正義冒険譚


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作:現魅 永純
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和の頂点


 なんだかんだ前話よりも時間が空いてしまって申し訳ありません。次話はもう少し早くなる様努力します。


 

 

 ───アルテミス・ファミリア。

 狩猟と貞潔を司る神が主神のファミリアであり、2年前まではダンジョン都市の外を徘徊しモンスターを狩っていた、都市外のファミリアだ。絶対貞潔を誓い処女性を決して失わせず、自ファミリアでの男性との交わりを是とせず、男禁制。もちろん他派閥での男女のやり取りなどを引き裂く様な、生態系を狂わせる事などは決してしない。ただ、貞潔を司る処女神(アルテミス)のファミリアに入るならば長期の間は処女を覚悟しろと言われる程の、いわゆる『超恋愛アンチ』である。

 着替えを覗けばこめかみを矢で射られる。風呂を覗けば目を射られる。手を出そうものなら半殺し。全て冷たい目のオプション付き、対価は自身の怪我(ゼウス談)

 

 そんなアルテミスがオラリオに属するファミリアになったのは、またも英雄の仕業である。ただまあ彼女に関しては他の者が抱く『憧憬』の類とは離れていた。『英雄色を好む』という言葉がある。事実いくつかの英雄譚は女性との絡みを描写するものがあり、アルテミスはその辺りを好ましく思っていない。しかしオラリオに紡がれた英雄は、色こそ垣間見せる描写はあったものの、決して手は出さずにオラリオを救った後に人知れず去って行ったと記録されている。

 アルテミスは下界の自然や人々を愛し、気は強く、人を傷つけるモンスター相手には自分の身を前線に置いて戦う程に、『悪』への対抗心がある。英雄は『悪』を全て更生させて、その目的を果たせば去った。さながら『矢』の様な少年だと認識してしまえば、大の恋愛アンチでも好ましく思う他はない。

 

 ただまあオラリオに来た理由はそれじゃない。単純に仕事が減ったのだ。その英雄誕生後、オラリオはこれまで以上に都市外での奉仕活動をしている。もちろん依頼という形は取っているし、資金的余裕があるファミリアには限られるものの、世界の中心と呼ばれるだけあって強い冒険者達が集う街。そんな都市が出来る限りの範囲の依頼を総取りしている。当然アルテミス・ファミリアの出番は激減した。

 某万能者と賢者(ブラック社員)が「どうして……」と呟くほどに稼働され、世界中に配置された眼晶(オクルス)の改良魔道具によって、連絡だけならば直ぐにオラリオに届く様になっている。人を乗せての飛行が可能なモンスターの協力もあり、相当の範囲を担当できるのだ。

 

 ともすれば、アルテミス自身もオラリオに属して依頼を受ける立場になるしかあるまい。

 オラリオに生まれた英雄への興味と、人を助ける為の所属。これがオラリオに移住した経緯の全てだ。

 

 そんな彼女は、現在タケミカヅチと共に眷属達の指導を行っていた。自分の身すら前線に置くアルテミスではあるが、オラリオ……いや、ダンジョンは一味違う。外にいるモンスターに比べると強く、その上規則としてダンジョンに入ることを禁じられているからだ。故に自分が出来ることとなると、自身の持つ技と駆け引きを授ける事。

 幸いにも眷属は第三級冒険者……つまりレベル2以上が多く、資金的に困る事はない。天界での神友であるグータラ女神(ヘスティア)を見習って動かない日を過ごしてみたものの、動かなければどうも落ち着かない。その結果、こうして眷属や他派閥の技術部分に自信が持てない冒険者たちを指導している。その際の男女接触は仕方がないと見逃しているが、不埒な下心でも持てば即座に放り出されるのがオチである。

 指導者にタケミカヅチがいるのも、この男神を信頼してのことだ。他の神とは違って「アルテミスのレア姿をこの目に映す!」などと叫ばない。単純に子供を指導するだけだ。

 

 ───さて、そんなタケミカヅチとアルテミスが指導するアルテミス・ファミリアホームの庭に、輝夜とベルが訪れた。

 

 

「こんにちは、アルテミス様。タケミカヅチ様もいらっしゃったのですね?」

 

 

