高市首相の「存立危機事態」発言 台湾侵攻抑止へ「正論」も、準備不足は否めず
高市早苗首相の台湾有事を巡る国会答弁は大胆な答弁だった。中国軍が「戦艦」を使って台湾を海上封鎖すれば「存立危機事態」と認定する可能性があると認めた。存立危機事態を認定すれば、集団的自衛権を行使し、自衛隊に防衛出動を命じることができる。首相答弁は中国の台湾侵攻を抑止する効果がないとはいえないが、政府全体で周到に用意して答弁に臨んだ形跡は見当たらない。 ■売り言葉に買い言葉 これまで政府は存立危機事態について具体例を示さず「総合的に判断する」と答弁してきた。首相自身も7日の衆院予算委員会で「実際に発生した事態の個別、具体的な状況に応じて、政府がすべての情報を総合して判断する」と述べ、従来の政府見解を踏襲した。 だが、立憲民主党の岡田克也元幹事長から執拗(しつよう)に追及された首相は踏み込んだ。中国が台湾を海上封鎖し、これに介入した米軍が武力攻撃を受ける場合には「存立危機事態になり得る」と答弁した。この際、首相はほとんど手元の原稿を見ず、「自分の言葉」で述べているように見えた。政府高官はこうつぶやく。 「具体的なケースは手の内を明かすようなものだから言っちゃだめだ」 何が存立危機事態に当たるのかを明示すれば、中国が「それ以外だったらやってもいいのか」と考えかねないという意味だ。閣僚の一人は「岡田氏がかなり追及する中で出てきた答弁ではあった」と振り返り、首相周辺は「首相が答弁で踏み込んでしまう癖があることを分かっていたのだから、事務方がもっと支えなければいけなかった」と後悔を口にする。 政府関係者の言葉から透けて見えるのは、政府内で準備を重ねて答弁したというよりは、国会論戦の売り言葉に買い言葉で本音を漏らしてしまったという実態だ。首相は10日の衆院予算委で「特定のケースを想定したことについてこの場で明言することは慎もうと思う」と軌道修正した。 ■あえて踏み込む場合も 首相答弁の内容自体は誤りではない。