正義冒険譚


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作:現魅 永純
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正義冒険⑦




 申し訳ありません!!(初手謝罪)
 前話の前書きにて次回の持ち越しと言い、今話でダンジョン遠征が終わる感じを仄めかしましたが、普段の倍以上の文字数という長さになってしまい、やむを得ず分けてしまいました。
 なので次話はまだ遠征の間の話になります。一応ある程度は書いてから分けたので次話の投稿までは短くなると思いますが、またお待たせします。




 

 

 

 

 技と駆け引きは冒険者の基本だ。下級冒険者と称されるレベル1にとってはステイタスの上昇をこそ最優先と思う者もいるが、先に磨かなければならないのは『ギリギリを制する判断力』。つまり駆け引きだ。

 ステイタスのゴリ押しは武器を痛めるし、下層へと下るたびにモンスターの知恵は強化する。一見途轍もない膂力で押しているようにしか見えないオッタルやザルドの剣技も、その剛力による武器へのダメージをあたえないように繊細なコントロールをしている上に駆け引きも込めている。

 

 技と駆け引きはステイタス───能力値に差がある敵であろうとも突き刺さる、格上を殺す為の手段。偉業を叶えるが為の絶対的手段であるが故に、その本領はレベルが高い冒険者ほど大事にしている。

 が、ベル・クラネルはこと駆け引きに於いて秀でている訳ではない。完全記憶故の計画的な戦闘は他の冒険者と一線を画しているが、駆け引きの本領たる『ギリギリを制する判断力』に於いては第二級冒険者の中で下の中が精々だと呼んで良い。

 

 何故ならベルの戦い方やスキルは、決して対多数の為に磨かれたものではないからだ。一対一……或いは2、3体程度ならば無類の強さを発揮する能力だが、数が増える度に発揮はできなくなる。

 無論それはどの冒険者にも言える事だ。短文詠唱や移動砲台(れいがい)を除けば殲滅力の無い冒険者にとって、数の暴力というのは対処の難しい第一候補とも言える。だが幾ら数の暴力とは言っても、所詮守るべき肉体は人型程度の大きさでしかなく、モンスターが攻撃する為の的はそれほど多くはない。

 

 タイミングの取り方が上手い連携出来るモンスターでも無い限りは、ただの数の暴力というのは実のところ第二級冒険者でも経験を重ねれば誰でも対処が可能だ。

 完全記憶(スキル)の補助もあって把握能力に長けている筈のベルがそれをできないのは、純粋な経験不足。故郷の問題。そしてアルフィアの独断だ。

 

 故郷は特別モンスターが大量に出る場所では無いから、それ故に経験を積む事が出来ない。しかしアルフィアの脚があれば多少遠くとも日帰りは余裕をもって行えるだろう。ともすれば、何故ベルは対多数を磨けていないのか。

 “技”だ。ベルはオラリオに来てからこそ技を磨く事が出来たが、アルフィアとの訓練では“基礎”のみを磨き続けたが為に持ち合わせている技が少なかった。駆け引きとは本人の判断力、そして技の保有数に左右されるもの。ともすれば対多数の為の駆け引きを磨かないのは必然とも言える。

 

 ましてベルは、その()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。膨大な知識から推測する能力が高すぎる為に、格上の為、及び対多数の為のギリギリを攻める能力というのが必要なかったのだ。

 そしてアルフィアの場合、己の戦闘には必ず魔法を前提とする部分がある。近接戦の対多数に関してもステイタスの影響が大きい。ベルが参考に出来る部分が少ない故に、教える事が出来なかった。

 

 だから遠征というこの場で“技”を沢山覚えたベルに、対多数への駆け引きを持ち掛けている。

 ───が、しかし。

 

 

「んんっ、こ、のぉ……っ!!」

 

 

 躱し、躱し、躱し───()()()()()()()。反撃に転ずる事はなく、ただただ攻撃を避け続けている。カウンター狙いで相手の剣を滑らせてはいるが、流した後は即座に移動して攻撃をしない。