 ぎょっと目を剥いた。別人かと疑うほどの敬語使い。イントネーションは少々ベルや標準的なものと違いはあるが、浮かべる笑みと相まって貞淑さが現れている。

 そんなベルの様子に気付いたのだろう。ニコニコと笑顔のままベルだけに分かる圧を掛け、それを受けたベルは察した。なるほど、猫被りかと。

 

 

「ああ、そろそろ来る頃だと思っていたよ。新人冒険者の顔合わせは以前からの約束だからな」

「む、アストレアの所に新人?」

「……タケミカヅチ、情報収集に疎すぎではないか? いやまあ、ファミリアの入団はそこまで騒ぐものでもないが……ギルドでは結構騒ぎになっていたぞ。白髪紅目の少年がアストレア・ファミリアに入団したというのは」

「ほう」

「そして入団初日に深層まで単身で突っ込む阿呆だとも噂で流れていたな」

「うぐっ……」

 

 

 やけに心配の声を掛けられた帰還時の状況を思い出したベルが気まずく思っていると、輝夜が肩を竦めて苦笑。

 

 

「ええ、やらかしたお蔭で先入観は変わったでしょうが……そのベル・クラネルです」

「よ、よろしくお願いします」

「……」

 

 

 青髪の神にベルが頭を下げれば、アルテミスは黙ったままベルを見つめている。言葉なく視線を感じ続ける現状に疑問を覚えたベルは、頭を上げて困ったような表情で問い掛けた。

 

 

「あの……?」

「……どこか濁っている」

「へ?」

「いや、違うな。真っ白な魂を塗り潰す、更に強い光……。……なるほど、大変好ましいな。私は実物を見た訳ではないが、伝え聞く英雄の姿と一致する容姿。その上で『矢』の様な魂。うん、大変好ましい」

「あ、あの……?」

「アルテミス様。念のために申しますが、彼は()()ファミリアの眷属です。引き抜きは許しませんよ?」

「……? 何を言っている。元より私のファミリアは男厳禁だ」

 

 

 噛み合っているのか、噛み合っていないのか。輝夜はアルテミスの発言に対して注意を促すが、若干丸くなったことで天然さが増したアルテミスは「在り方が好ましいと言っただけだ」と首を傾げる。輝夜はほっと一息吐き、眼を閉じた。

 

 

(あの男神の言葉に従うのは癪だが……今回ばかりは聞いて正解だった)

 

 

 あの男神───ヘルメス曰く、ベルの『魂』は神特攻があるらしい。真っ白で綺麗な魂。その中でもより深く感知する美の女神や、貞淑を司るがゆえに感覚的に在り方を理解するアルテミスなどは、その魂に魅入られる。

 なんせあの美の女神を狂わせるほどの魂だ。何年もお預けしていた分、アルフィアが勝利したことによる制約がなければ、ベルはこの都市に着くと同時に攫われていただろう。それほどまでの魂だ。恋愛アンチのアルテミスさえも虜にする可能性がある。貞淑故に、その身を運命に委ねると。

 

 実際にはほどほどに丸くなって天然と化していたのだが。

 

 

「……! 輝夜殿! お久しぶりです!」

「ええ、お久しぶりですね。命。調子はいかがですか?」

「はい! 貴方の背中を目指し、精進しております! 最近では上層最下層まで進めるようになりました!」

「……何度も言いますが、私を目指さなくとも。【猛者】や【暴喰】、【戦乙女】に【静寂】。私よりも上の冒険者はそれなりにございますよ?」

「いえいえ! 極東の者である自分にとっては、極東に於ける頂点たる輝夜殿は最たる目標です!」

 

 

 命と呼ばれた少女は、目を輝かせながら力説。傍目から見れば分からない程度に輝夜の笑顔が引き攣る。言葉遣いに差はあれど癖は変わらない様で、ベルの『記憶』はそれを見逃さなかった。

 ベルとて輝夜の強さは知っている。いや、正確には直接見た事はないが、“技”の類に突出している人物は歩き方や存在感というのに違いがある。足音は極限まで小さく、存在感は薄く。普通ならばしない歩き方───言ってしまえば人が普段、意識せずに行なっている“普通の歩き方”ではなく、“音を小さくする歩き方”というのを無意識でやっている。歩き方に違いがあれば普通は意識するのが当たり前だが、輝夜はそれを無意識に行えるほど染み込ませているのだ。

 

