495 1週間経ったけど
俺が祭壇に差し込まれてから、あっと言う間に一週間が過ぎた。
解析はまだ終わらない。マジで1ヶ月くらいはかかりそうじゃないか?
フランがいる間はともかく、ゴブリンストーキングに出かけてしまった時は手持無沙汰であった。
フランとウルシは修業であるはずのゴブリンストーキングがいたく気に入ってしまったようで、毎日楽し気に出かけていく。どうも、探偵ごっこに通じる面白さを見出したらしい。
「今日こそは『鼻曲り』に見つからないように近づく」
「オン!」
「ん。『角折れ』は無視していい」
「オフ?」
「あれは『槍持ち』と遊んでばかりで、巣には戻らない」
ゴブリンを見分けられるようになったらしい。あだ名を付けて楽しんでいる。
今はゴブリンの巣を突き止めるため、一日中ゴブリンの後をつけまわしているようだ。飽きるまでは続けるだろうな。
そのせいでフランもウルシも暗くなっても中々帰ってこないので、俺は暇で暇で仕方がない。
おかげで、ちょっとずつ妄想していたオリジナルのラノベ風物語が完結してしまったぜ。タイトルは「前世で勇者のSSSSランク冒険者のおじさん賢者が魔王になるために三度目の転生したら悪役令嬢に使われる聖剣でした」である。
笑いあり涙ありお色気ありの、スーパーハイファンタジーだ。ざまぁ要素とハーレム要素ももちろん取り入れているぞ。
最後は100人の嫁と一緒に、自分を捨てた勇者パーティに復讐しようとしたところで、実は全て夢だったことに気づくのだ。地球のベッドの上で目覚めた主人公は戦いの無意味さを思い知り「普通の人生が一番だね!」と悟るという感動の夢落ちラストである。
我ながら恐ろしく面白い。地球でも利用していた小説家になろうに投稿したらあっと言う間にランキング1位間違いないな。自分の文才が恐ろしいぜ。
「師匠、どうしたんだ?」
『いい加減飽きてきた。頭の中で1ミリも面白くない大長編の超絶クソファンタジーを完結させちまう程度には暇だしな』
「うーん。師匠も修業をしてみたらどうだ?」
『もうやってる』
フランたちを真似して、魔力の流れを制御する修業は今も続けていた。だが、俺には同時演算スキルがある。それ故、修業しながらも、他のことを考えることができる――できてしまう。
「知恵の神の加護もあるし、仕方ないだろう」
『どういうことだ?』
「あの加護は、魔術の同時起動などを補助してくれるんだよ。思考の分割がしやすくなるって言えばいいか?」
同時演算と併せれば、効果は倍増であるそうだ。つまり、俺の暇も倍増ってことだ。
『それにしても、どうして知恵の神の加護なんて物が俺についた?』
「神剣ケルビムが知恵の神の眷属だったからだ。つまり師匠がアナウンスさんと呼んでいる存在が、知恵の神の眷属なんだよ」
アリステアのメンテナンスによってケルビムの残滓との繋がりが強化され、俺も眷属だと認識されたらしい。
『そういえば気になってたんだけど、俺の鍔のエンブレム。なんで狼の形なんだ? いや、フェンリルを象っているのは分かるけど、ケルビムは天使みたいな意匠だったはずだろ?』
「いくつか理由はある。1つは師匠が元ケルビムだと隠すため。ほとんど人目に付かなかったとはいえ、神託書記スキルなどで姿形を知る者はいる」
それは確かにそうだ。元神剣などとばれたら、色々と狙われるだろうしな。
「もう1つは、単純にその方が強いからだ」
『なに? 形が変わっただけじゃないのか?』
「いや、形が変わっただけだぞ? だが、姿形と存在は密接に結び付く。ケルビムにはケルビムに相応しい形があり、俺を取り込んだ師匠にはそれに相応しい形がある」
『それで強さまで変わるのか?』
「ほんの僅かに。まあ、神剣という高位の存在であるからこそだがな。そこらの数打ちの剣のエンブレムを弄ったところで、意味はないさ」
神剣という凄まじい力を持った武器だからこそ、ほんの少し強くなっただけでも意味はあるってことなんだろう。