 余裕はほんの少しだけあるように見える。だが攻撃への意識を全く見せようとしない。

 

 危なくなれば助太刀に入るとは言ったが、現状危なくはない。だが同時に攻め入ることもない。

 どうしたものかと立ち往生しているリューに、アルフィアが話し掛ける。

 

 

「不思議か、【疾風】。何故ベルが攻め入らないのか」

「……ええ。レベル3のステイタスである事を加味しても、攻撃へ転ずる隙は幾らでもありました。彼の観察眼ならば把握していると思いましたが……対多数の戦闘に慣れてない影響ですかね」

「逆だとも。()()()()()()()んだ」

「見え過ぎている……?」

 

 

 対多数に慣れてない影響もあるだろう。しかしレベルの差はあれど、把握能力や思考速度は個々の特性が発揮される。レベルに依存する部分もあるが、それ以上に当人の素質や練度が大きくなる部分だからだ。

 把握能力だけで言えば、ベルのそれは第一級冒険者に劣らない。視野に入る全てが鮮明に記憶されるからだ。それはリューも理解している。ならば思考速度の問題か。

 

 

「ベルはかの英雄に憧れている。その意味が分かるか?」

「……強くなりたいという訳ではありませんか?」

「違うな。言い方を変えよう。ベルは()()()()()()()()()()()()。つまり」

「……! ならば、自分が死ぬ訳にはいかない……ですか」

 

 

 誰しも死ぬという事には忌避を覚える。それは冒険への覚悟を決めている冒険者も同じで、死ぬかもしれないギリギリを攻めても死にたく無いというのは生物が抱く当たり前の本能。

 ベルはその上に英雄譚の本質を継続する為に、まず自分が死ぬ訳にはいかないと、死ぬ可能性があるならば飛び込まない。

 

 

「そしてもう一つ。ここは闘技場(コロシアム)だ。俯瞰視点で見ているお前ならばすぐに気付くだろう」

「───なるほど、モンスター同士の殺し合いの場。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。見え過ぎているというのは、他のモンスターの挙動の事ですね」

 

 

 闘技場(コロシアム)に好んでくる冒険者はいない。だから普通ならば気付かない事も多かった。かつては強化種が生み出される場所とも称されたように、ここではモンスター同士の殺し合いが行われている。とは言え深層ともなればモンスターも知恵がある。無意味に同士を殺すのではなく、有効的なタイミングのみで行うのだろう。ベルに攻撃を放つモンスター達はモンスターごと貫こうとする動きを見せはするが、実際にはしない。

 だから視点を変えた。ベルの行動ではなく輝夜の戦闘を視界に移し、モンスターの行動を見る。輝夜に二対諸共叩き切られてはいるが、背後にいたモンスターはモンスターごと輝夜を貫く姿勢を見せていた。それによりアルフィアの言葉の意味をリューは理解する。

 

 輝夜は刀という性質上、長さは短剣より格段に長い。仮に二体来ようとも纏めて切り払える。しかしベルの持つ短剣ではリーチが足りず、二体倒すならば2回以上の攻撃をしなくてはいけない。

 ベルの速さを考えれば、その間に他のモンスターが寄るのは明白。ましてやここは闘技場。倒したところですぐに湧くのは明白だ。そこまでの対処を考えるとベルは逃げが最善であるのは間違いない。

 

 が、しかし。『20体を倒せ』という縛りがある以上は倒さない限り終わらない。死にかけても今がダメなだけで次は大丈夫と同じように放り込まれるだけだ。そも、乗り越えられるとアルフィアが判断した以上は乗り越える為の手段を既にベルは得ている。

 それは何だ。逃げの最善ではなく討伐の次善か。

 

 

「では、アルフィアは冒険の覚悟を決めろという事を教えるつもりで?」

「……いいや? 死に誰よりも近かった私だから言えるが、死と隣り合わせというのは怖いとも。未だに私の病が相殺を上回ったらと怯えている。だからベルに何よりも生きる事を優先しろ───()()()()()()()()()()()()()と私が教えたんだ」