 ベルとしては、“技”に優れた人物というのは自身の成長に欠かせない餌である。だからその違いを感知するために、普通ならば気付かない事に気づく様、アルフィアが施した。

 極端に言ってしまえば、ベル視点からするとアストレア・ファミリアの中では輝夜の強さが一番分かりやすい。だから輝夜が強いというのは理解しているし、同郷の人物が憧れるのも分かる。ただ輝夜からしてみれば、極東に限るとはいえ頂点というのは非常に困る。なんせ自身の評価がそのまま極東の評価になりかねない。だからファミリア内では言葉遣いを崩しているが、外ではこうして猫被りをする。

 

 アルフィアから聞かされていた『小人族の勇者(フィン・ディムナ)』の事を頭に浮かべ、彼は「そういう姿勢を見せる事で立場に相応しい人間だと認識させる」方ではあるが、輝夜は反対に「そういう立場に立ってしまったから相応しい姿勢を振る舞わなければならない」という事なのだろうと、ベルは納得した。

 まあだからと言ってフォロー出来ることなどないが。ベルはあくまで新人である。

 

 同郷の後輩に憧れの視線を向け続けられる輝夜から視線を外し、弓を構え的に向かって矢を射出する女性たちに移す。アルテミス・ファミリアは男性厳禁と言っていたし、恐らく彼女たちが遠征に協力する人達だろうと当たりをつけたからだ。

 一連の動作で、一定間隔に真ん中を射抜く。距離的にはそこまで離れていないが、的は小さい。真ん中を射抜くのは難しいが、ここまでならベルも出来る。ただ、続く動作には目を見開いた。

 そのステイタスを活用して、頭と足の位置を反転。バク宙する事で天地をひっくり返し、身体を空に浮かせたまま矢を放つ。

 

 

「すご……」

 

 

 単純に跳躍して───も大概ではあるが、それならばまだ分かる。だが天地をひっくり返し、そのまま矢を放つなど常軌を逸している。幾ら真ん中からズレてるとは言え、的に当たるだけでも一苦労だ。地面に落ちるまでのタイムリミット、空中であるが為に地を踏ん張れないからこそ表れるブレる姿勢、距離感などもはや当てにならない中での小さな的。それで的に当たるだけでも充分凄い。

 (アルフィア)の教えで武器には一通り心得がある。主武器(メインウェポン)は短剣ではあるものの、剣・槍・大剣・刀・薙刀・斧・槌。そしてもちろん弓。だがあくまでベルは基本の使い方を学び、それを問題なく行えるだけだ。今の様な体勢から精細さを欠かないよう使える訳ではない。

 

 アルフィアからの学びだけでは理解出来なかったものを、今垣間見た。

 

 

「出来る事と使いこなす事はまた別だ」

「!」

「基本を突き詰めた者は確かに強いが、それでも応用を覚えねば、ダンジョン探索では“死”が待つのみ。どんな劣悪な地形や環境であろうと使える者こそが、その死を塗り替えられる権利を持てる。……無論、誰しも応用を効かせるなんて事は無意識のうちにやってる筈だ。だから私が教えるのは、反射というプロセスの成功確率を上げること。第六感の強化だ」

 

 

 後ろから聞こえた声にベルが振り向けば、アルテミスは歩き、置いてある弓と矢三本を手に持つ。何の為にとベルが疑問の表情を向ければ、アルテミスはふと強気な笑みを見せ、一本を真上に放つ。矢が空中でゆっくり向きを変えれば、アルテミスへ向かって落ちてくる。

 反射的にベルがナイフを取り出して当たる寸前に矢の側面を叩き斬る構えをすると、アルテミスは矢を一本つがえた弓を構えて、背中が地面に向かって倒れていく。足に力が入ってはいないが、その構えは決して揺るぎない。つがえた矢が放たれれば、先に射た矢の先端と衝突し、左右へと弾かれた。

 だがそれで終わらず、倒れ込む身体を一つの腕を支えにバク転させて、再び足が地に着く。だがあくまで体勢が崩れないように安定させる為か、片足だけが先に。それと同時に地につけた手を即座に離して最後の一本を弓につがえ、もう片方の足が地に着くと同時に流れるように弾かれた矢へ向けて放たれる。それも当然のように落ちる矢へ衝突し、再び弾かれた。

 

