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現代社会で乙女ゲームの悪役令嬢をするのはちょっと大変  作者: 二日市とふろう (旧名:北部九州在住)
小さな女王様

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二巻特典SS 朝霧桜子のお見合い 2024/11/19 投稿

 品川駅の側にある広大な緑地とその中にある洋館は私有地である。

 岩崎迎賓館と呼ばれるそこは元は岩崎財閥の一族の館であり、今はその名の通り岩崎財閥の迎賓館として機能していた。

 そんな洋館で今日お見合いが行われる。

 相手は桂華院公爵家の嫡男である桂華院仲麻呂。

 そして、岩崎財閥が彼にと引き合わせたのが朝霧侯爵家長女の朝霧桜子である。

 そんなお見合いの席に、次女の朝霧薫はついてきた。

 姉の桜子のたっての願いで。


 朝霧侯爵家は公家系華族である。

 明治維新後も侯爵家として生き残っていたのだが、岩崎財閥との縁ができたのは昭和に入ってからである。

 太平洋戦争敗戦に伴う連合国からの追及を予想した財閥は、華族と繋がる事で財産の避難と法的リスクの回避に動いたのである。

 岩崎財閥は当主が男爵だった事もあって、華族内の序列に配慮してこの繋がりを断られる事もあったが、朝霧侯爵は経済的窮乏から岩崎財閥の手を一番最初に迷わずに取った。

 岩崎財閥はその恩を忘れておらず、朝霧侯爵家は平成に入ると窮乏する華族を尻目に、その生活は安定したものになっていったのである。


「もぉ。お姉さまはひどいと思いませんか?おじいさま」


 岩崎迎賓館の館内で朝霧薫がお爺様と呼んだ人物は、スーツ姿で朝霧薫の頭を撫でる。

 岩崎弥四郎。

 帝都岩崎銀行の頭取としてではなく、孫をあやす祖父として着飾った彼女にその理由を告げた。


「前々からここに来たがっていたのだろう?

 ここは岩崎財閥関係者でも岩崎家に縁のある者しか入れないからね」


「それはそうですけど……」


 ここ岩崎家迎賓館で行われる夜会は、岩崎財閥一族や重役層しか入れない。

 岩崎財閥の社是である『岩崎の繁栄は国家の繁栄と共にあり』を加味すれば、この夜会に出る事ができる人間こそがこの国を動かしていると言っても過言ではない。

 それは、この国におけるステータスでもあったから『いつかは岩崎迎賓館の夜会へ』というのはまだ小学生というか小学生だからこそ朝霧薫は憧れているのだろう。

 実際に参加している朝霧桜子になると憧れよりも不安や気苦労の方が見えてくる訳で。


「桜子も不安なんだよ。

 何しろ、今をときめく桂華院公爵家の御曹司だからね」


「あら?

 桂華グループを取り仕切っているのは、その御曹司なのですか?」


 子供らしいあどけなさと悟った目で尋ねる孫に、岩崎弥四郎は苦笑する。

 彼女も朝霧侯爵家の娘として、岩崎財閥の駒としていずれここでお見合いをするのだろう。


「彼は有望だよ。

 だからこそ、かわいい孫娘とのお見合いをここでさせているじゃないか」


「おじいさま。

 私のお相手は誰なのでしょうね?

 帝亜グループの御曹司?

 総理大臣のご子息?

 大蔵省の次期事務次官と呼ばれる一人息子?」


 同年代だからこそ、できる縁というものもある。

 朝霧薫にとって、言葉に出した帝亜栄一、泉川裕次郎、後藤光也というのは、同年代女子にとって嫁ぐ候補として考えなかった訳ではない。

 そして、そんな三人の男子を、一人の女子が独占していた。

 その女子の名前を桂華院瑠奈という。


「折角ですからお聞きしたいのですが、天下の岩崎財閥がどうして桂華グループを飲み込もうとするのですか?」


 子供だからこそ許される質問と分かって、朝霧薫は口に出す。

 彼女は姉の桜子と違って聡い。

 もちろん、桜子にも桜子の魅力があり、桜子には話す者に安心感を与える包容力があった。

 ちょうど、窓の外で桂華院仲麻呂と二人で庭を散策しているのが見えるが、二人の笑顔は外から見る分には楽しそうに見えた。


「そうだね。

 いくつか理由があるが、一つは過去の清算だね」


 国と共に繁栄する事を社是としている岩崎財閥は戦後の政界にしっかりと食い込んでいた。

 もちろん、昭和のフィクサーとして暗躍していた桂華院彦麻呂と組んで、この国のかじ取りをしていたのである。

 その縁で表に出せない色々なものがあり、不良債権処理に苦しんでいた桂華グループの救済は岩崎財閥の中にそれを取り込んで永久に封じてしまおうという意図があった。


「あと、彼には岩崎の人間として要職についてもらえたらと思っているよ」


「おじいさまの後を継がせると?」


「そこまでは求めないよ。

 けど、彼が持っている才能が必要な所が、岩崎の事業にいくつかあってね」


 この時期の岩崎財閥はグループ内製薬事業の再編という課題があり、中堅製薬会社で堅実な経営を行っていた桂華製薬は悪くない買い物に見えていた。

 また、国と共に繁栄を目指していた岩崎財閥は、この時期この国の最大の懸念事項である樺太統治における経済の立て直しに奔走していた。

 桂華グループが抱えている桂華化学工業は、樺太経済を支えている石油・天然ガス加工技術を持っておりスケールメリットが働く装置産業だからこそ、取り込みたいと考えていたのも否定はしない。


「では、新しい桂華グループは?」


 朝霧薫はあえてこんな言葉を口に出して、岩崎弥四郎は無言で窓の外の二人を眺める事でその答えとした。

 彼女が口に出した新しい桂華グループとは、桂華銀行・桂華証券・赤松商事・帝西百貨店等の会社の事であり、この国の不良債権処理から新しく桂華グループに入ったこれらの会社は窓の外の桂華院仲麻呂の支配下に置かれていなかった。

 これらの会社を救済し支配下に置いている人間こそ、桂華院瑠奈である。

 そんな彼女に、帝亜栄一、泉川裕次郎、後藤光也が絡んでいるので、下手に岩崎一族の男子を近づけると彼らの不興を買う可能性もあった。


「一度会ってみるかな」


 二人が眺めていた窓の外では、桂華院仲麻呂と朝霧桜子が楽しそうに歓談を続けていた。

 この後、二人は正式に婚約を発表する事になる。


【解説】

 岩崎迎賓館 元ネタの建物は開東閣。

       現在は一般公開されていない。

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