「貴方が……?」

 

 

 死は怖い。幾度となく偉業を成し遂げた世界最高の冒険者が溢す弱音を聴き、思わずリューは驚きを隠せない。だが同時に納得はある。ベル・クラネルという義理の息子がこの世にいる中で、死が残す結果は己の損失だけではない。ベルという唯一の家族から離れる事になる。

 一度は失われて、また取り戻した家族愛。しかも自分は病を克服した身。離れる絶対的な理由が無いのだ。わざわざ一生離れ離れになる事もない。

 

 だがそれ以上に、もう一つ。

 

 

「冒険者ならば冒険しなくてはいけない時はある。だがしなくていい冒険をする必要もない、という意味でな。何せ冒険をせずに偉業と呼べるくらいの実績があれば……それこそ、絶対的に強い者だろう?」

「なるほど」

 

 

 要は、冒険をする必要がない程に強く在れ。冒険者という枠組みで、かつては何人もの死人を出したダンジョン探索という舞台。それで冒険をするなという方が無茶に近い。

 だが、本当にそれを成し遂げられるならば。自身の命を決して脅かさずに、他人の命をも救える者となれるのならば。

 

 それこそ、自身の命を賭して暗黒期を終わらせた英雄以上の───。

 

 

「甘いのか、厳しいのか。時折分からなくなりますね、貴方は」

「甘いとも。この世を簡単と思っている者の発言だ。厳しいとも。それが無茶と分かっていながら押し付けるのだからな。だが、【大和竜胆】の故郷にこんな言葉があっただろう?」

 

 

 厳しいし甘い。どっちでもあるんだという発言の後、アルフィアは片目を閉じて告げる。

 

 

「『飴と鞭』、とな」

「……それはまた、意味が変わってくるかと思いますが」

「む、そうか?」

 

 

 リューもうろ覚えだが、その慣用句は間違っているとリューは微妙な表情で呟いた。後でベルに意味を聞いておくかとアルフィアは溢す。

 天然なのか、馴染みやすくしているのか。……まあ前者だろう。ベルの血筋、及び彼女の妹の話を少し知っているリューはそう判断した。

 

 微妙な空気漂う二人を他所に、ベルは表情は冷静ながらも内心どうするべきかと思考を加速させる。

 

 

(ねら───えないっ、一歩遅れた。事前のパターン解析が無意味、把握してもまた別の把握が頭に入って対応が出来ない)

 

 

 一体一体の動きは見えているのに、それが三体四体と積み重なる毎に思考が圧迫されてしまう。完全記憶故の弊害。取れる手段が多過ぎて、咄嗟の状況で何を選択するかを数瞬考えさせてしまう。

 今でこそ音の誘導と、輝夜自身が気配を薄くする技術を使わずにいるから、モンスターの意識はベルよりも輝夜の方に向いている数が多い。お陰で逃げるだけならば可能となっている。だが攻撃に転じようとする瞬間に視界に入るモンスターの挙動がベルに一瞬思考を与える。その一瞬の思考が判断を遅らせ、攻撃への転じを封じているのだ。

 

 中層を自分がメインにほぼ単独で攻略できたのは、ステイタスの差が明確に出たのだと思わされる。一対一ならば確実に勝てるであろうモンスター相手にも、やはり数を増やされては無意味だ。

 体力に余裕はある。精神力(マインド)もまだ余裕だ。脳もまだ疲れていない。身体の負担も大きくない。だが逃げに徹するしかない現状、20体の縛りをクリア出来ないから継続の一択になる。それでは課題のクリアが出来ない。

 

 しかもこのままでは輝夜の負担が大き過ぎる。ならば───。

 

 

「……っ、【増幅(インフレクト)】」

 

 

 大きく息を吐き、詠唱一つ。輝夜のいる場所を中心的に引き上げていた音を元に戻して、己の足音を増音させる。輝夜に向いていた意識が少なく、だが確実に幾つかベルの方へと向かう。

 

 

(まずは輝夜さんの体力を整える。多少増える程度なら逃げに転じてる今、攻撃は喰らわない筈。輝夜さんに余裕を持たせてからまた思考を整えて───)

 

 

 瞬間。視界の端に映る鈍い刃の煌めき。自身の増音に意識を持ってったが為に外れた索敵の隙を突く一撃に、ベルは逆手に持つ刃を振り上げる。

 

 

(間に合わ……なっ、ら攻撃……っ!)

