「オラリオの崩壊は今や必至。なのに何故そうまでして抗う?」
街中で始まった【ガネーシャ・ファミリア】とイアンの
【ガネーシャ・ファミリア】はほとんどが地に伏しており、1部は物言わぬ骸にまでなっていた。
【ロキ・ファミリア】や【フレイヤ・ファミリア】には及ばずとも決して弱くはない。それでも歯が立たないほどに彼は規格外だった。
今や立っているのはイアンただ1人。対峙しているシャクティは立っていることすら出来なかった。
「・・・当然だ。我々にはっ・・・義務があるっ!」
"ここで負ければ被害は甚大"
その一心だけがシャクティの原動力として突き動かしていた。
「義務ねぇ・・・」
息さえ絶え絶えなシャクティとは異なり、イアンは息一つ切らずに立ちはだかる 。
「そんなもの誰が決めた?誰が求めた?お前たちが助けた結果がこのザマだ。違うか?」
「いいや・・・我々は我々の意思でここに立っている。だからこそ我々は【
幾度も幾度も打ちのめされようがシャクティは立ち上がる。民衆を守る彼女なりの意地なのか、それとも冒険者として悪に屈してはならない意思なのか。
「まだ抗うというのか?」
「・・・当然だ。」
「ならば無様にでも立ち上がって見せろ。『正義』だろうと『悪』だろうと、『足』はそのためにある。」
「これ以上、犠牲を出して出させるものか!」
笑い続ける膝に手を付きながら、槍を支えに立ち上がり、イアンに渾身の一撃を食らわせるために距離を詰めていく。
「悪くは無い・・・だが一つだけ忘れていることがある。」
ろくな回避行動にも移さず、イアンは彼女に左手を向ける。
「・・・っ!?」
彼の行動に気づいたシャクティが咄嗟に動こうとするも時すでに遅し。
「【ファイアボルト】!」
左手から放たれた爆炎はシャクティに直撃する。
疲弊しきった体で、一撃に賭けていたシャクティに打てる手だては無かった。
「ぐぅぅぅっ!!」
「最期だ、冒険者。」
ビクともしないシャクティにトドメを刺そうと魔法を構える。直後。
「ちぃっ!【ファイアボルト】!」
イアンは1歩後ずさり、あらぬ方へ魔法を飛ばしてしまう。
「逃げられたか・・・まぁいい。」
すぐさま振り返るもそこに彼女の体は無かった。大体の状況を察したらイアンは後追いもせず、また1人夜の街の中を歩いていく。
「・・・ん?」
微かな足跡。確かな殺意。こちらに近づく
「はははっ!ざまーないです!どーです見ましたか!リリは!リリだってやる時はやれるんです!」
「・・・リリ?」
この場で流れるのは赤い血と、無色な一筋の涙だった。
・・・
「ふざけるのもいい加減にしてください!」
「ちょ、ちょっともうちょっと静かに・・・」
「これが大声を出さないでいられますか!ふざけるもいい加減になさってください!」
「で、でもこっちだって緊急事態なんだ。分かってくれないか?」
【ディアンケト・ファミリア】の治療院。その中でアミッドに宛てがわれた一室で、ヘルメスに怒鳴っていた。
「最低でも半月は経過観察が必要な彼女を1週間で。という時点で無茶だと言うのにそれを3日だなんて貴方は彼女たちに死ねと言うのですか!」
「・・・分かってる。」
「あなたは何も分かってません!【
ヘルメスからの言伝はこうだった。
『動ける人だけでいい。【アストレア・ファミリア】の中から数人。戦闘を許可して欲しい。』
だった。この言葉に彼女達の担当だったアミッドは怒りに震えた。
初めて彼女たちが運び込まれてきた時、目を背けたくなるほどの現状だった。火傷に打撲痕、切傷等々。齢12の彼女にさえその悲惨さは容易に想像に着いた。
それでも、
「オラリオが危険な状態なのはある程度耳にはしています。ですが、まだ完治していない患者を死地に送り出すことは私が許しません!」
「そこをなんとか!【ガネーシャ・ファミリア】の主戦力がやられたから手薄になって結構厳しい状態だ!【ロキ・ファミリア】は
【ガネーシャ・ファミリア】が倒れたことはアミッドももちろん知っていた。その結果全体の士気が下がり始めたのもどこか肌で感じとっていた。
「っ・・・分かりました。で!す!が!まずは彼女達の意思確認からです。彼女達が動くと仰るのであれば私達からも全力でサポートします。」
「あぁ、俺だって無理矢理はゴメンだぜ。」
・・・
「失礼します。」
【アストレア・ファミリア】に宛てがわれた病室にアミッドとヘルメスが入ってくる。
「どうしたんだよアミッド。ヘルメス様までご一緒で。」
「ヘルメス様から大事なお話があるそうです。」
「なんでございましょう?柄にもなく改まって。」
「・・・君たちにも話は届いてるかもしれないが昨夜、シャクティ達がやられた。」
ヘルメスのこの言葉に起きていた【アストレア・ファミリア】数名がバツが悪そうに俯く。
「
「いいぜ、神様。」
前置きよろしく長々と講釈たれようとするヘルメスの言葉をライラが遮った。
「え?」
「あたしはあんた《達》の提案に乗ってやるって言ってんだ。どうせ、もう一度この体を引きずってでも力を貸してほしいっつんだろ?アタシは大丈夫つってんだ。それくらい読み取れ。」
「ワタクシも賛成しますわ。しばらく寝たきりだと体がなまってしまいそうで・・・なにより、やられっぱなしは嫌いなものでして。」
「ライラ達が出るってのにここでのんびりしてられないよ!私も行く!」
「団長に助けられたこの体、どうせなら団長の代わりに使わないとね。」
比較的怪我の軽く、話を耳にしていた5人が、明日から復帰することに決まった。
「・・・仕方ありません。私から話をつけておきます。但し!無茶だけはしないでください。それと、1日1回はここを訪れること。守れない場合は縛り付けてでも引き戻しますから。」
・・・
張り詰められていた糸は簡単に切れてしまう。
「おい待て!これ以上進むんじゃない!」
オラリオの民衆の一部が、ついに痺れを切らして城門から外へと出てしまったのだ。
人材不足によって、城壁の見張りが不足していたことが原因でもあった。警告虚しく飛び出して行った民衆は一瞬のうちに構えていた
冒険者も呼び止めようにも下手をすれば自分もやられかねないと引き戻すことも出来ず、ただ呆然と目を背けることしか出来なかった。
この事件もあってか、オラリオの張り詰めていた緊張感は少しだけ緩んだような気がした。皮肉にも、同じ民衆の無謀な行動が起こした結末によって、黙らされたのだ。