「そうだな……。例えば加護の取得などにも影響はある。炎の形をした武器に、水の神の加護は付かない。姿から与えられるイメージはそれだけ重要だってことだ」
『でも、狼の意匠の付いている俺にはフェンリルや銀月の女神さま系の加護はなくて、知恵の神の加護がついたぞ?』
「さっきの話と矛盾するようだが、形だけが全てではない。重要ではあるが、結局は大きなモノを構成するファクターの1つでしかないってことだ」
『外見も中身も大事ってことだな』
「そういうこった」
そもそも、知恵の神の加護は俺の成長に合わせて与えられるはずだったのだが、アナウンスさんが力を失ったせいでお預けになっていたそうだ。アリステアのおかげで、それらの成長が一気に進んだということなのだろう。
「混沌の女神様の加護に関しては……分からん。気まぐれなお方だからな。単に面白そうだという理由で加護をお与えになったのだとしても驚かんよ」
『加護ね……。眷属云々の話を聞いた後だと、むしろ面倒な気さえするんだが』
「はあ。そういうところは異世界人だな。こちらの世界の人間であれば、神の加護を2つも持っていたら一大事だぞ? それに、師匠の場合は神の支配が及ばん。別に無理やり言うことを聞かされるわけでもないし、便利なスキルだと思っておけ」
『俺、以前混沌の女神に色々と命令されたけど?』
「あれは眷属への支配を使ったんじゃなくて、普通に力で脅しただけだろ?」
『そっちの方が性質悪くない?』
「さあ? だが、死ぬ覚悟さえあれば抗えるぞ?」
『俺は死にたくねーよ』
結局、神様には逆らえないってことね? いや、邪神以外の神様に逆らうつもりはないけどさ。でも、神様と戦うことになったら? そんなことは無いだろうが。でも……。
『あー、悪い方に考えちまうのも、暇すぎるからだ。俺は考えすぎるとネガティブになっちまう性質なんだよ』
「はぁ。だったら、もう少し複雑な修業をしたらいい」
『例えば?』
「これは駆け出し魔術師がやる修業なんだが、初歩の魔術を制御して、形を変えるんだ」
『形を変える? アロー系の魔術を太くしたりってことか?』
「いや、もっとガッツリ形を変える。それこそ、こんな風にな」
フェンリルがそう言って自分の目の前に火の矢を生み出した。だが、即座に矢が形を変え、狼の姿に変化する。遠吠えの動作をするおまけ付きだ。
「分かるか? 今の変形には魔力を使っていない」
『ああ』
俺が魔術を強化したり、形を変形させるとき、魔力をより多く注ぎ込んで術を弄る。だが、フェンリルが今やった変形は魔力を余分には使っていなかった。つまり、普通のファイア・アローと同じ魔力消費だったということだ。
イメージ力と術の制御力さえ鍛えれば、魔力を無駄に消費せずとも術を変形させられるということであるらしい。
駆け出し魔術師が、少ない魔力を無駄にせずに修業するために編み出された方法だそうだ。空中で魔術を維持しつつ、その形を変形させることで集中力と制御力、持久力が鍛えられるというわけである。
俺の魔術は独学だし、こういった基礎的な訓練方法を教えてもらうのは嬉しいね。これを続ければスキルレベルが上がらなくとも、魔術の腕前が上がるかもしれん。
「これなら魔力を大して消費しないし、解析にも影響は少ない。それでいて、全意識を集中すればするほど、色々と面白い変形が可能になる。修業にも、暇つぶしにもなるだろうよ」
『それに面白そうだしな』
俺はまずはフェンリルがやったように、ファイア・アローを変形させてみることにした。
『いきなり狼は無理か』
「最初は図形を描くくらいにしておけ」
『くそー、今に見てろよ。狼どころか、ケルベロスを描いてやる!』
「楽しみにしているよ」
遅ればせながら、レビューを頂きました。
今のような忙しすぎて死にそうな時には、応援いただくと本当に元気が湧いて出ます。
ありがとうございます。