 

 

 コンマ数秒間に合わずに通り過ぎる刃を見送り、即座に刃先を転換させて魔石に狙いを掛けて指先で振るう。切り離されるまではいかずとも、深く腕を斬られるだろう。だが判断を誤った以上は取り返しはつかない。ならば最大限の結果を。

 そうして放たれるお互いの刃。

 

 やかて刃は───

 

 

「っ、ぁ……ッ?」

 

 

 ()()()()()()()()()()弾かれる。思わず後退してベルは腕を摩る。怪我はない。

 意識を前に向ければ、そこには輝夜の姿。

 

 

「馬鹿者っ! 急に(デコイ)になるな!」

 

 

 叫びながら、体を捻りながらモンスターを切断。だが息継ぐ暇もなく攻め入るモンスターの剣を抑えながら、輝夜は言い放つ。

 

 

「これは私への罰も含めての攻略だ! 私にどれだけ負担を掛けても構わん! 貴様はまずモンスターを倒す手段を探れ! 私の負担を減らすというのであれば、早く20体を倒せ! 貴様の矜持を捨てずにだ!」

「け、けど……!」

「貴様が言ったのだろう、アルフィアが与える試練は、既に自分が得ている“種”を開花させる事で攻略出来ると! 今の自分が出来るのにやっていない事はなんだ!?」

 

 

 出来るのにやっていない事。出来ないかもしれないから、やっていない事。

 

 

「貴様が覚えた技はただ発揮するだけか! そこから()()()()()()をしないのか!」

「……!」

「技に至る過程を一つと決めつけるな! 分かったな!? ならば掛け直せ!」

 

 

 ベルは深呼吸一つ。自身の周囲にいるモンスターを輝夜が斬り払うと同時に自分に【遮断(シャット)】を掛け、輝夜に【増幅(インフレクト)】を掛ける。

 明確に輝夜へと向いたモンスターの意識。この数瞬で考えられる限りを頭に浮かべる。

 

 

(技の発展───矜持を捨てず、種を開花。明確に倒せる手段。思考の簡略化。考えられる全てを、矜持を捨てずに身体に命じる方法)

 

 

 だがモンスターはその瞬間を逃すほど甘くはない。先程に比べれば間違いなく少ないが、それでもベルの現状では対処できない程の量のモンスター。逃げるだけならば可能。しかしそれでは逃げに意識を持っていかれて、今の思考が途切れてしまう。

 故に、ベルは逸らす。出来るだけ大きな武器を持つスパルトイの攻撃を逸らし、周囲のモンスターを巻き添えにする。倒せはしないだろう。だが明確に考えられる時間ができた。

 

 

(技の過程、僕だから出来る技の進化。いや───()()()()()

 

 

 カチリ、と。歯車が噛み合うイメージが湧く。だがまだ何かが足りない。問題なく動くには足りないものがある。何だ。何が足りない。

 その視線は、輝夜へと向けられる。

 

 

(─────あ)

 

 

 輝夜から学んだ事。その一つに気付くと同時に、ベルは動きを止める。腕は垂れ、呆然とする様に力が抜けていた。

 突然の動きの停止に驚愕したリューは、対処に動くまでに数瞬遅れた。モンスターを前にしてあり得ない行動だ。リューの困惑は当然と言える。しかし危険に陥れば助けると言った身でありながら、この状況では助けられない。

 

 刃が届きそうになり。

 

 

「……え」

 

 

