オラリオの長く感じられた夜が明けた
どんな状況であろうと等しく世界に朝日は昇る
暗い顔も、惨憺たる現状さえ朝陽は分け隔てなく照らしつける
オラリオは見るに堪えない状況が広がっていた
家屋は大半が瓦礫の山と化している
あれほどまでに闇を照らしていた業火も今では見る影もない
朝霧が立ち込める明朝、夜戦の疲れも癒えきれぬまま救出に追われていた
「急げぇ!まだ助けられていない者がいる!!」
「魔導士の派遣を・・・!誰かっ、誰かいないのですかぁ!」
【ガネーシャ・ファミリア】や【ヘルメス・ファミリア】、本陣を守る冒険者を除き、動ける者の中は例外なくオラリオ中を動き回っていた
神の送還、強大すぎる力に押しつぶされ
いつ襲われるやもしれぬ恐怖感と寝る間も与えられぬ疲労感
いつ壊れてもおかしくない緊迫感に包まれていた
回復魔法が使えるリューもいない現状、救えない命が増えていくだけだった
人手不足と襲い来る疲労感と戦い続け、積み重なる救えなかった悲壮感に浸る時間も貰えずに次へ次へと足を動かしていく
「負傷者はここへ!」
「医療物資はこちらに!」
ないものねだりをしても仕方がない空いた穴が勝手に塞がることも無い
誰かが土をかけて埋めない限り、その穴はそこにあり続ける
「ううっ・・・ぁぁぁぁ・・・」
力を振り絞って出した呻き声さえも蚊の羽音の如く消え失せていく
目に見えずとも耳に残る消えゆく命の灯火に冒険者達の精神は確実にすり減っていく
闇派閥による奇襲に始まった昨日の抗争
【アストレア・ファミリア】の全滅から始まり、
事実上の敗戦となった夜明け、更には死にゆく命を目の前にして抱える不安は募るばかりだった
・・・
【ディアンケヒト・ファミリア】の治療院の一室、そこに【アストレア・ファミリア】全員が床に着いていた
【ガネーシャ・ファミリア】と分かれ、イアンを足止めするために残った【アストレア・ファミリア】はもれなくイアンたった1人に壊滅させられた
後からシャクティ達が駆けつけた時には全員が虫の息だったという
火傷に打撲痕、骨折等々、一命を取り留めた事さえ奇跡とまで言わしめたほどだ
中でも団長のアリーゼは凶刃に倒れたことも含め、誰よりも重体だった
・・・
「だ、団長っ、ロキ!敵の襲撃っす!」
「来おったな!フィンの読み通り、散発的な『嫌がらせ』!場所は!?」
「都市の北東、『工業区』っす!中央広場に入りきらない、街の人のキャンプが襲われて・・・!」
「フィン、儂が行く。動かせる戦力も碌にないじゃろう。」
「いや、『工業区』なら問題ない。既にリヴェリアを向かわせてある。」
「なにっ?しかし、あやつも傷が癒えきっておらんだろう。打たれ弱いエルフには酷ではないか?」
「それも、問題ない。まぁある意味、普通に戦うより『面倒』を押し付けているかもしれないが。」
そんな話をしていた最中、先の報告とは別の団員が慌ただしく入ってくる
「だ、団長!『工業区』とは別の東地区にて敵襲!て、敵は【
「アルフィアの襲撃してきたんすか!?」
「・・・どうも腑に落ちないなぁ。」
「儂も同感じゃな。ザルドもアルフィアももう1人の少年・・・イアンだっけ?彼らは
「しっ、しかし!『工業区』襲撃が陽動作戦でありこちらが本命という可能性も!」
「その可能性は切っていい。こちらが本命と言うならアルフィアの単騎だけで済ませる理由がない。温存してきた【切札】を切るまでしたんだ、より確率を上げない理由がない。」
「とはいえ、これ以上奴の思い通りに暴れられるのも癪じゃ。どれ、儂が出向いてやろう。あの打たれ弱いエルフが動いていて儂が動かないと後で小言を言われかねないしのぉ。」
「でもガレス・・・否、どうせ止めても無駄なんだろう?」
「ふっ、言ってくれるのぉ小生意気な
そう小言を残してガレスは1人部屋を出ていった
「どーも気持ち悪いなぁ・・・特に得体の知れないイアンとかいう少年がなぁ。」
「【ゼウス・ファミリア】にも【ヘラ・ファミリア】にもあのような少年は居なかった。唯一対峙した【アストレア・ファミリア】も危篤状態。無い袖は振れぬと言っても、情報無しじゃ対策のしようも無い。」
・・・
「なんじゃぁ?誰もおらんぞ。」
「アルフィアが襲撃してきたと聞いて最低限の戦力をかき集めてまで来てみたはいいが、肝心のアルフィアがおらんではないか。」
「怪我人は早急に魔導士の元で治療してもらえ!重傷の者は近くの治療院へ運べ!動けない者から優先的にだ!!」
空振りに終わりいつまでも拍子抜けている場合ではない
共に連れてきた冒険者に指示をしながらガレスは怪我人の処置をこなしていく
「単なる神の気まぐれか、はたまたフィンの予想通りか・・・」
怪我人から流れた血の匂いだけがこの空間を包んでいた
「アルフィアの襲撃と聞いて駆けつけてみれば・・・何だこの有様は。」
「おぉリヴェリア、もう終わったのか?『工業区』の方は。」
「あぁ、不本意ではあるがアイズのおかげで予想より大分早く片が付いた。その後にアルフィアの襲撃と聞いて駆けつけてみれば肝心の本人が居ないではないか。」
「儂も報告を聞いた直後に駆けつけたらのじゃが・・・この通りアルフィアの影も形もない有様じゃった。」
「・・・どうも胸騒ぎがする。」
「なんじゃ、お主もか。」
「アルフィアを使ってまで起こした襲撃がここまで呆気なく終わるはずがない。なにか裏があるように思えてくる。」
「全くじゃのぉ・・・奥歯にものが挟まったようなそんな感じがしてならんわい。」
「気は引けるが怪我の軽い冒険者から話を聞く必要が出てくるか・・・」
「後手に動いてる気がしてならんが、動かないわけにもいかんじゃろ。」