本稿は、NPBとMLBの過去データを参照しつつ、リプレイスメント・レベル(以下、Repレベル)を勝率ベースで定量化し、NPBのWAR配分(野手/投手、先発/救援)について提案する。
リプレイスメント・レベルの概念についてはここでは割愛する。気になる方はこちらをご参照いただきたい。
ピタゴラス勝率の前提
本題に入る前に、以降の計算で用いるピタゴラス勝率について触れておく。ピタゴラス勝率とは、得点と失点でチームの勝率を予測する計算式であり、Eq.1の式で表される。ここでδは任意の値をとり、実測値とのフィッティングで決定する。
MLBではδ=1.83が最も予測精度が高くなる*1と言われており、2000-2009年までのNPBの分析ではδ=1.65が最も精度が高いという結果が得られている*2。2014-2024年のNPBでフィッティングを行ったところ、δ=1.64となり、NPBの先行研究とほぼ一致する結果が得られた。今回は、δ=1.7を採用する。
Rep勝率の定義
Rep勝率とは、Repレベルの選手で構成されるチームが平均的なチームと対戦したときの期待勝率である。例えば、Repレベルの野手の得点力が平均野手と比べて0.75倍だった場合、「Repレベルの野手と平均的な投手で構成されたチーム」と「全選手が平均的なチーム」が対戦したときの勝率は
0.75^1.7/(0.75^1.7+1.0^1.7) = .380
この.380を「野手のRep勝率」と呼ぶ。Repレベルを勝率という形で表現することで、得点環境に依存しない普遍的な尺度となる。以降、Rep勝率ベースで算定を行う。
キース・ウールナー法
Repレベルの推定に最も広く使われているのが、キース・ウールナーによる手法である。具体的には、チームの野手を打席数が多い順に並べ、上位の選手をレギュラー、残りを控え選手としてみなす。この手法をKeith Woolner法(KW法)と呼んでおく。
野手のRep勝率
KW法でNPBのRepレベルの野手のwOBAを集計すると、平均野手の0.88倍が得られる*3。得点スケールに換算すると、0.88/1.15=0.765倍 となる。Rep勝率を求めると、
0.765^1.7/(0.765^1.7+1.0^1.7) = .388
Tom Tango氏によるMLBの分析では野手Rep勝率=.380となっており*4、概ね一致している。
投手のRep勝率
野手と同じく、KW法でNPBのRepレベル投手のtRAを集計すると、平均投手の1.19倍が得られる*5。よって、投手のRep勝率は
1.0^1.7/(1.0^1.7+1.19^1.7) = .427
Tom Tango氏によるMLBの分析では投手Rep勝率=.410となっており*6、概ね一致している。
チームのRep勝率
これまで得られたデータから、投手と野手ともにRepレベルの選手で構成されたチームが平均的なチームと対戦した場合の勝率を計算してみる。Fig.2のような計算で求めると.290になる。したがって、チームRep勝率は.290である。
投手のRep勝率を先発と救援に分解する
投手のRep勝率は.410であるが、これを先発と救援に分解してみる。
先発のイニング割合を65%、救援のイニング割合を35%とすると、
.410= 0.65 X + 0.35 Y ・・・(1)
X:先発Rep勝率、Y:救援Rep勝率
これだけではXとYを求めることができないので、さらに制約条件を与える必要がある。MLBの分析より、先発のwOBAは.364、救援は.337は得られている*7。差分にして0.027、得点スケールにすると0.027×38/1.15=0.89である*8。この結果はSwingman(先発と救援の両方をこなす投手)分析により得ている。
NPBでも同様の分析を行うと、差分は0.85点となり*9、MLBとよく一致する結果が得られている。得点差分0.85を勝率差分にコンバートすると、
.500 - 4^1.7/(4^1.7+(4-0.85)^1.7)= -0.100
※失点率は適当に4.00とする。
したがって、
X-Y = -0.100 ・・・(2)
(1)式、(2)式で連立方程式を解くと、X=.375、Y=.475となる。
よって、先発のRep勝率は.375、救援のRep勝率は.475となる。Tom Tango氏よるMLBの分析では、先発のRep勝率=.380、救援のRep勝率=.470であり、ほぼ一致する。
NPBのWARバランス草案
ここまで得られた算定値を以下にまとめる。
チームRep勝率:.290
野手Rep勝率:.380
投手Rep勝率:.410
先発Rep勝率:.380
救援Rep勝率:.470
ここで、チームRep勝率をアメリカの各機関(FanGraphs、Baseball-Reference、Baseball Prospectus)で使われている.294を採用する。理由としては、WARのベースラインを統一化することでWAR計算の標準化を図るためである*10。
これらのRep勝率を使って、NPB全体のWARバランスについて考えてみる。
平均的なチーム(勝率.500のチーム)に期待される年間勝利数は 143*0.5 = 71.5勝である。一方で、野手と投手ともにRepレベルの選手で構成されたチームの場合、143*0.294=42 勝となる。したがって、平均的なチームの総WARは 71.5-42=29.5 WARとなる。NPB全体に適用すれば、NPB全体の総WARは 29.5 × 12 = 354 WARとなる。一の位を切りのいい数字にまとめれば、 350 WARとなる。
次に350 WARを野手と投手に分配する。分配比率の求め方は以下の通り。
平均的なチームの野手をRepレベルの野手に入れ替えると、勝利の損失は1試合当たり 0.500 - 0.380 = 0.120 勝。平均的なチームの投手をRepレベルの投手に入れ替えると、勝利損失は 0.500 - 0.410 = 0.09 勝となり、チーム全体に与える影響は野手よりも小さい。影響度を比率で表すと、野手:投手 = 57:43 であり、これをWARの分配比率として採用する。よって、野手WARは 350 × 0.57 = 200 WAR、投手WARは 350 × 0.43 = 150 WAR。
続いて、投手WAR = 150 を先発WARと救援WARに分配する。分配比率は、先ほど同様の考え方を適用すると先発:救援 = 80:20 となる。よって、先発WAR = 120、救援WAR = 30 となる。
以上より、NPBにおけるWAR配分は以下を提案する。
総WAR:350 WAR
野手WAR:200 WAR
投手WAR:150 WAR (先発WAR:120、救援WAR:30)
各選手への分配は野手は打席ベース、投手は投球回ベースで行う。
最後に
リプレイスメント・レベルはWAR計算の基盤でありながら、定義が抽象的で不透明な部分が多い。今回、算定の流れを具体的に示すことで、ある程度透明性を高められたのではないだろうか。本ブログで公開しているpWARの計算にも適用する予定。
*1:Pythagorean expectation - Wikipedia
*3:総合評価指標WARの考え方と算出方法| パブー|電子書籍作成・販売プラットフォーム
*4:THE BOOK--Playing The Percentages In Baseball
*5:"デルタ・ベースボール・リポート6「投手リプレイスメント・レベルの再検討」, 水曜社, 2023年"より
*6:THE BOOK--Playing The Percentages In Baseball
*7:THE BOOK-Playing The Percentages In Baseball, Tom M. Tango et al., p207, 2006年
*8:38は1試合の打席数
*9:"デルタ・ベースボール・リポート6「投手リプレイスメント・レベルの再検討」, 水曜社, 2023年"より
*10:.290→.294はわずかな変更であり、大勢には影響しない。