 刹那、ベルの身体はブレる。否。動きの速さに違いはない。リューが今まで見ていたベルの速さと何ら変わりはない。

 だがその手に持つ短剣は、気付いた時にはスパルトイを切り裂いていた。

 

 第二級冒険者が持つには過剰性能とも言える第一等級武装の【純紅の刃(リアライズ)】ならば、多少技量が不足していても切る分には問題ないだろう。ましてやベルは基礎的な動きに関してはレベル8も認める領域に達している。持つ資格はあると言っていい。

 だとしても、本人の動きに差異が表れる事はない。短剣という特性上ならば尚更だ。

 

 そんな中で、先程とは別種とも呼べる動き。技ではなく、技に至る過程の速さが段違いに増した。

 

 

「予備動作を極限まで少なくする。それだけで技の出が段違いに早くなるのは明白だ」

 

 

 驚愕するリューを端目に、アルフィアは続いて二体目のモンスターを狩るベルの動きを見つめながら話を続ける。

 

 

「だがベルの場合、スキルの影響で推測できる範囲があまりにも広い。その選択の多さ故に行動が遅くなり、結局は武器を振るうまでに時間が掛かってしまう。スキルの影響で絶対そうなるのであればやるべき事は一つだ。思考を身体に反射させる」

「思考を反射……」

 

 

 通常ならば人は、認識して思考し行動するという工程を踏む必要がある。認識しなければ取るべき行動は思考できず、思考せねば行動に反映させられない。暴れるのは認識も思考も要らない行動だが、それは状況の把握が出来ないのと同義。

 ともすれば、どこかのプロセスが欠けては人の行動というのは成り立たない。

 

 だがその中で唯一、“思考”というプロセスは簡略化出来る。言葉を変えれば、“思考”ではなく“直感”という形に変化させる事が可能になるのだ。

 そう、フィンやアリーゼとは違い、アルフィアと同種の“直感”に。

 

 

「……可能なのですか? そんな事が」

「出来るとも。思考を身体に染み付かせる程の努力をすればな。私たち冒険者の勘の発展系とも考えていい」

 

 

 経験による身体に染み付いた反射的な勘を意図的に行うのが、現在アルフィアやベルの行なっている直感だ。だから言ってしまえば、誰にでも出来ることをやっているに過ぎない。

 それを理解しているリューは、アルフィアの発言に首を振る。

 

 

「いえ、意図的な思考の簡略は理解できます。問題は、クラネルさんにそれを身体に反射させる事が出来るのかという事です。彼の元の戦闘方法は駆け引きよりも計略といった方が正し───」

「ああ、そうだとも。今ベルが行っているのは間違いなく計略だ。計略と駆け引きを両立させ、それを簡略化させている」

「……なるほど」

 

 

 自身の発言を振り返り、ベルの行動を振り返り、そして理解に至る。

 

 

「それ故の()()ですか」

 

 

 3体、4体、5体……6体目のモンスターを斬り伏せるベルの姿を注視して、攻撃に至るまでの身体の動きに気付き、答えを呟く。

 そう、ベルの元々の戦闘法である完全記憶を利用した動きの推測。駆け引きとは別物とも呼べる戦闘スタイルは、決してなくしてはいない。それ諸共簡略化しているだけだ。

 

 本来なら“直感”で動くにしても別の可能性を過らせて硬直してしまうのが当たり前だ。普通の人間の“反射”ならば兎も角、ベルの完全記憶はそれだけの把握能力があるから。ならば何故、決して止まる事なく動き続けられるのか。

 その答えが『脱力』だ。

 

 

「全身から力を抜き、どんな“直感”を過ぎらせようとも全てに対応できる状態へとする。何せベルは、予備動作をほぼ必要なく技を繰り出せるのだからな。元々どんな状況にも対応出来る潜在能力はあった。硬直しては意味のない事だが……」

「脱力する事で予想外の事態に於ける硬直を避け、その上今までとは比にならないほどの技の冴えを披露出来る。……しかし、脱力という手段をどうやって考えたのですか。クラネルさんは」

