる『絶対悪』とは弁明のしようもなく醜悪なものが『絶対悪』と化す。『悪』を一括りに否定しようとするなよ。ものによっては『必要悪』だって存在するのだ。」
「では何故、貴方は『絶対悪』を掲げる!オラリオを崩壊させて、何を望む!?」
「俺の権能は『原初の幽冥』。名の意味は『地下世界の神』。オラリオが崩壊することと、下界が冥府と化すのは同義。そして、それが全て。俺は『絶対悪』になるべくしてなっている。お前達にとって滅びであってもー俺にとっては楽園。こればかりは人智の及ぶところではない。邪神とは、そういうものだ。」
「狂っている・・・!理解できる筈がない!」
「理解されないこともまた、『悪』の側面だ。さて、俺は答えた。そろそろ『正義』の答えを聞こう。」
「ッ・・・!?」
「『無償に基づく善行』。『いついかなる時も、揺るがない唯一無二の価値』
。【そして悪を斬り、悪を討つ】。・・・以前、お前が告げた答えだ。俺は一言一句覚えている。お前は今も、同じ答えを言えるか?」
「・・・っ!」
「お前は、今日まで感謝されたか?『悪』が猛威を振るう日々の中で、見返りはあったか?裏切られる理不尽を嘆かず、理解されない『孤独』を恐れず、少しでも『正義』を疑わなかったと、神に誓って言えるか?」
「それはっ!」
「ならば質問を変えよう娘。お前が初めてイアンという少年に出会った時、お前はアイツをどう思った?その時の印象を捨ててお前はあの日、敵として対峙するイアンに向けて『悪』としてなんも疑いもせずに斬れたか?」
「私は!」
「お前が言う『正義』が正しければイアンはお前にとっての『悪』でしかない。その前の過程がどうであれ、お前にとってイアンは『悪』であり、『討つべき対象』でしかない。何をそこまで迷う必要がある?」
「うるさいっ!」
「耳を塞ぐな、娘。俺が酷いやつに見えるじゃないか。別に俺はお前の行動を否定したい訳じゃない。迷ったのだろう?彼を真の『絶対悪』だと捨てきれない自分の真意に。ならば、お前の『正しき選択』を提示してみせろ。今一度問おう。お前達の『正義』とは、一体なんだ?」
・・・
「私はっ・・・わたしはっ・・・!」
「どうした、言ってみろ?答えられないのか?ーはははははははははははっ!これが『正義』!絶望の淵では叫ぶこともできないのか!がっかりだ
神は静かに嗤う。
「そんなお前に、再びこの言葉を贈ろう。『脆き者よ、汝の名は『正義』なり。そして、愚かなる者の名もまた、『正義』』。」
リューから返ってくる言葉はなかった。
『正義』の所在もわからぬ雛鳥は、『悪』の悪意に押し潰されていく。
「『正義の卵』、あるいは雛鳥は答えを出せず・・・期待外れだったな。こうなると、もう1人の娘の答えを聞いてみたくなったな・・・アリーゼ。」
・・・
「・・・」
目を覚ませば、見覚えのある天井だった。滅多に来るような場所じゃないけど、私たちにとって欠かせない場所。
「・・・団長!起きたのか!」
起きたばかりでまだ視界のぼやけている中、声の主を探して頭を振る。
「・・・私、何日寝てた?」
「・・・3日さ。」
「・・・そう。」
言葉が続かなかった。話題が無いわけじゃなくて、ただ寝起きによる体の不調と、しばらく動いてなかった反動の重さであまり口が回らなかったから。
「ところで、皆は?」
「・・・外でも歩いてるんじゃないか?」
「・・・そっか。」
ネーゼが嘘をついているのは明白だった。これでも長い間彼女たちをまとめてきた団長なんだから!これくらい分かってとうぜんよ!ふふん!
と口にする気力もないのが現状。自分の無力さを呪うだけで精一杯だった。
「大丈夫、みんな命に別状はないって。団長が元気無かったらみんな暗くなっちゃうんだから!ほら!」
「そうよね!ありがとう!私頑張るわ!」
「・・・ありがとう。」