 ベルが一瞬の出来事に呆けていれば、アルテミスは一息吐いて「こんなものか」と呟きながら弓を置く。

 

 

「……か、神様って“神の力(アルカナム)”を封じられてるんですよね?」

「うん? ああ、恩恵や許可された力は別だがな」

「身体能力は一般人にまで落とされていると……」

「無論だ。身体能力もある意味では神の力の一つだからな」

「……え、片手でバク転……視覚や触覚だって、レベル1の冒険者よりも劣ってる筈……え……?」

「……? 片手でバク転など一般人でも出来るだろう。今のに知覚能力は必要無い。視覚など無くとも、弾かれた方向さえ理解できれば予測できる。外れる可能性も少しはあるが、これくらいはタケミカヅチでも行える筈だ」

 

 

 ───つまりなんだろう。この神は、最低でも恩恵をもらう事で莫大に上昇した身体能力がなければ出来ないことを、一般人の能力で行なっているという事だろうか。

 いや分かってる。ベル・クラネルも大概の存在であり、今のパフォーマンスだって直ぐにでもやろうと思えばやれるだろう。【完全記憶(スキル)】のお陰とはいえ充分におかしい。だが先も述べた様に、これは恩恵を受けての身体能力が有ることが大前提。例え完全記憶能力があろうとも、ベルに一般人の能力で先の事をできる自信は無い。

 

 ベルが引き攣った笑みを浮かべ、アルテミスが疑問の表情で首を傾げていると、ベルの肩に触れる者が一人。輝夜である。周りには聞こえない声量で語りかけてきた。

 

 

「ベル。アルテミス様は“使いこなす”という話をしていたが、最早その領域じゃ無い。少なくとも一般人の能力という枠で絞れば“極み”に達していると思え。神と人間の常識を同じにしてはダメだ」

「は、はい」

 

 

 先程のパフォーマンスで、注目を集めたのだろう。輝夜もいつの間にか命との会話を終わらせて近くに歩み寄っていた。

 そして困った様に首を傾げるアルテミスの下に、呆れた表情で近づく女性が一人。

 

 

「だから言ってるじゃ無いですかぁ、アルテミス様……。「矢を射るのだから、それは必中」という言葉は下界じゃ通用しないんですって。……いやまあ鍛錬の結果として近づいてるのは間違いないと思いますけど」

「ランテ……やはりそうなのか? 技術という面では頂点と名高い輝夜にすら苦笑されてしまったからな……。だが片手一本のバク転くらいは出来るだろう? ほら、変に力を込めなければただ身体を回すだけだ。ただ支えにするだけだぞ?」

「その調整がひっじょ〜に難しいんです。私達は恩恵があるから出来ますけど」

「……やはりそうなのか」

「ぐ……困り顔のアルテミス様も美しい……っ。なんだか最近天然っぽさが増して無垢な少女らしさもあり、可愛さも垣間見える様な……!」

 

 

 よく見れば先程空中バク転状態で的を射抜いていた少女である。なるほど、非常識的な動きをした本人も非常識だという事は認識しているらしい。それでも経験を積む事で出来る様になるというのは人間の恐ろしいところだ。

 ランテと呼ばれた少女の身悶えている姿、先の発言を思い、ベルは「なんだか既視感」と考える。当然である。ランテとベルはある種同族だ。神様の言葉で言えば『推しに対して限界化するオタク』である。もちろんそれを知る由は無いベルとしては、不思議と浮かぶ仲間意識に困惑していた。

 

 

「【大和竜胆(やまとりんどう)】、今回の遠征ではお世話になります」

「いえいえ、サポートして貰うのはこちらの方です」

「最大でもレベル2の我々にとっては、深層域の体験は貴重と言えます。それに、我々では手を出し難いゴブニュ・ファミリアの弓も貸し出して頂けますので、その点を踏まえて受け取って頂ければと」

「……分かりました。ベル、彼女がアルテミス・ファミリアの団長。レトゥーサです」

「べ、ベル・クラネルです。宜しくお願いします」

「ええ、宜しくお願いします」

 

 

 ───そういえば都市外から改宗(コンバージョン)でオラリオに属するファミリアへと入ったレベル2以上の二つ名を持たない冒険者は呼び方は普通に名前なのだろうかと、ベルはふと思った。

 

 

 

 

 

 

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