「何を言ってる? その答えはベルの近くにあるだろう?」

「……輝夜?」

 

 

 アルフィアの指差す方向に目を向ければ、そこにはモンスターを倒しているベルを見て笑みを浮かべる輝夜の姿。しかし輝夜の何がその考えへと導くのか。確かに彼女の技は脱力を使うものもある。

 しかしそれだけで至るには要素が薄い。

 

 

「今朝ベルと会った時に、異様に身体が軽いと感じたんだ。疲れがあまりにもなさすぎる。精神的疲労は兎も角、肉体的な部分に疲れが見えなかった」

「『整体』ですか? 受ける分には何ら不思議はありませんが」

「ああ。私が言っているのは『整体』そのもの。受けたという事実のみ。……私も詳しい訳ではないからな。断じる事は出来んが……【大和竜胆】の行う整体の過程には、疲労の溜まった部位の脱力は基本となる。それは力の入らないフラットな状態を作り、()()()()()()()()と私は解釈している。きっとベルも同じだろう」

「……! なるほど、最適を生み出す行動。それが脱力であったという訳ですか」

 

 

 脱力し、思考を反射させ、レベル3とは到底思えない程の速度で技を出す。“直感”という部類に於いてはオラリオ内でも類稀なる存在と化しただろうベルに、リューは感嘆の意を示した。

 このままなら手を出さずともいいだろう。アルフィアの判断は正しかったと認識し、リューは得物を帯刀し直して問い掛ける。

 

 

「直感で言えば、貴方と同じ領域に達しましたか? アルフィア」

「……神アストレアといい、お前といい、みな随分と私を【怪物】に仕立て上げたい様だな。些か傷つくぞ、私も」

「えっ」

 

 

 15体目。変わらぬ速度で、決して疲れを見せずにモンスターを討伐し続けるベルを見つめながら、アルフィアは苦笑気味に呟いた。

 

 

世界最速(レコードホルダー)の座を奪われた様に、未だに世界最強のレベル9へと到達していない様に。『才禍の怪物』などと称されようとも、何もかもを誰よりも強く在れるという訳ではないよ、【疾風】」

「え、と……」

「完全記憶を反射させた直感だぞ? ()()()()()()()()()()()だとも。その一点は私を上回っている」

 

 

 元のステイタスが左右する“行動”という面があるからこそ、仮にこのベルの直感を相手にしたところで後手に回る事はないだろう。本気でやれば勝つ事など容易いと断言出来る。

 しかしベルと同レベル帯であるレベル3で比べれば、技と駆け引きがあまりにも別格すぎる。元々汎用性の高いステイタスに加え、時間が経つ事に戦闘が優位になる完全記憶、人間という生物である以上は大ダメージになりかねない音の操作。

 

 

「恐らく今のベルならば、()()()()()()()()()()()()()()()()

「……一度、本気の手合わせをしてみたいですね」

「格上と言っても一つ上相手に限るとも。まあ神タケミカヅチの技を扱えば、身体が持つ限りはお前の本気にも耐えられるだろうがな」

「アッハハ、とんでもない会話だね。まだ第二級冒険者なのに、期待値が第一級冒険者並みに至ってないかい?」

 

 

 ベルを見つめながら互いに薄く笑みを浮かべて会話をするアルフィアとリューの後ろから、その会話へ混ざる様に一つの声が横切っていく。

 女性特有のキーの高い声とは違う。男性故の低さを持つ声音。少し離れた場所で、だが視界に入る程度の距離にいる今回の遠征メンバーの男組には居ないその声。しかしよく聴く馴染みのある声に、二人は決して警戒はせずに振り向く。

 

 そこには身長の低いながらも自信満々に溢れる少年の姿をした、かつての英雄譚で英雄に次ぐ活躍を記された『勇者』の姿があった。

 

 

 

 

 

 






 なお、ベル君は五年培って漸くの『直感』ですが、アルフィアの場合はなんとなくという一瞬で『直感』の会得をしている為、生み出す才能というのはアルフィアの方が遥かに上です()
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