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現代社会で乙女ゲームの悪役令嬢をするのはちょっと大変  作者: 二日市とふろう (旧名:北部九州在住)
カサンドラの慟哭

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二巻特典SS 彼女がお嬢様を選んだ訳 2024/11/09 投稿

 米国における政権交代は、全閣僚・スタッフだけでなく、各省庁の上級職員までの総入れ替えが行われる。

 2000年大統領選挙によって、民主党から共和党に政権が変わったこの年、多くの政府職員は身の振り方を考える必要があったのである。

 パシフィック・グローバル・インベストメント・ファンド。

 東京に拠点を置いているCIAのペーパーカンパニーでも、この行事からは逃げられなかった。


「アンジェラ。

 貴方はどこに行くの?」


「シルバー・ウーマン証券のファンドマネージャー。

 元々そっち希望だったしね」


「へー。

 うまいことやったじゃない。おめでとう」


「ありがとう」


 米国は実力社会と言われるが、それはありとあらゆるものを力と認識する世界でもある。

 つまり、コネも力であり、そのコネ作りにアンジェラはこの世界にやってきた。

 同僚の賞賛を当然のように受け止めながら、彼女は自分のデスクの整理をする。

 機密保持の観点からデスク整理すら自分でさせてもらえない事があるこの世界、自分でデスク整理ができるという事が彼女が勝ち組であるという証拠でもあった。

 極東地区ファンドマネージャーという役職は、東京市場においての資産運用というのが一応の名目であり、その名目においてアンジェラは良いリターンをたたき出していたのである。

 だからこそ、ウォール街大手投資銀行であるシルバー・ウーマン証券から声がかかった訳で。


「アンジェラ。少しいいかな?

 ボスが呼んでいる」


 この場合のボスというのはファンドのボスではなく、本職であるCIAの極東部長の事だ。

 片付けの作業を中断して東京の米国大使館に向かうと、極東部長は彼女が書いたレポートをテーブルに置いた。


「このレポートは読ませてもらった。

 ワシントンの方でも、このレポートに注目している」


「光栄です」


 とはいうが、出てゆく職場からの賞賛は今更という訳で。

 彼女は何故自分が呼ばれたのかいまいちわからず、極東部長の言葉を待った。


「これは、そのレポートの相手からのオファーだ。

 君をスカウトしたいそうだ」


「はい?」


 素の声が出たアンジェラに極東部長は淡々とその理由を告げる。

 高度な政治判断という理由を。


「まず前提として、我々が桂華銀行を狙っていたのを桂華グループ側が把握しているというのがある。

 その報復なのだろうが、桂華グループはフロリダで決定的な政治的活動を行って、我々の多くは転職先を探さないといけなくなった訳だ」


 やられたらやり返されるのがこの世界。

 桂華銀行の入札にちょっかいを出した代償として大統領選挙介入というちゃぶ台返しを食らったCIA首脳部は、しっかりとその危険度を認識していた。

 その上で極東部長は苦笑する。


「で、この提案は向こうからの手打ちらしい。

 こちらとしても、中から監視できるので文句はいえないしな」


 もちろん、CIA側もやられた報復を考えなかったと言えば嘘になる。

 この時期、米国は冷戦終結に伴う西側陣営の独自行動、はっきり言えば、日本とドイツがその経済力にものを言わせて米国にとってかわろうする事を警戒していた。

 それを理解していた桂華グループというか橘隆二は、手打ちとして米国の監視を受け入れる事でCIAの報復を避けようとしたのである。


「お話は理解しましたが、その場合、私の椅子は何処になるのでしょうか?」


「向こうは、一つしかない椅子以外ならばどこでも用意すると言っている」


 破格の提案と言っていい。

 一つの椅子、つまり『長』がつく役職以外ならばどこでも用意すると言っているのだから。

 同時にそれは、合併で寄り合い所帯である桂華銀行内部の統制が桂華院家でも取れていない事を露呈していた。

 米国の監視を公言する事で、内部の魑魅魍魎を封じるつもりなのだ。

 桂華銀行や桂華証券の執行役員や外部取締役ならば、喜んで彼らはその椅子を用意するだろう。


「なお、桂華グループはあふれた北日本の人材をスカウトしており、その流れで元KGBも接触している。

 これは決定事項であり、君が断っても別の誰かが必ず向かうという事だ」


 桂華院瑠奈はロシアの政争に巻き込まれて誘拐されかかった過去がある。

 二の舞をさける為に桂華院家は旧北日本の諜報人員を雇用しつつあり、その流れで元KGBが雇われるという事をCIAは掴んでいた。

 だからこそ、CIAはこの提案を断れない。


「だったら、銀行や証券の椅子ではなく、桂華院瑠奈の側につけるようにした方がよろしいかと」


 アンジェラは、ムーンライトファンドが桂華グループの中心であり、その実態が桂華院瑠奈の個人商店である事を見抜いていた数少ない人間である。

 だからこそ、桂華院瑠奈を米国にとって味方になるような人材に育てる事が大事であると、提出したレポートに書いたのである。

 それを自分自身でやるとは書いた時には思っていなかったのだが。


「向こう側に伝えておこう。

 あと、席は残しておくが、定期報告さえしてくれるのならば、こちら側は君の行動について何か言うつもりはないのでそのつもりで。

 新しい職場の上司との顔合わせは早めにしておきたまえ。

 以上だ」


 断る事は出来なかったし、断る理由も見つからなかった。

 極東部長がわざわざ日本に来て彼女に伝えたという事は、桂華グループだけでなく日米政府の間で了解がとれているという事なのだろう。


「了解しました」


 ただ一つ困った事と言えば、帰国する予定だったので喜んでいた娘を泣かしてしまった事だろうか。

 娘をなだめる為にアンジェラはいくばくかの経済的負担をしなければならなかった事を記しておく。

 投資銀行

 大口の個人や法人を顧客として金融取引を行う金融機関。

 日本では金融ビッグバン前は証券会社が主にこの仕事をしていた。


 外部取締役

 会社の意思決定を行う取締役を外部から招くから外部取締役。

 経営の透明性と、内部生え抜きへの監視目的で、米国企業で流行していたものを日本企業も取り入るようになっていく。

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― 新着の感想 ―
>だからこそ、桂華院瑠奈を米国にとって敵対するような人材に育てる事が大事であると、提出したレポートに書いたのである。 このときのアンジェラさんの立場では、瑠奈が米国の敵に廻ったら駄目なのでは……? …
アンジェラさんもコネであると つまり、たまに帰国して母校とか友人関係のパーティに行ったら、将来のロシア女帝(笑)の重臣確定で高位貴族を貰える事が決まっている(外からの視点)彼女に対して、ものすごーくア…
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